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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  141 事件の顛末とか

SIDE 朝田 詩乃

12月18日。町並みはクリスマスに向けてのイルミネーションに彩られ、夜になったら目に優しくなくなる頃合い。……また独りアパートでケーキを突っつくだけになるのだと考えると、何とも云えない気分になる。

……終業式が終わり次第、〝すぐに田舎(じっか)に帰る〟と云う選択肢を前向き──()しくは後ろ向きに検討していたりする。

(バレンタインデー? クリスマス? ……そんなの経験したことないわよ、どーせ)

こう言っては自嘲染みてて忸怩(じくじ)たる思いが無くもないがクリスマスのような──〝イマドキの女子高生〟がテンションを上げるようなイベント事にはあまり興味が湧かない。

……12月18日──〝今日〟は私にとっては〝第三回BoB〟がほぼ名の売れてない──無名(ダークホース)であったティーチの優勝で幕を降ろされ、私も〝〝銃〟を多少なりとも克服したあの日から四日目の日〟でしかないのだ。

(……でも、桃原先輩とクリスマスパーティーをするのもありかも──っ)

「校長先生、朝田を連れてきました」

――「入れてくれ」

私の近況陳述や現実逃避はそこまでとして〝現状〟に目を向ける。

「えっ」

私の現在地は学校の応接間で、担任連れられて──(きも)を冷やしながらも入室してみれば、そこには二人の男性が実感の良さそうなソファーに腰をかけていて──その内の一人が(かも)し出す厳粛な空気更に胆を冷やすハメになった。……思わず口から声を()らしてしまったのも、きっと仕方の無いことだろう。

軽く前述した通り、応接間に居たのは二人の男性、一人は私も知っている──と云うよりはうちの高校に通っている生徒は知っているべきである壮年の男性。……早い話が校長先生だった。

「朝田 詩乃さんで間違いないね?」

「は、はいっ」

校長先生じゃない──〝もう一人の男性〟にいきなり名前を呼ばれたので、思わず返事をしてしまう。……その際どもってしまったのはご愛敬。

「何、君をどうこうしようと云う訳ではないからそんなに堅くなる必要は無いよ──とは言っても難しいか。……私はこう云う者で──ケチな公務員だよ」

「えっ」

もう一度、学校の応接間に私の掠れた声が響く。それは〝もう一人の男性〟がしたことに起因している。

……〝もう一人の男性がしたこと〟を文章にするなら、〝もう一人の男性はシワ一つ無いスーツの胸ポケットから、折り畳み財布くらいの大きさのナニかを取りだし、それを開いては〝〝桜〟を象っているであろう象徴(シンボル)と[POLICE]と()られた紋章(エンブレム)〟が拵えられている手帳を見せてくる。〟──と〝刑事ドラマ〟でよく見る動作だった。

(はぁ…)

1つ訂正しておきたいことが出来た。……さっきは〝〝〝銃〟を多少なりとも克服したあの日から四日目の日〟でしかなかない〟──とは述べたが、今となってはそれを〝~~~でしかなかった〟──と、とりあえずそんな風に過去形に直す事から始めた。

………。

……。

…。

校長先生からお茶を貰いながら話を聞くに、どうやら西脇(にしわき)刑事は、さっき自分で言ったように、私をどうこうしようとこの学校に来たわけではなく、ただの事情聴取に来ただけらしい。

……直截(ちょくせつ)(アパート)に来なかったのは、〝私に必ず会えるタイミングが学校だと思ったから〟との事。

アパートではなく学校に来てくれたお陰で──なおかつ、担任経由で呼び出しをしてくれたので、ご近所やクラスメイトに変な噂を立てずに済んだ。……そこらの気遣いには感謝である。

閑話休題(はなしをもどそう)

〝〝朝田 詩乃〟──私をターゲットとして狙った殺人鬼が逮捕された〟西脇刑事の話を簡潔に纏めれば以上の様で。

未だに〝命を狙われていた〟と云う実感が無いので、我が家を特定していて──かつ、命を狙っていた犯罪者が捕まったと云う話なら、他人事では無いのでとても喜ばしい話だと思う。

