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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第2章 妹達編
  第33話 看病

 
前書き
第2章スタート

追加
評価見たら、結構な数のお気に入り登録があって驚いています
登録してくれた方、評価してくれた方に感謝感激です! 

 
とある路地裏に黒いぶかぶかの服を着て、大胆にも胸元を少しだけ開開いた黒髪の女性が壁に寄りかかっていた。
胸元には鎖骨がチラリと見えている。

こちらの視線に気がつくと黒髪の女性は、寄りかかる身体を起こして眠そうな目と口調で話しを始めた。
「どうも皆さん。語り部担当のフウエイです」
フウエイは、ガラスのように透き通った声を響かせて会釈をした。
挨拶を済ますと壁に足を掛けて、寄りかかった。

「新しく仲間に入った湾内様と泡浮様。今後どのようになっていくのか楽しみですね」

そして、預けていた身体を起こして、ポケットに手を突っ込む。
ガムでも噛んでいるらしく、風船を作って口先で破裂させた。
舌先や指で弾けたガムを口に戻していく。
少しだけ不真面目な態度だ。

機嫌わるい?

飛んできた質問にフウエイは、ため息を吐いた。
「いつも元気良いって訳ではありません。全く、湾内様はパパにベタベタくっ付き過ぎです」

パパ?

「あっ!やってしまいました。昔のクセです。気にしないでください」
少しだけ、照れたようにフウエイは顔を伏せた。
父親に構って欲しくてイタズラをする子供のように見える。

「コホン......それでは第2章に話を進めましょうか」
一回だけ咳払いをするとフウエイは、いつもの語り部らしく淡々と説明を始めた。

皆さんは、もしも自分と全く同じ姿、同じ声のもう一人の自分に会ったらどうします?
怖くて逃げ出しますか?
いや、話せば分かるの精神で勇気を出して話掛けますか?
それとも、消えてほしいとか目の前から居なくなって欲しいと思ってしまいますか?

大正期に活躍した文豪「芥川龍之介」という人を知っていますか?
高校生の方なら、国語の教科書で「羅生門」という作品を読んだことがあるかもしれませんね。
彼は短編小説を主に書き、師である「夏目漱石」に才能を認められた小説家です。
しかし、彼が35歳の頃に睡眠薬自殺を図り亡くなってしまいました。

彼は死の直前に自分とそっくりの人物を見たらしいことが知られています。
そのことを雑誌で言っていたり、自分の小説にも話を盛り込んでいます。

よくある言い方ですと「ドッペルゲンガー」とも云いますね
何でも会ったら近いうちに死んでしまうという怖い曰く付きのものです。

これは、自分と同じ姿、同じ声の自分に会ってしまった少女に起こった悲劇の話。
「最後に質問です。貴方は、その自分を受け入れることが出来ますか?」

フウエイは最後の問いかけを済ますと、身体を起こして、崩れた外套を直した。

「すみません......今日は少し用事がありますのでこれにて失礼します」
一礼をすると踵を返して、そそくさと早歩きで1本道の路地裏の端にある棚引いている光の先へと消えて行った。


路地裏にしばし沈黙が訪れた。
先へ進もうと手を動かそうとした瞬間に
背後から女性の声が聞こえた。

「あれ?皆さんここに居たのですか?探してしまいました」
振り返ると先程用事があると言って足早に行ってしまったフウエイがカートを押していた。
見物人を見つけるとフウエイは嬉しそうに笑顔を見せるとカートを止めて、中身を出して準備を始めた。
赤い髪の少年の人形、電気を出しているような茶髪の少女の人形など出演者をステージに並べていく。

「今日から第2章ですからね。気合いを入れて前口上をしようかと......貴方は、自分そっくりの人に会ったら......はい?もう知っている?......誰から教えて貰ったんですか?......私ですか?おかしいですね、ここに来たのは初めてですよ」

用意をしていた赤い髪の少年の人形を手に持つと怯えたように口元に持ってきた。
「も、もしかして私のドッペルゲンガーに会ったんですか?会うと不吉な事が起きるのですよ」
ガクガクと恐怖で震えているフウエイ。
赤い髪の人形を頼っているようだ。

すると、フウエイは人形の脇から眼をこちらに向けて言った。

ところで、モニターを見ている貴方の後ろで立っている人って誰ですか?


