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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第十二話 お食事会なのです。

 
前書き
 アンネローゼ様が弟とその友達その他『チート』二名と久しぶりに会うことになりました。 

 
帝国暦479年9月17日――。
ノイエ・サンスーシ 居室
■ アンネローゼ・フォン・グリューネワルト
 今日は皇帝陛下からラインハルトとジークを呼んで良いというお許しをいただきました。でも、実際にはマグダレーナかドロデーアの家で会う形になってしまう。本当はあの家に帰って二人にお菓子を作ってあげたいのだけれど・・・・。いえ、駄目ね。過ぎた望みを持つのは諦めたのだから。
幼年学校にラインハルトとジークが入校してから三度目の再会になるわ。二人ともどんな風に成長しているのかしら。イルーナとアレーナがそれとなく二人を気遣っていてくれることが心強いわ。あの二人からはしょっちゅう手紙が来ます。それを読んでいると束の間今の身分を忘れ、あの頃に戻ることができるわ。あの二人、そしてジークがいなければラインハルトはどうなっていたかと思うと、今でも心穏やかではいられなくなります。
 マグダレーナ、ドロテーアを呼ばなくては。それと、イルーナ、アレーナも呼ぶことにしましょう。

ノイエ・サンスーシ 皇女居室
■ カロリーネ・フォン・ゴールデンバウム
 うん、よし、よ~し!!いい感じね!!おじいさまとバウムガルデン公爵にアタックした結果、例のアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンとシュタインメッツを取り込むことに成功したわ。例の何とかっていう司令官はおまけね。もっともアルフレートと会うのはこれから。アイツも転生者だとしたら、今後の展開次第で私の味方になるはず。もっとも敵になる可能性もあるけれどね。
 でも、対ラインハルトで協力できる気がしてます。

 いい感じになってきたんで、そろそろ本格的に改革に動こうかなぁと思ってるわ。グリンメルスハウゼンの取り込みには失敗したけれど、バウムガルデン公爵はブラウンシュヴァイクやリッテンハイム侯爵と並んでの権勢家だし、最近リヒテンラーデ侯爵もバウムガルデン家に接近していて、その関係で私とも口を利くようになったの。ま、リヒテンラーデ侯爵にしちゃぁ、皇帝陛下をないがしろにするブラウンシュヴァイクとリッテンハイムは目障りなんでしょ。後、宇宙艦隊司令長官と統帥本部総長もこっちに引きこんじゃえるから大丈夫よね。頑固爺の軍務尚書のマインホフじいさまには引退願って、エーレンベルクさんを持ってこようかな。

 バウムガルデン・リヒテンラーデ枢軸体制の裏で、私が操る、なんていうのがどうやら理想かも知れないわね。表に出てくるとたちまち暗殺されちゃうから注意しないとね。
 今日はアレーナがアンネローゼさんのお茶会に呼ばれたので、私の下にはいません。私の侍女なのだからアンネローゼさんにあまりべったりしないでほしいけれど、まぁ、スパイと思えばいいか。聞けばアレーナはアンネローゼさんとラインハルトと幼馴染だったんだそうなの。でも、アンネローゼさんがこっちにきてから付き合いはぷっつりとたたれたみたい。今回がしばらくぶりの再会ってわけ。ま、その方がこっちにはいいよね。
 色々向こうから無邪気に話してくれるので、こっちが聞く手間が省けて助かるわ。しばらくそのままで放っておこうっと。


バウムガルデン邸
■アルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデン
 あのエル・ファシル星域の戦い、そして軍法会議と続き、終わった途端俺は力尽きて寝込んでしまった。相当応えたんだと思う。だが、俺は助かったが、多くの将兵を死なせてしまったことには変わりはない。俺は・・・人殺しだ。
 そんな状態だったから、当分幼年学校には戻れそうになかった。それがもどかしい。父上はあんなところにはいかなくていいなんておっしゃるが、俺としては一日も早く鍛錬を積んで軍人になりたいと思っている。

