普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
142 かくして幕は下ろされる
前書き
これ、閑話の方でも良かったかも…
SIDE OTHER
結城邸。時刻は19時を15分ほど過ぎた頃。
「ねぇ、明日奈に乃愛? ……いつになったら転校を決めてくれるのかしら」
乃愛、明日奈、京子の三人で夕食のテーブルを囲む中、結城 京子──乃愛と明日奈の母親が急かす様な口調で口を開く。ここ最近で頻発している〝家族会議〟の開始の合図。
……しかし、今日はその様相を異にしていた。
いつもなら話半分で京子の話を聞き流していた乃愛が、真面目な表情で口を開く。
「……なんで転校なんかしなきゃいけないのか、未だにボクは判らないんだよね。……あ、云っておくけど〝私は貴女達のためを思って〟──とかは無しで、ボクと明日奈が納得出来る様に説明してね」
京子は前々から乃愛と明日奈を〝良い大学〟に入れたがっている。……それを──〝〝マザーズロザリオ編〟の導入部〟であることを〝知識〟から識っていた乃愛は、京子からの催促を両断する。
「……いまの貴女達の学校じゃあ、授業が追い付かないの。……出来るだけ〝良い進学先〟に行きたいでしょう?」
「別にボクは〝良い大学〟に行きたいわけじゃない」
乃愛から出てきたのは〝辻褄合わせ〟と云う打算と、〝真人と一緒に〟大学生活を送りたいだけで──〝良い大学〟に行きたいわけじゃないと云う本音を混ぜた言葉。
本来なら明日奈が〝〝マザーズロザリオ編〟の導入部〟で京子に〝桐ヶ谷君〟との関係を詰られたりして、【ALO】に逃げ込み──ユウキと出会って、ユウキから〝自分の気持ちを言葉で伝える勇気を持つこと〟を教わり、京子と無事に和解すると云う──どこにでもありそうな感動ストーリー。
……それが【ソードアート・オンライン】に於ける〝マザーズロザリオ編〟──なのだが、ここは〝転生者〟が居る世界線。……それが意味していることを、乃愛は身に染みて知っている。
今は亡きリュウ──神埼 竜也の〝特典〟からして、〝アスナとユウキが出逢う未来〟への線が薄いと察した乃愛は、この件に干渉することにしたのだ。……〝リュウの〝特典〟の尻拭い〟──とも言い換えられる。
〝反面教師として〟──と云う註釈は付くが、乃愛は明日奈の手本になろうとしていた。
「え──もう一回言ってもらえるかしら」
「ボクお母さんが云うような〝良い大学〟に行くつもりはあんまりないよ」
京子は乃愛の隣で、京子と乃愛の怒気に充てられたのか、存在感を消すようにすごすごと縮こまっている明日奈なんか目もくれず、乃愛の目を見て──嘆息する。……〝乃愛がそこまで言い切れる理由〟について思い至ったのだ。
「……そう〝升田 真人君〟の所為なのね…?」
「〝所為〟ってなに?」
「っ!!?」
ぴしり、と、京子と乃愛の怒気によって緊張感が高まっていた食卓に毛色の違う緊張感が重なる。……意図してか意図せずしてか、口調こそ乱れていないが──乃愛から洩れた怒気とも殺気ともつかない気迫が、京子の口を噤ませる。
……するとすぐに、〝自分の母親〟に良くない気持ちを向けていると気付いた乃愛は沸き立っていた感情を収める。……明日奈の反応が薄いのはアインクラッドを駆けていた時に──〝《Asuna》だった頃〟に〝乃愛の本性〟の一端に触れていたから。
「……っと、ごめんね。ちょっと冷静じゃなかった」
「乃愛、貴女──明日奈も…」
突然の乃愛の豹変と明日奈の反応から京子も某か感じるが、京子は言葉を見付けられない。
「とりあえずお母さんの気持ちを訊かせて。……お母さんは今ボク達が〝通っている学校が嫌〟なの? ……イエスかノーで答えて」
「そうよ…」
「だったらボクはお母さんに反抗しなければならなくなるね」
乃愛から訊かれた質問に、京子は絞り出す様に答える。……それを乃愛は一刀両断。その素っ気ない乃愛の返答が京子の顔を悲哀に染めさせ──逆上させるのも、そう時間は掛かることでもなかった。
「……どうして──どうして〝母親〟の気持ちを判ってくれないの!?」
「じゃあ、どうしてお母さんはボク達の気持ちを判ろうてしてくれないの?」
「……っ!」
「……お母さん、一回も〝アインクラッド(あのせかい)〟についてボク達に訊いてきた事ないよね?」
