普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
140 シノン
SIDE 《Teach》
「……やっと着いた」
現在地は【ガンゲイル・オンライン】に於ける首街都市──【SBCグロッケン】、その一角。目的地に漸く辿り着いて、一番最初に出来たのが安堵の息を溢すことだった。人混みにひっちゃかめっちゃかに──揉めに揉まれた俺の精神力(MP)は珍しくも目減りしている。……それくらいには大変だった。
未だに〝BoB〟の熱が冷めやらぬ中、〝第三回バレット・オブ・バレッツ〟の優勝者である俺はフードを目深く被り──【GGO】ではあまり目立ちはしないが、〝不審者ルック〟でとあるバーの前に居た。
……〝不審者ルック〟なのは俺が〝〝第三回バレット・オブ・バレッツ〟の優勝者〟になったからで──悪目立ちを防ぎたいが為。
何しろ暗視ゴーグルやらを装着しながらプレイヤーが闊歩しているゲームなので、〝〝BoB〟で殺陣を演じて優勝したプレイヤーが居る〟と云う事実よりは、〝フードを目深く被ったプレイヤー〟の方が目立たないのだ。
「さて、いきますか」
意を決して、その〝約束している人物が待っているであろう〟バーに入店する。……そのバーはメインストリートからは離れているが〝約束している人物〟のセンス良かったのか、こじんんまりとしてはいるが中々にハイソな造りだった。
ざっと見ても、そこまで広くない店内で軽く見渡すだけで、その〝約束している人物〟は見付かる。
「……待たせたな」
「そこまで待ってないわよ〝優勝者さん〟?」
「冷やかしてくれるな──シノン」
近寄り、軽口を交わした後〝約束していた人物〟──シノンからアイコンタクトで隣に座る様に示唆され、断る理由も見付からないので示唆されたシノンの右隣の椅子に腰を掛けた。……もちろんの事ながら、シノンへと〝すまんね〟と声を掛けるのも忘れずに。
……ちなみに店の中に居るプレイヤーは俺とシノンだけで、他のプレイヤーは居ないのでこそこそと小声で離す必要は無く──キリトとピーチは既にログアウトしている。
閑話休題。
「これはこの店で一番高いドリンクよ。これ一杯だけだけど、私の奢り」
「……そういう事か。……どうもありがとう」
シノンから店の色調に似合ったグラスを渡され、シノンの意図を直ぐに理解した。
「私は〝ティーチの〝BoB〟優勝〟に──」
「俺は〝シノンの〝BoB〟ベスト10入り〟に──」
「「乾杯」」
シノンが俺を呼んだ理由は何となく予想出来るが、そのまま話を切り出すのは躊躇われたので、まずは互いに──その功の大きさには差は有れど、互いを称え合うかの様にグラスを合わせる。
〝かちゃん〟と云う──グラスが合わさる音を聞いた瞬間、漸く自覚した。……〝【ガンゲイル・オンライン】で〝最強のガンナー〟になった〟のだと…。
………。
……。
…。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
「ああ。シノンが呼んだんだからな」
美味──なれど、どうにも味を名状し難いドリンクをシノンと楽しみ、二人のグラスが空になった時、タイミングを見計らっていたらしいシノンが切り出す。……ご馳走なっている俺は云うまでもなく断らない。
「……貴方は〝私を肯定する〟と言ったけど、それはどういうこと?」
「そのまま額面通りに受け取ってもらって結構だよ」
「……どこで知ったかは判らないけれど──つまり貴方は私が〝人を撃った事がある〟と云う事を知ってるのね」
俺はシノンの〝確信〟が多大に籠められた確認に、一つ頷き肯定の意を示す。……シノンはボカす為に──かは判断がしきれないが、〝人を撃った事がある〟と言っただけだが、その言葉の前に〝実際に〟と云う言葉が付くのも、当然の事ながら理解している。
「そう。……なら私は〝いつ判った〟──と訊けば良いのかしら?」
(……まぁ、別に教えても良いか…)
シノンは何故か〝諦念〟を浮かべながら訊き返してくる。その表情にちょっとした同情心が湧いた俺は、シノンからしたらお節介かもしれないが〝気付けた理由〟を教えてやる事に。
「……シノン、自分が他の人間をキルする時、ほんのちょっとだが〝本物の殺気〟が洩れているのに気付いているか? ……キリトもシノンに対して違和感くらいは持っていたと思う」
「……〝本物の殺気〟──ってオカルトの類い?」
〝やはり〟と云うべきだろう、シノンは〝それ〟を出している事に気付いてなかったのか、じろり、と俺を軽く睨つけ鼻白んだ様に聞き返してくるが首を横に振り、シノンの言葉に否定を入れる。
「いや、俺やキリトは〝本物の殺気〟が蔓延っていた世界に居たからね──〝1年くらいちょっと前までは〟な。……だから何となくながら判るんだよ」
「……っ! ……ちょっと待ってちょうだい、〝1年くらいちょっと前までは〟──って、もしかして…」
〝1年くらいちょっと前までは〟と、多少〝わざとらしさ〟はあれど、シノンにも判りやすいように強調したら、まずシノンは瞠目しては、〝出すべきだろう言葉〟を傍に居る俺から見ていても判りやすい様に吟味し──そう言葉尻を俺に渡して、話の続きを促してくる。
