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【ネタ】キュウべえがエントロピー問題を解消するようです
前書き
昔に呟きで投稿したアレです。
インキュベーターはとある星の生命体である。高度な技術を有し、感情はなく、個が全であり全が個という共通意識の下に行動している。その行動目的は主に増大する宇宙のエントロピーを引き下げる事で宇宙を存続させることにある。
そんなインキュベーター――他種知的生命体の前ではキュウべえを名乗る――は、ある時広大な宇宙の中に「解析不能のモノリス」を発見した。
「ボクたちですら解明できない物質か………」
「分析によるとこのモノリス、計算上では宇宙の誕生以前から存在した可能性さえあるそうだ」
「どこにあったんだ?」
「太陽系第三惑星地球だよ。トゥルカナ湖の底、おおよそ300万年前の地層にあった」
「300万年前……地球人類が文明を築き始めたころと符合するね。関係性は?」
「不明だよ。もしかしたらこのモノリスから放たれる解析不能の波動のせいかもしれないけどね」
「それより、興味深い事が分かったんだ。このモノリス――『ゾハル』と名付けたこれだが、どうやら願望器のような性質があるみたいなんだ」
ゾハルは知性を持った生命体に反応し、特定事象の確率を対象生命体の望む事象を強制的に導き出すことが判明している。更にゾハルはその事象変異によって発生したエネルギーポテンシャル変位――つまりエントロピーを物理的なエネルギーに変換できるそうだ。
エントロピーをエネルギーに変化させる。これはキュウべえからすれば寝耳に水の事態である。
今までキュウべえたちは知的生命体の絶望などの激しい感情をエネルギーとして回収してエントロピー終焉を先延ばしにしていた。これによって宇宙内部で使えるエネルギーの絶対量が増えて宇宙存続の期間が長くなる。そしてこれ以上のエネルギー効率が望めない事から、キュウべえたちの「魔法少女システム」は究極の形だと考えていた。
だが、実際にはどうだ。このモノリスは本来宇宙の寿命を減らすはずのエントロピーを逆にエネルギーに変換するというのだ。エントロピーがエネルギーに変換されるというのは、例えるならば携帯電話を使えば使うほど充電が増えていくようなあり得ない状態。つまり、永久機関だ。
まだ確かなことは言えないが、もしもこのシステムの利用方法を確立できればエネルギーの永劫回帰――つまり宇宙の無限存続だって夢ではない。
キュウべえたちは研究に研究を重ね、ひとつのシステムを作り上げた。
「デウスシステム………とうとう形になったのか」
「知的生命体に反応する性質を利用して『生体電脳カドモニ』を生物と認識させ、さらにカドモニに外部から事象変異内容をインプットする。そうして事象変異によって発生したエントロピーを取り込んだゾハルはエネルギーを放出し、それを仮の器である『デウス』が取り込む。後はカドモニを通してデウス内部のエネルギーを使用すればいい。理論上はこれで完璧だ」
「これが完成すれば、ぼくたちの役割も終わるね」
「いいや、このシステムの防人としての役割が待っている」
「ところで……実験に地球の人間を立ち合わせるって聞いたけど、それはどうしてだい?」
「ああ……もしもカドモニで事象変異を起こせなかった時の事を考えて、ね。それにゾハルは地球にあったんだ。地球人にはぼくたちでは感知できない何かをゾハルから受け取るかもしれない」
これで宇宙が救われる。そう考えるとさしものキュウべえも感慨という名の感情を理解する。
実験に立ち会う少年――鹿目タツヤは、デウスがよほど珍しいのか釘付けになっている。彼が立会に選ばれた理由は、単純に地球で魔法少女をしている鹿目まどかから許可を貰ったからに過ぎない。彼女ももう魔女と戦わなくてもいいかもしれない事を知ると、「そんなスゴイことに立ち会えるのなら」と許可を出した。
そして当のまどかは……『生体電脳カドモニ』としての改造を施され、ゾハルに組み込まれている。カドモニの材料として様々な素材が考えられたが、結局はソウルジェムの輝きがあるかぎり不死身である魔法少女が素体の第一候補に挙がった。理論上はソウルジェムの濁りもゾハルが吸収するため、魔女化の心配もない。使命感の強い彼女は、実験にあっさりと同意してくれた。
そして、実験が開始された。
それが、始まりの終わりで、終わりの始まりだとも知らず。
皮肉にも、感情を排除したことで高度な生命体になったインキュベーターの予想もつかない形でシステムは暴走した。それは言うならば、まどかの残留思念とも呼べる、強すぎる想いが起こした悲劇だった。
「どういうことだ、こんな命令は入力していないよ」
「カドモニだ。カドモニの生体素子とフラーレン素子が自己判断で最も効率のいいエネルギー抽出方法を選んだんだ」
「わけがわからないよ。なぜこちらの命令を遮断しているんだい?」
「向こうはこの方法が最も効率がいいと判断したんだ。人間特有の……『よかれと思って』という奴だろう」
「しかし――では、素体になった鹿目まどかの思念が結論を歪めたというのかい?」
「確率が低い事象であればあるほどエネルギーは得られる。だが――よりにもよって最初から『確率ゼロの事象』なんてメチャクチャだ」
世界があり得ない方向にねじ曲がる、「存在しない筈の事象」。
事象変異の究極系、世界の改変、エントロピーを凌駕した願望がゾハルの波動を強める。
無限に近いエネルギーが荒れ狂い、デウスシステムがキュウべえのコントロールを離れる。
「セフィロートの道が、開く。高次元が、世界に流入する」
《鹿目まどか。お前は何を望み、わたしを波動の場より引きずり降ろした》
『タッくんに………タッくんたち皆に未来が欲しいの。この宇宙に、未来が欲しいの』
「そんな……カドモニに組み込まれた時点でまどかの意識は消滅したはずなのに、何故!」
「………お、ねえ、ちゃ……?」
――そこから先のことを、生き残ったキュウべえ達は知らない。
行き場を失ったエネルギーは暴走し、インキュベーターの本星をも完全消滅させるほどの破壊として宇宙に出現した。デウスシステムは完全に暴走し、その後、事態を知ったキュウべえの生き残りたちが技術の粋を尽くして停止させるまで銀河系を破壊し続けた。
生存者、一名。
名を鹿目タツヤ。
これが、その後数千年に及ぶゾハルを巡った騒乱の最先だった。
後書き
ゼノクロ2待ってます……。
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