英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~旅の終わり~前篇
――リベル=アーク崩壊より3ヶ月後―――
~遊撃士協会・グランセル支部~
「―――そうですか。もう共和国に帰ってしまわれるのですね。」
「ああ、向こうの仲間に仕事を任せきりだからな。ま、これもA級遊撃士としての社会的責任というやつだ。」
エルナンの言葉にジンは頷いて答えた。
「ふう、なるほど………できれば残って頂きたい所ですがそういわれては仕方ありません。それで、ご帰国はいつです?」
「ふむ、こうなると早いに超したことはないからな。出来れば、明日にでも発とうと思っているんだが………共和国行きのチケットを一枚、手配してもらえるかい?」
「ええ、それは一向に構いませんが………キリカさんには挨拶されていかないんですか?」
ジンに頼まれたエルナンは頷いた後、意外そうな表情で尋ねた。
「いや、俺もそのつもりだったんだが………当の本人に釘をさされちまった。そんな暇があるなら早く共和国に帰れ、だとさ。ヴァルターの事も報告したんだが、そう、それだけ?だったしな。」
「はは………そうでしたか。それは是非もありませんね。」
「ま………いいとするさ。別に、これっきりというわけじゃないしな。」
「まあ、それもそうですね。それにどうやらお2人には切っても切り離せないご縁があるようですし。」
「はは、ただの腐れ縁と言うがな。」
エルナンの言葉を聞いたジンは豪快に笑って答えた。
「ふふ………さてと、名残惜しいですがそうも言ってられませんね。それでは、早速チケットを手配しましょう。」
そしてエルナンがチケットを手配しようとしたその時、通信器が鳴った。
「おや、通信のようです。………失礼。…………はい、こちら遊撃士協会グランセル支部。……ええ、はい。……はい。ええ、ちょうど来ていらっしゃいますが………ジンさん。」
通信器で話していたエルナンはジンを見て呼んだ。
「ん、どうしたんだ?」
「共和国大使館のエルザ大使からのご連絡です。何でも、ジンさんを温泉旅行に誘いたいとか………」
「はァ!?」
エルナンの言葉を聞いたジンは驚いて声を上げた後、通信器でエルザと話した。それから2日後―――
~エルモ村~
夕方のエルモ村をジンとキリカが2人並んで歩いていた。
「ふむ、エルモ村か……久しぶりに訪れたがやはり風情のある場所だな。」
「ふふ、そうね………ここは私達の故郷にも似ているから。」
「……ふう、しかし本当に焦ったぜ。話を聞いた時はよもやエルザ大使と2人きりの旅行かと思ったからな。」
「あら、ジン………残念そうね。何なら、私はここで引き返してもいんだけど?」
「あ、あのな………さしものオレも大使は対象外だ。第一、大使はお前にこそ用があるって話なんだろう?」
キリカの言葉を聞いたジンは驚いた後溜息を吐き、真剣な表情で尋ねた。
「ふふ、この程度の冗談で動揺するなんて相変わらずね。少しは気の利いた返し方はできないのかしら?」
「うぐ………まったく………相変わらず容赦がないな。リベールの遊撃士連中もよく付いて来れるモンだぜ。」
口元に笑みを浮かべたキリカの言葉を聞いたジンは唸った後、呆れた様子でキリカを見た。
「まあ、こんな態度はあなたにしかしてないから。………って言われたら嬉しい?」
「嬉しくない!」
キリカに尋ねられたジンが呆れた様子で大声を上げたその時
「あら、お2人さん。……ふふ、お待ちしてたわよ。」
エルザが2人に近づいて来た。
「ど、どうも大使さん。」
「お招きいただいて恐縮です。」
エルザに気づいた2人は軽く会釈をした。
「あら、ジンさん。落ち着かない様子だけど何かあったのかしら?」
「え、あ………大使さんの気のせいでは?」
「ふふ、なんといっても美女2人との温泉旅行………落ち着けるわけがないものね。」
エルザに尋ねられたジンは苦笑しながら誤魔化そうとしたが、キリカが茶化した。
「お、おい、キリカ……」
キリカの言葉を聞いたジンは慌てた様子でキリカを見た。
「ふふ、そうね………私ももう少し若かったらジンさんのことを放っておかないんだけど。」
「い”っ……………」
さらにエルザの言葉を聞いたジンは顔をひきつらせた。
「ふふ、冗談はさておきまずは夕食にしましょうか。今夜はマオ女将みずから包丁を振るってくださるそうよ。堅苦しい話については食後の一服ついでということで。」
「あ、ああ………その考えには賛成だ。」
「では、行きましょう。」
エルザの提案にジンとキリカは頷いた。そしてジン達は夕食を済ませた後、エルザから話を聞き始めた。
~紅葉亭~
「ふむ………要するに、共和国に新たな情報機関が出来る訳ですか。」