第2章 妹達編 始


遠い昔の話だ。
自分がまだ小さい頃のこと。
うろ覚えであるが、リハビリ施設のような場所で難病治療を目的とする研究施設に連れて来られていた。
二階にあるガラス越しの部屋からあたしは一階の様子を見ていた。

まるで健常者と障碍者を区別するかのように仕切られ、隔離されている。
同じ人間に生まれながら、毎日を身体に不自由なく暮らせる人もいれば、生まれながら不治の病と診断されて過酷な闘病生活を余儀なくされる人もいる。
そこにある違いは如何程だろうか?

あたしの目の前で病院着を着た少年がバーベルでも持ち上げるかのように手摺りに捕まりながら、渾身の力を込めて歩こうとしていた。
「あのコ、足をケガしているの?」

歩くなんて簡単で当たり前の自分には信じられない光景だった。
あれだけの力を込めれば手摺りで逆立ちが出来そうなモノだが、少年の行動は体操選手のように振舞わずにただ重力に反抗する屈曲と伸展の繰り返しだ。

きっとケガをしていて歩けないだけだ
その考えに落ちつく。

「いや、彼は筋ジストロフィーという病気なんだ」
「きん......じす?」

筋ジストロフィー
遺伝性筋疾患
少しずつ筋肉の力が弱くなり、筋肉が痩せていく難病
病気の特徴により四つの型に分類される
治療法は、未だに確立されていない

見ているだけでフラフラとしている頼りない少年の真っ白な腕や脚。
あの脚に少年は自分を乗せている。
一歩、また一歩と文にするだけならば「歩く」だけで片付いてしまう動作を少年はここ数年命を懸けて行ってきた。
そんな努力を打ち消すように筋力は弱くなり、重力の影響を日に日に強く感じる。
人間として生物としてこの場に存在しているだけで命を削ぎ落とされる気分だ。

少年は音を立てて倒れ込んだ。
重力に負け、全身の関節が曲がり出して顎を床に付けてしまう。

「あっ!!」
あたしは倒れてしまった彼を見下ろした。
こちらも手摺りに捕まり、体重を足腰に掛けている。しかし、日常の動作には子供ながらに不自由していなかった。

案内をしている白衣を着た中年男性が淡々と病気について機械的に説明していく。
「筋力が徐々に低下していく病気だよ。彼はそんな理不尽な生を背負って生を受けた。だからあのように努力して病気と戦っているんだ」

諦めずに手摺りの支えを掴みながら再び立ち上がろうとする少年を見て、思わず力が入ってしまう。
無事立ち上がった時には、達成感からかあたしは笑顔で彼の健闘を讃えた。

大丈夫
きっと治るから
だってあんなに頑張っているんだもん
いつか歩けるようになるよ

「しかし、たとえどんなに努力しても筋力の低下は止まらない。現在の医学に根本的な治療法は無く、やがて立ち上がる事もできなくなり、最後は自分での呼吸も心臓の活躍さえ困難に......」

現実に希望なんてなくて
ただ真っ直ぐ残酷な崖が待っているだけだった
徐々に身体の自由を奪われていき、自分で呼吸することも心臓の拍動も失われていく
それは死を意味する
死は知っていた
動かなくなること、寂しくて悲しいことだ

「だが、それはあくまで今現在の話だ。君の力を使えば彼らを助ける事ができれかもしれない」

白衣を着た男性は、本題とばかりに子供のあたしには分からない用語で希望を述べている。
「脳の命令は電気信号によって筋肉に伝えられる。もし仮に、生体電気を操る方法があれば、通常の神経ルートを使わずに筋肉を動かせるはず」