京子の疑問はブーメラン──それ+αとなり、京子の胸を穿つ。……乃愛は〝前世の記憶〟により、京子の気持ちを全部とは云わないがある程度理解していたのだ、ここで京子が〝娘の成長〟──と、そう考える事が出来ていれば、乃愛の答えもまた変わっていただろう。
「どうして、あんな──〝人殺しの世界の話〟なんか聞かなければならないのよっ!」
「そのお母さんの言う〝人殺しの世界〟に二年近くも居たのはお母さんから見て、誰と誰?」
「……っ」
京子はぎりり、と──話が噛み合わない娘に対して歯を軋ませる。
〝臭いものには蓋〟〝見てみぬ振り〟──きっと、その京子の考えは人としてはおかしくない。……が、正しくもない。【ソードアート・オンライン】──京子曰くの〝人殺しのゲーム〟。……そこで変貌してしまった娘から目を逸らしていた事の反動が、今になって顕在化したのだ。
「言っておくけど〝見殺しにした〟──と云う意味ではボクも〝人殺し(どうるい)〟だよ。……少なくとも〝3つ〟──いやリュウは違うとしても、〝2つ〟の命を〝殺しておくべき命〟と自分の心に言い聞かせて見殺しにしたから」
「えっ」
いきなりの乃愛からのカミングアウトに、京子は信じられないものを見た様な目付きで乃愛を見る。明らかに乃愛の言ったことが呑み込めていない。……そこで、そんな京子を見かねたのか、威圧感による恐怖から立ち直った明日奈が口を開く。
……明日奈は漸くこんなに──珍しくも乃愛が剣呑な態度になっている理由を察した。
「ううん、違うよお姉ちゃん」
「明日奈…」
京子は明日奈に視線を遣る。縋ったのだ。……〝明日奈が乃愛を正すのね〟──と。……しかしそんな京子の期待は直ぐに裏切られるとも知らずに。
「……っ」
一瞬、明日奈の脳裏に《PoH》の邪悪な笑みが浮かぶ。……アスナは〝《PoH》の殺害について〟は最後までティーチに忠言していた──が、最終的にティーチに懇切丁寧な説得術によって丸め込まれたクチだ。
「見殺しにしたのは私も一緒」
……しかし、ティーチから示されたとは云え──アスナが〝利〟を選んで《PoH》を見殺しにしたの事には変わりない。
「明日奈? ……判った。明日奈に任せるね」
乃愛は訝しむ様な表情で明日奈を見るが、そこは曲がりにも双子。明日奈の言いたいであろう事を──ある意味に於いて、乃愛自身の狙いが達成された事を何となく悟る。
「お母さん、聞いて」
「聞きたくないっ!」
「逃げるの? ……娘から逃げるのっ!?」
「……っ! あっ、あぁ…っ」
珍しく声を荒げる明日奈。……そこで京子は自分の言葉──〝どうして〝人殺しの世界の話〟なんか聞かなければならないのか〟と云う言葉を娘に吐いてしまった事に、激しく自責の念にかられた。
……だってそれは、〝貴女達の過去なんか聞きたくない、認めない〟と、アインクラッドでの日々を否定してしまったと云う事になるし──ならびに〝〝アインクラッド時代ありきの今の乃愛と明日奈〟も認めない〟と言っている様なものだったから。
「うう…っ。……うううぅぅぅぅぅぅぅ…っ!!」
〝理性の乃愛〟と〝感情の明日奈〟。その両方から責め立てられた京子は、終ぞ逃げ場を失い──その場に泣き崩れた。
………。
……。
…。
「……浩一郎に反抗期なんてなかった」
「性別も違うし──育ち方も違うのにお母さんは何を言ってるのさ。……月並みだけど〝お兄ちゃんはお兄ちゃん〟。〝ボク達はボク達〟だよ」
「……貴女達には良い生活を送ってもらいたいの」
「〝勉学〟は力になるのは私も判ってる。……それを教えてくれたのが〝アインクラッドで過ごした二年弱の日々〟──っていうのが皮肉だけどね」
乃愛と明日奈は京子の独り言に、丁寧に答える。京子は10分ほど恥も外聞も捨てて泣き続けた。……だからかは判らないが京子の目元は腫れてこそいるが、それとは対照的に顔色は晴々としている。……〝憑き物が落ちた様な表情〟と云う修辞的な表現が似合う表情を京子はしていた。
「焦って、いたのかしら?」
京子は確かに焦っていた。……本来なら三人四脚で──じっくりと母子で一緒に成長できていけると思っていたのだ。……それが、〝乃愛と明日奈が自分の見えないところで〟成長していたから京子は焦ってしまっていて──その成長が〝脅威〟に思えてしまっていたのも間違いない。
