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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第24話 明日を見据えて

 「むぅーー」

 百代は、ガクトと大和の女子大生のラクロス部の覗き見から失敗して、ホテルに帰還していた。
 士郎からの説教を受けて、生気を根こそぎ剥ぎ取られていたので覗き見が出来ると聞いた時は瞬間回復でもないのに生気が上昇したので、楽しみにしていたのにこの始末なのでふて腐れていた。
 しかし百代は気付いていなかった。
 今この瞬間の背後から士郎が迫って来ていることに。

 「如何したんだ川神?そんないじけた顔して・・・」
 「!??」

 百代は声を掛けられると同時に背後から肩を叩く士郎に、余りの驚きに声なき悲鳴を漏らす。
 しかし当の士郎は笑顔だった。

 「いいいいいやぁああ、な、何でもない!」
 「何でも無くはないだろう?さっき師岡に聞いたが、直江と島津が女子大生に覗き見に突貫して行ったって聞いたぞ?そんな2人にお前が付いて行ったのを俺は見たんだが、此処までいえば俺が何を言いたいのか理解できるよな?また罪を重ねるとは・・・!」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」

 昼間受けた士郎からの説教が余程恐ろしかったのか、百代は平謝りをし続ける。
 そのすっかり怯える百代に、士郎は溜息をつく。

 「まったく、謝るくらいなら最初からやるなよな」

 本当に仕方のない奴だとぼやきながら、百代の頭を撫でる。
 その対応の仕方に百代は見逃してくれるのかと、表情に僅かな光を灯す。
 だが現実はそう甘くない。

 「見逃す訳があるとでも?」
 「ヒィッ!!――――ご、ご慈悲を!」
 「ただ俺も鬼じゃない。だから選択肢をやろう」
 「選択肢・・・?」

 百代は士郎の感情を窺う様に、怪訝に聞き返す。

 「今この場で俺の説教を喰らうか、後日俺とルー先生と鉄心さんの3人からの同時説教を喰」
 「今この場でお願いしますっ!!」

 最後まで聞きたくなかった様で、即座に最初の選択を取る百代。
 だが、百代の判断は早計過ぎた。
 たった1人からの説教より、3人からの説教の方が恐ろしいと決まっていると直感で判断したのだが、それは違う。
 3人からの説教の場合、身内の恥を漱ぐと言う名目で保護者と身内同然の2人がメインとなり、士郎はサブとなるのだ。
 そしてこの2人からの説教であれば、ほとんど遠慮なく叱ってくる士郎よりは慣れも含めてまだマシだったのだ。
 けれど最早手遅れ。
 誰も来なそうな暗がりに連れ込まれた百代は、士郎からの説教により声にならない悲鳴をまたも響かせていった。

 「―――!――――!―――――!―――――――!!!」

 百代がこの事に気付いたのは、士郎からの説教により本日二度目の生死の淵からの帰還を果たした後だったとか。


 -Interlude-


 温泉から上がり、男湯、女湯から出てきた風間ファミリーメンバーは、談笑しながら部屋に帰る所だった。

 「そう言えばワンコ。士郎さんからのテスト大丈夫?」

 少し話が逸れるが風間ファミリーメンバー全員は、あの後から少し経過した時に今後の一子の事を聞いていた。
 最初は驚いたが、しっかり目標を見据えた上での決意と覚悟だと理解したので、応援するとも告げたのだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 京のこのセリフは明日に向けて勉強しなくていいのかと言う意味だった。
 その手の意思疎通程度であれば一子にも理解できるので、ちゃんと受け取れるようだ。

 「勉強しなくてもいいのよ。今のあたしの本来の学力が知りたいんだって!」
 「そっか。なら最近県を跨いでランニングに行ったところは何県でしょうか?」
 「馬鹿にし過ぎよ京、あたしだってその程度は判るわよ!ずばり、千葉県(チリ)よ!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 恐らく県を約して千葉と言う気だったのだろうが、勢い余って太平洋を跨いだ南米の国名を言い切ってしまう残念な一子(豆柴)
 いや、もしかすれば本気で言ってるのかもしれないが、その様な事を京に確信など持てる筈も無く、ただ憐れみを通り越して生暖かい眼差しを向けながら一子の頭を撫で続けた。

