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お寺の怪

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4部分:第四章


第四章

「蛇がいてもおかしくはないわね」
「そうですね」
 ラーマもそれを考えていて不安げな顔になる。
「それは確かに」
「蠍とかも」
「蠍もですか」
「けれどどっちもいる危険あるでしょ」
「あるどころかかなりですよ」
 ラーマは蛇だの蠍だのといったところで顔を強張らせてしまっていた。怯えているのがはっきりとわかる。何しろここは暑いタイなのだから。蛇や蠍も多いのだ。
「それは気をつけないといけませんね」
「それでも入る?」
「入るつもりですよね」
「ええ、そのつもりよ」
 しかしそれでも勝矢の決意は変わらないのだった。蛇だの蠍だのを聞いても。
「ここまで来てね」
「わかりました。それじゃあ」
「ただ。幾ら何でもあれね」
 ここで勝矢は言ってきた。
「はい」
「正面から行ったら駄目ね」
 こう言うのであった。
「正面から行ったらそれこそ」
「噛んでくれだの刺してくれだの言っているようなものですからね」
「確実に死ぬわね」
「はい、毒で」
 そう言いながら正面を見る。即ちそこは寺の正門だがそこは一面草が生い茂っている。そういう場所にこそ蛇だの蠍だのがいるのだ。それを考えると虎の穴と変わらないのだった。
「何処か道を探しましょう」
「わかりました。それじゃあ」
「お寺の周りを探してね」
 こうラーマに提案してきた。
「それで行きましょう」
「ええ。それにしてもあれですね」
「あれって?」
「幽霊と同じ位危ないんですね」
「そうね、蛇に蠍だから」
 またそれを言う。
「確実に死ぬわよ」
「血清あっても危ないですよ」
「わかってるわ」
 それがわかっているからこそ警戒しているのである。
「キングコブラなんかいたらそれこそ」
「あれに噛まれて助かった人って一人しかいないんですよ」
「らしいわね」
 毒が強いだけでなくその毒の量もかなり多いからだ。伊達にキングコブラと言われているわけではない。実はかなり大型の蛇でもあるのだ。その助かった例にしろ夥しい量の血清を使っている。なおこの恐ろしい毒蛇は言うまでもなくタイにも生息している。だから二人は気をつけているのだ。
「ですから余計に」
「骨が折れるけれどね」
「骨が折れても命があればいいんですよ」
 ラーマは実に率直に述べた。
「ですから」
「そういうことね。それじゃあ」
「ええ、探しましょう」
 こうして二人で安全な道を探すことにした。程なくしてお寺の裏手に抜け道があった。そこから入られるようになっていたのであった。見つけたのはラーマであった。
「ここからなら大丈夫ですよ」
「蛇も蠍もいないわね」
「はい、ほら」
 勝矢をその抜け道に案内していた。見ればそこはわりかし広い通り道になっていた。そこだけ草がないのだ。それが寺の建物のまで続いていたのである。
「あそこを通っていけば」
「安心して行けるわね」
「少なくとも今のところ道には蛇も蠍もいませんし」
「そうね。ただ」
「ただ?」
「出て来る可能性はあるわね」
 そう言ってまた警戒する目になる勝矢だった。
「横から」
「じゃあどうしますか?」
「棒を持って行きましょう」
 ラーマに提案する。
「道に蛇や蠍がいたらそれで横に払うのよ。どうかしら」
「それはいいですね」
 ラーマもそれに賛成して頷いた。
「それだと安全に蛇や蠍をどけることができますね」
「そういうことよ。それじゃあ」
「はい」
 こうして二人は棒を持って来て前や横を警戒しながらお寺へ進んだ。お寺の中に入ると次第に何やら声が聞こえてきたのであった。
「いるわね」
「噂は本当だったんですね」
 ラーマはそれがわかって顔を青くさせてしまった。そのうえでまた言う。
「正直帰りたいですよ」
「ここまで来てそれはないでしょ」
「いや、それでもですよ」
 泣きそうな顔でまた言う。
「噂じゃなくて本当にいたんですから」
「よかったじゃない。本当にいて」
「頭からバリバリと食べられたらどうするんですか」
「大丈夫よ。ほら」
 彼を安心させる為かここであるものを出してきた。それは青紫の布地に銀色の刺繍がしてあり糸紐で結ばれた巾着であった。中央には何やら書いてある。ラーマはそれを見てまずは目をしばたかせた。
「これ、何ですか?」
「御守りよ」
「御守り!?」
「日本のお寺や神社で売ってるのよ。魔除けよ」
「ああ、それですか」
「それ付けていれば安心できるわ」
 こう言ってまた彼に差し出してきた。
「あたしはもう一つ付けているから。さあ」
「日本のですか」
「そうよ」
 またラーマに答える。
「当たり前じゃない。あたしは日本から来たんだから」
「そうですよね。まあ確かに」
「さっ、あげるわ」
 彼に直接手渡した。その手に握らせる。
「これで大丈夫よ」
「わかりました。じゃあ頂きます」
「わかったら。行くわよ」
「有り難うございます。これ勝矢さんも同じもの持ってるんですよね」
「これよ」
 自分の胸にかけてあるそれをシャツから出して彼に見せた。
「ちゃんとあるから。安心してね」
「ええ。それにしても」
「今度はどうしたの?」
「この声ですけれどね」
 今も寺の中から聞こえてくるその声について述べてきた。
「噂とは違いますね」
「違うの」
「これはお経ですよ」
 こう勝矢に述べる。
 
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