英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第172話
~”鳳翼館”・広間~
「リィン、よかったの?ご実家で夕食を取らなくて。」
「ああ、エリスも久しぶりに親に甘えたいだろうし、たまには水入らずで父さん達とゆっくりさせてやらないと。」
「あなたって、つくづくわかっていないわよね……妹さん達も苦労するっていうか……」
「フフ、そうですわね。」
食事をしながら答えたリィンの話を聞いたアリサは呆れた表情で溜息を吐き、セレーネは苦笑した。
「え?」
「何でもない。」
「モグモグモグ…………ハア~………美味しいねぇ。」
「ん。プリネ達が食べられなかったのが残念だね。」
「どれも自然が豊かならではの料理って感じ。」
食事を食べているエリオットの感想にエヴリーヌとフィーはそれぞれ頷き
「モグモグ…………こちらの鴨は実に風味豊かだ。確か、男爵閣下が仕留めたのだったな?」
鴨を使った料理を食べていたラウラはリィンに尋ねた。
「ああ、父さんの一番の趣味でさ……俺も何度も連れて行かれたっけ……」
「シュバルツァー男爵の狩猟好きは風の噂で聞いた事はあるが……」
「うーむ……貴族の”嗜み”というやつか……」
「フフッ、俺も故郷を思い出すな……」
懐かしそうに話すリィンの話を聞いたユーシスとマキアスはそれぞれ考え込み、ガイウスは懐かしそうな表情をし
「料理に使われている野菜やハーブもみずみずしくて、彩り豊かですよね……こちらはリィンさんのお母様が育てられたとか?」
料理に使われている素材を分析していたエマはリィンに尋ねた。
「ああ、母さんの方は菜園をやっていてさ。そっちはよくエリゼとエリスが手伝っていたっけ……」
「まあ……!フフ、素敵な趣味ですわね。わたくしも機会があれば、挑戦してみたいですわ。」
「ハハ、母さん達が知ったら喜んで教えてくれるよ。」
リィンの説明を聞いたセレーネは目を丸くした後微笑んだ。
「いっつも君達は実習でご当地巡りができて羨ましかったのよね……今回はあたしも楽しめて嬉しいわ♪」
「グルメ旅行をしていた訳じゃないですが……」
「そういうサラも行く先々で何だかんだでいたよね?どうせ裏でちゃっかり楽しんでいたんだろうけど。」
嬉しそうな表情で言ったサラ教官の発言を聞いたリィンは冷や汗をかき、フィーはジト目で指摘した。
「ギクッ。」
「サラ教官……」
「動揺したって事は楽しんでいた証拠だね。」
フィーの指摘に動揺したサラ教官を見たアリサは冷や汗をかき、エヴリーヌは呆れた表情で言った。
「フフ、君達も今の内に骨を休めておきたまえ。戻ったらすぐに学院祭の準備があるんだろう?」
「はい、出し物の内容が決まったので後は練習次第ですね。」
アンゼリカの言葉にリィンは頷き
「とにかく猛練習してもらうから、みんな、覚悟しておいてよね?」
「だから……お前のその威圧感は何なんだ?」
「フウ……本当に容赦してくれなさそうだな……」
威圧感を纏ったエリオットの笑顔を見て仲間達と共に冷や汗をかいたユーシスは呆れた表情で指摘し、マキアスは疲れた表情で溜息を吐いた。
「えへへ……せめて学院祭は楽しいものにしていきたいね。せっかく、帝国各地も落ち着いてきた所だし。」
「「あ……」」
トワの言葉を聞いたリィンとアリサは呆けた表情で呟き
「そうだな………」
アンゼリカは重々しい様子を纏って頷いた。
「”帝国解放戦線”………ルーレでの事件以来、完全に姿を消したようですが……」
「彼らは本当にいなくなったんでしょうか?」
「彼らが乗っていた飛行艇が撃墜され、テロリストは主要メンバーを纏めて失った事になる。他の幹部がいた気配もないし、事実上完全に消滅したと言ってもいいかもしれないわ。」
エマの疑問にサラ教官は考え込みながら答え
「うん、残党がいたとしても幹部がいなければ、正直烏合の衆だし。」
サラ教官の推測にフィーは頷き
「飛行艇を撃墜した張本人は”殲滅天使”が所有している”パテル=マテル”だけど……あの後鉱山を調べたら飛行艇を狙撃できるポイントに製造不明のライフルがあったそうだから、謎は残ったままね……」
ある事を思い出したサラ教官は考え込んだ。
「後の問題は各地の貴族派と革新派の対立の問題か……陛下が釘を刺した事があって、収まってきてはいるようだな。」
