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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)

作者:sorano
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第23話

~第四機甲師団・臨時拠点~



「お疲れ様でした、皆さん。こうして再会できたこと本当に嬉しく思います。」

「クレア大尉………こちらこそ。」

「帝都が占領された後、どうしていたかと思っていましたが……無事で良かったです。」

「ええ……皆さんも。そちらの方とはお初にお目にかかります。たしかサラさんの元同僚のトヴァルさんでしたね。」

リィンの言葉に静かな表情で頷いたクレア大尉はトヴァルに視線を向けた。



「おっと、ご存知でしたか。俺の方もサラからお噂はかねがね。」

「それにしても、第四機甲師団と合流していたなんてね。」

「最初にクレア大尉を見た時、本当に驚きましたわ。」

「大尉は内戦が始まってすぐに連絡を取って来たな。鉄道憲兵隊を動かして我々をこの演習場に誘導し……ここに第四機甲師団の拠点を作るのに貢献してくれたのだ。」

「そうだったんだ……」

「なるほど……さすがに迅速な判断ですね。」

クレイグ中将の説明を聞いたエリオットは目を丸くし、マキアスは感心した様子でクレア大尉を見つめた。



「分断された機甲師団の建て直しは急務でしたから。占領されてしまった帝都や閣下の事は気がかりでしたが……変事の際、最善をつくすよう日頃から言われていましたので。」

「あ……」

「大尉……」

クレア大尉の話を聞いたエリオットとマキアスは貴族連合による帝都占領時、クレア大尉が帝都にいた事を思い出した。



(そうか、大尉はあの時帝都にいたんだったな……クロウに―――直属の上司であるオズボーン宰相を撃たれた現場に……)

(あの時、クレア大尉はどんな気持ちだったのでしょう……?)

「…………………………」

リィンとセレーネはそれぞれクレア大尉を静かな表情で見つめ、フィーは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「……そ、そういえばナイトハルト教官は?父さんたちと合流してると思ってたんだけど……」

「あやつは師団には戻っておらぬ。数日前まではまったく連絡もつかない状態であったが………先日ようやく、通信による連絡があり今のところは無事でいるようだ。」

「そうでしたか……」

「まあ、なんにせよ今後も注意は必要でしょうね。この拠点もどこまで持つかわからない状態でしょうし。」

「……否定はせぬ。先程の戦闘もそうだが、貴族連合も本腰を入れて我々を潰しにきている。対機甲兵戦術があるとはいえ、補給面においてはいささか不利な立場だからな。」

トヴァルの指摘を聞いたクレイグ中将は重々しい様子を纏って答えた。



「たしかにこの場所じゃ補給は厳しそうだね。内戦が長引けば長引くほど無理がでてきそう。」

「だが、我々第四機甲師団も後れを取るつもりはない。あろう事か帝都を占領し、陛下や市民達を人質に取り、挙句の果てには猟兵どもを雇って他国領に襲撃をし、他国の領主夫婦に危害を加えた挙句他国の貴族の子女を誘拐した所業――――たとえ女神が許してもこのオーラフ・クレイグ、断じて許さぬわけにはいかぬ!」

フィーの指摘を聞いた後堂々と言い切ったクレイグ中将の様子をリィン達は冷や汗をかいて見守っていた。



「うーん、それは同感だけど……どちらかというと、帝都の姉さんが心配かな……」

「そうだな……父さんも逮捕されてしまったようだし。」

「誘拐されたエリスお姉様も無事でしょうか……?」

「……帝都方面の詳しい情報は依然掴めていません。鉄道網が押さえられ鉄道憲兵隊も本来の力を発揮できない状態ですから。」

「どうにも歯がゆいね。」

クレア大尉の話を聞いたフィーは複雑そうな表情で呟いた。



「それに先程の皆さんのお話を聞いて別の心配が出てきました。」

「別の心配、ですか?」

クレア大尉の言葉が気になったリィンは不思議そうな表情をし

「もし、我々が”双龍橋”を奪還する事ができたとしても、先日のユミルの件で我々―――”エレボニア帝国”に対して相当な怒りや不信感を抱いているメンフィル帝国が我々にケルディックでの補給の許可どころかケルディックの通過を認めてくれるかどうかが一番の心配です。ここから帝都に進撃する為にはどうしてもケルディックを通過する必要がありますし…………」

