竜から妖精へ………
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第13話 初仕事へ
夜も明けて、小鳥の囀りが朝の訪れを教えてくれる。ギルドの窓に差し掛かる太陽の光が、朝の暖かさを知らせてくれる。
まだ、半分は夢の中にいるゼクトは、いったい何時以来だろうか? とも感じていた。
こんなに、安心しきって眠った事は―――と。
野宿だった為、野生の獣達だって普通に闊歩しているのだ。以前まで居た場所は大切な場所。それと同時に、縄張り争いの場でもあった。それが自然界の掟である事はゼクトも重々承知だった為、別段不快に思った事はない。
――無論、人間の相手以外では。
だからこそ、本当に心地よく、いつの間に眠ったのかさえ判らなかった事など、初めてかもしれなかった。だから、鏡がなくたって、自分がどういう顔をして眠っているのかが、判っていた。
そして、マグノリアの街を、魔道士ギルド・フェアリーテイルを太陽で完全に包み込む頃には、しっかりと目を覚ましていた者達がいた。
『ほーらっ! ゼクト、起きて? 朝だよーっ』
ゼクトは、元気いっぱいの声が、伝わってきて本当に心地よい。それもその筈だこの感じは、昨夜の宴の席で とても良くしてくれたレビィの物だったから。
だが、声は1つではなかった。
『おいこら! レビィ! ゼクトは、私が起こすんだ! 抜けがけするな!』
『いーや! 私だ! ミラこそ、横入りするな!』
聞こえてくるのは、更に元気いっぱいな声。
朝からこの元気では、本当に良い目覚ましになってくれると言うものだ。……半分まだ眠っていたゼクトだったが、やがて 4分の1程になっていき………。
「もーっ 2人ともー、暴れないでよ。きっと、ゼクト昨日の事できっとつかれてるんだから!」
また、声が増えてきた。どんどん賑やかになってきて、寝ていられる場合ではなくなってきた。
「おぉぉい! 朝だっ! 朝一勝負だーー!! しょーぶしろーー!! ゼクト!!!」
そして、ココ一番大きな大きな声と熱気を放っているのは、目を瞑っていて見てなくても、仮にまだ完全に眠っていたとしても、誰なのか判る。朝っぱらから、炎を出してる様な人は1人しかいないだろう。 勿論、ナツである。
そして、ナツが飛びかかってきた拍子に、その勢いで椅子やらが吹き飛んで、他のメンバー達に直撃したりするのもこれはお約束だ。
「ブッ!! てめっ! 何しやがるんだよ! ナツ!!」
勿論、まず最初に当たったのかは決まり事である。まるで、狙ってたかのようにグレイに当たったのだ。そして、黙っている筈もない。
「てめーは本ッ当に単細胞だな! なんで、ゼクトに昨日、あれだけボコボコにされたのに、今日早速 勝負! って言えんだよ! 10年はぇぇ、って言葉知んねぇのか!」
「うっせーな! 今日のオレは昨日とは違うんだよ!」
そして、ゼクトの事はすっかり忘れたナツは、グレイと朝一の喧嘩が始まったのだ。
「ナ~ツゥ~~……朝っぱらからやめようよぉ……。って言うか、うるさいよぉ……」
そんなナツの隣にふわふわと浮いてやってきたのは、眠たそうに目をこすっている空飛ぶ猫、《ハッピー》だ。
「そうだよぉ…? ナツ。もうちょっと落ち着いてよ。ゼクト起きちゃうって。まだ朝早いんだからさぁ」
一緒にやってきた女の子、《リサーナ》がナツに注意をしていた。
どうやら、リサーナもゼクトの事を心配してくれてるようだ。
だが、その心配も最早無論だった。
「ふぁ~~……、ど、も……、ありがと……。おきて……る、から もう、良いよ? だいじょーぶ……」
ゼクトは、目を擦りながら、ムクッと起き上がった。
「おはぁよぉ………みんなぁ……。ん~……むにゃ……」
どう見ても眠たそうだ。でも頑張って起きていよう、としているところは判る。目を何度も擦って、そして、半分程目を開けていたから。昨日までの姿がまるで嘘の様だ。本当にギャップが可愛らしく、愛らしい。 それを見たレビィは 胸をきゅんっ! とさせつつ、ピョンっ! と、飛ぶようにゼクトの前にきてくれた。
「あはっ! おはよー! ゼクト! もう朝だよっ? 顔を洗ってきたら!」
朝一番に向けてくれる良い笑顔だった。
ちなみに、ミラやエルザは、まだ決着? が付かないみたいで、戦ってるみたいだ。時間がかかるのは仕方がない。2人とも色々と拮抗しているから。
