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剣士さんとドラクエⅧ

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93話 雷鳴

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 トウカを食った、ドルマゲス「だったもの」はブクブクと膨らみ、濃いピンク色の姿からだんだん人間に近い形になっていく。トウカは、悲鳴すらあげることが出来なかったみたいだ。とはいえ、すぐ隣に立っていたトウカがカッ攫われるのを、僕は……食われてからしか気づけなかった。

 僕の頭が、気が狂わんばかりの混乱を通り越して……氷のように冷静なのが逆に気持ち悪い。親友が、あんな目に遭ったっていうのに、冷静で、あまりにも冷静すぎて、ゼシカがルカニを唱えようとしたのを抑えれたぐらいだ。

 「それ」にルカニが効いたとしても、トウカにも効いてしまうだろうから、ほぼ確実に、しかも増幅して。そうしたら……最悪、トウカが噛み砕かれてしまうかもしれないと、瞬時に察せた。

 「それ」はヒトの二倍ほどの背の、ヒトに近い姿の、ピンク色の肉塊に変わっていく。でもすぐにヒトっぽい姿を保てずに崩れていき、最初の姿に戻った。……本格的によく分からないものになったんだね。彼は「悲しいなぁ」とかいろいろ喋っていたから自我はもちろんあっただろうに、もう、戻れない。

 何が彼を変えたんだろう。何が彼の道を踏み外させたんだろう。ドルマゲスは元々人間じゃなかったのかもしれない。

 それにしても……トウカは大丈夫なんだろうか。普通に考えたらちっとも大丈夫じゃないけど……。でもね、この化け物の腹から何度も何度も剣が貫通して飛び出してるし、時折見慣れた手袋の手が引き裂くように肉を破るから、ほっといても良さそうに見え……。

 ってそんな訳ない。混乱しすぎ、動揺しすぎだよ僕。流石にトウカでも無事じゃないでしょ、怪我したかもしれないし、怖いだろう。

 ……今すっかり忘れてたけどトウカ、同い年の女の子だし。僕よりよっぽど勇敢だけど。ていうか現在進行形で勇ましい声とともに「腹」をブチブチちぎってるけど、まぁ、女の子だし!たとえ僕が一度も腕相撲や手合わせ、それから近衛になる時に受けた教養のペーパーテスト、足の速さ、男前さに勝ててなくてもね!

 トウカの拳が「腹」を突き破る事に無理やり中に押し留められている。まぁ、負わせた傷は治ってないみたいだし……外からも内からも攻撃したら助けられるんじゃないかな。

 正直、助けようとして下手に近寄りすぎると引きちぎる為のブオンブオンと振られる大剣の餌食になりそうなんだけどね……。

「ククール、『あれ』にマホトラが効くか試してみて。効いたら魔法が使えないように吸い取りと回復の交互。出来なかったら回復に専念して。ゼシカは皆の補助をお願い。ヤンガスは僕と一緒にトウカの救助、そして攻撃。行くよ!」

 ブンブンと腕だったものが振られ、近くの地面が大きく抉り取られるのを横目に、僕はトウカがぶん投げてドルマゲスに刺した剣を拾い、不要な槍を背負い、駆け出した。

 槍の十八番である突きは使えない。ほぼ間違いなくトウカに刺さるから。そういえば剣は久しぶりだけど……問題ないね。そんなことより問題は、切れ味抜群とはいえ「トウカの得物」を装備したせいでマホトーンが発動してしまったこと。槍メインのせいで他に扱えるものも持ってないから仕方ない。

 僕はこれで自力で回復出来なくなってしまった。

 それに他のみんなが気づいてるかは分からないけど……信じよう、みんなを。

 僕達はバラバラになって、攻撃を拡散しながら立ち回る。走って、跳んで、或いは受け止めて、切り裂いて、攻撃をなんとかいなす。理性の欠片もなさそうな外見同様、身体の負荷なんてお構い無しの「それ」は自分の体液を垂れ流しながら、肉片を撒き散らしながらさっきの翼の生えた姿とはケタ違いの攻撃を繰り出していた。