「君の電撃使い(エレクトロマスター)としての力を解明し『植え付ける』事ができれば、筋ジストロフィーを克服できるかもしれないんだ」

正直、学校でも習っていないような用語を並べられても意味不明だった。
だけど、少しだけ理解出来たのは
あたしの能力が彼の病気を治せるかもしれないことだ
白衣の男は、膝を曲げて目線を合わすと手を伸ばした。
「君のDNAマップを提供してもらえないだろうか?」

それで助けられるなら安いと思った
自分の電気の能力が役に立ってくれることが嬉しかった

「......うん」
気がつけば頷いていた。
白衣の男は、そのままエスコートをするかのようにあたしを連れて行く。
「ありがとう」

些細な
本当に病気が治ってくれるならば
あたしの能力で人助けが出来るならと思っていた。
生物で習う言葉や専門用語の深い意味なんて知らない。
ただ、苦しんでいる人を助けたかっただけ。

だけど、それは違っていた
この善意が過ちの始まりだった。
酷く凄惨な実験の開幕だったことに
あたしは見抜けなかった
苦しまなくて良かった者達を生み出してしまうことになるなんて......

******

病室で横になっているサソリは、気が抜けたようにボーっとしていた。
ピピピッと看護師が熱を測ると体温は37.5度を指していた。
「昨日よりは下がったけど微熱ね。疲れが一気に出たのよ」
入院してから一週間。サソリは風邪を引いたようで熱っぽい顔で頭を掻いた。
人間の身体になり、久しぶりの病気にサソリはなんとも心地悪そうに布団で横になる。

「抜け出そうなんて考えないのよ!」
念を押すようにビシッと指を差す。
「ケホケホ......しねえよ。怠いし」
微熱であるが、人間らしい節々の痛みに気持ち悪さが浮き上がる。

レベルアッパー事件からぶっ通しで闘い続けた身体に、とうとう限界が来たらしく顔を真っ赤にしながら布団を頭から被って拗ねたように横向きになった。

「......こんなにチャクラは練れんもんか」
左腕の骨折の痛みは治まり、腫れも引いてきた矢先に風邪で倒れるとは情けない。
横を向いて力なくため息を吐いた。

「じゅあ、朝の分の薬を置くからしっかり飲んで休むのよ」
カートの薬箱から風邪薬を三錠取り出してテーブルに並べた。
「......ケホ」
サソリは、一回だけ咳をするが無視をするように黙っている。

「返事は?!」
「へいへい」
「全く!じゃあ、あとは宜しくね。薬は殴ってでも良いから飲ませるのよ」
サソリのカルテを入力すると、パソコンを閉じて、コード類やサソリの様子と薬を再度確認すると、側にいた赤いツインテールをした常盤台の少女に言って、扉から出て行った。

「お世話になりますわ」
いち早くサソリの見舞いに駆けつけていた白井が出て行く看護師に一礼をした。

「ゲホゲホ......あー、調子悪いな」
やっと居なくなった鬼に清々しながら、サソリは首を回した。
喉に炎症があるらしく、咳を何度かしている。

「大丈夫ですの?」
白井がお見舞いで買ってきたスポーツ飲料水を紙コップに注ぎながら、サソリを心配そうに覗いた。
「寝てりゃ治る」
「寝る前にお薬ですわよ。さあ、起きてくださいな」
「いらねぇよ薬なんか......毒かもしれねーだろ」
「では、本音は?」

「......苦いからヤダ」

子供か!?

鋭敏になった味覚の弊害がここに現れたようだ。
板状に並んで出されているブリスターパックから薬を押し出していく白井。
「良薬は口苦しですわよ。さっさと口を開けなさいですわー」
薬を手に持った白井がコップを手に取ってジワジワとベッドで横になっているサソリに近づく。

サソリはプイっと枕に顔を埋める。
絶対に薬なんか飲んでやらないぞとの強固な意志表示だ。
「全く手間が掛かりますわね......ほいさ」
白井がテレポート能力でサソリの口の中に薬を移動させた。
「!!?うっ!?」
サソリが慌て起き上がり、吐き出そうとするが白井がスポーツ飲料の入ったコップをサソリの口に押し込んだ。
ゴクンと飲み込めたらしいが、サソリは頭をテーブルに付けて項垂れている。