 というのは、ラインハルトのことがあるからだ。俺は幼年学校でラインハルトに会った。向こうは俺に対して可もなく不可もなしという態度をとっていた。俺が貴族ぶらなかったからだと思う。だが、向こうは俺がバウムガルデン家のコネを利用してエル・ファシル星域の戦いに従卒として参加したことをいずれ知り、俺を卑しむだろう。確かに俺は貴族の立場を利用した。そのことでラインハルトに卑しまれたとしたら、もう取り返しがつかないんじゃないか?いや、まだわからないが。

 向こうはいずれ、俺たち貴族を滅ぼす気でいる。それは原作から明らかだ。だとすれば俺の取るべき道は、貴族を捨ててラインハルトにすり寄るか、奴を事前につぶしておくかどちらかだ。
 だが、それは父上、母上を捨てるということになる。貴族らしく権益に凝り固まっている二人だったが、俺に対する愛情は本物だった。子供の時、俺が高い熱を出したときには母上はつきっきりで看病してくれた。俺がクリケットや乗馬を習い始めると、父上は自ら俺に手本を示して、時には二人で遠乗りをしたものだ。あの時間は本当に楽しいものだった。二人とも俺を本当の子供のように接してくれた。俺は本来この世界にいてはならない転生者だというのに。

 どうする?俺はどうすればいいのだろう???

 近いうちになんとあのカロリーネ・フォン・ゴールデンバウム皇女殿下が俺とシュタインメッツをお呼びになるという。これには驚いた。聞けば軍事法廷で俺やシュタインメッツをかばい立てしたのもこの皇女殿下なのだという。お礼言上に行かなくちゃならないな。
 カロリーネ・フォン・ゴールデンバウムなんて原作にいたか?と思った時に、ふと思いついた。今回のエル・ファシル星域への一個艦隊の派遣は軍の上層部の決定ということになっているが、もしかするとカロリーネ皇女殿下の差し金なのか?あの皇女殿下も俺と同じ転生者なのか?そうだとしたら、お互いに色々と話し合うことができるかもしれない。
 結論を出すのはまだ早い。カロリーネ皇女殿下にお会いして、話し合ったところで決めてもいい。まだ早いのだ。まだ・・・・。


ノイエ・サンスーシ 自室
■ アレーナ・フォン・ランディール
 あのカロリーネ皇女殿下とアルフレート・ミハイル・フォン・バウムガルデンがいよいよ対面ね。これであの二人はどっちもお互いが転生者だということを知るわけね。グリンメルスハウゼン子爵閣下経由で聞いた情報だと、カロリーネ皇女殿下の方は、バウムガルデン公爵とリヒテンラーデ侯爵を取り込んで、バウムガルデン・リヒテンラーデ枢軸体制を作っていよいよ改革に乗り出そうとしているわけね。
 ところがどっこい、残念ながらそうはいかないんだな。あんたたちだけが転生者ならそうできたかもしれないけれど、なにしろこっちも転生者で親ラインハルト派なんだもの。色々と邪魔立てさせてもらうわ。
 さっきお茶会に行く前に、サビーネとエリザベート経由でブラウンシュヴァイクさんとリッテンハイムさんに情報流しちゃった。

 曰く――。

 カロリーネ皇女殿下は実は稀代の切れ者ですって。エル・ファシル星域に艦隊を配置させたのも、女子士官学校の設立に意欲的だったのも実は皇女殿下なんですって。後、バウムガルデンの坊やを許したのも、バウムガルデン・リヒテンラーデ枢軸体制を築いて、ブラウンシュヴァイクさん、リッテンハイムさんを締め出そうとしているからなんですって。

 これをきいたブラウンシュヴァイクさんとリッテンハイムさんの反応は言うまでもなかったわ。もう烈火烈火烈火のごとし。今に横やりが入るわよ~。はっはっは!!どうだ、ザマぁ見ろ!!チート共!!



