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艦隊これくしょん【幻の特務艦】

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第二話 私の「カテゴリー」

 
前書き
 独国は大陸続きで他国と連携できるので、あまり対深海棲艦対策をせずともいいのです。なにしろ海峡挟んだお隣には海軍の本家がいらっしゃるわけで。 

 
「Guten Tag!!」
先頭を切って進む艦が大きく手を振りながら叫んだ。
「あれ、今、なんて言ったの?」
雷が響を見た。
「わからない。」
「響、ロシアの言葉がわかるんじゃかったの?」
「あれはロシア語じゃない。」
「う~~~。じゃ、なんなのよ~~~?」
「あ、でもでも、あれは夕立ちゃんではないのです?」
電が指さしたのと同時に後方を進んでいた夕立が大きく手を振った。
「ぽ~~~い!!」
「あ、やっぱりそうなのです!」
電が手を大きく振った。
「本当だ。夕立のほかに、天津風、雪風、霧島さんもいる。でも、あの金髪の人は誰だろう。」
「先頭の人の姉妹か何かかな?」
「それにしては少し小さいような気がする。」
雷と響があれこれと話している間に、応援艦隊はざあっと波を蹴立てて第6駆逐隊と紀伊の周りに集まってきた。
「初めまして!私は独国から派遣されたビスマルク級超弩級戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。」
先頭を進んできた艦娘が自己紹介した。
「私、独国生まれの重巡、プリンツ・オイゲン。アドミラル・ヒッパー級の3番艦です。」
ビスマルクをやや小さくしたような長い金髪の艦娘もあいさつした。ほかの艦娘たちも紀伊には初対面だったからそれぞれ自己紹介をした。
「私が来たからにはもう大丈夫!一隻も轟沈させはしないわ。」
ビスマルクが胸を叩いた後で、ふと紀伊を見た。
「先ほどの敵艦隊、あなたが撃破したのね。」
「えっ!?いえ、違います。それは暁さんたちが――。」
「私の眼はごまかせないわよ。」
ビスマルクが指を二本立てた。
「あなたが噂の新型艦なのね。ふうん・・・・・。」
「あ、すみません。自己紹介遅れて・・・。あ、あの、皆様初めまして。紀伊です!よろしくお願いします!」
紀伊は頭を下げた。だがみんなは少し戸惑ったように顔を見合わせただけだった。ビスマルクだけが快活にうなずいて言った。
「よろしくね。ところで、あなたは戦艦?巡洋戦艦?それとも正規空母?なんて呼べばいいのかしら。」
「え、あ、その・・・・。」
紀伊は言葉を失った。そういえば自分は何なのだろう。先ほどは無我夢中だったが、考えてみると超弩級戦艦クラスの主砲を備え、かつ正規空母並の艦載機が発着できる装甲飛行甲板を備えている艦娘など紀伊自身も聞いたことがない。それはみんなも同じらしく、物珍しそうに紀伊を見つめている。
「話は呉に向かいながらしませんか?先ほどの敵艦隊の轟沈は敵にも察知されているかもしれませんし。負傷者もいますから。」
霧島が提案した。
「そうね、まだ敵がどこかに潜んでいるかもしれないわ。」
と、天津風。
「二人の言う通りだわ。その子、大丈夫なの?」
ビスマルクが雷の肩にすがっている暁を見た。顔色は悪かったが、それでも気丈にうなずいて見せた。
「なんとか走れると思います。私たちがフォローします。」
雷が言った。
「その子が一番危なそうだから、輪形陣形の中心にすえて。速度は合わせましょう。私とプリンツ・オイゲンが先行するわ。霧島と夕立は後方を守備。天津風は右舷を、そして雪風は左舷をお願いね。」
「大丈夫、雪風が絶対お守りします!」
雪風が片手を上げた。

