英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~旅立ちの朝~
エクリア達が旅立ったその頃、リベール王国のロレント市外にある小さな家、ブライト家にて”英雄”の血をひきし新たな命が誕生しようとしていた。
~同時刻・ブライト家~
「「………………」」
リビングでカシウスとヨシュアは何も語らず、カシウスとレナの自室にて時折聞こえてくるレナの苦悶の声やエステルとミントの応援する声を聞きながら静かに椅子に座っていた。
「……ヨシュア。レナが産気づいてから何分経った?」
「ハア……その質問、何度目だと思っているの?」
カシウスに尋ねられたヨシュアは溜息を吐いた後、呆れた表情でカシウスを見つめた。
「……まだお前には俺の今の気持ちがわからんだろうが……いつか、必ず俺の気持ちがわかる時が来るぞ。」
「そうだね。………そういえば新しい家族の件で思い出したけど……エステル、いつか自分が子供を産んだ時、その子が女の子だったらもう決めてる名前があるんだって。」
「いくらなんでも、早すぎだろうが………それで?どんな名前にすると言い張っているんだ?」
ヨシュアの話を聞いたカシウスは呆れた後、興味深そうな表情で尋ねた。
「うん。……”サティア”って言う名前にするらしいよ。」
「”サティア”………珍しい名前だな。………一体、何でそんな名前を思いついたんだ?」
「……何でもパズモの一番最初の主の人の名前だそうだよ。」
「ほう………自分が結んだ”絆”から子供の名前を思いつくとはエステルらしいな。」
「ハハ、そうだね。」
若干驚いた様子のカシウスの言葉を聞いたヨシュアは苦笑した。そしてまた、リビングは静かになった。
「……ヨシュア。」
「何?父さん。」
静寂の中、ふいに呼ばれたヨシュアはカシウスを見た。
「権力者達の動きが思ったより早い。旅先では十分気をつけておけよ。」
「……その様子だと、もう2人に接触しようとする人達が現れたの?」
真剣な表情のカシウスの言葉を聞いたヨシュアは気を引き締めた様子で尋ねた。
「接触どころか、俺の所に既に縁談の話がいくつも来ている状態だ。今の所はカルバードの議員やエレボニアの貴族達ぐらいだが……時間が経てば2国以外からも来ると思うぞ?」
「そっか。………やっぱり、2人がメンフィルの貴族というのが一番の原因かな?」
「それもあるが、やはり身分だろう。2人の今の身分は大陸中の王族達と並んでもおかしくない身分だからな。」
「2人は”大陸最強”の上級貴族だからね。そう見られても仕方ないよ。……一応確認しておくけど、2人の縁談の話は……」
「勿論、断っているぞ。中には脅しをかけて来る使者等もいたが……そういう時は俺やリウイ殿が相手になってやると言えば、すごすごと引き下がっているぞ。」
ヨシュアに尋ねられたカシウスは答えた後、笑いながら言った。
「ハハ、確かに父さん達が相手だと誰も敵わないね。……というか勝手にリウイ陛下の名前を出さない方がいいと思うんだけど。」
「ああ、それは心配ない。祝賀会の時、リウイ殿にいざという時に力になって欲しいと頼んだら、もし相手が脅しをかけて来たら自分の名前を出しても構わないと仰っていたからな。遠慮なく出させてもらっている。」
「ならいいんだけど。………ちなみに2人の内、どっちが多いの?」
「ん?縁談の話か?それならミントの方が多いな。」
「ミントが?……意外だな……”侯爵”のエステルの方が多いと思ったけど。」
カシウスの話を聞いたヨシュアは意外そうな表情をした。
「まあ、俺の予想だとミントの場合、身分は二の次で容姿が原因だと思っているぞ。今のミントはそこらの男共がほおっておかない魅力的な女性だからな。」
「……それ、エステルの前では絶対に言わない方がいいよ。エステル、結構気にしているから。」
「ほう………あいつもようやく女らしくなって来たか………」
ヨシュアの話を聞いたカシウスは驚いた後、口元に笑みを浮かべたその時、レナ達がいる部屋から新たな命の泣き声が聞こえてきた!