「それもあくまで表面的なものだろう。未だに帝国各地で火種は燻り続けている。」
「エレボニアの抱えている問題は根本的に解決された訳じゃない……か。」
「王様に威厳がない証拠だね。リウイお兄ちゃんもそうだけど、シルヴァンに王様としての威厳があるからこそ、今のメンフィルがあるんだし。」
「エヴリーヌさん、何もそのような言い方をしなくても……」
「アハハ……だからこそ今は学院祭を盛り上げればいいんじゃないかな?」
暗くなった雰囲気を変えるかのようにトワは話を変えて提案し
「確かに……トールズ学院祭は貴族から平民まで様々な関係者が訪れ、同じ空間で同じ楽しみを共有できる得難いイベントだ。」
トワの提案にアンゼリカは納得した様子で頷いた。
「うん……それに”Ⅶ組”には貴族や皇族の人も平民の人もいるんだし、そんなクラスががんばったら見ている人の認識も少しは変わると思うんだ。」
「我らの頑張り次第で人々の認識を変える……か。フフッ、遣り甲斐がありそうだ。」
「僕達の手で最高のステージを作り上げなくちゃね……!」
「ああ、頑張ろう!」
トワの説明を聞いて考え込んだラウラは口元に笑みを浮かべ、エリオットの言葉にリィンは力強く頷いた。
夕食を済ませたリィン達は男女に別れて大浴場に行き、ここ数日で溜まった疲れを存分に癒し始めた。
~鳳翼館・露天風呂~
「うわ~……!」
「広いな……」
「これだけ広い上、眺めのいい露天風呂を僕達が独占するなんて、凄く豪華な話だな……」
「フッ、オリヴァルト殿下には改めて感謝しないとな。」
「ハハ、これがユミル自慢の露天風呂さ。滋養にも利くから、ユミルの温泉を求める客が絶えないんだ。」
初めて見る温泉にそれぞれ興味ありげな表情をしている仲間達にリィンは苦笑しながら答えた。
「フム、確かにこの湯には微弱な治癒系の魔力が纏っているから、滋養に利くという話も強ち嘘ではあるまい。」
「へ――――」
するとその時温泉から男性の声が聞こえ
「あ、貴方は……!」
「サラ教官の使い魔―――バルディエル、だったな?」
「ど、どうしてバルディエルさんがここに?」
男性―――人間の姿になっているバルディエルを見たエリオットは驚き、ガイウスは目を丸くし、マキアスは戸惑いの表情で尋ねた。
「”紫電”が『あたしの身体に宿っているからと言って、女風呂をのぞくなんて許さないから、あたしが出てくるまで男風呂に入っていなさい!』と命令されて、仕方なくここにいるのだ。我は別に異性の裸体等興味はないのだがな。」
「ハハ……」
「まあ、正論だな。」
バルディエルの説明を聞いたリィンは苦笑し、ユーシスは納得した様子で頷いた。
「あれ?バルディエルさん、翼がないですけど……」
「ああ。さすがに翼を出したまま湯につかれば、羽が湯に浮いて他の者達が入る気を失くすと思い、人間の姿になっているのだ。」
「ベルフェゴールと同じように人間の姿にもなれるのか……」
「いつも思うんだが翼や尻尾とかどうやって隠しているのか、理解不能だ……」
エリオットの質問に答えたバルディエルの話を聞いたガイウスは目を丸くし、マキアスは疲れた表情をした。
「フム…………――――アルバレア号!」
「ユ、ユーシス!?いきなり何を……」
「おい。まさかとは思うがその馬を温泉につからせるつもりじゃないだろうな?」
アルバレア号を召喚したユーシスの行動を見たリィンは驚き、ある事を察したマキアスはジト目でユーシスに尋ねた。
「フン、さすがにそんな事はせん。湯につからせてやることはできないが、その代わりにこの温泉の湯でアルバレア号を洗ってやろうと思って呼んだだけだ。アルバレア号には戦闘時だけでなく、プライベートの際にも世話になっているからな。主として、そのくらいはしないとな。」
「ハハ、ユーシス、アルバレア号をとても大切にしているな……」
「フフ、俺もユーシスの気持ちはわかる。―――俺も手伝おう、ユーシス。」
「ああ、助かる。」
そしてユーシスはガイウスと共にアルバレア号を洗い始めた。
「使い魔と言えば……ベルフェゴール達はどうしているの、リィン?」
「ま、まさかとは思うが今も君の中にいて僕達を見ているんじゃ……」
その時ある事を思い出したエリオットはリィンに尋ね、マキアスは表情を引き攣らせてリィンを見つめ