 一行は白波を蹴立てて走り始めた。その途上、雪風や天津風から例の独国艦娘たちが先週着任したばかりだということを知った。その頃には暁たちは特命を受けて横須賀鎮守府に紀伊回航の護衛任務に回されていたから、あっていないのも当然だった。聞けば遥か欧州からはるばる横須賀に派遣され、その後呉鎮守府に配属されたのだそうだ。その見返りにヤマト側は酸素魚雷その他の技術を独国に提供したらしい。
「そうだったのね。どおりで見ない顔だと思った。」
「でも、諸元性能はすごいっぽい!昨日も敵ル級を轟沈させたっぽい!」
「ル級をなのです!?」
「ええ。速度と火力、そして戦闘における的確な指揮ぶりは私霧島も感服するほどです。」
「私たち、ちょうど鎮守府近海で深海棲艦を撃破して戻ってくる途中だったの。響からの通報を受けて提督が至急出撃命令を下したのよ。」
天津風が経緯を説明してくれた。
「よかった・・・・。」
紀伊が胸をなでおろした。たまたまこの艦隊が帰還途上にあったからいいものの、そうでなければ、どうなっていたかわからない。第6駆逐隊の面々は久しぶりに再会したのがうれしかったのか、夕立や天津風、雪風とにぎやかにしゃべり始めた。先頭を行くビスマルクはちらっとこちらを振り返り、周りを見まわしたが、何も言わず再び前を見た。もう呉に近いので、敵もやってこないと判断したのだろう。紀伊は仲のいい駆逐艦娘たちを見てとてもうらやましく思ったし、何やら寂しくも思っていた。
「あの~。」
不意に横合いから声がしたので、紀伊はびっくりした。
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまって。」
「いいえ。私こそごめんなさい。霧島さん・・・でよろしかったですか?」
「はい。さっそく覚えていてくださってありがとうございます。」
霧島はにっこりした。
「いいえ、そんな・・・・。」
「ところで、ビスマルクさんも言っていましたが、紀伊さんは艦種は何に属するのですか?」
「それは・・・・。」
紀伊は視線を落とした。
「わかりません。よく、わからないんです。横須賀鎮守府でもみんな私を紀伊としか呼ばなかったですし・・・・。」
その他にも言いたいことがあったのだが、今はそれを言うべき時ではないと紀伊は話すのをやめた。
「すみません。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったようですね。」
「いえ、ちゃんと自分自身を紹介できないわたし自身が悪いんです。私は自分が誰なのか、前世がいったいどうだったのか、それもわからないんです。だめですよね・・・・。」
「そんなことはないと思いますよ。」
霧島がふっと表情を緩めた。ややしばらく黙っていたが、再び紀伊の顔を見た。
「私、いえ、私だけではなくて金剛お姉様や比叡お姉様、そして榛名と私はもともと戦艦ではなかったのです。正確に言えば巡洋戦艦というカテゴリーに属します。今でこそ戦艦寮に住んでいますけれど、最初はやっぱりほかの戦艦の方々からは異色の眼で見られました。」
「そうだったんですか・・・・。」
紀伊は最初霧島を見た時、何の疑いもなく戦艦だと思っていたが、実はそうではなかったのだ。
「でも、今はみんなわかってくれています。純然たる戦艦ではないので、火力や装甲においてはやや劣勢の部分は否定できませんが、長所もあります。私たちの最大の特徴は高速です。それは他の戦艦の皆様方には真似は出来ない事です。だから空母の皆様の護衛にもつけますし、高速を生かした一撃離脱戦法も可能なのです。」
少し誇らしげに言う霧島を見て紀伊はとてもうらやましいと思った。
「長所短所は誰でもあります。短所から目をそらせというわけではありませんが、あまり考えすぎると、自分の長所も見失ってしまいますよ。自分の長所・短所が何かを理解して、それを最大限に生かすことが大事だと思います。」
思いもかけなかった霧島の言葉に紀伊は目を見張った。今まで自分というものをどうとらえたらいいかわからず、闇雲にさまよっていたが、今何か一条の光がすっと差し込んできたような、そんな気持ちだった。
「あ、ありがとうございます。」
「いえ、私こそ少ししゃべりすぎました。色々と申し上げてお気に障ったら許して下さい。」
「いいえ、そんな!!」
「何かあればいつでも私のところに、いいえ、私たちのところに来てくださいね。」
「はい!」
紀伊はようやく笑顔になってうなずいた。