 「如何したのよ京?そんなに撫でて来るなんて。あたしってばそんなに凄かった?」
 「うん、凄いよ。どうやったらその答え(千葉をチリと言い切った事)にまで導くことが出来るのか、私には到底不可能な事だから」
 「まーね!まーね!」

 自分の答えが間違っているとも知らず、胸を張り続けて誇らしげにいる一子。
 だが京は別に頭を撫でているが、決して褒めているとも正解とも一言も言っていなかった。
 その2人をよそに、由紀恵は百代の顔を覗き込んでいた。

 「モモ先輩、大丈夫ですか?」
 『温泉こそは、桃源郷をこの世に顕現させたマイユートピアと豪語していたパイセンらしくねぇですぜ?』
 「・・・・・・・・・」

 しかし百代は反応しない。
 それほどまでに士郎からの説教が堪えたのか、美少女たちが生まれたままの姿で咲き誇る桃源郷を体験しても直、百代の目は死んだ魚の目をしていた。
 因みに、大和とガクトも同じような状態の目で俯いていた。
 川に放り込まれた2人は体を温めるべく帰ってきた途端に温泉に向かったが、湯船に浸かっている所で士郎に遭遇して百代と同じ末路に堕ちたのだ。
 そしてその原因を作ったモロは、罪悪感を感じているかと思われるが、現在の本人にそんな余裕は無かった。

 「僕は、僕は・・・・・・・・・」

 本来知られていなかったコンプレックスの1つを、何故か知らない筈のキャップが知っており、その件について大和とガクトが出払っている間に色々あったのだ。
 その件についてモロは深く落ち込んでいた。
 風間ファミリーは全員で9人であり、うち4人は暗い気持ちに支配されていた。
 そして1人は残念な豆柴である。
 つまりカオスと言えた。
 そんな面々の前から1人の男が歩いて来た。
 そしてすれ違う時、その男は百代以外の全員の頭を一瞬撫でるように触り、そのまま過ぎ去っていた。
 しかし触れられた面々の誰もがその事(・・・)に気付かなかった。
 そして過ぎ去っていった男が口を開く。

 「既にあの歳で、災害認定された武神・川上百代か。――――あれから数年、随分と成長したものだ。やはり人は、未知の刺激を適度に与える事により成長していくモノだな」

 独り言を呟きながらその歩みを止めない。

 「そして川神百代の周りも個性あふれる若者達ばかりだ。土壌は既に完成している。なればこそこの種まきは、いずれ必ず彼らを今とは比較にならないほどに成長させる貴重な経験になるだろう」

 そしてそこで立ち止まり、誰もいない方へ振り返る。

 「――――それ以上に、あの川神百代をさらに成長させる促進剤、正義の味方の成れの果て、夢破れし英雄、錬鉄の魔術使い、衛宮切嗣の忘れ形見、衛宮士郎よ。今の私には土壌を作り種をまく事位しか出来ぬ身だ。故に如何か、お前の活躍(歩み)に期待させて欲しい。さもなくば――――」