「父さん……!」
「ああ……!」
ヨシュアに見られたカシウスはすぐに立ち上がり、レナ達がいる部屋に入った。そこには幸せそうな表情で産まれたばかりの赤ん坊を抱いているレナと、嬉しそうな表情で赤ん坊を見つめているエステルとミントがいた。
「……無事で何よりだ、レナ。」
「フフ、ありがとう、あなた。」
安堵の表情をしているカシウスにレナは優しい微笑みを浮かべた後、カシウスに続くように入って来たヨシュアを見て言った。
「ヨシュア、この子が今日から貴方の弟になる子よ。この子にとって見本になるいいお兄さんになってあげてね。」
「……うん。頑張るよ。」
レナの言葉を聞いたヨシュアは微笑んで頷いた。
「弟………男の子か……!」
一方カシウスは嬉しそうな表情をした。
「そうよ。ヨシュアが長男だから……この子は次男ね!」
「ねえねえ、お祖父ちゃん。この子の名前はどうするの?」
エステルは胸を張って言い、ミントは期待するような表情でカシウスを見て尋ねた。
「そうだな………それならエステル、お前に任せた。」
「あ、あたし!?何で??」
カシウスに話をふられたエステルは驚いた後、尋ねた。
「お前がブライト家の兄妹の中で一番上だからな。お前が決めてもおかしくあるまい。」
「ふふ~ん、父さんもわかっているじゃない!じゃ、あたしが決めるね!…………」
カシウスの説明を聞いたエステルは胸を張って頷き、そして考え込んだ後、ある名前を思いついて言った。
「……”アドル”っていうのはどうかしら?」
「”アドル”……さてはお前が幼い頃から読み続けた小説―――”赤髪の冒険家の冒険日誌”の主人公……”アドル・クリスティン”だな?なぜ、その名前にしようと思った?」
「えへへ……そうよ。この子はなんたって”剣聖”って言われている父さんの息子で、あたし達の弟なんだから!これから大陸中を廻るあたし達みたいになってほしいっていう意味と、父さんみたいに凄い剣士になって欲しいていう意味、そして………絶対に諦めない心を持ってほしいっていう意味を込めてその名前にしたのよ。小説の主人公――”アドル”も凄い剣士で、何があっても絶対に諦めない人だし。」
カシウスの言葉を聞いたエステルは恥ずかしそうに笑いながら答えた。
「わあ……!すっごく素敵な名前だね!」
「ハハ、エステルらしいね。……それで2人ともどうする?」
エステルの説明を聞いたミントは表情を輝かせ、ヨシュアは苦笑した後、カシウスとレナを見て尋ねた。
「私は賛成よ。何てったってこの子のお姉さんが考えた名前なんだから。」
「……そこまで考えてその名にするのなら、俺も賛成だ。今日からこの子は”アドル・ブライト”だな。」
ヨシュアに尋ねられたレナは微笑みながら頷き、カシウスは口元に笑みを浮かべた後、赤ん坊――アドル・ブライトを優しい表情で見つめた。そして数日後、ついにエステル達が旅立つ時が来て、エステル達は空港でロレント市の知人達に見送られようとしていた。
~ロレント発着所~
「……皆さん、えっと………お見送り、ありがとう。こんなに大勢で来てくれてちょっとビックリしちゃった。それで、突然の話なんだけど……あたしとヨシュア、ミントは外国に行くことになりました。」
「3人で旅をしながら、各地の遊撃士の仕事をこなそうと思っています。………多分、とても長い旅になります。大陸のほとんどの地方を回ることになると思うので。」
