もう一人の八神
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新暦76年
memory:07 どっちが強いの?
-side 悠莉-
「どうしてこうなった……」
そうぼやきながら道場からほど近い市民公園内にある公共魔法練習場の中央に立つ。
公共魔法練習場とは読んで字のごとく管理局が開放している魔法練習の場。
基本市街地での魔法使用は法律禁止されているのだが、ストライクアーツの練習や自己研磨を行う一般人のために管理局が認可している。
「ユーリ頑張れー!」
「ライも負けるなーッ!」
「兄ちゃんたちファイト!」
周りから寄せられる声援を受けながら前を見据える。
声援からわかるとは思うが私は対峙してる。
「お前と初めてだけか?」
「あー、そうだったか? 組手はしょっちゅうやってたし試合も……いや、やったことないな。まあいいんじゃね? 悠とやる機会なんか殆どなかったんだ。楽しんでいこうや」
そう答えるこいつはライ・ウェズリー。
こっちの小学校へ編入した時にできた初めての友人で親友だ。
実家が魔法戦技・春光拳を受け継ぐ家系のため、ライ自身も春光拳を修めている。
実家の道場の練習がないときは、ちょくちょくとウチの道場にも顔を出していたため、八神家一同や道場のみんなとも顔なじみである。
「確かにそうだな。……ライ、簡単に負けてくれるなよ?」
「悠こそ、あとで吠え面かくなよ」
互いに気合は上々。
一気に集中力を高めた。
「二人とも準備はいいな? そんじゃ始めっぞ」
審判を務めるヴィータの声に耳を傾け、目の前の敵に意識をとがらせる。
「試合―――」
道場のみんなが見ている中、それは、
「―――開始!」
切った落とされた。
事の発端は数時間前。
何気ないミウラの一言だった。
「ねえ、悠莉くんとライくんってどっちが強いの?」
「私と」
「俺?」
「うん」
なんでも前々からみんなの話題にあがって、一緒に登下校しているときや学校にいるときなどちょこちょこ話してたらしい。
それを聞いてか他のみんなが私たちの会話に入ってきた。
「あー、どうだろ。多分悠じゃね?」
「なんでー? むしろライ兄ちゃんならここで『俺の方が強い! キリッ』って言うんじゃないの?」
「……お前の中の俺ってそんなのなのか?」
一人がそう言うとライは呆れた。
「つか、悠と組手してると嫌でもわかる」
「そうなの?」
「これでも武術もやってるしな」
と、そんなことを言ってると今度はヴィータが来た。
「お前らなに楽しそうに話してんだ?」
「あ、ヴィータ」
「ヴィータさんはどっちが強いと思います!?」
「ちょっ、少し落ち着けお前ら」
詰め寄っていくみんなを一旦引き離した。
そして話の内容を伝えると納得する。
「なるほどな。だったらユーリだろ」
「……本人前にザックリいくんだ」
「言っておくがユーリが家族だからってわけじゃないぞ。純粋にユーリは慣れてるんだよ」
「何がですか?」
「戦いにさ。ま、聞いてもわかんねえだろうから……」
そう言ってヴィータは私とライを見て。
「実際に見たほうが早い」
そういうわけで冒頭に戻る。
午後からの練習は近場にある市民公園内へ移動して子供たちは見学、私とライはというと模擬試合をすることになった。
「一応簡単にルール確認な。DSAAで使用されている個人計測ライフポイントを使用する。魔法は有りとするが砲撃は禁止だ」
防御壁が本家並みにしっかりしたものじゃないから仕方ないか。
「ヴィータ、収束魔法はどうすんの?」
「悠、そんな恐ろしいもん使うつもりかよ……」
「絶対じゃないけど一応な」
「砲撃じゃなけりゃオーケーだ」
「了解」
確認を終えてバリアジャケットに身を包む。
そして定位置へと移動する。
「お前と初めてだけか?」
「あー、そうだったか? 組手はしょっちゅうやってたし試合も……いや、やったことないな。まあいいんじゃね? 悠とやる機会なんか殆どなかったんだ。楽しんでいこうや」
