悪意の風
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2部分:第二章
第二章
その中でだ。彼は言うのだった。
「それを撒いて弱った時にだ」
「あの国を攻め取る」
そうしようかというのだ。
「どうだ、これで」
「しかしそれではです」
「細菌ではあちらの人口に影響が出ますが」
「それも下手をすればかなり」
部下達は天然痘やペストを考えていた。ペストでは欧州の人口の三分の一が死んだと言われている。疫病の恐ろしさはあまりにもよく知られている。
だからこそ独裁者にこう言ってそれはどうかというのだ。しかしだった。
独裁者はその彼らにだ。こう言ったのである。
「細菌といっても色々だ」
「では人を殺さない細菌ですか」
「それを使うというのですか」
「そうだな。インフルエンザの様であって殺傷能力のないものだ」
そうした細菌を使おうかというのだ。
「それを撒いてだ」
「彼等を動けなくしてですか」
「そのうえで」
「そうだ。攻め取る」
相手を疫病で弱らせてだ。そのうえでだというのだ。
「丁度イナゴにやられた国を攻め取る様にな」
「それを人為的に起こしてですか」
「そうしますか」
「そうした細菌を開発させるのだ」
細菌学者達にだ。秘密裏にだというのだ。
「わかったな」
「はい、そしてですね」
「あの国を手に入れる」
「そうしますか」
「全ては我が国の為だ」
そして自分の野心の為でもあった。
「そうするぞ。いいな」
「畏まりました。それではです」
「すぐに化学者達に命じます」
部下達も応える。こうしてだった。
科学者達は命は失わないがそのかわりに長時間に渡って高熱や疲労によって動けなくなる病原菌のウィルスを開発したのだった。そのことを聞いてだ。
独裁者は己の席でだ。満足した顔で述べた。
「いいことだ。しかしだ」
「よく開発できたと」
「そう仰いますか」
「そうだ。私はあの国の人口にも魅力を感じている」
人口も即ち国力という観点からだ。そう感じているのだ。
「だからだ。何としてもだ」
「あの国の人口も損なわずにですね」
「あの国を手に入れたい」
「一旦手に入れれば治める自信がある」
だからこそクーデターも成功させられたし今もこの国を治めているというのだ。少なくとも彼は彼の国の国民を餓えさせてもいないし仕事も与えている。
だがその隣国に比べれば貧しいのだ。だからこそ隣国を手に入れて豊かになりたいのだ。
それ故にだ。彼はそうしたウィルスを開発させたのである。
そしてそのことについてだ。彼はまた言った。
「本当によく開発してくれた」
「それならばですね」
「今から」
「撒く」
すぐにだ。そうするというのだ。
「そしてあの国を一時的に機能不全に陥れるぞ」
「そしてその隙に我が国が侵攻し」
「あの国の全てを無傷で手に入れるのですね」
「その侵攻の際略奪や暴行は禁止する」
政治家らしくだ。それによる自分や彼の国への反感が生じることも防ぐというのだ。
「これを破るものは軍律に基き処刑する」
「我が国の軍規軍律に従いですね」
「そのうえで」
「そうだ」
まさにそうするというのだ。尚この国の軍の軍規軍律はかなり厳しい。彼は軍の規律には厳しい、そうした意味ではヒトラーに似た独裁者なのだ。
「むしろ侵攻の際は普段より厳しくする」
「そして略奪や暴行を禁じる」
「そうされますか」
「その通りだ。では軍にも伝える」
何を伝えるかは最早言うまでもなかった。
「何時でも動ける様にとな」
「ではその時こそ」
「我が国があの国を併合しましょう」
部下達は敬礼と共に応えた。しかしだ。
ここで一つ問題があった。その問題について部下の一人が彼に言ってきた。
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