普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
139 兄弟語り(物理)
SIDE 《Teach》
果てない──こともないが、びゅんびゅんと風が吹き荒れ、砂塵を巻き起こす砂漠エリア。シノンを下してから早くも1時間。この〝本戦〟に残存出来ている総人数も2人となり〝第三回BoB〟は大佳境に入っていた。
「来たか──キリト」
「ああ──ティーチ」
誰が残っているのかと云うと、目の前に居る〝美少女に見える男性プレイヤー〟──キリトである。……そこは〝やはり〟と安堵するべきか〝さすが〟と称賛するべきか、キリトは勝ち残っていたのだ。
「さぁ、闘ろうか」
無駄な語りなど俺達兄弟の間には不要。後は両手に持つもの──銃や剣で語ればいい。
「……ああ、闘ろう! 今度こそ勝たせてもらうから、な…っ!」
俺の誘いに呼応してか一気呵成に、キリトは右手に持った〝カゲミツ〟を──キリトの肩の動きからして右薙ぎ気味に踏み込んでくる。……その攻撃を読めている俺は態と負けたいわけでもないので身を〝右側に重心を傾けながら屈めて〟──俺の素っ首を落とさんと振るわれた〝カゲミツ〟を、重心を傾けた勢いのまま右に転がって避ける。
アインクラッド時代の《Kirito》の代名詞である〝二刀流〟。……ソードスキルのアシストこそ無いものの、〝カゲミツ〟を2本携える事でそのキリトは“二刀流”を──擬似的とは云え、再現していた。
……別に今の攻撃は“二刀流”のソードスキルと云うわけでもない、初めてシノンとピーチに披露した時の微妙な顔は今でも思い出せる。
閑話休題。
「はぁぁああっ!」
(〝左〟〝右〟〝左〟〝右〟──〝右〟…っ! ……連続で来たか…っ)
キリトの剣撃を避ける時転がった際口に入った砂を吐き出しては体勢を立て直し、更に猛撃を掛けてきたキリトの剣撃の連続に対処する。……キリトの方から見て〝袈裟〟、〝左薙ぎ〟、〝左斬り上げ〟、〝刺突〟──の勢いのまま振るわれた斬り上げを、避けたり相殺したりして捌く。
(今…だっ!)
〝今度は俺のターン!〟と云わんばかりに俺の前で腕を振り下ろしたままの恰好となっているキリトに、至近距離から≪スコーピオン≫で蜂の巣にしてやろうと引き金を引く。
「っ!!」
……しかしキリトの持ち前の超反応に依って、俺の放った弾丸は〝目標〟を見失い、あらぬ方向へ飛んでいった。
(……大体〝5振り〟。ムリすればプラス1。……今のキリトが〝嘘〟だとしても〝5振り〟にプラス2くらいが限界と云ったところか)
「……ふぅ、届かなかったかぁ…」
体勢を正したキリトは、ステータスにモノを云わせて5メートルほど俺から飛び退き、軽く息を調える。
……どうやら、さすがにソードスキルのアシスト無しに剣を振るえるのは5振りくらいが限界らしい。……肩で息をしていた事がキリトの〝嘘〟でないなら、〝俺の行動を予測しながら剣を振るのは〟それなりに消耗すると予測する。
(ああ──〝嬉しいのに寂しい〟なぁ…)
俺の動きを油断なく観察しているキリトを見ていると、突如押し寄せる〝寂しさ〟と〝嬉しさ〟を綯い交ぜにした感情。……俺は〝その感情〟で思い出すのは、前世の事。
俺とルイズの第一子であるクリス──クリストファーに王位を相続させた時と似たような感情だった。……どうにもいつの間にやら俺は和人を〝弟〟としてではなく〝息子〟として見ていたらしい。……多分和人だけではなく直葉についても同様だったかもしれない。
(……大丈夫、だな)
思えば、和人の助けになろうと思って入った【ガンゲイル・オンライン】についても和人からしたら余計なお節介だったのかもしれない。
和人にはもう夢を紡いでいける手段があるし──恋人も居るので、一人じゃない。いつまでも手を引いてやらなくてもいいだろう。……いい加減〝なんちゃって父親面〟なんか、止める事にした。
……そこまで決まれば、後はキリトに勝つ手を〝割りと容赦なく〟打っていくだけである。……〝キリトに違和感を持たせない様に〟──〝アレ〟がマウントしてある腰裏へと〝スコーピオン〟を持っている手を回す。
「緒戦はこんなものか。エンジンも掛かってきた。……だから、キリト──いや、和人、今からやるのが俺に出来る──〝姑息な手〟込みの全身全霊だ。……いくぞ」
「……っ」
和人は一瞬だけ目を瞠り…
「……ああっ! 来い──っ!?」
そんな風に声を弾ませたのを確認すると、俺は地面に〝煙幕〟を叩き付けた。
SIDE END
SIDE 《Kirito》
「緒戦はこんなものか。エンジンも掛かってきた。……だから、キリト──いや、和人、今からやるのが俺に出来る──〝巧妙な手〟込みの全身全霊だ。……いくぞ」
「……っ」
膠着しかけていたティーチ──真人兄ぃとの戦闘。……そんな時に真人兄ぃから、ふと、もたらされたそんな──ある意味俺を認める様な言葉。……俺は直ぐに返せなかった。
アインクラッドで、明日奈にも内心を陳述した事はあるが──俺にとって〝升田 真人〟と云うのは〝いつも引っ張り上げてくれる兄〟であり〝見守ってくれる親と等しき存在〟であり──そして何より〝いつか並び立ちたい〟と、密かに情景している存在である。
……そんな──一口には語り尽くせない相手から認められるような言葉が出てきたのだ。嬉しくない訳がなかった。故に言葉を見失ってしまう。
「……ああっ! 来い──っ!?」
(しまった──〝煙幕〟…っ!)