「ハハ、ベルフェゴール達にもいつも世話になっているからな。ベルフェゴール達には温泉を楽しむように言って俺の身体から出てもらったよ。」
マキアスの様子を見たリィンは苦笑しながら答えた。
2時間後、男子達が入浴を終えると女子達は温泉に浸かっていた。
~2時間後~
「フウ……ちょうどいい湯加減ね。ミルモも気持ちいいでしょう?」
「うん!何だかこのまま眠っちゃいそう……」
湯につかっているアリサに視線を向けられたミルモは嬉しそうな表情で頷いた後心地よさそうな表情をし
「フフ、気持ちはわかるがさすがに湯の中で眠るのは危険だからよしておけ。」
同じように湯につかっているラウラは苦笑しながらミルモを見つめて言った。
「あ~……身に染みるわぁ……これでお酒とつまみがあったら最高なんだけどねぇ……」
「サ、サラ教官。駄目ですよ~、お風呂に酒と食べ物を持ちこんだりしたら……」
「チッチッチッ、わかっていないわね~。温泉で月を見ながら酒を飲む……最高のシチュエーションじゃない♪」
自分の言葉を諌めるトワにサラ教官は嬉しそうな表情で答え
「それじゃあフィーちゃん、頭を洗いますね?」
「ん、お願い。」
フィーはエマに頭を洗ってもらおうとしていた。
「にゅふふふ、じゃあワタシは後でエマの身体の”隅々”を綺麗にしてあげるわね♪」
「け、結構です!というかその手は何ですか!?」
そして口元に笑みを浮かべて両手をワキワキと動かしているヴァレフォルを見たエマは慌てた様子で両手で自分の身体を守るかのように強く抱きしめて答えた。
「気持ちいいです……お姉様達が来れなかったのは本当に残念ですわ……」
「そだね。機会があったら、今度こそ一緒に入りたいね。」
温泉に気持ちよさそうにつかって残念そうな表情をしているセレーネの言葉にエヴリーヌは頷いた。
「フ、フフ、フフフフフフッ!自分が女でよかったとつくづく思ったよ!こうしてアリサ君達の素晴らしい裸体をその目で堂々と焼き付ける事ができるんだから!まさに天国!惜しむらくはプリネ君達がいない事だね……」
「この人は……」
「本当に女かどうか疑わしいよね?」
「ア、アハハ……」
興奮した様子で叫ぶアンゼリカの様子を見たアリサは無意識に両手で身体を隠してジト目でアンゼリカを見つめ、ジト目でアンゼリカを見つめるエヴリーヌの言葉を聞いたセレーネは苦笑した。
「へえ、結構いい所じゃない♪」
「そうですね。この町と言い、自然と同調している暮らしなのは素晴らしい事です。」
「フフッ、温泉って初めてですわ。」
「私は凄く懐かしいわ…………」
するとその時裸体をふんだんに顕したベルフェゴール以外全員バスタオルを巻いた状態のリザイラ、メサイア、アイドスが風呂場に来た。
「ふおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?す、素晴らしい……!四人揃って完璧なスタイルだ!クッ、彼女達と常に一緒にいるリィン君が羨ましいよ!」
「あ、鼻血出している。」
「アハハ……アンちゃん、トントンしようね~?」
ベルフェゴール達の姿を見て鼻血を出して興奮しているアンゼリカを見たエヴリーヌは静かに呟き、トワは苦笑しながらアンゼリカに近づいて鼻血を出しているアンゼリカの介抱を始めた。
「ん~!極楽極楽♪」
「ふふふ、”魔神”である貴女が”極楽”という言葉を口にするのは色々と間違っていると思うのですが?」
「アハハ……」
「フフ、確かに一理あるわね。」
温泉につかって気持ちよさそうな表情をしているベルフェゴールの言葉に静かな笑みを浮かべて指摘するリザイラの言葉を聞いたメサイアとアイドスは苦笑していた。
「っていうか、ベルフェゴール!いくら女しかいないとはいえ、バスタオルくらい巻いてきなさいよ!」
「まあ、”痴女”と同等の性格をしている睡魔なら、羞恥心とかないんでしょうね~。」
「うふふ、もしかして私のこの完璧なスタイルにひがんでいるのかしら~?まあ、アリサはまだまだ可能性はあるけど、サラじゃもう無理でしょうね♪」
アリサとサラ教官の指摘を聞いたベルフェゴールはからかいの表情で答え
「うっさいわね!?あんたみたいに胸がでかすぎたら、年を取った時に垂れてくるからこのくらいでちょうどいいのよ!」
サラ教官はベルフェゴールを睨んで反論した。
