英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第184話
10月24日――――
学院祭2日目、リィン達の多くの家族や関係者が学院祭を見て回る為に学院を訪れている中、エリウッド公爵達も学院に来ていた。
~トールズ士官学院・校門~
「うわ~……!とってもにぎやかですね、お父様、お母様♪」
「ああ……これ程の祭りを学生達が運営しているとは、凄いな……」
クラリスは周囲を見回して目を輝かせ、エリウッド公爵は感心した様子で周囲を見回し
「フフ、迷子にならないようにちゃんと私達の手を離さないでよ、クラリス?」
「はい、お母様!」
クラリスの様子をフィオーラ夫人は微笑ましそうに見守っていた。
「き、君は!?」
するとその時エリウッド公爵達に気付いたレーグニッツ知事が信じられない表情でエリウッド公爵達に近づいてきた。
「……………………」
レーグニッツ知事は呆けた表情でフィオーラ夫人を見つめ
「え、えっと……?どなたでしょうか?」
「私の妻に何か用があるのですか?」
見つめられたフィオーラ夫人は戸惑い、エリウッド公爵は尋ねた。
「いえ、すみません……私の死んだ姪によく似ていたものでして……貴族である貴女方に対する御無礼、お許しください。」
「まあ……そうなんですか。私達は気にしていないので、大丈夫ですよ。」
「……もしや貴方は―――」
レーグニッツ知事の話を聞いたフィオーラ夫人は目を丸くし、ある事に気付いたエリウッド公爵がレーグニッツ知事を見つめて問いかけたその時
「―――ご紹介が遅れ、申し訳ありません。帝都知事のカール・レーグニッツと申します。」
「メンフィル帝国王公領・ミレティア領主、エリウッド・L・マーシルン。以後、お見知り置きを。」
「ミレティア領主エリウッド公爵の妻のフィオーラと申します。」
「エリウッドとフィオーラの長女のクラリスと申します。ところで貴方はもしかして、マキアスお兄様の親族の方ですか?」
両親と共に名乗ったクラリスは不思議そうな表情でレーグニッツ知事を見つめて尋ね
「あ、ああ。マキアスは私の息子だよ。それより”マーシルン”性を名乗っているという事はもしや貴方方は―――」
尋ねられたレーグニッツ知事が戸惑いの表情で頷いた後ある事に気付いて驚きの表情でエリウッド公爵達を見つめたその時
「―――お前達も来ていたのか。」
リウイとイリーナがエリウッド公爵達に近づいてきた。
「あ!リウイお爺様にイリーナ様!お久しぶりです!」
「フフ、久しぶりね、クラリス。エリウッドさん達も相変わらず仲のいいご様子ですね?」
「フフ、イリーナ様達の仲の良さには敵いませんよ。」
イリーナに微笑まれたフィオーラ夫人も微笑みで返し
「ペテレーネ殿とエクリア殿を共に連れていませんが、もしかしてデートでしょうか?」
「……俺達はそのような事をする歳ではない。ペテレーネ達が勝手に気遣って、俺達を二人にしただけだ。」
エリウッド公爵に尋ねられたリウイは呆れた表情で答え
「もう、あなたったら。第一私はまだ20代ですし、デートに年齢は関係ありませんよ?」
「クスクス……」
リウイの答えを聞いてリウイを睨むイリーナの様子をフィオーラ夫人は微笑みながら見つめていた。
「―――挨拶が遅れて申し訳ない、レーグニッツ知事。それにしても、現在の状況で、よく学院祭に顔を出せる暇を作れたな?」
「ハハ、それはお互い様ですよ。それで失礼ですが、陛下とエリウッド公爵閣下達との関係は……」
リウイに見つめられたレーグニッツ知事はフィオーラ夫人を気にしながらリウイに尋ね
「エリウッドは俺の側室の娘――――現在、ケルディックの臨時領主の一人であるサフィナの息子にあたり、俺にとっては孫にあたる。」
「ちなみに私にとってリウイお爺様はひいお爺様にあたりますわ♪」
「何と……!陛下の孫夫婦であられましたか。しかし……サフィナ元帥閣下ともお会いしたことがございますが、私の記憶ではうら若き女性騎士だったはずですが……」
リウイとクラリスの話を聞いて驚いたレーグニッツ知事は戸惑いの表情でエリウッド公爵達を見つめた。
「ハハ、”闇夜の眷属”は人間と比べると寿命が遥かに長いですからね。その関係で人間と比べると老化も非常に遅く、私はこう見えて42歳ですし、母上は77歳ですよ?」
「な……っ!?私は正直、エリウッド公爵閣下もそうですがサフィナ元帥閣下もルーファス殿と同年代かと思っていましたが……」
エリウッド公爵の説明を聞いたレーグニッツ知事は信じられない表情でエリウッド公爵を見つめ