「あ………………」

「メンフィル帝国軍も既に双龍橋方面に拠点を築いていたしな……」

「通過するどころか、むしろ今度はメンフィル帝国軍と戦う羽目になるんじゃないの?」

「フィ、フィーさん。冗談になっていませんよ……?」

不安そうな表情で呟いたクレア大尉の話を聞いたリィンは辛そうな表情になり、マキアスは複雑そうな表情をし、フィーの推測を聞いたセレーネは疲れた表情で指摘した。

「貴族連合に誘拐されたエリスお嬢さんをあんた達が助けてメンフィルにエリスお嬢さんを返還すれば、交渉の余地はあるだろうが……さすがにそれは無理か。」

「ええ。エリスさんの救出が可能な状況でしたら、動かせる人員を全て動かしてでも最優先で行います。今の状況ですと陛下達には大変申し訳ありませんが、正直な所陛下達よりもメンフィル帝国の怒りを少しでも鎮める為にもエリスさんの救出の方が重要です。こちらがどれだけの犠牲を払おうとも、メンフィル帝国との開戦は絶対に避けるべきです。ただでさえ内戦で正規軍と領邦軍が分裂し、互いに消耗している状況ですのにそこに戦力、国力共に圧倒的なメンフィル帝国軍が参戦すれば、結果は言うまでもありません。それに例え内戦が終結したとしても、その状態でメンフィル帝国軍が攻めてくれば、内戦による損害や被害を受けた我々に勝機はありません。そしてそれは貴族連合にも言える事です。そうなる事がわかっていて貴族連合は何故そのようなリスクを背負ってまでメンフィル帝国領を襲撃し、”夏至祭”の件でメンフィル皇家がエリゼさんを重んじている事がわかっていたのに何故エリゼさんのご家族であるエリスさんを誘拐したのかが未だに理解できません……」

「……………………」

トヴァルの指摘を受けて、静かな表情で頷いた後疲れた表情になったクレア大尉の説明を聞いたリィンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「……こうした状況も踏まえて改めて問わせてもらうとしよう。おぬし達―――この先、どうするつもりだ?」

「それは……」

「父さん……」

クレイグ中将の問いかけに対し、リィン達は答えを濁した。



「ふむ……お前さん達は決して小さくはない”力”を持ってる。正規軍と貴族連合のどちらも無視はできない”力”を……確かに、この先どう動くか見極めといた方がいいかもな。」