 そこで言葉を止めて、誰に見られるでも無く去って行った。


 -Interlude-


 翌日の早朝、士郎は何時もの様に早朝のトレーニングを熟そうとホテルの外へ出る直前、川神姉妹に捕まり今は基礎練をすべて終えた後の軽い稽古をしている。士郎と一子で。

 「ハッ!」
 「甘いと言った!踏み込み過ぎだぞ!」

 一子は、士郎が石や木の枝などを使って作った急ごしらえの薙刀を振りながら、前へ前へと出がちに連撃を飛ばす。
 しかし士郎の徒手空拳に全て防がれながら注意を受ける。

 「速度を生かしながらの連撃なのだろうが、薙刀は本来待ちの型だ。だから大振りを躱されると――――」
 「あっ!」

 一子の唐竹割りをあっさりと躱した士郎は、さらに壊さぬ加減で薙刀を片手で叩き落とすと同時に、もう片方の腕の正拳を一子の目の前で寸止めする。

 「簡単にこうなる」
 「ま、参りました・・・」

 士郎に負けて項垂れる一子。

 「俺も薙刀を極めている訳じゃ無いからな、偉そうなことは言えないが薙刀でこれからも大成したいんだったら前にで過ぎる悪癖も直していけ。まぁ、そこらへんも含めて、本格的な指導は師匠がしてくれるだろう」
 「はい・・・・・・と、もしかして了承してくれたんですか?」
 「ああ。電話で聞いた処、確定では無いが見てくれるとさ」
 「あ、ありがとうございます!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 嬉しさのあまりに興奮する一子を、士郎が宥める。
 その2人をつまらなそうに見ている視線が有った。
 勿論見ているのは百代だ。
 一子は兎も角、勿論士郎は気付いていた。

 「何だよ川神、そんなつまらなそうな顔をして」
 「べっつにー、ただワンコとは稽古してやるんだなーと思っただけだ・・・」
 「妹の将来の夢の応援も出来ないのか?」
 「クッ!」

 2人の会話に間に挟まれた一子は、あわわわと困惑しながら泣きべそをかく。
 そんな姉妹の様子に、溜息をしながら少し大人げなかったか?と思い改める。

 「仕方ない。今日は特別だぞ?」
 「別に嫌なら私は構わないぞー?」

 ふて腐れた百代は、士郎の提案に敢えて乗らないそぶりを見せる。
 本当は飛び出すように嬉しいくせに。
 しかし士郎はならばと、一子を慰めながら言う。

 「なら今日の朝稽古は、これで終いとして帰――――」
 「待て!やる!やるから、帰るな!」

 遂には百代の方から観念したのか、士郎の肩を掴んで懇願してくる。
 その様子にヤレヤレと、内心で苦笑する。
 そうして宣言通り2人は組手稽古をしたが、張り切り過ぎた百代を抑えて疲れた士郎は僅かに疲労を蓄えながら帰ったら、既に起床して朝のバイキングに向かう途中だった風間ファミリーと葵ファミリー+αの面々に遭遇した。
 そこで一子が士郎が疲れている理由に、言葉を選ばず言った。

 「士郎さんとお姉様、朝から(組手稽古が)激しかったのよ」
 『!?』
 『?』

 この言葉に、未だその手の話を知らないクリスと小雪は頭を傾げ、それ以外のメンバーの思考が一瞬停止した。
 それから士郎が滅多に見せる事が無い位に慌てて、事実詳細を説明した。
 その時に百代にも確認を取ったが、何故か彼女は士郎の必死に自己弁護する態度が気に入らなかったのか、本日二度目のぶすっとしている顔をしていた。
 その事を、朝食後の士郎達と別れてからの仲間たちに指摘された百代は、そんな気では無かったので、何故自分がそんな顔をしたのか自分で判らず仕舞いだったとか


 -Interlude-


 朝食を取り終えてから一旦休憩を挿み、予定通り今日の葵ファミリー+αは勉強をしていた。
 Sクラスのメンバーは、テスト結果が50位以下だとSクラスから外れるS落ちと言うシステムがあり、油断しているとSクラスから居られなくなってしまうのでこうして休日中も勉強する事など珍しくも無いのだ。
 S落ちと言うだけなら冬馬は心配ないが、彼の憧れである兄貴分の士郎に続いて行きたいと言う想いで、同率ならば兎も角今の首位を誰かに譲る気はさらさらないのだ。
 そして、基礎は出来ているがそれだけで油断していい理由にはならない準と小雪の2人も、熱心に勉強していた。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そんな3人とは違い、京極は読書に耽っていた。
 士郎から借りた自分では手に入れられなかった本が溜まっているので、これを機に出来るだけ多くを読破するつもりだろう。
 その4人とは違い、士郎は一見すればやる事が無い様の思えるが、実は士郎も勉強をしていた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 但し、士郎の勉強しているのは将来のための勉強。
 即ち、将来就きたい職業である弁護士になる為だ。
 勿論、弁護士が正義の味方がなる職種では無い事も理解しているし、今さらまた正義の味方を目指しているワケでは無い。
 あくまでも、自分の手の届く範囲だけでも助けたいと言う理由も含めて目指しているのだ。
 それに本当に自分は社会で通用する弁護士になれるかは、士郎自身不安が無い訳でもなかった。
 本来に世界にて、過去に世界中を回り、旅の中で戦闘から成る戦術眼は鍛えられたが、イコール弁護士としてその戦術眼が通用するとも限らない。
 同じ戦術でも、社会と戦場では似た部分もあるが、違う部分の方が多すぎるからだ。
 それでもやると決めた士郎は、此処に居る他の4人の誰よりも真剣な顔で取り組んでいった。
 因みに、京からの情報の下、一子の学力を知るためのテスト用紙は既に完成していた。
 内容の方は正直、高校二年生と言う歳を馬鹿にしているのかと言われても可笑しくない内容だったが、一子がテストを受けた結果、見事に赤点だった。