「でも、いつか絶対に戻って来るつもりです!」
自分達を見送ろうとするカシウスやレナ、シェラザード、そして大勢のロレント市民達にエステル達はそれぞれ言った。
「うん……成長した姿を見せられるように向こうで精一杯やってくるわ。」
ミントの言葉に頷いたエステルの言葉を聞いた市民達は大きな拍手を送った。
「はあ、しかしお前らときたら、俺達に相談も無しに決めるとは………」
「フフ、いいじゃない、あなた。3人とも、成長した証拠ですよ。」
一方カシウスは呆れた表情で溜息を吐き、アドルを抱いているレナは微笑んだ。
「あら、そうだったんですか?」
一方2人の会話を聞いていたシェラザードは意外そうな表情をしていた。
「まあな。レナの出産で予め休暇をとっていなかったら、苦労する所だったぞ。」
「ゴメン、父さん、母さん。急な話になっちゃって………」
「でも、3人で話し合って決めたことだから………だから……信じてくれると嬉しいな。」
「まあ、それなら何も言うまい。この広い大陸で、お前達の好きなようにやって来い。」
「いつでも家に帰ってらっしゃい。私とアドルがいつでも家であなた達が帰って来るのを待っているから。」
「………うん!」
「………はい!」
「はーい!」
カシウスとレナに見つめられたエステル達はそれぞれ力強く頷いた。
「3人とも、もうベテランだし細かい注意とかはいいわよね。……これからは学ぶべきもの、知るべき事柄を自分達で判断していくのよ。目を養うようにしなさい。」
「はい。肝に銘じておきます。」
シェラザードの言葉を聞いたヨシュアは頷いた。
「遊撃士を取り巻く環境はリベールの内と外ではかなり違うでしょうけれど………でも基本は同じよ。あなたたちに教えた通りだから。」
「うん、困ったときは教わったことを思い出してみる。」
アイナの言葉を聞いたエステルは頷いた。
「ふふ、あんたたちなら大丈夫。あたしたちが仕込んだんだから。ミントはあたしやアガット、ジンさんを含めたさまざまな遊撃士達に仕込まれているんだから、2人に負けないほど力をつけているわ。自信を持って暴れてらっしゃい。」
そしてシェラザードは微笑ましい様子でエステル達を見つめて言った。
「シェラさん、アイナさん………今まで本当にありがとうございました。」
「えへへ、言葉じゃ言えない位お世話になっちゃった。」
「ミントも短い間だったけど、シェラお姉さんには凄くお世話になりました!」
「ふふ、気にしない気にしない。かわいい妹分のためだもの。」
ヨシュア達にお礼を言われたシェラザードは微笑んだ。そしてエステルはカシウス達のように自分達を見送ろうとしているペテレーネを見つめてお礼を言った。
「聖女様……今まで本当にありがとうございました!」
「……お礼を言いたいのは私の方ですよ、エステルさん。貴女のお蔭でリウイ様はようやく真の幸せを掴めたのですから………それに私達メンフィルの理想を――人間と闇夜の眷属の共存の理解者になってくれてありがとう。」
「えへへ………次に会う時はリウイ達の結婚式ですね。」
ペテレーネにお礼を言われたエステルは恥ずかしそうに笑った後、ペテレーネを見つめて言った。
「ええ。結婚式にはエステルさんの仲間の方達も招待しています。それに………」
エステルの言葉に頷いたペテレーネはエステルに耳打ちをした。
(もしかすれば……エクリア様も式に出席するかもしれません。)
(え!?本当なんですか!?)