「……学校については好きになさい」
〝もう娘達は自分で未来を選択していける〟──今日の親子喧嘩(?)でそう悟った京子は、もう乃愛と明日奈には過干渉しないことにした。……娘を傀儡にしたいと云うわけでもなかったから。
……幸い乃愛と明日奈の交際相手は資産家である〝升田家〟なので、京子は娘の婚約者についてはあまり口出しせずに済んでいるのもあった。……とは云っても、〝同じ家に娘二人が嫁ぐ〟と云う状況にも思うところはあったが、京子は娘を信頼することに。
「それと、そのね──乃愛と明日奈のおすすめのゲームが有ったら教えてくれるかしら?」
「「もちろん」」
京子は少しだけ乃愛と明日奈が居る世界に踏み込むにした。乃愛と明日奈の二人は一瞬だけ目を合わせ──京子のそんな依頼を快諾する。
……時間にして1時間ほどの家族会議はかくして終了したのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 升田 真人
とある病院のとある病室。開け放たれている窓から入ってくるのは、風に乗せられた桜の香り。……身体(からだ)が若ければその匂いに充てられて、どことなく甘酸っぱい気持ちになっていただろう。
「……いろいろ、あったよなぁ…」
「そうだねぇ」
〝あの事件〟から100年近くが経過した。
ベッドに横たわるのはしわくちゃになってしまって──かつての美貌をすっかりと喪(うしな)ってしまった乃愛である。……しかし、やはりと云うべきか俺の身体は18~20くらいで止まっていて──〝老化〟しなかった。
……見た目は呪文等で誤魔化しているが、身体自体は丈夫なので〝日本で一番元気なおじいちゃん〟と謳(うた)われている。
「……何だかんだで乃愛が最後に残ったよな」
皆、いい笑顔で往生して逝った。……和人や明日奈を含めた同期で、乃愛を除いて一番長生きしたのは、4年前の冬にぽっくりと逝った稜ちゃん──もとい、稜だった。
……どうにも、俺と契った女性は普通に比べれば長生きになる傾向があるらしい。……今に思えば、ハルケギニアのルイズやユーノも割りと普通に長生きしていたのを思い出した。
閑話休題。
〝誰と誰が結婚した〟〟──とかはどうでもいいだろう。
……どれくらい前だったか──誰だったかはもう鮮明には覚えてはいないが、俺にちょっかいをかけようとしては暗躍(?)しようしていた、鬱陶しいテロリストグループに単独でカチコミを掛けてはうっかり殲滅させてしまったのも、今となっては良い思いでである。
「ボクはもう逝くね」
「……ああ、繋いでいくよ」
乃愛と額(でこ)を合わせあい──〝心波(トランス)〟で乃愛の心に入り込み、乃愛の記憶を拾っていく。
……これは〝円〟にまた出逢った時に紡いだ記憶(あい)を繋ぐ為にも必要な儀式(イニシエーション)。
「またね」
「またな」
記憶を譲り受けたあと、乃愛はそう言い遺した後──握っていた乃愛の手はするり、と抜け落ちる。
「……“腑罪証明(アリバイブロック)”」
もう真に心を預けあった者がいなくなり──〝この世界〟に居る意味を無くした俺は、〝この世界〟から姿を消して〝幻想〟となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(……確か【満足亭】で寝てたはずだよな。……それにしてもここは…)
〝【SAO】な世界線〟で役目を終えて更に100年近くが──乃愛を看取ってから早100余年が経過していて、今日も今日とて【満足亭】で儲けにならない商いをテキトーにして布団に入って意識を夢へと旅立たせたら、どこかふわふわしている様な──〝超常〟の感覚に見舞われる。
……慌てず目を開けてみれば、そこは〝白と灰色が混じり合った様な〟──見覚えのある空間だった。
「……〝神(ミネルヴァさん)が居る〟世界…」
――「ご名答」
そんな風に洩らしてみれば、俺の後方から──相も変わらず鈴の音の様な声が聞こえた。
「……お久しぶりです」
「うむ」
振り返ってみれば、やはりと云うべきで、そこには──比喩表現無しな女神が居た。
SIDE END
後書き
【SAO】編はこれにて終了です。
……変な区切り方ですが…。
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