「あ……うん。ありがとねー……、う~……ん………」
ゼクトは、ゆっくりと手をあげると、体をゆっくりと動かし、ふらふらと移動を開始した。どこか危なっかしい。
「あっ! まって、ゼクト。洗面所、場所わかるの?」
そんな、ふらふらしてるぜクトを見かねて、レビィが支えながらそう聞くと、ゼクトはふらふらしているものの、歩くのを辞めた。
「あ……そっか……わかんない……や……」
ギルドの中の案内はまだだった。
色々と説明がある前に、バトルになり、宴会になってしまったから、当然といえば当然である。
正直、『………それもどうなんだろ?』 と改めてレビィは思ったけれど、兎も角直ぐに行動を始めた。ミラ達がいない今がチャンスなのだから。
「よしっ、ほ~らっ! こっちだよ? ゼクト。前見えてる??」
レビィは、ゼクトの手を引っ張ってあげる。暖かくて柔らかい手だった。
「あ……、うん……。ありがと……ね? レビィー………むにゃ」
まだ眠そうだったけど、ゼクトは、はっきりと名前を呼んでくれた。
レビィは自分自身の名前を覚えてくれた事に嬉しかったのだ。
ゼクトと話をしていた時間。それは、他のメンバー、エルザやミラ、ナツに比べたら圧倒的に少ない。他はギルダーツやマスターが群を抜いており、一緒にいた時間も少なかったのに。
「よかった………」
だから、とても嬉しくて、そして レビィは、ほっとしていた。
勿論、例え眠たくなかったとしても、しっかり起きていたとしても、レビィのそんな心の機微は、ゼクトには当然判らないだろう。―――――それも、お約束である。
そして、ゼクトを連れて、レビィがこの場を離れた丁度その時。
「ああ!!! ゼクトいないぞっ!!」
「なにっ!! いつの間に!」
いなくなった事に気づいたバトルをしていた2人は、違う意味で大慌てだった。
周りが見えなくなる程、白熱していたのだろうか。
「はぁ……、ミラ姉? ゼクトなら、さっき、レビィと一緒に行っちゃったよ?」
リサーナが、呆れた様子でため息交じりにそう言った。
「な、なにっ!!」
「レビィと一緒……だと!?」
当然ながら、2人はいきり立った。異性なら兎も角、同性のレビィと一緒だと言う事だから。
それを訊いて、大体全てお見通しであるリサーナは。
「はぁ……もう! 今日は、いや今朝は、2人の負けだよ? うん、間違いなくレビィの勝ちだもんね。だって、レビィはちゃんとゼクトのこと、気遣ってあげてたんだから! もう、2人とも女の子だったら、ちゃんとしてあげなきゃ!」
リサーナは、2人に向かって人差し指をたててそう言った。それはまるで、お母さん? の様だった。
「むぅ~~……」
「ぐぅ~~……」
2人は、全然納得いかない! と言う表情をしていたのだったが……、次第に毒気抜かれてしまったみたいで、少し反省していたのだった。
そして、丁度ゼクトとレビィはと言うと。
「はーいっ! ゼクト、タオルだよー」
レビィは、顔を洗っていたゼクトにタオルを渡していた。それをしっかりと受け取ったゼクトは、ごしごしっ、と 洗った顔の水滴をしっかりと拭き取る。
「ふぁ~………、うん…ありがと、レビィ。うん、さっぱりしたよー」
笑顔で、ぐ~~っと手を伸ばす。
洗面所には天窓が備え付けられており、そこから太陽光が降り注ぐ仕様となっている。朝日に照らされながら、伸びをしたら、本当に心地よい。
「あっ! そーだ。レビィ!」
レビィのおかげで、完全に目が覚めたゼクトは思い出した様だ。
「うん?」
レビィは軽く首をかしげていた。
「今日はよろしく頼むねっ? ほらっ、昨日話してた事だよ初仕事っ!」
「あ……/// そ、そうだね? うんっ! こっちこそよろしくっ! 頑張るからねー!」
レビィは思い出しながら、顔を赤く染めていた。至近距離で、正面からゼクトの顔を見たから。
「ん? どうしたの。レビィ、顔……赤いよ? 大丈夫?」
ゼクトはレビィの顔を覗き込みながら、心配する。先程よりも、更に近くなる。
「って/// わぁ! だいじょーぶ! だいじょうぶだよっ! ほらっ、早くいこ!」
背中をグイグイっ!と押し戻した。
「え? あっ うん! ほっ…… 大丈夫みたいでよかったよ。でも、無理しちゃダメだよ? 約束だけど、いつだって良いからさっ」