 そうだな……さっきのはなんとか一撃なら耐えれたけど、今回はヤンガスや僕みたいな体力も防御力もある前中衛が、上手くいなして腕を持っていかれる、避けきれなかったゼシカが危うくミンチになりかけてザオリクを受ける……そんな戦局だ。

 そんな時、くぐもっていたものの、トウカの声が聞こえた。

「……っ!……っ!……ゃらくさいッ!」

 ざくりざくりと攻撃を避けつつ腹部を斬りつければ、トウカ側からも剣が、拳が飛び出す。今だと思ってその手を掴み、渾身の力で引きずり出そうと、する。一瞬トウカの顔が見えた。そこまでは、僕が引っ張り出せた。

 銀の髪を血で赤く染めて、見開かれ、瞳孔まで開ききっている紫の瞳は充血したのか真っ赤で、全身どこもかしこもボロボロでも闘志を失わない覇気は僕をビリビリとさせて、十年間慣れ親しんだ親友は、溶かされたのか、噛みちぎられたのか、足が、足がなくって。

 自分の血で真っ赤になりながら、取り込まれそうになりながら、僕の手をとったトウカを、引っ張りだそうとすると、そんな傷なのに悲鳴をあげなかった癖に……喉が詰まったように声のない悲鳴をあげる。

 嗚呼。こいつが。こいつがッ!こいつが、僕の……唯一の友を、かけがえのない仲間を傷つけたって、訳だよね?許せるものか、許せるわけがない!城のみんなをあんな姿にして、陛下も姫も人間として生きられないのに、ゼシカのお兄さんを殺したのに、ククールの恩人を殺したのにッ!

 こいつは、何も持ってなかった僕の、親友すら奪う気なのッ?!

 再び飲み込まれたトウカ。でも手は離さなかった。僕の手まで引きずり込まれる。気付いたヤンガスが、橋から落ちたヤンガスを助けたトウカのように、僕の助太刀をする。

 持てる力を全部使って、助ける!!

「おおおおおおおおオオオオオおおおおおおおッッ!!うバウ気かァああああアああああアアアアッッッッ!!!!」
「それはこっちの、台詞だッッ!」

 引きずり出す。ブチブチと「それ」の腹が裂ける。トウカを後ろにいたククールに投げ渡す。待っていたとばかりにベホマの、強力な魔法の光が降り注いだ。これで、トウカは大丈夫だ。

 痛みか、怒りか。知りたくもないけど、驚いたことに感情が残っていたらしい「それ」はのたうち回りながら叫んでいた。傷口が今度は僕を取り込もうとする。トウカを助けた手は焼け爛れていた。ということは、トウカは消化されかけたということだろう。

 だから、僕は。《《魔法を封じる》》トウカの剣を後から後から臓物が溢れ出し、ぼとぼとごぼごぼと、ドス黒い血と怨念の塊が流れ落ちる傷口に思い切り突き刺した。

 手から剣が離れた瞬間、魔力が再び認知できるようになる。そう得意でない僕でもわかる邪悪な魔力は、その巨体からすればちっぽけな剣にすごい勢いで吸われている。ククールが減らしてくれていたのも大きいだろうね。

 急速に巨大な肉体を保てなくなった「それ」は、悲鳴をあげる。醜く、獣のように、いや……それはただの、化け物だったかな?

 ヤンガスと一緒に僕は、暴れだしそうで死にかけの「それ」から急いで離れた。

 そして。

 あんまり良くはないけど、これまでの恨み、そしてすべての怒りを込めて、唱える。

「来れ、荒れ狂う雷よ!ギガデインッッ!」

 「それ」は、目もくらむほどの激しい雷撃を受けて、こんどこそ、こんどこそ、その気配を絶った。

 ……恥ずかしい詠唱は余計だったと思う。

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