 ブラウンシュヴァイク邸――。

 ここにブラウンシュヴァイク家始まって以来ともいうべき珍事が起こっていた。本来であれば政敵であるブラウンシュヴァイクの家に、リッテンハイム侯爵自らがお忍びで来ていたからである。これはアレーナの流した情報がサビーネ、エリザベート経由でもたらされたからに他ならないことは言うまでもない。

 ブラウンシュヴァイクは、その豪奢をこらした居間にリッテンハイム侯爵を招き入れた。もっとも、ブラウンシュヴァイクの方ではあまり豪奢すぎてかえってリッテンハイム侯爵に恥辱を与えてしまうことを考慮して、調度品を適当に減らしておいたのである。またリッテンハイム侯爵の方でも、必要以上にしゃちほこばったり、堅苦しい態度をとれば、かえってブラウンシュヴァイクに不快感を与えるのではないかと考慮し、フランクな態度で臨んできたのである。

 原作では犬猿の仲だった二人が手を組んだ。それほどバウムガルデン・リヒテンラーデ侯爵の枢軸体制の話は、二人にとって脅威だったのである。原作と違うところは、バウムガルデン・リヒテンラーデ侯爵、主にバウムガルデン公爵というわけであるが、その二人に味方する貴族たちも大勢いるため決してブラウンシュヴァイク・リッテンハイム枢軸も強大ではないということである。

 バウムガルデン公爵は皇帝から分家した、いわば帝室の血を引く家系であり、しかもその領地はブラウンシュヴァイク、リッテンハイムを凌ぐ広大さであったということも勢力図作成に一役買っている。

「うぬう!!なんたること!!あの軍事法廷での結論はどうも怪しいと思ったわ!!おのれ、帝国三長官をたぶらかし、国政を壟断しおってからに!!」

 ブラウンシュヴァイクが顔を赤くしながら息巻く。

「いや、帝国三長官すべてというわけではないぞ。軍務尚書マインホフ元帥は最後までバウムガルデンの息子の罪を鳴らしておったからな」
「儂らがあの場にいれば、あの小僧もただでは済まさなかったのだが!」
「仕方あるまい。過ぎたことを申してもな。それよりもだ、ブラウンシュヴァイク。今後儂らはどう動くべきか、それを協議しようではないか」
「うむ」

 うなずいたブラウンシュヴァイク公爵はリッテンハイム侯爵のグラスに、そして自分のグラスにもワインを注いだ。これは410年物のワインであり、ブラウンシュヴァイク家のコレクションの一つであるが、リッテンハイムの機嫌を取るためならばと特別に封を切らせたものである。また、リッテンハイム侯爵のほうも、わざわざ領地でとれた極上の鳥をローストさせたものや年代物のチーズなどを持参してきていた。アルコール交じりでの会議や討論は昔から貴族の政治手段として知られてきている。

「まずはさしあたって、あのカロリーネ皇女殿下にはご退場願うこととしよう。カロリーネ皇女殿下がいなくなれば、フリードリヒ4世など元の傀儡皇帝に成り下がるではないか。その後ろ盾を失った宇宙艦隊司令長官、統帥本部総長、そしてリヒテンラーデ侯爵等はいつでもつぶすことができる」
「して、その方法は?」

 ブラウンシュヴァイク公爵の問いかけに、リッテンハイム侯爵は無言で自分のグラスに何かを注ぐ真似をした。その唇の端に冷笑がうかぶ。ブラウンシュヴァイクも笑いを浮かべた。

「なるほど。代々の皇帝の血筋は常に暗殺に彩られてきた。カロリーネ皇女殿下お一人がその因果から逃げおおせられるわけはないからな」
「そういうことだ」
「だが、暗殺に失敗した場合には?」
「その時には、生きながらもっとも恥ずべき立場に追い込むこととする」
「それは?・・・いや待て。儂も今考えが浮かんだぞ。卿、こちらへ」

 ブラウンシュヴァイクがひそひそと耳打ちすると、リッテンハイム侯爵ははたと膝を打った。

「そのとおりじゃ。ブラウンシュヴァイク公。儂もそれを考えておった」
「では、それらを効果的に進めるとしようか。具体的な案は家臣どもを呼んで打ち合わせるとしようか。ただし、信頼できる者だけを、な」
「むろんのことだ」

 二人の哄笑が部屋に満ちた。




 ヴェストパーレ男爵夫人邸――

 皇帝陛下のお許しを得て、アンネローゼはラインハルトと久方ぶりに会うことができた。当然その席には、ジークフリード・キルヒアイス、そしてイルーナ・フォン・ヴァンクラフトとアレーナ・フォン・ランディールが幼馴染としてきており、そしてヴェストパーレ男爵夫人、ドロデーア・フォン・シュヴァイヴァルも席をつらねていた。ドロデーア、後のシャフハウゼン子爵夫人が夫のシャフハウゼン子爵と結婚するのは、もう少し後の事である。今のドロデーアは一介の侍女として宮中に仕える身であり、そこからアンネローゼと親しくなったのだ。
 居間に入ってきた弟を見るなり、アンネローゼは胸が一杯になってしまった。しばらく見ない間に弟は成長していたが、それでも目の輝きは昔のままだったのだ。

