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変装の果てに

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1部分:第一章


第一章

                       変装の果てに
 川西竜蔵の職業は奇術師である。様々なマジックを見せてそれで生きている。
 そしてその他にはだ。変装も趣味にしている。
 そちらは只の趣味だがそれでもだ。かなり有名になっていた。
「へえ、誰にも?」
「誰にも化けられるって?」
「そりゃ凄いな」
 ネットでも巷でもそのことが話題になっていた。
「顔をそっくりにか」
「しかも姿形も」
「そっくりそのまま化けられるって?」
「二十面相みたいだな」
 伝説の怪盗の名前も出て来た。
「それかアルセーヌ=ルパンだな」
「その孫かもな」 
 これまた怪盗であった。
「そんな凄い人なのか」
「変装が得意だっていうのか」
「一度見てみたいな」
「そうだよな」
 こうした流れになるのも当然だった。
「じゃあ俺にも変装できるかな」
「私にも」
「若しできるんなら」
「見てみたいわね」
 こうしてだった。多くの人が彼がいる街に向かった。彼は九州の博多にいる。大道芸の盛んなこの街でだ。奇術を見せていたのだ。
 その奇術を見て誰もが驚く。見事なマジックだった。
 しかしだ。今はであった。
 その彼のもう一つの才能を見る為にだ。誰もが集まっていた。
 一見すると平凡な顔立ちである。銀縁眼鏡に扁平な顔、髪は黒く七三分けにしている。本当に何処にもいそうな顔をしている。
 背は一七三程度でひょろりとした感じだ。とてもそんな物凄いことをしそうには見えない。
 だが今は違っていた。誰もが期待に目を輝かせてだ。彼に言うのだった。
「それでなんですが」
「あの、変装」
「できます?」
「よかったら」
「ああ、いいですよ」
 気さくな態度で言葉を返す彼だった。
「変装ですね」
「はい、それです」
「できますか?」
「すぐに」
 できるというのであった。
「何でしたら今ここで」
「うわ、もうなんですか」
「そんなに楽に」
「これがありますから」
 言いながらバイオリンケースを出してきた。黒い只のケースである。皆そのケースを見ておおよそのことに察しをつけたのであった。
「ああ、その中にですか」
「メイクの道具が入ってるんですね」
「はい、そうです」
 まさにその通りだった。本人も答える。
「これを使いますから」
「それで変装を」
「今から」
「ではいいですね」
「ええ、それでは」
 そしてだった。バイオリンケースを開いてだ。前にいた一人の若者に尋ねた。
「貴方でいいでしょうか」
「あっ、俺ですね」
「はい、貴方です」
 まさに彼だというのだ。
「貴方に変装させてもらいますね」
「じゃあ御願いします」
 若者も笑顔で応えた。
「そっくりに」
「鏡みたいでいいですよね」
 竜蔵からの言葉である。
「そんな感じで」
「できます?そこまで」
「できなければです」
 その場合のことをだ。自分から話すのだった。
 
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