ゼクトは笑顔でそう言うと押されていたが、最後は自分の足で歩いた。
「(もう……。と、とつぜん、優しくするの反則…だよぉ……///)」
顔を見られないように、レビィはゼクトの背中を着いていくのだった。
そして、依頼ボードの前へと到着。
「へぇ……色々とあるんだ。この貼り付けてるのは全部そうなの?」
ゼクトはボードを見ながらそう聞く。そこには無数の紙が貼り付けられており、其々内容が異なっている。
「うんっ そうだよ? あ……ゼクトは強いから、きっと問題ないんだと思うんだけど、初ってこともあるからこの辺りのは多分マスターに だダメって言われると思うからね?」
レビィは指を刺しながらそう言う。
そのあたりは、危険人物の捕縛や討伐、凶悪モンスター、主に戦闘系の依頼のようだ。
「うん……。なるほどねー……」
レビィの説明を受けて、頷きながら依頼書を眺めていたところに。
「おっ? 早速仕事へいくのか?」
マスターが、やってきた。
「あ…、マスターおはようございます! うん。レビィに色々教えてもらって。今から、やってみようかなって!」
ゼクトは、笑顔でそう言っていた。そして、その後ろでは何処となく表情が赤いレビィがいる。
大体察したマスターは、顎鬚をすりすりと弄りつつ、レビィに視線を向けた。
「ほっほー。そうかそうか、なる程のー。レビィも早いの~~」
物凄く変な笑みだったけれど、ゼクトは見てなかったから、別段不思議には思わず、レビィが過剰に反応した。
「わぁ! 何言ってるのよ! マスター! 私はただ、初めてだから……、だから、いっしょに、そ、それだけで……」
レビィは慌てて説明をするけれど、完全に裏目に出る、と言うものだ。2人の会話を訊いて、ゼクトは首を傾げた。
「え? レビィが早い? 今、朝だから? 仕事は昼からなの??」
キョトンとしてるのはゼクトだった。言っている意味が解ってない様だ。
「…………」
レビィは、何処となく表情を落とす。
最後にはため息を吐いていた。
「ま……まぁ~まぁ~、仕事にせよ、何にせよ、じっくりいくことじゃ。気をつけての?」
マスターは、レビィを慰めてる様子だった。『どう言う事だろ?』っと、ゼクトは、思いながら話しかけようとした時。
「おぉいゼクトォ……」
今度は、首をガシっ!っと握られた。
「わぁ!」
突然首を掴まれてしまったら、当然驚くだろう。ゼクトだって例外ではない。そして、その犯人は……。
「もー、ギルダーツ………。びっくりするじゃんか……」
振り返り、ため息をつくゼクト。
「なんだよぉ。なんだかつめてえなぁ。折角、激励にきたんだぜ? お前の初仕事によ?」
ギルダーツは苦笑いしながらそう言う。
「……そうだね。人を驚かせたりするのはギルダーツだよね。あ、あと ナツもかな? うんうん、早く学習しないと……」
「いやいや、早く見切りつけんのはどうかと思うぜ? 特にこのギルドじゃな」
ギルダーツは、そう言って笑う。
そして、次には真剣なものになっていた。
「……ん? どうしたの、ギルダーツ」
ゼクトがその表情に不思議に思って聞くと、ギルダーツは視線をゼクトに合わせて。
「ゼクト。……レビィの事を、ちゃんと守ってやれよ? どんな仕事だって、何が起こるかはわからねえからな。男だったら、しっかり守ってやれ。オレは出来ねぇヤツには言わねぇからな」
ギルダーツは、そう言って、最後は笑っていた。
「……うん。大丈夫。……約束する!」
ゼクトも、ギルダーツにはっきりと答えた。。
「よし。……良い答えだ。じゃあ、しっかりとな……」
ゼクトのその目を見たギルダーツは、安心した様に再び笑うと、ゼクトの頭に手を乗せた。レビィの手や、いや 他の皆のよりもずっとずっと大きな手。とても大きく暖かく、全部包んでくれるかの様な感触だった。それは、ギルダーツが頭から離しても、まだ感触は残っていた。
それは心地良いものだった。レビィ達のとは、また違う感覚。皆の手も、とても暖かかったけれど、何かが違った
――――それは、親に子抱く感情である。ギルダーツの事を、そして 勿論 マスターの事も。親の様に、本当の親の様に、心では感じていたのだ。
だけど、この時ゼクトは、それを正確に理解してはいなかったのだった。
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