英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第163話
~ザクセン鉄鉱山~
「これは……!」
鉄鉱山に到着したリィン達は鉱山のあちこちから上がる煙の光景に驚いた。
「な、なんてこと……」
「あちこちから煙があがってやがるな。テロリストが火を放ったのか?」
「消火活動は終わってるみたいだけど……(でも……なんかおかしいな。)」
「問題は鉱山の中で働いている人達が無事かどうかですね……」
鉱山の状況を見たアリサは悲痛そうな表情をし、クロウの推測を聞いたフィーは鉱山のの状態を見つめながら考え込み、セレーネは不安そうな表情をした。
「ふん、軍需工場ではなくこちらに来ていたわけか。」
「恐らく軍需工場の方は囮だったのでしょうね……」
鼻を鳴らしたマキアスの言葉に続くようにツーヤは真剣な表情で答えた。
「見て、入口のほう……!」
その時何かに気付いたエリオットにつられるように入口を見つめるとそこでは鉄道憲兵隊と領邦軍が睨みあっていた。
「ありゃあ……鉄道憲兵隊と領邦軍じゃねえか?」
「でも、あんな所で何を……?入口も完全に封鎖されてるみたいだし……!」
「……とにかく近くまで行ってみよう。」
そしてリィン達は入口付近まで近づいた。
「―――既にテロリストは鉄鉱山を完全に占拠した!鉱員たちを人質に取った以上、手出しをするわけにはいかん!」
「だからといって、交渉もせずに様子を見るつもりですか!?彼らは目的を持って行動している―――時間を稼がせてはいけません!」
領邦軍の隊長の警告を聞いたクレア大尉は怒りの表情で反論した。
「激しく言い争っているな……」
「……どうやら鉄鉱山はテロリストが完全に占拠してしまったようだ。」
「そして、先に駆け付けた領邦軍が鉱山を封鎖してる……状況としてはそんな感じみたいね。」
「ど、どうしてそんなことを……」
「一刻も早く鉱員の方達を救出すべきなので、どうして何もしないのでしょう……?」
アリサの話を聞いたエリオットとセレーネは不安そうな表情をし
「やれやれ、プンプン匂うなあ。」
「うん、領邦軍の準備も整いすぎてる感じ。……ぶっちゃけ、どう考えてもグルじゃない?」
「状況を考えれば、確かにそうですね……」
クロウの言葉に頷いたフィーの推測を聞いたツーヤは真剣な表情で頷いた。
「それって……!」
「しかし、実際この鉄鉱山は襲撃されているんだぞ?あんなに煙も上がって……」
「たぶん……あれは偽物。煙の出方が少し不自然だから発煙筒かなにかだと思う。」
「は、発煙筒……!?」
フィーの推測を聞いたマキアスは驚き
「……だとしたら、領邦軍がここを封鎖したのは別の理由があるのか……?」
「一体何の為にそんな事をしているのでしょう……?」
リィンとセレーネはそれぞれ考え込んでいた。
「……ラインフォルトの『第一製作所』に関わることかもしれないわ。」
「そ、そうか……たしか鉄道憲兵隊も調べていたんだったな?」
「ああ、クレア大尉が言ってた。こんなタイミングで領邦軍が露骨な動きを見せている……連中が隠している”何か”がここにあるのかもしれないな。」
「それを揉み消すためにここを封鎖したっつーわけか。確かにそう考えればある程度の説明がつきそうだ。」
「…………通商会議の時のように、これ以上”証拠”を残す訳にはいかない……ということですか。」
クロウの推測を聞いたツーヤは真剣な表情で考え込みながら呟いた。
「で、でも”何か”って……?」
「……現時点ではわからない。だがどちらにせよ、鉱員たちが危険に晒される可能性は高い。放っておくことはできないだろう。」
「……一旦、街の方に引き返しましょう。これからのことを考える必要があるわ。」
「アリサ……」
「……そだね。」
「とっとと戻るとするか。」
その後リィン達はルーレ市に戻ってこれからの事を話し合い始めた。
~ルーレ市~~
「…………」
「とにかく、何が起きているのか状況を見極める必要があるな。」
「テロリストと貴族派が完全に通じているとしたら……ラインフォルト第一製作所が隠している”何か”の証拠隠滅を図るのが狙いなんだろうが……」
「で、でもそんな事のためにこんな大掛かりな事するかな?たしか、鉄鉱山の所有権は皇帝陛下にあるんだったよね?」
「ええ、それをノルティア州が管理し、ラインフォルトが鉄鉱石の採掘・精製・加工を行ってきた……そして”鉄”はエレボニアにとってなくてはならない資源の筆頭だわ。このままじゃ、貴族派を含めた帝国全体にも打撃があるのに……」