「もう、エリウッド様?みだりに女性の年齢を口にするのはマナー違反ですよ?」
「そうですよ、お父様!帰りにケルディックに寄った時にサフィナお婆様に言いつけますわよ?」
「うっ……頼む、それだけは勘弁してくれ……!」
「クスクス……”空の守護者を継ぐ者”と称えられている竜騎士も家族の前では形無しですね?」
クラリスの言葉を聞いて冷や汗をかいて慌てだしたエリウッド公爵をイリーナは微笑みながら見つめた。
「お父様、お母様!挨拶も終わりましたし、そろそろ学院祭を見て回りたいですわ!」
「っと、そうだったな。―――それでは祖父上、イリーナ様、レーグニッツ知事閣下。私達はこれで失礼します。」
「――――失礼します。」
そしてエリウッド公爵夫妻はクラリスと共にその場を去り
「…………………………」
エリウッド公爵夫妻達の後姿をレーグニッツ知事は静かな表情で見つめていた。
「エリウッド達が気になっているようだが……レーグニッツ知事に何か失礼なことでも口にしたのか?」
「いえいえ、とんでもない。平民の私に対して、とても丁寧に接してくれました。むしろ私の方が失礼をしたのではないかと思っているくらいです。正直、エレボニアに住まう多くの貴族達もエリウッド公爵閣下達を見習ってほしいくらいです。その………エリウッド公爵閣下の奥様もやはり貴族出身の方なのですか?」
リウイに声をかけられたレーグニッツ知事は謙遜した様子で答えた後真剣な表情で尋ねた。
「いいえ。フィオーラさんは私と同じ元侍女ですから、平民ですよ。」
「――加えてフィオーラは記憶喪失だ。当時行き倒れた所をエリウッドが拾って、記憶喪失の上身元を証明するものを身につけていなく、途方に暮れていたフィオーラの事情を知ったエリウッドの厚意でエリウッドの元で働き出した事がきっかけで二人は恋仲になり、そのまま結婚に到った。」
「そ、そうなのですか。それにしても、よく周りの方々が反対なされませんでしたな?」
イリーナとリウイの話を驚きの表情で聞いていたレーグニッツ知事は不思議そうな表情で尋ねた。
「反対はあったが俺とサフィナが黙らせた。俺達が重視しているのは身分ではなく、人柄だ。――――その者が皇族の伴侶として相応しい人柄を持っていれば、例え相手が平民だろうが傭兵だろうが俺達は気にせん。実際、エリウッドが結婚する少し前にも俺の孫が傭兵と結婚したからな。」
「フフ、”カルッシャ王公領”領主―――ヘクトルさんとかつて傭兵だった天馬騎兵のフロリーナさんの事ですね。」
「…………………………その、エリウッド公爵閣下は何年前にフィオーラ様を拾われたのでしょうか?」
リウイとイリーナの話を複雑そうな表情で黙って聞いていたレーグニッツ知事はやがて口を開いて尋ねた。
「―――6年前だ。当時エリウッドが拾った時、フィオーラが持っていたのはミラ硬貨とミラ札だけだったことから、ゼムリア大陸から何らかの事故によって俺達の世界―――”ディル=リフィーナ”に流れ着いたと推測されている。」
「6年前…………」
リウイの説明を聞いたレーグニッツ知事は呆け
「ちなみに後の調べで、エレボニア帝国出身という事だけはわかりました。ただ、調べによるとその方はかつて相思相愛だった婚約者に裏切られた事が原因で川に身投げをして、自殺したという事ですが…………」
「!!ま、まさか彼女は……!」
イリーナの話を聞いて血相を変えた後信じられない表情で身体を震わせたが
「何か勘違いをしているようだな。最初に言っておくがレーグニッツ知事が知る”フィオーラ”は故人だ。」
「え……」
リウイの言葉に呆けた表情をした。
「先程出会った”フィオーラ”は家族、幸せ、悲しみを含めた”全ての過去の記憶”を失い、自分が何者か……そして家族の顔する思い出せない状況でありながらも決して現実から逃げる事なく新たなる道を歩み、その結果新たな家族をその手で掴み取った”フィオーラ・マーシルン”だ。―――それが”今のフィオーラ”だ。」
「…………………………」
「―――それでは俺達も失礼する。行くぞ、イリーナ。」
「はい、あなた。―――それでは失礼しますね、レーグニッツ知事閣下。」
そしてリウイとイリーナもその場から去って行った。
「…………………………………」
二人が去った後レーグニッツ知事は呆然とした様子で立ち続け
「ハハ……生きて、幸せになっていたのか…………よかった……本当によかった……!空の女神よ、この奇跡に心から感謝致します……!」
やがて涙を流し、空を見上げてその場で祈った。
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