「ラインハルト・・・・」
「姉上!!」

 今にもすがりつかんばかりのラインハルトだったが、そこはぐっとこらえていた。イルーナ、アレーナに散々我慢我慢と言われ続けて来たラインハルトは、原作のような短気を見せることは少なくなっていた。だが、それでも彼を纏う覇気はいささかも衰えることはなく、むしろ我慢を忍耐という美徳に昇華させることによって視野が広くなり、様々な経験を積むようになってきていた。

「あぁ・・・よく来てくれましたね。そしてジーク、アレーナ、イルーナ。あなたたちも本当にありがとう。ラインハルトに、弟についていてくれて・・・・」
「アンネローゼ様・・・・」

 キルヒアイスもそれ以上何も言うことができないらしく、ただ彼の青い瞳をゆらめかしただけだった。

「アンネローゼ様、ご息災のようで何よりです。ご心中はともかくね」
「アレーナ!」

 イルーナが鋭くたしなめた。それを見たヴェストパーレ男爵夫人が快活そうに笑った。

「大丈夫よ。ここには盗聴器も、私たちの会話を聞こうという無粋な男もいないわ。安心してちょうだい」

 若干17歳にしてヴェストパーレ男爵夫人となっていたマグダレーナの胆力は既にこのころから発芽していたと言っていい。だからこそアンネローゼ・フォン・グリューネワルトの親友になれたのだが。

「とにかくよく来てくれました。どうぞ、お座りになって。今お茶とお菓子を持ってきます」
「ホント?!やったわ!!あ~私はもうお腹すきすぎてたまらないもの!!」
「アレーナ、あなたお昼を食べてこなかったの?」
「だって、せっかくのアンネローゼの手作りのお菓子が食べられるんだもの。お腹明けとかないと損じゃない?」
「まったく・・・・」

 イルーナはアレーナをあきれ顔で見た。そうはいっても本心では何を考えているのかわからないのがアレーナだ。前世でも散々翻弄されてきたが、そうはいっても今は味方同士。お互い気心は知れているのだからこれほど心強いことはない。

「イルーナ姉さんもアレーナ姉さんも相変わらずのご息災のようですね」
「あら、ラインハルト、あなたもよ。最近とても背が伸びたんじゃない?キルヒアイスはもっと背が伸びたんじゃないかな」

 と、アレーナ。それにイルーナもうなずいている。そこにアンネローゼがお茶とお菓子をもって戻ってきた。何の話をしているのかと尋ねる姉に、背の話をしていましたとラインハルトは答える。

「キルヒアイスは私よりもよく食べますから、そのせいでしょう。それとも私の様に斜に構えるところがないせいかもしれません」
「ラインハルト様!」
「ははは、冗談だ。怒るなキルヒアイス」
「もう!ラインハルト。ジークをからかわないでと言っているでしょう?ごめんなさいね、ジーク」
「いえ」

 キルヒアイスが顔を赤くして口ごもる。それを見たラインハルトも、そしてアンネローゼも笑っていた。こうしてみるととてもなごやかな雰囲気だが、その心中はいかばかりかとアレーナ、イルーナの二人は胸を痛めた。何しろ、姉とこうしてあえていても、結局はそれも形ばかり。姉は皇帝の寵姫、どぎつい表現をすれば、いわゆる「私物化」されてしまっている。自由に会うことすらままならないのだ


「ところでラインハルト、あなたは幼年学校を卒業したら、次は士官学校に進むつもり?」

 ヴェストパーレ男爵夫人が尋ねた。

「いえ、幼年学校を卒業したら、すぐに戦場に出たいと思っております。キルヒアイスもです」
「まぁ!それはよろしくて?アンネローゼ」
「私には・・・戦いのことはよくわかりませんから。ただ、ラインハルト、ジーク、あまり無茶をしないでほしいの」
「ご心配いりません、アンネローゼ様」