 同時刻――。鎮守府会議室――。
「それでは、新型艦の到着と同時に各寮の部屋割りを再編したいと思います。」
秘書官の鳳翔が各艦娘たちを見まわしながら言った。
「お手元に配布した資料が私と提督とで話し合って作成した案です。しばらく時間を置きますから、よく読んでください。」
しばらくは開いた窓から静かに流れ込んでくる心地よい微風のほかは静かに紙をめくる音だけが部屋に響くだけだった。
「どうでしょうか?」
「一つ質問がある。」
真っ先に手を上げたのは航空戦艦日向だった。
「なんでしょうか?」
「この編成表だと、私と伊勢、榛名、霧島のほかに例の新型艦が入るとのことだが・・・・。」
日向は鳳翔をじっと見た。
「彼女は航空戦艦なのか?事前に見せてもらった履歴書では、確か正規空母並の飛行甲板を備えているとあったはずだが・・・・。」
「ええ。」
鳳翔の「ええ。」は複雑だった。日向の質問の前半を肯定したものではない。後半部分を肯定したものだった。
「では、空母寮に配属されるべきではないか?」
「ちょっと!いきなり何を言うわけ!?」
すかさず声を上げたのが第五航空戦隊に所属する瑞鶴だった。
「41センチ砲をもった正規空母なんて聞いたことがないわよ。ねぇ、翔鶴姉。」
「え、ええ・・・確かに私も初めて聞きますけれど・・・・。」
翔鶴が当惑した表情で口ごもった。
「そうでしょう?そんな巨砲を持った人なら、当然戦艦寮じゃないの?」
「烈風や流星、さらに新型機までも飛ばせるほどの長大な飛行甲板をもった航空戦艦は実在しない。」
日向が冷ややかに言った。
「そうよね~。前世の私たちだってせいぜい後部砲塔を取り払ってそこに飛行甲板とカタパルトをのっけた程度だもの。頑張って飛ばせるのは瑞雲や彗星くらいだものね。」
と、伊勢が言った。
「しかし、戦艦は戦艦です。」
冷ややかな声で言ったのは加賀だった。
「私たちは戦艦とまで同室をするほど余裕はありませんので。」
戦時はともかく、この呉鎮守府における平素の消費資材は各寮ごとに定められており、できれば各艦娘とも自寮の資材の消耗を極力抑えたいというところがあった。加賀の言うことはその各艦娘の思いを代弁したことになる。
「何を言う。こちらも空母と同室ができるほど余裕があるわけではない。」
「燃費が悪い戦艦だからでしょう。自業自得です。」
「それはこちらの台詞だ。我々は燃料弾薬程度で済むが、そちらはそれに加えて貴重なボーキサイトを貪り食っているのだからな。」
ガタッと椅子が鳴った。一同が見ると赤城が顔を赤くして俯いている。
「みんなやめなさい。新型艦が来るというのに、こんな言い争いをしているところを見られたら、呉鎮守府はそんなものなのかとがっかりされます。それに、そもそも戦艦も空母も燃費についてはこれまで何度も話し合ってきたこと。お互いそれぞれの立場はよくわかっているでしょう。」
両者を交互に見ながら、鳳翔がたしなめた。さすがに秘書艦を務めるだけあって、威厳があふれている。
「すまない・・・・少し言い過ぎたようだ。」
日向が詫びた。
「いえ、私の方こそ。」
加賀も頭を軽く下げた。
「わかりました。それほど皆さんが受け入れを拒否するのなら、私が提督に具申申し上げて新しく特務艦専用寮を設けます。その費用は当然皆さんの各寮から割いて捻出しますから、そのつもりで。」
これには全部の艦娘が驚いた顔を隠さなかった。
「どうじゃろう、こうしてはどうかの?」
ぱっと手が挙がったのは航空巡洋艦に改装されたばかりの利根だった。
「吾輩と筑摩、それに熊野、鈴谷は航空巡洋艦じゃ。比較的燃費も資材も食わん。もしよければ航空つながりでこちらにきてもらっても吾輩は構わんぞ。」
「ええ、利根姉さん、さすがです。」
筑摩もにっこりした。
「戦艦若しくは空母に該当する艦娘を航空巡洋艦寮に配属、ですか・・・・。」
鳳翔がちょっと顔を曇らせた。前例が全くないことだった。基本的に特務艦を除いては、戦艦は戦艦寮に、航空戦艦は航空戦艦寮に、空母は空母寮に、巡洋艦は巡洋艦寮に、駆逐艦は駆逐艦寮にと、艦種によって厳しく配属先が決まっている。それは同型艦のみならず異種各艦同士の秩序を維持することと、仲間意識を高めることなどを目的としていた。今回の新型艦の配属については、その秩序体制に風穴を開けかねない事態となっていた。普通であればこのような会議自体が開催されない。今までとは違う異例中の異例だということだ。

鳳翔自身も悩んでいた。一体彼女をどこに配属すればいいのだろう。

「わかりました。それについてはもう一度提督と話し合ってみます。とにかくもう間もなく新型艦娘は到着します。各員は指定された地点に出て、彼女を気持ちよく迎えてあげてください。いいですね?」
鳳翔の言葉に、皆は一斉にうなずいた。もっとも内心抱いている思いは皆バラバラだったが。

このような議論の対象である紀伊は霧島としきりに語り合いながら、一路呉鎮守府を目指して内海を走り続けていた。
 
 

 
後書き
 つまはじきをされるのはいつどこの時代でもよろしくはないのです。 
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