「ゲホ、ゲホ。お前な、時空間でオレの胃の中に入れれば良いだろ......わざわざ口に入れなくても」

「あら、そう単純ではありませんわ。内臓は独特の動きをしますから。一歩間違えると心臓の中に薬が入ってしまうかもですわよ。それでも良いなら......」

「分かった分かった」
笑顔でエグい事を言ってくる白井にサソリは若干寒気を感じた。

「とりあえず果物を買ってきましたから、食べますわよ」
スーパーで買ってきたミカンを出すと皮を剥いて、サソリに一つずつ渡した。
「体調が悪い時はビタミン摂取ですわ」
サソリは、指でミカンの果肉を確認するとゆっくりと口に入れた。
「......酸っぱいな」
「貴方、文句しか出てきませんわね」
白井もパイプ椅子に座ってミカンを食べ始める。

しかし、白井の頭の中を占めるのはサソリと湾内の事だ。
一週間前に起きた暴行事件の際に目撃してしまった光景。
湾内がサソリの頬にキスをするという非常事態に心を掻き乱される。

サソリを独占したい
サソリに甘えたいなどの欲求が噴出するが、寸前のところを行ったり来たりの繰り返しだ。
「わ、湾内さんはどうするおつもりですの?」
この質問にも勇気がいる。
もしも、サソリ自身に明確な肯定があれば、もう諦めるしかない。

「湾内?ああ、あいつか......正直言うとオレも困っているんだが」
「湾内さんは付き合いたいと言ってますわよ」
「はっきり断ったんだがな......何でオレなんかと」
横になりながら、少しだけ目を細めた。
ガキの頃に親を喪って、その先はひたすらに傀儡の世界に没入して行った。
そのため、サソリ自身には女性と付き合った経験がなく、どう扱って良いのか困り顔だ。

「白井......オレはどうすれば良い?」

「えっ!?もしかして、今まで女性とお付き合いしたことがありませんの?」
白井はサソリの予想外の問いに持っていたミカンを落とした。
「ねーよ」

空いた口をパクパクと動かしながら、しばらくサソリを見つめた。
あれだけ女慣れしている態度をしていると思ったら、実は全然経験がなかったですと!
ま、まさかのチェリーボーイ!?

白井は静かにガッツポーズをした。
サソリの初めてになれるかもしれないという喜びからだ。

サソリは白井の様子に首を傾げながら、腕を組んで悩む素振りをした。
「うーむ、湾内は割と苦手かもしれねぇな。何を考えているか分からんし」

それに先の件で事件に巻き込んでしまったから、後ろめたさもある訳で。

「ケホ、いっその事お前だったら良かったかもな」
ガシャンガシャンとパイプ椅子から崩れ落ちた白井が顔を真っ赤にしながらサソリの方を見上げた。
「な、なな!?」

ど、どういう意味ですの?
国語の文脈判断ならば二つの意味に取れてしまう言い回しだ。

解答例
お前だったら、簡単に断れるのに

もう一つの解答例
お前だったら、付き合ってもいいな

こ、この迷わせる選択肢をこの場で臆面もなく言いますのー!
「で、では......その私と」
白井は背筋を伸ばして、真剣な表情で向き合った。

どちらか分からないならば、当たって砕けろですわ

一世一代の大勝負に白井は顔を真っ赤にしてサソリを見上げる。

「お前だったら楽そうだな。単純だから分かりやすそうだ」

...............

白井はプルプルと身体を震わすと落としたミカンを拾い上げて、サソリに投げ付けた。
「このスカポンタン!こちらの気持ちを知りもしませんで!!」
サソリは投げ付けられたミカンを片手で受け止めた。
「何すんだ!お前」
「デリカシーが無さ過ぎますわ!」
座っていたパイプ椅子をテレポートで飛ばして、サソリの頭上に移動させる。
一瞬だけ重力を無視したように漂うとサソリの頭の上に落下して激突した。
「痛ってー!お前、オレが病み上がりなの知っているだろ!」
「もう、知りませんわ!馬に蹴られて死んでしまえですわ!」

何でコイツ怒ってんだよ?