……しかしそこで、〝ちょっとした恩人かつ同級生が絡んでいる〟──そんな事実が浮き足立ちそうになっていた私の心を(かげ)らせる。

「新川君が…」

「……家宅捜索して判ったことだけどね…」

〝思わぬ人種〟である刑事から、〝ちょっとした恩人〟である新川君の名前が出てきたので文字通り[仰天]してしまう。よく云われている〝晴天の霹靂〟とは、正にこの事だと実感する。

……感情が事実を事実として認めようとしないが──校長先生が得も耐え難い様な表情をしている事から察するに、新川君が捕まったのは本当らしい。

〝新川 恭二〟。〝ドロップアウトボーイ〟──と、口さがない人達はそう彼を囃し立てるが、私はその男の子に一度だけ、カツアゲされそうになった場面を助けられた事がある。……話を聞くに新川君も【GGO】ユーザーだったらしく──一緒に【GGO】をプレイしたこともある。

……だから、どうにも〝私を殺そうとしていた殺人鬼のグループ〟に加担していたとは思えない。今でも〝何か〝そうしなければならない〟理由があったはず〟──と、頭の中でロマンチストなもう一人の私が囁いている。

「それに──こんなモノを見付けたんだ」

「これは…っ」

西脇刑事はそんな甘い私の思考にトドメを刺すかのごとく、私が写っている──明らかに盗撮された写真を机の上に並べる。……そこまでくれば、もう鈍い私でも判ってしまう。数日前まで私をストーキングしていたのは新川君だったのだと云う事に…。

「……刑事さん、()いていいですか?」

「答えられる事ならなんでも」

「……13日か14日──〝どっち〟ですか?」

そう訊いてみれば刑事さんは一瞬だけ瞠目(どうもく)する。……ほんのちょっとだけだが、溜飲が下がった。

「……誰かから聞いた?」

「いえ、12日までは誰かに尾行されている様に感じていたのですが──それが15日になった途端に無くなったので…」

「……まぁ、そこまで気付いてるなら教えても良いか、主犯も捕まってるから〝捜査状況云々~〟も無いしね。……12月14日の明朝に〝殺人未遂〟でね。襲おうとしていた被害者に〝三人共々〟捕らえられて、そのままその被害者に110番通報されて三人一緒に〝御用〟さ」

「え──〝三人〟?」

「うん、個人情報の関係上名前はちょっと出せないけど──凄いよね。徒手で──しかも〝凶器持ち〟三人を軽傷を負うだけで取り押さえるなんて」

〝三人の凶器持ちを軽傷を負うだけで取り押さえる〟──多少気になったが、私の精神衛生上〝触れてはいけない(アンタッチャブル)〟──みたいな気がしたので敢えてスルー。

「自分で犯罪行為を(そそのか)しておいて〝現場〟に向かうのはいただけないが──白兵戦の能力だけなら教導官として、ぜひ警視庁(うち)に欲しい逸材だ」

そんな風に語っている西脇刑事を尻目に、ストーカー行為に悩まされていた私は漸く安堵の息を()らせた。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 升田 真人

「もう終業式──もとい年の瀬だな」

「だねー」

12月20日──昨日よりも一段と気温が低くなっている12月21日。乃愛と二人仲良く息を白くしながら学校からの帰り路を歩いていた。さっき乃愛へなんと無しにこぼした通り、今日学校で行われたのは終業式だけで、授業が無かったので帰りも早い。

俺や乃愛達が通っている〝カウンセリング学校〟は、こう──悪く云ってしまえば〝高等教育修了〟の認定証を垂れ流すだけの学校に近い。……前世や前々世から数えると〝2回3回〟と高校に通う事になった俺と乃愛にとっては。

……が、しかし実を云うと俺にしろ乃愛にしろ〝学園生活を苦に思っている〟──と云う訳でもなかった。高校に通うのが〝2回目〟なのは伊達じゃないし、〝勉強〟そのものより教師の教え方を比較したりしていると、中々授業と云うのも楽しめる。

〝2回目の学園生活〟を謳歌(おうか)しているそんな時だった。

……喧騒の中から〝聞き覚えのありすぎる名前〟を耳にしたのは。

――「で、最近──〝BoB〟が終わって以来、ぱたりと来なくなったよねティーチとキリト」

――「そうですね。……私もティーチにお礼言いたかったのに…」

(……っ!?)