「確かにそうだな。……ライ、簡単に負けてくれるなよ?」
「悠こそ、あとで吠え面かくなよ」
「二人とも準備はいいな? そんじゃ始めっぞ」
私たちのやり取りが止むタイミングを見計らってヴィータの声が耳に届く。
目の前に集中する私とライの沈黙を了解と取って頷くヴィータが片腕を挙げ、
「試合―――開始!」
一気に振り下ろした。
-side end-
-side other-
「アステルシューター!」
「紅!」
開始早々無数の蒼い流星と紅い焔が激突し、一体に煙をまき散らす。
「きゃっ!」
「くっ……! あいつら初っ端からはっちゃけ過ぎだ!」
観客席では簡易防御壁が作動して物理的な被害はないものの、その派手さに全員が驚いていた。
「スッゲー!」
「うんうん!」
「というより二人はどうなったの!?」
騒ぎ出す子供たち。
驚きや興奮、心配する声も上がっていると次第に煙が晴れてくる。
「……くっそ、一つもらったか」
まず見えたのは右肩を負傷したライ。
負傷とはいっても大したことはなくかすり傷程度。
ライフも大きくは減っていない。
一方悠莉はというと、
「やっぱりそう簡単には決まらないか」
ライの魔力弾を相殺しきり、無傷で佇んでいた。
「一発も当ってないのかよ」
「結構危なかったさ。アステルで軌道をずらして回避してってな」
「その割には余裕そうに見えるが?」
「そういうライこそニヤついてる」
楽しそうに話す二人。
それぞれの顔にはいつもよりも楽しそうな笑みが浮かんでいる。
そんな二人を見るミウラたちはいまだ動かない様子に戸惑っていた。
「二人ともどうして動かないんだろう……?」
全員の疑問を代弁するかのようにミウラがつぶやく。
「ただ腹を探りあってる」
「それっていったい……」
「ム、そろそろか」
「え? なにがですか?」
「二人が動き出すぞ」
ミウラが試合に視線を戻した瞬間、再び蒼い流星がライ目掛けて飛翔する。
「アステルシューター!」
「へっ! そんな直球なんざもう当たらねぇよ」
軌道を正確に読み、徐々に距離を詰めていく。
右肩、左脇、左腕、腹部。
ものすごいスピードで体術や魔法を駆使して弾き、避わし、相殺し。
「もらったぁ!!」
一気に悠莉の懐に入り、腹部に両の手を突きつける。
「なッ……!?」
その場を離れようとする悠莉だったが紅い縄に固定された。
春光拳式のバインド、炎光縄。
悠莉を逃がさないと肢体に絡み付く。
「くらえッ!!」
ライの両の掌が押し付けられると悠莉はぶっ飛んだ。
虎砲。
春光拳の技の一つで、足で練り上げた力を手へとそのまま移してぶつける。
「悠莉くん(兄ちゃん)!?」
観客席が騒がしくなる。
完全に極った一撃。
それを見てライが勝って終わった。
そう思った子供たちが二人に駆け寄ろうとする。
「お前たち、まだ終わってないぞ」
「えっ…でも……」
「ホレ、よく見てみろ」
ザフィーラとヴィータのハッとして振り向く。
「うそ……なんで!?」
「どうしてライ兄ちゃんのポイントが減ってるの!?」
ライの両腕のバリアジャケットが焼き焦げていた。
「ユーリのアステルシューターだ。あれの爆発風でライにダメージを与えつつ直撃を防いだ」
「アステルシューターって直進型の魔力弾だったんじゃなかったんですか?」
「いいや。あれ本来の形は爆撃弾。しかもユーリのコントロール付きのな」
「誘導型爆撃弾……」
その言葉に唖然とする。
唖然としているのは子供たちだけではなかった。
「マジかよ……。完全に極ったと思ったのによ……」
ライは冷や汗を流しながら、両腕を見る。
ライ自身渾身の一撃を放った。
一撃で決めるつもりだった。
しかしどうだろう、戻ってくる悠莉のポイントを確かめれば、削られたのはたった半分。
そのうえ自分はダメージを受けてしまった。
「―――やっぱ悠は強ェな。一筋縄じゃいかねえ」
笑み。
その顔に浮かぶのは悔しさでも妬みでもない。
この試合を心から楽しんでいるという歓喜。