「うふふ、残念ながら”魔神”である私は老いる事はないから、ずっとこのままよ♪どう?羨ましいでしょう♪」
「こ、この女は……!」
そしてからかいの表情で自分を見つめて自分に見せつけるかのように両手で豊満な胸を持ち上げたベルフェゴールをサラ教官は顔に青筋を立てて睨み
「というかサラ教官も充分大きい部類に入ると思うのだが……」
「た、確かにそうですね……」
ラウラの指摘を聞いたセレーネは冷や汗をかいて頷いた。
「にゅふふ、隙あり♪」
「キャアッ!?や、止めて下さい、ヴァレフォルさん……!……あんっ!?」
「ん~、シュリと違うのはやっぱりこの胸よね~♪一体どうやってここまで育ったのかしら♪」
「確かにそれは私も興味ある。いいんちょ、何を食べてここまで大きくなったの?」
「あ……ん……フィ、フィーちゃんも一緒になって揉まないで下さい!」」
ヴァレフォルとフィーに胸を揉まれているエマは悲鳴を上げ
「クッ、離せ、トワ!後生だから私もあのパラダイスに参加させてくれ!」
「だ、ダメだよアンちゃん~!」
エマ達の所に向かおうとしているアンゼリカをトワは両手でアンゼリカを捕まえて必死で止めていた。
「えへへ、温泉って本当に広いよね~♪」
「こら、ミルモ!温泉で泳いじゃダメでしょう?っていうか、リザイラ!貴女も注意してよ!ミルモは貴女の部下でしょう!?」
温泉で泳いでいるミルモに注意したアリサはリザイラを睨み
「ミルモの今の”主”はミルモと契約している貴女。私が責められるいわれはありませんし、私はミルモの事を部下と思った事はありませんよ。それに私は精霊達のする事に干渉せず、伸び伸びと育てている方針ですので。」
「それって、育てる事がめんどくさいから放棄しているようにも聞こえるのだけど?」
リザイラの答えを聞いたアリサはジト目でリザイラを見つめ
「アハハ……というか、風の精霊って泳げたんですね……」
メサイアは苦笑しながら泳いでいるミルモを見つめた。
「フウ………本当に良い湯加減ね…………………?みんな、どうしたのかしら?」
気持ちよさそうに温泉につかっていたアイドスだったが、ほぼ全員が自分に注目している事に気付いて不思議そうな表情で尋ねた。
「え、えっと、その……」
「フフ、皆さん、アイドス様が綺麗すぎて見惚れていたんですよ。」
「フフッ、仕草の一つ一つが私のリビドーを激しく湧き立てるよ……!」
「まあ、皆がアイドスを見るのはアイドスが女神だから無意識に魅了されているからかもしれないね。」
アイドスの疑問に口ごもっているエマの代わりにセレーネは微笑みながら答え、アンゼリカは興奮した様子でアイドスを見つめ、エヴリーヌは静かに呟いた。
「フフ、ありがとう。でもみんなも、それぞれの魅力があるじゃない。」
「う、う~ん………そう言われてもねぇ?」
「うむ……私達では決してアイドス殿のような女性にはなれないだろうな。」
「こんな最高の女を落としておいて、他にも女がいるなんて、リィンって本当に罪深い男よね~。」
「ア、アハハ……」
セレーネの言葉に微笑みながら頷いた後に言ったアイドスの指摘を聞いたアリサとラウラは困った表情をし、からかいの表情で言ったサラ教官の言葉にセレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。
「そう言えばワタシ、アイドス―――女神が何で人間に従っているのかが気になっていたのよね~。」
「それは私もだ。フッ、これを機会にリィン君との出会い等も含めて全て聞かせてもらおうじゃないか♪」
「賛成。わたしもずっと気になっていた。」
「フム……私もできれば聞きたいな。」
「え、えっと……?」
「うふふ、それじゃあ”女子会”の始まりね♪」
ヴァレフォルとアンゼリカの言葉をきっかけに女子達が自分に集まってきたことにアイドスは戸惑い、サラ教官は笑顔で言った。
その後温泉で今までの疲れを癒したリィン達は風呂あがりにはビリヤードや枕投げなどに興じつつ、普段しないようなよもやま話をあちこちで花を咲かせた。
そして全員が寝静まった頃、シュバルツァー男爵から貰った自分の師の一人である”剣仙”ユン・カーファイからの手紙の内容が気がかりで目が醒めてしまったリィンは一人露天風呂に向かっていると意外な人物がロビーにいた。
ページ上へ戻る