「……シノンはもう気付いているかもしれないが、俺とキリトは〝例の事件〟の〝生還者〟だ」
「そう…」
俺が手ずから〝その答えに〟辿り着かせる様に誘導させたシノンの横顔を見てみれば、そこには〝恐れ〟〝怖れ〟〝畏れ〟が絶妙な割合でブレンドされていた。……だからか、ある意味に於いてシノンは冷静であった。
……ここでもし〝恐れ〟や〝怖れ〟の割合が強かったら癇癪を起こし、〝畏れ〟の割合が強かったら羨望になりそうだったのだが──〝絶妙な割合〟なのでシノンの感情の起伏は平坦なままだった。
「じゃあ貴方は──」
「〝アインクラッド(あそこ)〟じゃあ2人ほど手に掛けた。現実の名前もあちらこちらに手を回して調べたよ」
「……っ!」
シノンは、はっ、と息を呑みこう返してくる。
「……謝りには…?」
「行ってない。……何しろ〝デスゲーム〟で〝PK(さつじん)〟を是とするギルド──云ってしまえば殺人集団に所属していたんだそこまでしてやる理由は無い」
それが俺の考え。……しかし、言い訳になってしまうかもしれないが俺は〝攻略に邪魔だったから〟──と云う利己的な理由を元にして、神埼 竜也とヴァサゴ・カザルスに手を掛けた──または〝手に掛けてしまった〟事を忘れていない。
……それは友との、100年以上経った今でも未だに褪せぬ誓い。……自分でも破綻した誓いだと理解しているが、〝忘れない〟──と盲目的に誓いを立て、〝殺人〟すらも〝糧〟として前を見ていなければもう〝殺って〟いられないのだ。
(感傷だな──カットカット)
そう捨て置き、思考のベクトルを変える。
「どうして──どうして、そんな風に思えるの…?」
「……確かにシノンの疑問は尤もだよ。人殺しなんてのは無い方がいい。……もちろん捕縛してアインクラッドでは実装されていた〝監獄エリア〟なる場所に送ってゲームクリアまで黙っててもらうと云う選択肢もあるにはあった」
「殺す必要は無かったのに殺した…?」
「……それについて語るとするなら少々話がそれてしまうが──シノンは〝平行世界論〟って知っているか?」
シノンはこくり、と頷く。……さすがに数多在る創作物からその程度の事は学んでいるらしい。
「……俺は怖かったんだよ。〝もしそいつが現実に現れて大切な人間を手に掛けたら〟──て考えたら、〝そいつ〟をのさばらせて措けなくなった。……シノンには判らないか?」
「……私は、咄嗟の事だったから…」
「でもその時、助けられた命も在っただろう?」
シノンはまたこくり、と頷く。
「そう、それで良いんだ──ってこれじゃまるでお節介だな」
「……いいえ、全然お節介じゃないわよ。……でも〝お父さんが居たらこんな感じなのかな〟──って思っただけだから」
「まだ二十にもなってないんだが…」
「嘘ね。でも──ちょっといいかしら?」
「解せぬ──って、シノン?」
シノンはこちら身体ごと向き、俺も回転する仕様の椅子ごとシノンの方へと向けられ──するとシノンは何を思ったのか、俺の両手を自らの胸元に持っていく。……そこまできてシノンのしたい事を悟った俺は、彼女のしたい様にさせる事にした。
「貴方の話は私にとって、とても有意義だったわ。……だからちょっとだけ勇気を頂戴…」
「好きな様に持ってけ」
それから少ししてシノンと解散した。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 朝田 詩乃
(……な、に、が! 〝ちょっとだけ勇気を頂戴〟──よ! うぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!)
アミュスフィアを外し──さきほどまでのあまりの痴態に床の上で転がり、のたうち回る。
「はぁ…っ、はぁ…っ。……でも暖かかったな…」
息を調え、未だに──デジタル越しなのに残っていたティーチの温度を確かめる。……もちろん〝温度〟と云っても他意は無い──無いったらない。顔も朱くなんてなっていない。
「さて」
さっきは痴態が後を引いていたが故に気付かなかったが、精神状態に比例するかの様に──やけに軽くなっている身体を〝アレ〟が閉まってある机に向かう。……それは〝心的外傷を自ら刺激すると云う〟──ある意味での自傷行為。
―でもその時、助けられた命も在っただろう?―
思い返すのは、一番〝救われた〟と思った──医者やカウンセラーとかよりも〝実感〟が籠められたティーチの言葉。
(……うん、あの時私が撃たなかったら銃を取られて──他の人が死んでいた)
「ふぅ…ふぅ…ふ──っ!」
1、2、3の要領で引き出しを開いたら、そこに在ったのはプラスチックの塊。……以前は見ただけでもあった動悸が無かった。
「軽いわね。……うん、軽い」
持ってみて驚く。体調の変化が無かったのもそうだが──思っていたよりもずっと〝軽かった〟のだ。……何故だか、現在両手の中にあるプラスチックの塊がどこか可愛く思えて──愛着が持てる気がした。
SIDE END
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