「民の生活にも影響がでるでしょうね……」
「うん……というか、民が一番影響を受けると思うよ。」
エリオットの疑問に重々しい様子を纏って答えたアリサは考え込み、悲痛そうな表情をするセレーネの推測にツーヤは真剣な表情で頷いた。
「そこらへん、貴族派やテロリストがわかってて行動してるかどうかだな。そもそも一枚岩じゃねぇみてえだし。」
「ん……テロリストのメンバーには平民ばかりで貴族はいないみたい。”鉄血宰相”が憎いだけで協力し合っている気がする。」
「ああ、だとしたら今回の件もそれに関係していそうだけど……」
「やれやれ、ちょっとばかり到着するのが遅れたようだね。」
リィン達が話し合っているとなんとサイドカーにジョルジュを乗せたアンゼリカが導力バイクを運転しながらリィン達に近づいてきた。
「アンゼリカさん………!?」
「ジョルジュ部長も……」
「よう、やっぱり来やがったか。」
二人の登場にリィン達が驚いている中、クロウは苦笑しながら二人を見つめた。
「ああ、サイドカーの試運転も兼ねてだけどね。」
「思ったよりも調子がよくて7時間でルーレに到着できたよ。乗り心地に関しては次の課題かな。」
「な、7時間も乗っていたんですか!?」
「よく、事故を起こさなかったですね……」
「ったく、相変わらずマイペースな奴等だぜ。さすがにトワは来なかったか。」
二人の話を聞いたセレーネは驚き、ツーヤは苦笑し、クロウは呆れた表情で呟いた後トワの姿がいない事に気付いた。
「ああ、代わりに各方面の情報収集に当たってくれている。何かあったらリアルタイムでこちらに連絡があるはずさ。」
「そいつは頼もしいな。」
「え、えっと……話が見えないんですけど……」
「どうやら僕達とは別の事情で動いているみたいですが………」
「ひょっとして前に言っていた”気がかり”ですか?」
クロウ達の会話を聞いたエリオットは戸惑いの表情をし、マキアスとリィンはそれぞれ尋ねた。
「ああ、そういう事さ。前から疑っていたが……現実となってしまったようだ。」
「たしか、第一製作所の取締役はアンゼリカさんの……!」
アンゼリカの話を聞いて何かに気付いたアリサは真剣な表情でアンゼリカを見つめ
「ああ、”ハイデル・ログナー”。叔父にあたる人物さ。どうやらお互い、情報交換をした方がよさそうだね。」
「いったん場所を移そうか。」
その後リィン達は場所を移して互いの情報交換を始めた。
「て、鉄鉱石の横流し!?」
アンゼリカ達が持つ情報を聞き終えたアリサは信じられない表情で声を上げた。
「ああ、生産された鉄鋼の量が採掘された鉄鉱石の量に比べて若干少なくなっているらしい。ここ数年の間ずっとだ。」
「鉄鉱石の純度が低下してるなんて理由が報告されているけど……実際の鉱山現場では、鉄鉱石の質の低下は確認されてないみたいだね。」
「……………」
「だとしたら、確かに帳尻が合わなくなってきますね……」
「鉄鋼の横流しじゃなくて鉄鉱石の横流しだったとは………」
「た、確かにちょっと気付かれにくいかも……」
アンゼリカとジョルジュの話を聞いたアリサは信じられない表情で黙り込み、リィンやマキアスは考え込み、エリオットは納得した様子で頷いた。
「やれやれ、そのあたりを全部トワが調べやがったのか?」
「ああ、私のトワだからね。」
「トワ会長がいつから、アンゼリカさんのものになったんですか……」
「アハハ……」
苦笑するクロウの言葉に堂々と答えたアンゼリカの話を聞いて呆れているツーヤを見たセレーネは苦笑し
「フッ、妬いてくれているのかい?麗しき双子の姉妹なら、私はいつでも受け入れるよ?」
「「結構です!!」」
口元に笑みを浮かべて自分達を見つめるアンゼリカの誘いにセレーネとツーヤは同時に答え
「ガックシ……」
二人の答えを聞いたアンゼリカは肩を落とし
「ハハ……―――ラインフォルトの公式資料や政府に提出された産出量の資料まで集めてくれてね。それで突き止められたんだ。」
「凄いな……あの人は。」
ジョルジュの話を聞いてトワの凄さを改めて知ったリィンは驚いた。
「鉄鉱石の横流し……帳尻が合わない鉄鋼生産量……ジョルジュ先輩……!その帳尻が合わない鉄鉱石の量というのはどのくらいになるんですか!?この数年間のものを全て鉄鋼にしたと考えると!」
その時必死に考え込んでいたアリサはジョルジュを見つめて尋ねた。
「そうだな……完全に憶測にはなるけど。少なくとも10万トリム―――主力戦車2000台分になるね。」