厚くなった面の皮のお陰で助かったのはこれで何度目か。声量は小さく、内輪だけでの会話を交わす時の声量だったが──〝高性能かつ人外〟な耳をしている俺の耳には雑踏を越えて都合良く入ってきた。

(……っ!?)

人の往来が激しい交差点で前方右斜め前。こちらに向かってくる、服装から察するに女子高生二人組を──そのうちの一人を見てみれば、また驚愕を重ねるハメになる。……知っている人物だった。〝その人物〟も俺に気付いたようで…

「「「あっ」」」

知り合いである俺と〝彼女〟は兎も角、何故か乃愛も──これまた何故か〝眼鏡を掛けている少女を見て〟驚きの声を異口同音に()らす。

……ここで俺は、(ドライグ)を宿していて──〝女難〟を引き寄せやすい体質であった事を心の隅で思い出した。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 結城 乃愛

「久しぶり──3年振りくらいか? 桃原ちゃん」

「真人先輩と最後にちゃんと会話したのは〝例の事件〟の一日前ですから──たしかに3年振りくらいですね」

交差点で起こりかけた〝すわ修羅場?〟──みたいな空間から舞台を最寄りのコーヒーチェーン店に移したが、やはりと云えば良いのかすぐに修羅場った。真人君を見て──からのボクを見ての反応を見た瞬間、その少女が真人君に秘めた想いを抱いていたのを悟った。……女の勘である。

ここの店に来るまでの道すがら真人に軽く()いたのだが、真人君の知り合いらしい──二人のうちの一人は桃原(とうばる) あやめと云うらしく、どうにも中学時代に、イジメに遭っていたところに軽くアドバイスした事があるとか。

「………」

「………」

一方ボクは真人君の知り合いじゃない方の女子──自己紹介を聞くに〝朝田 詩乃〟と一緒に、桃原 あやめから発せられている〝修羅場オーラ〟にあてられていて──正直に云えば気まずくて仕方ない。

……ボクの場合はそこに〝不意に〝原作キャラ〟と邂逅したから〟──とな理由はつくが。

「あっちは勝手に修羅場らせておくとして──ねぇ、()いても良い?」

「は、はい」

「……桃原さんとはどこで知り合ったの?」

とりあえず、お互いに(だんま)りを決め込むのもアレだったので、会話を拡げる為の突破口を作る。……何故〝朝田 詩乃〟が真人君の知り合いと仲が良いのかも気になっていたから。

「桃原先輩は私の恩人なんです…。……私が同級生にカツアゲされようとしているところ助けてもらって──それ以来、私によくしてもらってます」

(……あ、多分これ〝バタフライエフェクト〟だ)

〝真人君が助けた少女が〝朝田 詩乃〟を助ける〟──〝偶然〟と捨て置くのは簡単だが、ボクは何となく運命染みたもの感じた。……いきなり閉口しボクを不審に思ったのか、今度は朝田さんが口を開く。

「私からも訊かせてもらって良いですか?」

「まぁ、何を訊きたがっているかは何となく判るけど──良いよ、ボクに答えられる事なら何でも訊いてくれ」

「結城さん──貴女は〝彼〟と、どういった関係ですか」

朝田さんの声はやけに緊張味を帯びていることから──朝田さんもまた、懇意(こんい)にしている先輩の反応を見て、桃原さんが真人君に抱いている感情に気付いたらしい。

……人の機微に聡いと云う訳でもないボクだが、〝好きな人が女の子をタラシこみました〟──とな、女子に標準装備されている〝勘〟くらいは、さすがに〝元・男〟でも働く。

「恋人だよ」

「そう、ですか」

簡潔に述べたら、朝田さんは撃沈。……同時に、隣から感じていた〝修羅場オーラ〟がいつの間にやら消えている事に気付く。真人君は得意の──〝前世(まえ)〟よりも達者になっている口先三寸で桃原さんを丸めこんでいたのだ。

……その後、何故か朝田さんと仲良くなった──ある冬の昼下がりの出来事だった。

SIDE END 
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