「ええ、大統領の主導でまもなく設立される予定よ。通称『ロックスミス機関』――その名の通り、ロックスミス大統領の直属に置かれることとなるわ。」
「ほう………大統領の。」
「………なるほど。つまり、組織運用が議会に左右されないわけですね。」
エルザの話を聞いたジンは驚いた表情で、キリカは冷静な表情で頷いて言った。
「その通り………話が早くて助かるわ。決定を先送りにし、組織をフルに活用できない悪癖ともいえる体質………一部の特権者たちによる悪質かつ不透明な組織運用………そんな問題を抱える機会から権限を切り離したことが本組織の一番のポイントね。」
「ふむ………それは興味深い話ですな。確かにエレボニアの軍情報局やリベールの旧情報部、そしてメンフィルの諜報部隊に比べても従来の組織は見劣りしますからな。」
「ええ……本当に。共和国は何につけても統制のなさがネックだから。………ゼムリア大陸を超える国力を持ちながら、統制を果たしているメンフィルがうらやましいわ。」
「ま、そこは移民を受け入れてきた国の性とも言うべきかもしれませんな。しかし、何より驚いたのはあの大統領が積極的に働きかけているって事ですか。これまでの政策を見る限りてっきり保守派とばかり思っていたんですが………」
「ま、それは現在置かれている共和国の情勢を考えるとうなずけるかもしれないわね。拡大を続けるエレボニア帝国、それをも超える国力を持つメンフィル帝国、それに国内に潜伏する過激派絡みのテロリスト集団………挙句の果てには”結社”
などという得体の知れない勢力まで現れた………もはやこうした情勢にただ指をくわえて見てるだけにはいかないでしょうから。」
「ええ、そうね。なんにせよ、これからの時代はより柔軟な対応が常に求められることは疑いないわ。……と、ここまで話が長くなっちゃったけど。そろそろ話を本題に進めさせてもらうわよ。」
ジンとキリカの言葉に頷いたエルザは2人を見て言った。
「ああ、キリカに話があるって事ですが………」
「―――それで、用意したポストは?」
「へ!?」
「ふふ………さすがと言うべきかしら。大統領の直属にして国内外の情報収集と分析を一手に引き受ける情報機関――……貴女には是非ともその一因となって共和国のために働いて欲しいの。それにあたって、貴女には室長クラスのポストが用意されることになっている。……これは大統領自らのご意向よ。」
「…………………」
「そ、そういう話か………しかし、どうしてまた大使さんがそんな話を?」
エルザの説明を聞いたキリカは考え込み、ジンは真剣な表情で尋ねた。
「ふふ、本来こういうのは各地に出向いているスカウトの仕事なんだけど…………ロックスミス氏とはずいぶん昔からの馴染みでね。キリカさんのことは個人的に頼まれちゃったのよ。」
「なるほど………」
「………私をスカウトする理由は?」
「あら、そんなことをわざわざ私に言わせるつもり?もちろん『泰斗流』の奥義皆伝としての腕前のも理由の一つではあるけど………それ以上に欲しいのは貴女がギルドの受付として示した卓越すべき情報処理と分析能力よ。それは新たな
機関において何よりも必要とされる才能だわ。」
「……………………」
「じ、事情はわかったが……現役の遊撃を目の前にしてギルドの人員を引き抜きとはね。なかなか堂に入ったことをしれくれるじゃないですか。」
エルザの話を聞いたキリカは黙って考え込み、ジンは呆れた表情で話した後、口元に笑みを浮かべてエルザを見た。
「ふふ、貴方ほどの人なら立場に囚われることなく仲立ちをしてくれると思ってね。で、どうかしら………キリカさん。貴女の率直な感想が聞きたいのだけど?」
「そうですね………興味深い話だとは思います。ですが………やはり受ける理由はないかと。」
「でも―――受けない理由もない。そうじゃなくて?」
「そ、それは………」
「……………………」
エルザに尋ねられたキリカは戸惑い、ジンは静かな表情で黙り込んだ。
「ふふ、さすがの貴女も少し戸惑ってるみたいね。ま、じっくり一晩考えてもらえるかしら。そのためにこの旅館を取ったんだから。返事は明日聞かせてもらうわ。最良の決断を期待してるわよ。」
「………ええ。」
キリカの返事を聞いたエルザは席から立ち上がって退出するためにキリカ達に背を向けて歩き出したが、数歩歩くと立ち止まって考え込み、キリカ達に振り返って言った。
「そうそう、最後にこれだけは言っておくわね。………あなたのその才能はとてもギルドの受付に収まるものじゃないわよ。」
「………………………」
「それじゃ、また明日ね。」
そしてエルザは退出した。
エルザが退出した後、キリカは一人旅館と温泉を繋ぐ通路で中庭を見つめて複雑そうな表情で考え込んでいた………
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