丁度座るクッション部分ではなく、硬いパイプ部分がサソリの頭に当たりコブを作っていた。
ヒリヒリと痛む内出血箇所を摩って痛みを和らげようとしている。涙が微かに反射的に出てきた。

すると扉がいきなり開けられて満面の笑みの湾内が入ってきた。
「サソリさん!如何ですの?」
久しぶりにサソリに会うことが出来てご満悦だ。
「げっ!?」
「!?」
湾内の登場にサソリと白井は、同時に振り返り鼻歌交じりで近づいてくる湾内を驚きながら見つめた。
「とても寂しかったですわ。サソリさん......少し泣いていますけど大丈夫ですの?」
無垢にサソリのベッドに腰掛けると、サソリの顔を覗き込んだ。
「いや、別に」
サソリはなるべく湾内から距離を取ろうとベッドの上から移動しようとするが、湾内はグイグイと近づいてくる。

「アンタ風邪引いたらしいじゃない」
上ってくる湾内の背後から御坂と泡浮もサソリのお見舞いに来ていた。
「湾内さん、ペースが速かったですわ」
息を少しだけ切らしている泡浮。

「ああ、まあな」
風邪という単語を聞いた瞬間に湾内の表情が深刻そうな顔になった。
「か、風邪ですの!?それは大変ですわ」
湾内がサソリが逃げないように布団の上からサソリの足に乗り、逃げないようにすると両腕でサソリを壁際へと追い詰める。
両腕でサソリの両サイドを固めると、徐に湾内は自分の顔をサソリに近づけた。
「ゲホゲホ!何しやがんだ」
「咳まで!待ってください今お熱を測りますわ」
と額をくっ付けようとしてくる湾内にサソリは必死に右手で抵抗を続ける。
「ケホ、いきなり過ぎるんだよ!いいから離れろ!」
熱が上がって来たのかサソリの顔は真っ赤になり、右手に力が無くなっていく。
息を荒くなる。
「はあはあ、くそ......」
それでも構わずにサソリに迫ってくる湾内。
「全く!これですから」
白井が湾内の制服の襟を掴むとテレポートでベッドの脇に移動させた。
いきなりサソリが居なくなってしまったので辺りをキョロキョロとしている。
「??」

「貴方の出る幕ではありませんわ。湾内さん」

「何をするんですの白井さん!?」
手をパンパン叩いて、笑顔を見せる白井だが、背後から嫉妬の炎を燃やしている。
「いいえ。私は立派にサソリの看病をしようかと思いまして。一応、貴方よりは付き合いは長いですし」

ポッと出てきたこんな世間知らずのお嬢様にサソリは釣り合いませんわ。
貴方は家柄を気にして、どっかのボンボンにでも嫁げば良いんですのよ

湾内は立ち上がると、ツインテールを描き上げている白井に大股で歩いて近づいた。
「恋人として看病は当然ですのよ!」
「振られた分際で何をおっしゃいますか」
「ふ、振られましたけど。いつか恋人になる予定ですわ!」
「予定は未定と言いますわよ」

サソリの事で激しく言い争う白井と湾内。
そこに御坂が手を叩いて二人を宥める。
「はいはい、おとなしくしなさい!」

「あのー、サソリさんの様子がおかしいですわ」
泡浮が顔を真っ赤にしてフラフラ身体を揺らしているサソリの見ながら、三人に知らせるように指を差す。
「はあはあ......」
バタッと力が無くなり、ベッドに倒れ込むサソリ。
「!?」
言い争いをしていた二人が一斉に駆け寄るが意識が曖昧らしい。
「だ、大丈夫ですのサソリさん!」
「早くナースコールナースコール!」

一時的に熱が上がっただけで、サソリの容体にはさほど影響はなかった。
まだまだ完全回復への道のりは遠い。 
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