目薬
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5部分:第五章
第五章
「飲むのならわかりますけれど」
「何処かのネコ型ロボットの目薬みたいですね」
「あれは消えるけれどこの目薬は方言を引き出すのよ」
佐野はそうだと話すのだった。
「けれど引き出されるのは方言だけかしら」
「っていいますと」
「他にもありますか?」
「何かあれじゃないかしら」
佐野は真面目な顔で二人に対して話してきた。
「方言を一緒に自分も出してるみたいな」
「ありのままの自分をですか」
「それをなんですね」
「ええ、それよ」
まさにそれだというのである。
「私も広島弁を話すのと一緒に自分も出してる感じになってたし」
「そういえば私も」
「俺も」
二人はそれを聞いてまた述べた。
「開放感ありました」
「不思議と」
「多分この目薬は方言を引き出させるだけよ」
佐野は今度はその目薬を右手の親指と人差し指に持って見ながら話している。
「ただそれだけだけれど」
「けれど故郷の言葉を話しているとですか」
「開放感が出てありのままの自分を出せる」
「そういうことよ。地元の言葉は大きいわ」
佐野は強い顔で頷いていた。
「例えば私の大好きな食べ物はね」
「牡蠣料理ですね」
「それとお好み焼きですね」
「ええ、そうよ」
やはりそれであった。当然お好み焼きは広島のものである。
「あと野球はカープね」
「ええと、二十年近く優勝してませんよね」
「確か」
「その話はなしね」
カープの優勝の話はすぐに強引に打ち消させた。表情も強張っている。
「言っておくけれどね」
「わかりました」
「楽天もそうですし」
響も何気に自分の贔屓の球団の話をする。そして麻里子もだった。
「ソフトバンクも最近優勝できてませんし」
「そうよね。部長だってね」
「阪神がどうかしたかい?」
ここで都合よく部長も出て来た。
「全く。憎むべき巨人を百年連続で成敗しないと優勝した気にならないからね」
「広島に負けてもいいんですね」
佐野はさりげなく広島の話を出した。
「それは」
「阪神ファンは巨人以外には寛容なんだよ」
部長は笑いながら話した。
「例え日本シリーズに負けてもね」
「すいません」
「ははは、謝ったら駄目だよ」
すぐに麻里子に返す部長だった。かつてホークスに日本シリーズで負けたことを話しているのである。
「勝敗は常じゃないか」
「けれど相手が巨人なら」
「その時は別だよ」
響に対しても言う。
「巨人は日本人の敵だよ」
「そうですよね、それは確かに」
「俺も巨人は嫌いですし」
麻里子も響も巨人については部長と同じ考えであった。二人もまた巨人については尋常ではない、しかし日本人として当然持たなければならない敵対心を持っているのである。巨人は北朝鮮と並ぶ日本の敵である。
「小久保の怨みがありますから」
「楽天も安心できませんしね、巨人の金には」
こう話しているとだった。佐野も加わってきた。
「全くよ。巨人はね」
「チーフもやっぱり」
「アンチ巨人ですか」
「広島で巨人を応援すればそれだけで死ねるわよ」
最早断言であった。
「江田島から呉まで泳いでもらうわ」
「鮫がいてもですね」
「そうよ」
ここでも断言だった。
「その場合はね」
「巨人は敵」
「まさにそうですか」
「まあ関西でも同じだけれどね」
麻里子と響だけでなく部長も言ってきた。
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