(ええ。リフィア様がセリカ様の使徒の一人――マリーニャ様へ今回の結婚式の招待状を送ったんですが……その時、イリーナ様がエクリア様に手紙と招待状を同封されたんです。)
(……そうだったんですか……教えてくれてありがとうございます。エクリアさんとはいつか会ってリウイの事とかを含めて、話してみたいと思っていましたし。)
(………そうですか………)
エステルの話を聞いたペテレーネは静かな表情でエステルを見つめた。
(……驚いたわね……まさかセリカの使徒達と会えるかもしれないなんて。………本当にセリカを引き寄せそうね、エステル。)
(はい。えへへ……エクリアさん達は私の事を覚えているので久しぶりに会いたいです。)
(セリカの使徒………か………)
一方エステルの身体の中で話を聞いていたニルは驚き、テトリは期待するような表情をし、パズモは静かな表情で呟いた。そしてロレント市民や知人達にエステル達がそれぞれ別れの言葉をかけられた時、出発のアナウンスが入った。
――ボース方面行き定期飛行船、『セシリア号』まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください。―――
「あらら………もう時間になっちゃったわね。」
アナウンスを聞いたシェラザードは名残惜しそうな表情で3人を見つめた。
「ではのう、3人とも。」
「………うん。」
「市長さんもお元気で。」
「行ってきま~す!」
ロレント市長、クラウスの別れの言葉にエステル達は頷き、定期船に乗り込もうとしたその時
「………ヨシュア。」
カシウスは静かな瞳で声をかけた。
「「??」」
カシウスの声を聞いたエステルとミントは首を傾げてカシウスを見た。
「心は決まったのか?」
自分に背を向けて立ち止まっているヨシュアにカシウスは言った。
「……うん。父さん、僕は………ヨシュア・ブライトでいたい。そのために、大陸を回ろうと思う。」
カシウスの問いかけにヨシュアは頷いた後、振り返ってカシウスを見つめて言った。
「僕が僕であるということは、自分で掴み取らなくちゃいけない。そう、望まなくちゃいけないんだ。僕はヨシュア・ブライトとしてここにいたいから。エステルや父さんたちの側に。この町の人達の中に。
暖かい、この世界で暮らしたいから。だから………もう一度、自分自身の道をきちんと見極めて来ようと思う。」
「……そうか。フフッ、少しはいい顔になったじゃないか。」
迷いのないヨシュアの言葉を聞いたカシウスは笑顔になった。
「はは………ありがとう。何よりの誉め言葉だよ。」
「まったくもう………ホント、ウチの男どもときたら。相変わらず自分達にしかわからない会話をしちゃって………」
「ずるいよね~。」
「フフ………」
ヨシュアとカシウスの会話を聞いていたエステルは呆れ、ミントは同意し、レナは微笑んでいた。
「……ほらほらヨシュア。早くしないと置いて行くわよ?」
「早く乗ろうよ~、パパ!」
「はいはい。」
エステルとミントに急かされたヨシュアは苦笑しながら定期船に乗った。
「じゃあ、みんなまたね!」
定期船の甲板まで乗ったエステルはヨシュアとミントと並んで笑顔で別れの挨拶をした。
「……エ、エステル!こ、今度会う時は俺も遊撃士になってるからな!」
その時、かつてエステル達が準遊撃士に成り立ての頃に助けた事のあり、エステル達もよく知る男の子――ルックが声を上げた。
「あはは、それは楽しみね。」
「あっ、ホンキにしてねーな!?オッ、オレは本当に遊撃士になるんだから!」
苦笑しているエステルを見たルックはむきになって言った。
「あ、あの僕も……遊撃士目指そうと思うんだ!だから……」
そこにルックの友達の男の子、パットもおずおずと言った。
「うん、必ず帰ってくる。」
「ルック、パット。次会う時は同僚ってわけね。あたしも楽しみにしてるから。」
「お、おう!」
ヨシュアとエステルの言葉を聞いたルックは力強く頷いた。
「エステル、ヨシュア、ミント……ここがお前達の帰る場所だ。……忘れるなよ!」
「私やアドルもずっと待っているわ。」
「うん、父さん、母さん……」
「忘れないよ。」
「だってここがミント達の故郷なんだから!」
カシウスとレナの言葉にヨシュア達はそれぞれ頷き
「「「行ってきます!」」」
3人は同時に笑顔で言った。
そして3人を乗せた定期船は旅立った……………
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