「誉め言葉ありがと。今のはかなり効いた。ああ、こんなに楽しいのはいつ振りだ?」
普段浮かべることのない好戦的な笑みを浮かべながら戻ってきた。
「今度はこっちから行くよ」
地を滑るような闊歩で距離を詰める。
「くッ!」
防がれようとお構い無しに連撃を繰り出す悠莉。
そのすべてが重く鋭いもので、防御の上からであってもダメージを蓄積させえる。
しかし、数を重ねる度に体の振りがわずかながら大きくなっていっている。
「これでッ!」
悠莉右拳を振るう。
だが大振りになってしまったためにワンテンポ遅れた。
その隙をライは見逃すはずもなく、
「ハアッ!」
右拳を弾いて反撃に転じる。
狙うはがら空きのボディ。
そこに技を打ち込もうとした瞬間、悠莉の口が吊り上った。
とっさに動作を中断し距離を取ろうとするも間に合わず、それに触れてしまった。
「なんだこれはッ!?」
シールドからチェーンが伸び、ライを絡み付けた。
「捕縛盾捕縛確認完了!」
この時ライは理解してしまった。
先ほどまでの大振りというスキは悠莉が態と作っていたのだと。
今、この状況を作り出すための罠だったのだと。
「さて、さっきの仕返しといこうか!」
気づけば悠莉は距離を取っており、その手には一本の日本刀が握られている。
「―――抜刀!」
悠莉の持つ刀に線が走り、魔力が収束し始める。
「(おいおいおい、なんだよこの魔力量に圧縮率! 半端ねえぞ!)」
目の前の光景に先ほど以上に冷や汗を流すライ。
しかし、笑みが剥がれることはなく、それ以上にこの状況を楽しんでいた。
「なのはさん直伝の捕縛盾だ。そう簡単には外れん。だから……これで終わりだ!」
「かもな。だけど、最後まで足掻かしてもう! 炎龍!!」
ライの背後に現れたのは炎で形成された双龍。
それは魔力を高めるライに呼応するかのようにとぐろを巻く。
「さながら龍退治と言ったところか……面白い!」
「行くぜ!」
双龍が牙を剥き、悠莉に襲いかかる。
「覇道、滅封!」
抜刀の瞬間、剣戟から衝撃波が地を走る。
「そら、もう一丁!」
二本の衝撃波と双龍が互いを相殺させる。
衝突による爆風が起こるが中で悠莉の声は凛と響いた。
「―――単撃・瞬夢」
気づけばライの少し後ろで背を向け、刀を抜いた悠莉の姿があった。
そして納刀すると同時にライはその場で崩れ落ちた。
「そこまで! 勝者、ユーリ!」
-side end-
-side 悠莉-
試合後、クラッシュシミュレートが解け、シャマルの治療である程度回復したライと私の前にヴィータが現れた。
「二人とも、まずはお疲れさん。なかなかいい試合だった。お前らの実力も再確認できたし、他のやつらにもいい刺激になっただろうさ」
そう言ってみんなに目をやると、先程の試合の興奮覚めやまぬ様子で話している。
「―――でもな……」
急に声音が変わった。
恐る恐る声の主に振り向いてみると、仁王立ちするヴィータが怒天髪と化した。
「なんで、最後の最後でルールを無視しやがるッ!!」
そうライに向かって目じりを釣り上げて怒鳴った。
「い、いや~、あれはついといいますか、熱くなったといいますか……」
「うっせェ!」
言い訳をするライの頭部にゴンッとヴィータの鉄拳が降り落ちた。
「いってえっ!」
ヴィータが怒るのも当然で、ライが最後に使用した魔法、正式名称は双破龍神翔は一応部類的には砲撃魔法に属すものだったりする。
「なんか巻き込まれそうだし……逃げるか」
説教をするヴィータとされるライに気づかれないように足音を立てずその場から離脱してみんなのところへ向かった。
「ちょ、悠からも何とか言って…居ねえ!? あいつ逃げやがった!」
「おいコラ、話の最中によそ見か? ……その性根、今から叩き直してやっからもう一回デバイス起動しろ!」
「ヴィータさん、アイゼンとかシャレになんないですって!?」
……うん、正解だったな。
-side end-
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