「ア、アハツェンが2千台!?」
「そ、そんな量になるんですか!?」
「とてつもない量ですわね……」
ジョルジュの説明を聞いたマキアスとエリオットは信じられない表情をし、セレーネは驚きの表情で呟いた。
「ザクセン鉄鉱山は帝国の屋台骨……採掘される鉄鉱石の量も莫大だ。”やや少ない”といっても数年だとそれだけの量になる。」
「まさに”塵も積もれば山となる”ですね……」
アンゼリカの話を聞いたツーヤは真剣な表情で呟き
「でも、それだけの鉄鉱石を横流ししてどうするの?貴族派が秘密裏に戦車を作っているとか?」
フィーは自分の疑問を口にした。
「ううん、戦車の製造ノウハウは第二製作所しか持っていない……そちらは帝国軍を始め、革新派が牛耳っているから……」
「戦車は様々な技術のカタマリだ。設計図があれば作れるような単純なものじゃないからね。」
「そうすると、他国に売り飛ばして単純に利益を上げやがったか……しかしそれはそれでアシが付きそうだよなぁ。」
「……―――消えた鉄鉱石はともかく。その事実と、今回の事態を受けて先輩方はどう動くつもりですか?」
「あ……」
リィンの問いかけを聞いたアリサは呆け
「―――決まっている。第一製作所の取締役が叔父であり、ノルティア領邦軍が動いている以上、私の実家も無関係じゃないだろう。それに鉄鉱山の鉱員たちは完全に巻き込まれてしまっている……侯爵家の息女として、そんな状況を放っておくわけにはいかないさ。」
アンゼリカは決意の表情で立ち上がった。
「アン……」
「おいおい、親父さんと話を付ける気かよ?」
アンゼリカの様子を見たジョルジュは苦笑し、クロウは目を丸くして尋ねた。
「フフ、父は私の言う事など聞かないさ。領邦軍も同じ―――私が行ってもどうにもならないだろう。―――だったら自分の力でケリを付けてやるまでさ。バイトで働いた事もあるから鉱山内部は知り尽くしている。侵入経路さえ見つかればテロリストも何とかできるだろう。」
「はあ……やっぱりそうなるか。」
「ったく、相変わらずだな。」
アンゼリカの話を聞いたジョルジュは溜息を吐き、クロウは苦笑した。するとその時互いの顔を見合わせて頷いたリィン達はアンゼリカに申し出た。
「―――だったら是非、俺達も協力させてください。」
「突発的な事態に対してどう主体的に振舞えるか……これも特別実習の活動の範囲内でしょう。」
「さすがに放っておけません!」
「だね。」
「貴族とか平民とか関係なく”人”として鉱員の皆さんを助けたいです!」
「……あたしもセレーネと一緒の意見です。どうかあたし達も協力させてください。」
「アンゼリカさんと同様……私にとっても、実家が絡む以上、決して無関係じゃありません!」
「―――ありがとう。実はちょっと期待していた。協力してくれると助かるよ。」
リィン達の協力の申し出を聞いたアンゼリカは静かな表情で頷き
「やれやれ、しゃあねぇか。」
クロウは苦笑しながら呟いた。
「すると、領邦軍の裏をかいて鉱山内に侵入する必要があるね。アンなら、領邦軍の責任者と話をするくらいはできそうだけど。」
「その隙にわたしたちが鉱山に忍び込むとか?」
「うーん、さすがにちょっと難しそうな気がするけど……」
「―――鉱山に入る手立ては私に任せてください。多分、私の母が何らかの”鍵”を握っていると思います。」
鉱山の侵入方法についてそれぞれが悩んでいるとアリサが申し出た。
「な、なんだって?」
「イリーナ会長が………」
「わかった。そちらはアリサ君に任せるよ。私の方は実家と領邦軍に改めて探りを入れておこう。ジョルジュ、君はトワと連絡して帝国政府の動きを探ってくれ。」
「了解―――それと使えそうな機器とかも調達しておくよ。」
「ハハ、何だか去年の実習みたいになってきたな。」
「……あたしはレンさんに何か知っていないか、聞いてみます。正直、レンさんに頼るのは後が怖いのですが……そうも言ってられない状況です。レンさんなら必ず何かを掴んでいるでしょうし、直接会いに行って聞いてみます。さすがにあたしが相手なら護衛の兵士達も通してくれるでしょう。」
「ツーヤ……」
「わかった。よろしく頼む。」
「わたくしもご一緒します、お姉様!」
こうして、リィン達Ⅶ組A班はアンゼリカ達と共同戦線を張る事となり……アンゼリカ達とツーヤとセレーネと一旦別れたリィン達は鉄鉱山侵入の手がかりを求めイリーナ会長に会いに行く事にした。
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