 -Interlude-


 此処はマスターピースの現代表の執務室。
 勿論そこで仕事をしているには、トワイス・H・ピースマンだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 彼は眼鏡をかけ直してパソコンを操作している。
 今している作業は鉄心への手紙の作成である。
 但し、川神院総代の川神鉄心へでは無く、川神学園学長の川神鉄心への手紙だった。

 (九鬼財閥が英雄のクローンを作り、育てていると言う情報は前々からあった。しかしよりにもよって、まさかそれを公式的に発表するパフォーマンスの舞台を川神学園へとしているとは厄介な)

 これはある伝手からのタレこみで知り得た事実だった。

 (あそこは良くも悪くも目立つ学園だ。しかも本来法律で禁じられている決闘システムも盛り込まれている上、確か昔は“模擬戦”をやって居た筈だ)

 トワイスが危惧しているのは、まさにその点だ。
 英雄たちのクローンが戦争と言うシステムを盛り込んでいること学園に送られる。
 そうなれば必ずや模擬戦の復活は避けられないだろうし、そしてそれを九鬼財閥は大々的に広めた上で、一種のショーとするだろう。

 (そうなれば、世界中に戦いが――――戦争が面白いものだと言う認識が広まってしまうかもしれん。今の日本の若者たちの多くは、恵まれているを通り越して贅沢だからな。そんなショーに喰いつかない筈がない。――――そんな事態だけは避けなくては)

 その為にトワイスは、鉄心にそれを未然に防ぐための要請を記した手紙を送ろうとしている。
 世界に無駄(・・)な戦禍を広げさせないためにだ。
 勿論ただ要請するだけでは効果が薄いので、この要請を受け入れてくれた場合、その模擬戦で得られるであろう生徒からの収益も代わりに融通する。資金援助をすると言う内容も入れていた。
 そうして送るための書類を完成させたトワイスは、1人の構成員を呼び出す。
 そして呼び出した構成員を部屋に入れ、書類を入れた手紙を渡す。

 「日本の川神学園学長である川上鉄心殿へ、必ず直接渡してくれ」
 「分かりました」

 構成員である若者がトワイスから受け取った手紙を手にしたまま退出する。
 それを見送ったトワイスは溜息をつく。

 「さて、賢明なる判断を期待したいが、どう転ぶか。――――最悪の場合は動いてもらうぞ?」

 いつから点いていたのか、デスクに備わっている別の画面に映っている全身黒づくめ何の飾りも無い黒い仮面の人物は、トワイスの言葉を受けても微動だにしない。

 『了解している。それが()の私の役目だからな』

 その全身黒づくめの存在は、画面越しだと言うのに只々不気味だった。 
 

 
後書き
 男の『種まき』で今のところある程度思いついているのは、ガクトとモロとワンコと大和です。
 残り4人はまだ考え中。
 原作の士郎が、もし聖杯戦争に巻き込まれずそのままだったら、将来は弁護士を目指していたとあったので、この話で士郎が目指す職を一応弁護士としました。 
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