ダイエットは一苦労
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3部分:第三章
第三章
だが三日目から祥子は弱音をあげはじめた。
「うう・・・・・・」
楽屋でも料理雑誌等を見て泣きそうな顔になっていた。
「お肉食べたい・・・・・・」
焼肉のところを見てそう唸っていた。
「それにタレたっぷりとつけて」
「お肉ならさっき食べたじゃない」
岩崎さんも楽屋にいた。そこで祥子に言う。
「それもかなり」
「だってあれササミだもん」
だが祥子は泣きそうなうえに弱々しい口でそう述べた。
「やっぱりお肉っていったら牛肉だから。もうお肉が食べたいよお」
「お腹一杯なのね」
「それでも」
本当に泣きそうになっていた。
「祥子お肉食べたい。ラーメンも食べたい」
実はラーメンも制限されているのである。恭子はいつもラーメンとなれば二杯も三杯も食べるからである。とにかくやたらと食べるのである。育ち盛りという限界を越えて。
「お腹空いたよお」
「だからそういう時はね」
ミネラルウォーターと蒟蒻ゼリーが差し出される。しかし。
「ケーキ食べたいよお」
そう言って受け取ろうとしない。投げ捨てたりしないのは流石だが。
「お腹空いたよお。やっぱりお肉にケーキが」
「ううん」
岩崎さんも弱ってしまった。こうなっては無理強いは出来ない。ダイエットはやはり辛いものだ。それがわかっているからこそであった。
だがここで思わぬ救世主がやって来た。突如楽屋の扉が開き部屋が真っ暗になった。
「馬鹿野郎!」
その扉から後光が指している。そこに女の人のシルエットがあった。
「桐沢!弱音を吐くんじゃないよ!」
「なっ!」
「あ、貴女は・・・・・・」
そのシルエットを見て岩崎さんも祥子も思わず固まってしまった。二人の事務所なら知らぬ者はないとまで謳われるあの人物だったからだ。
「トッコさん!」
祥子が思わず言った。事務所の大ボスとも呼ばれる浅生淑子と思われたからだ。
「トッコさんじゃねえ!」
だがそれはすぐに否定された。
「ええ、けど」
「どう見ても」
「あたしはトッコさんじゃねえ!」
本人はあくまでそう主張する。
「某大型歌手Aさんだ!」
「はっ!?」
岩崎さんはそれを聞いて思わず目が点になってしまった。
「あの、その」
そのうえで言う。
「そのですね」
「何だ!?」
「その某大型歌手Aさんがどういった御用件でこちらに」
「決まってるだろ!桐沢!」
「は、はい」
祥子は唖然としたままであったが彼女の言葉に応えた。
「何そんなに泣き言言ってるんだ!女だろ!」
彼女は祥子に対して言ってきた。
「女は何だ!」
「度胸です」
祥子はいつも彼女に言われていることを今答えた。
「そうだ!そして!?」
「女は意地です!」
答えが毅然としてきた。これは事務所の方針でタレントは常に度胸と意地を以って仕事に挑むべしとあるのだ。恭子もそれははっきりとわかっていた。
「そうだ、意地なんだよ」
そのA氏は言う。
「意地を見せるんだ、いいね!」
「ここでですね」
「そうだよ。泣き言なんてな、何時でも言えるんだ」
首を縦に動かしながら言う。
「けれどな、意地を張るっていうのはここぞって時にしかできないんだよ。そして意地を張らなくちゃいけない時に意地を張らないと」
「女じゃない」
「そういうことだ。わかってるじゃないか」
A氏の声が笑っているのがわかる。だが生憎顔は見えはしない。
「じゃあ覚悟はできたね」
「はい」
祥子はその言葉に頷いた。声にももう迷いはない。
「そういうことだよ。じゃあできるね」
「はい、ダイエットを」
「頑張りな。ファンがあんたの水着姿を待ってるよ」
そこまで言うとその某大型歌手は何処へと姿を消してしまった。何か嵐の様に現われて疾風の様に立ち去ってしまった。そんな感じであった。
「・・・・・・あのさ」
岩崎さんは呆然としながらも恭子に声をかけてきた。何かいきなりのことであったので何と言っていいのかわかりかねていたのだ。
「祥子ちゃん」
「トッコさん、わかりました」
だが祥子にはもう迷いはなかった。
「祥子やります、そしてずっと残るグラビアにしてみせます」
「ううん」
そんな彼女を見て首を傾げてしまっていた。だがそれでも悪い気はしなかった。むしろこれでいいことになったとすら思った。彼女の心が決まったからである。
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