「……ええ。元よりそのつもりでした。」

そしてリィン達は少しの間黙って考え込んだ後やがてリィンが口を開いた。



「確かに”彼”――――”灰の騎神”の力やベルフェゴール達の力は絶大です。それは俺自身、今までの戦いで嫌というほど実感しています。」

「”機甲兵”数体と正面からやり合えたり、”蒼の騎神”相手にも有利に戦える戦術的要素。使い方次第では内戦の状況に積極的に介入できそうだね。」

「ま、”灰の騎神”に関しては”起動者”の力次第だろうし、”魔王”達に関しても彼女達のやる気次第だけどね。」

リィンとフィーの言葉に続くようにセリーヌは静かな表情で頷き

「リィンの妹や皇女殿下を救い出すという目的もある。これまでの経緯を考えれば、僕達も貴族連合と戦うのが筋なのかもしれない。ただ…………」

「それを今の段階で決めるのはちょっと…………」

マキアスとセレーネもそれぞれ考え込んだ。そしてリィン達は互いの顔を見合わせて頷いた後リィンはクレイグ中将を見つめて答えを口にした。



「―――クレイグ中将。今、この段階でそれを決断することはできません。少なくとも―――プリネさん達を除いた”俺達全員”の意志を確かめるまでは。」

「あ……」

「……ふむ。」

リィンの言葉から、”Ⅶ組”が全員揃わないと決断できない事に気付いたクレア大尉は呆け、クレイグ中将は考え込んだ。



「貴族連合のやり方はたしかに納得できない。できれば父さんたちの力になりたい気持ちもあるけど……僕達だけで決めるのはやっぱり”違う”気がするんだ。」

「”Ⅶ組”がみんな揃って改めて答えを出さないと。そうじゃないと―――”わたしたちの筋が通らない”。」

「はい……!これまでも……そしてこれからもそれだけは絶対に譲れませんわ……!」

「だから今は、仲間を探すのを優先したいと思います。あくまで”Ⅶ組”として―――この内戦において、何らかの答えを出す為にも。」

リィンは”Ⅶ組”を代表して決意の表情でクレイグ中将とクレア大尉を見つめた。



「皆さん……」

「Ⅶ組としてか……ハハ、お前さん達らしい結論かもしれないな。」

「――――うむ、わかった!元よりおぬしらは学生の身……いまだ学ぶ立場にある者たちだ。正規軍でも貴族連合でもなく、あくまで自分達自身として。この内戦における足場をしかと見極めるがよかろう。」

クレア大尉とトヴァルがそれぞれ驚いてり、感心したりしている中、クレイグ中将は力強く頷いてリィン達の決意を受け取った。



「はい……!」

「父さん……ありがとう!」

「すみません、わがままを言ってしまって。」

「おぬしら自身が導き出した結論……誰にも口出しする権利などあるまい。強き意志と揺るがぬ信念をもって、最後まで貫き通してみせるがいい。ふむ、しかし可愛いエリオットをこのまま送りだしていいものか……師団から護衛中隊をつけるか。いやいや、ここは虎の子の飛行艇部隊を……」

「もう父さん……!それじゃあ意味ないでしょ!?」

自分達の決意を知った後すぐに自分達に干渉しようとするクレイグ中将の独り言を聞いたエリオットは呆れた表情で指摘した。



(さ、さすがは中将というか。)

(あ、相変わらずエリオットさんに凄く甘いですわね……)

(あの目は本気っぽい。)

その様子を見守っていたマキアスとセレーネは冷や汗をかき、フィーはジト目になった。



「ふふっ……―――でしたら、皆さん。どうか私を同行させてもらえませんか?」

「え……」

「クレア大尉……?」

クレア大尉の突然の申し出に驚いたリィン達は目を丸くしてクレア大尉を見つめた。



「―――聞けば皆さんはユミルを拠点にするそうですね。私ならメンフィル帝国軍が派遣するユミルを防衛する部隊が到着するまでの間にユミルの防衛や各方面の連絡などお手伝いができるかと。未だ連絡の取れないミリアムちゃんのことが心配でもありますし。それにメンフィル帝国に対して、僅かでも我々―――エレボニア帝国に対する信頼を取り戻したいですし、”貴族連合”―――いえ、”エレボニア帝国”の”罪”を少しでも償いたいという気持ちをリィンさん――――シュバルツァー男爵家やメンフィル帝国に示したいのです。」

「あ…………」

「……まあ、確かにユミルの守りは心許ないし、メンフィル帝国軍の到着は当分先っぽいしな。いつまた猟兵が差し向けられてもおかしくはない……そしてエレボニア帝国軍の将校がメンフィル帝国の守備隊の到着までに守りが薄いメンフィル帝国領の防衛を手伝ったという事実があれば、僅かにだが交渉の余地は出てくる可能性はあるだろう。助っ人に来てもらうってのは一つの選択肢かもしれんな。」

「……言えているかもしれません。トヴァルさんのような多方面でのスペシャリスト……そうした手助けはこれからも借りて行く必要がありそうです。」

「リィン……」

「確かにそうかも。」

「………クレア大尉。その申し出、喜んで受けさせてもらいます。どうかよろしくお願いします。」

「ふふ、こちらこそ。”鉄道憲兵隊”所属、クレア・リーヴェルト大尉。本日より”Ⅶ組”の皆さんに合流させていただきます―――」

リィンの言葉に頷いたクレア大尉は誰もが見惚れるような可憐な笑顔を浮かべた。



こうしてリィン達は新たにクレア大尉を加え、演習場を後にすることになった。クレア大尉が出発の準備を整える為、いったんその場で解散となり……その間、演習場の拠点を回ってみることにしたのだった。 
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