 キルヒアイスが応える。

「そう・・・・」

 アンネローゼは心持目を伏せる。二人が何のために戦場に出ようとしているのか、聡明な彼女にはわかりすぎるほどわかっていた。だからと言って止められなかったのは、止めようとしてもそれだけは彼らは聞こうとしないということを十分承知していたからである。

「ご心配なく。及ばずながら私もイルーナもそばで見ていますから。特にイルーナは女性士官学校に在籍しています。そのうち戦場に出てラインハルトの補佐をするかもしれませんよ」

 と、アレーナが言う。それを聞いたラインハルトとキルヒアイスが目を細めた。内に秘めた感情を吐露するのを恐れているというように。

「女性士官学校はどんなところですの?」

 ドロデーアが興味深そうに聞いた。イルーナがざっと説明をする。
 女性士官学校は設立されて間もないが、とても良い指導をし、なおかつ学費がタダ、おまけに食事も充実しており、特に週一回は必ずデザートバイキングが付く。もちろんカロリーは低カロリーであるが、一流の料理人が作っているからほとんど遜色ない味に仕上がっている。内部にはスパもあり、エステサロンもあるなど、充実している。(これらはランディール侯爵家やマインホフ元帥、そしてグリンメルスハウゼン子爵閣下らからの篤志金で賄われている。)もちろん軍人の学校なのだから訓練などの学科はとても厳しいのだが、入校者には「支度金」名目で皇帝陛下から家族に一時金を支給する、かつ成績優秀な者には「給付金」が支給されるということもあって、やめていく者はほとんどいないのだ。
 
 これらの骨子は表向きはマインホフ元帥の肝いりで設立したことになっているが、その実ほとんどがアレーナが考案したものである。

 それを聞いたラインハルトが目を見開いた。

「キルヒアイス聞いたか?俺たちの学校の食事など、量はともかく味はとても満足なものだと言えないというのにな」
「そうおっしゃいますな、校長はそれを聞くと必ずこういいますから。『栄養価は充分に考慮して居る。軍務をもって国家に奉仕しようと志す者が、美食を求め味に不満を漏らすなど、惰弱の極みである!』と」

 あまりにそのもの真似が真に迫っているので、皆がおかしそうに笑った。

「だが、それで在校中はともかく、戦場に出たら、一兵卒と同じ、特別扱いはさせてもらえないはずだ。その辺を考慮してあるのか?」
「充実していると言っても、豪勢な美食というものではないわ。ただ、味には気を遣う風にしているの。それに、スパやエステサロンは常時使用できるというものではなく、ほんの時たまよ。あまり慣れすぎて戦場とかい離した環境だと後々苦労するからね。でも、最初だからそういうもので吊り上げないと、人が集まらないのよ」

 アレーナがそう言った。

「なぜ、アレーナ姉さんがそれを?・・・・なるほど、マインホフ元帥は確かアレーナ姉さんの親戚筋でしたね。大方姉さんが仕込んだことでしょう」
「ばれちゃったか。さすがはラインハルトね。でも内緒ね。これも――」

 アレーナがウィンクしたので、ラインハルト、そしてキルヒアイスもそれ以上その話題を出すのをやめた。ウィンク一つで気持ちが察せられるほどお互いは気心が知れていたのだ。
 それからあとはひとしきりヴェストパーレ男爵夫人の最近の芸術談話が話を占めた。しまいにはラインハルトがげっぷを出そうなうんざりした顔つきになってしまい、それをみたイルーナが「ラインハルト、我慢よ」と言ったので、皆がおかしそうに笑った。

■ アンネローゼ・フォン・グリューネワルト
 お茶会はとてもなごやかだったわ。私も久々に皆と会うことができて良かった。帰り際は二人とも心なしか硬い表情だったけれど、どうか心配しないで。私は大丈夫だから。
 
 

 
後書き
 「美味しいものが食べられる。」「リラクゼーション施設満載。」まぁ、職場の選択基準の一つにはなるでしょう。こと、三度三度の食事、ちゃんとした住まい、綺麗な洋服を着ることができる環境に育っていなかった人たちにとっては特にそこは重要!!!
  
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