口から出てきたのは上ずった声。……その瞬間、ティーチは事もあろうか〝スモークグレネード〟を地面に叩きつけた。……そう時間は掛からず辺りにはもうもう、と白煙が立ちこめる。
……これは〝真人兄ぃは俺に戦い方を合わせて〟と、勝手に信用していた俺の失態である。……真人兄ぃは前以てこう言ってくれていた
―緒戦はこんなものか。エンジンも掛かってきた。……だから、キリト──いや、和人、今からやるのが俺に出来る──〝巧妙な手〟込みの全身全霊だ。……いくぞ―
……と。それに、よくよく考えればそんな風にご丁寧に説明してくれたのも〝作戦〟だったかもしれない。……それほど、腰元に手を回して銃を手放す所作に違和感が無さすぎた。……間隙を突かれたとも言い換えられる。
(本気、か…)
俺が考えるに、真人兄ぃは〝試合〟と〝戦闘〟の線引きは明確で、〝試合〟は割りと土台を合わせてくれるが、〝戦闘〟となった途端、その手加減具合が反転したかの様に手段を選ばなくなる。
……しかしそれを裏返せば、今の真人兄ぃの中で俺は〝敵〟になっていると云う事にもなる。……それもまた嬉しかった。
(さて──来た…っ!)
速まる思考。コンディションは好調。相も変わらずもうもう、と白煙が視界を埋めていて──そろそろ手と足を出そうとした時、〝弾道予測線〟の赤色が俺に付き、飛来してきた俺に当たりそうな弾幕を〝二刀流モドキ〟で斬り落とす。……狙われているのは良いのだが、それは愚直な攻撃で──あまりにも〝らしく〟ない。
(これは牽制──なら、ここで選ぶべきは速攻…っ)
「疾っ!」
経験則からして、牽制であると予想。……〝牽制〟だとするなら真人兄ぃは今のうちにあの煙の中で俺に勝つための種を埋めているはず。……俺からしたら真人兄ぃの戦舞台に乗ってやる理由は無いので──意味合いは違うかもしれないが、そこは孫子に習って選択肢として〝拙速〟を選択。
(……あと少し…)
弾幕を斬り払いながら一気に煙の中へ踏み込み──弾幕が迫って来ている方向へ歩を進める。……すると予想通りに、白煙の中を十歩目に差し掛かったところ、前方3メートル程に黒い人影を見付けた。
(……居た…っ! ……今…っ!)
俺にとっては僥倖で人影を見つけた瞬間、弾切れなのか弾幕が止んだ。それをチャンスとみた俺は、“なんちゃってダブルサーキュラー”で一気呵成に突撃する。
「なっ…!」
思わずその華麗さに息を洩らしてしまう。
……突撃したのは良かったのだが、真人兄ぃはひらり、とターンして“なんちゃってダブルサーキュラー”の一撃目と次いでの二撃目をまるで円舞でも踊っているかの様に避ける。……どうやら俺の“なんちゃってダブルサーキュラー”は読まれていたらしい。
「くっ…!」
〝感嘆〟の次に口から洩れたのは苦悶。真人兄ぃはターンしたその勢いのまま──流れる様に赤色の〝ライトセイバー〟を振るってくる。……〝回避〟から〝攻撃〟への一連の流れは、宛ら〝流水〟と云えるくらいには流麗だった。
(さすがは〝師匠〟──か)
スグのアインクラッドに囚われる前からの頼みに便乗する様に、俺は──もちろんスグも、アインクラッドを脱却して以来、真人兄ぃに〝剣術〟の指南を受ける事にした。……ある意味で真人兄ぃは俺の〝師匠〟である。
……ドロップアウトしていた俺がまた〝現実〟でも剣を振るうようになった理由は、明日奈と交際する様になったからなのだが──敢えてそこら辺を詳らかに語るべきでもないだろう。
閑話休題。
(煙が…)
一回、二回、三回──と、真人兄ぃへと突撃しては良い様に遊ばれていると、俺達の激動に依ってか──はたまた〝スモーク〟の制限時間に依ってかは判らないが、立ちこめていた白煙がきれいサッパリ消えていた。
「………」
「………」
〝一刀〟と〝二刀〟が睨み合う。もう何度目かの膠着状態。
(……待てよ〝一刀〟…? じゃあ≪スコーピオン≫は──)
極限まで加速された意識の中で、そんな事をふと疑問に思い──≪スコーピオン≫を持っていた左手に目を向ける。……それが真人兄ぃの狙いだったとは知らずに。
……真人兄ぃがしたことは、〝真人兄ぃは自らが握り締めている左手の甲を〝カゲミツ〟で貫いた〟──と、至極簡素かつ至極不可解な行為だったが、その刹那後に聞こえた〝ヒュカッ〟と云う、掠れた音が真人兄ぃの〝真の狙い〟を教えてくれた。
真人兄ぃの左手の中で〝閃光〟が炸裂する。
「な──ぐっ!」
(目がっ…!)
今に思えば〝煙〟も〝銃〟も──〝円舞〟ですらもこの瞬間の為の〝伏線〟だったのかもしれない。真の狙いは〝閃光〟。
(……強いなぁ…)
胸に去来するのは〝悔しさ〟──されど、それ以上に清々しい気持ちばかり。……眩い閃光に目を灼かれながら敗北を悟った。
SIDE END
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