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剣士さんとドラクエⅧ

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91話 剣士2

 現れるは巨大な体。紫色の羽に覆われた体。メキメキと音を立てて翼が生え、顔にはほとんどドルマゲスの面影がない。角が生え、翼が生え、何故か杖を取り込み。……見た目からも彼はもう人間ではないだろうし、もう戻れないって私でもわかる。

 あの気持ち悪い水球が降り注ぐ。動きは阻害されなかったけど、きっとドルマゲスには益になってるんだろうな。体勢は立て直した。みんな傷を癒した。でも、でも。最初に感じていたよりもずっと大きな悪の気がドルマゲスから発せられていて、純粋な恐怖が私を支配する。

 ううん、エルトこそ、ヤンガスこそ武器を構えているけれど、魔法に詳しいククールとゼシカは青ざめていて、のまれそうだ。

「ゼシカ!みんなにピオリム!ククール!トウカにバイキルト!ヤンガス!スクルトかけて一旦下がれ!トウカは……」
「言われなくとも、突っ込む!」
「違う、下がって!」

 エルトは下がれって言ってるけど、防戦じゃ勝てない!……小手試し……には相手は強すぎるけど一撃を入れて下がろうとすると、にやりと笑ったドルマゲスにぶん殴られて私は吹き飛んだ。

 息ができない。とっさに盾で守ったというのに盾が砕けるなんて……。なんとか、内臓破裂だけは回避したけど……もう盾がない。内臓破裂を回避しただけで激しい衝撃のせいで、起き上がれないのもまずい。直撃をぎりぎり避けたのに、内臓と肋骨が原型を留める程度には無事だってわかるのに、ごぶりと口から血がこぼれる。焼け付く痛みは一瞬、遅れてやってくる。

 直撃を避けようがそれ以前にやばすぎるってこと……?ククールがすぐに無様に転がった私を助け起こしてくれてベホマ、それからスカラを何度も重ね掛けしてくれる。必死の表情で、なんだかドルマゲスを倒そうとするより……今を生き延びる為って感じがする。必死で、生かしてくれようとしてる。

 そんな中エルトは振り返らない。振り返ったりしたらエルトもやられるから。心配してないんじゃなくて、リーダーとして振り返るような隙を見せないってことなんだろう。エルトはゼシカのバイキルトを受けて……私は吹っ飛ぶ前にククールがバイキルトを間に合わせてる……、槍で近づけさせないように切り裂くように攻撃していた。

 そのダメージは決して大きくない。下手に踏み込めないから与える傷も浅い。でも、ヤンガスが近づく隙を作るために、メラゾーマを浴びせたりヒャダルコでダメージよりも動くのを妨害する後ろのゼシカを、私たちを守るためにエルトは必死だった。

 ……あれ。ベホマで傷はとっくに治ってる。なのに痛みがあるように思う。ちゃんと分かってる、本当はもう傷なんてなくて痛くもないってことぐらい。でも人間の頭っていうのは不思議なもので、魔法がある世界に生きてるくせに瞬時に治った傷がまだあるように錯覚してるんだ。ファントム・ペインってやつだろうか?……あれはまた違う条件で起こるものだけど。

 でも、本当は泣きたいほど激痛があっても傷はない。体力だってまだまだ大丈夫。だから限界まで重ねてスカラを唱えたのに不安げなククールをゼシカの補佐に押し出して私はドルマゲスに連続でカッターアタックを叩き込んだ。

 カッターアタックって要するに、剣気。ん?かまいたちと何が違うのかって?ちゃんと違うよ。かまいたちは敵に一体を狙うものだからその幅が小さい。私のカッターアタックは敵全体を対象に出来るから幅が大きい。ドルマゲス、大きい体になってもエルトの攻撃を避けたりするから範囲があった方がいいんだ。

 カッターアタックがドルマゲスの体を切り裂く。それによって申し訳程度に血が滲みでる。なんとか潜り込んだヤンガスのかぶとわりが炸裂して、血がバッと舞った。……でも、それだけ。なにもかも浅すぎる。小さすぎるダメージだ。あぁ、ヤンガスも吹っ飛ばされてしまった……ククールがベホマとスカラをかけに、走る。

 流石に、あまり近づきたくない。でも、これじゃあ、駄目だ。エルトがどれだけ頑張ったって勝てない……。それにそもそもドルマゲスの手の内はわからない。魔法が使えるなら、近づかなくたっていいんだから……。

 ……そして予感は悪い方向に的中した。ドルマゲスは、ヤンガスが再び向かうその前にマヒャドを唱えたんだ。

 マヒャド。鋭い氷の刃。それはいくつもいくつも現れて、私たち全員めがけて降り注ぐ。魔法的な氷は、明確に意志を持ってこちらに向かってくる。

 二三、斬り捨てた。でも駄目だ。あの巨大な氷はククールに当たる。ゼシカに当たる。ヤンガスは自力でなんとか出来るけど、エルトはドルマゲスを抑えるのに必死で手が回らない。みんなの氷を斬るのは、間に合わない!

 幸いというか、エルトもゼシカもククールもマヒャドの一撃でどうこうされるほどやわじゃない。でも私は、駄目だ。魔法が強化されて降りかかる私は、頬を切り裂き、胸に刺さりかける氷を払い除けることで腕を串刺しにされ、死ぬか瀕死のどっちかだろう。

 ……そのときは覚悟を決めてサヨウナラ、かと思ってたんだけど。魔法はふっと当たる前に消えた。かき消したのは、お馴染みになってる禍々しい例の紋章。さっき砕け散ってたんだけど、復活早くない?消えてなかったんだ……。ていうか、防いでくれるのは呪いだけじゃないの?たしかに、ライティアの魔法も弾いてたけど、まさかドルマゲスのも弾けるの?どういうこと?

 ともかく何故か無事だった私は、ドルマゲスが氷に反射した性でくっきりはっきり見えたらしい紋章を見て、驚愕で一瞬硬直したのをいい事にその翼をバッサリ、斬り落とした。右のをズバッと、我ながら見事にね!顔にドルマゲスの血がかかるのもお構い無しに怒り狂う彼の攻撃をなんとか受け流したり躱して、その間にマヒャドのダメージを癒せるように時間を稼……ってもう普通にみんな回復してる?

 あれ?そもそもみんなは大して効いてない?え?魔法を過剰に食らう私が心配しすぎてただけ?なぁんだ!じゃあ、死なない程度に頑張るから皆はよろしく!

 庇う必要がないなら、騎士たる私が守らなくてもいいんなら。内臓が弾けようと滅多に折れないはずの肋骨がばきばきになろうと、足をへし折られて肉や血をぶちまけようと、剣と私の心が折れない限り戦おうじゃない!

 にやにや笑うドルマゲスの前で私も好戦的に笑い返した。あぁ、君のこと、私、大嫌いだよ。

 私は「剣士」トウカ。参る! 
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