とある地下の暗密組織(フォートレス)
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第1話
ep.010 『赤く染まる幼い少女編 8』 完結
と、結局シーちゃんは何処に行ったんだろう。
とりあえず、数枚入りの食パンを袋ごと手に取り、部屋に戻ろう。
ガチャッ
(またか。)
立ち止まり、今度は誰だと振り返る。
「あ。 叶(かな)お兄ちゃんだ!」
少女の声、いつか聞いた間違い方が少しながらイラッと来る。
まだ痛みの残っている右耳含め、頭をまるまる掴むようにして少女は抱き着いてきた。
ここで思い出してほしい。彼女は『シ 296』と自らを言ったことを。つまり何が言いたいかというと、彼女は恐らくあの『シ 302』と名乗った立前さん同様に何処かに機械の要素があるかもしれないのだ。
彼女がその小さな腕で俺の頭を絞める情景は、彼女の素性を知っている人物から見ればガチムチな男が片手でリンゴを握る感覚に似ているのかもしれない。
この様な比喩を入れた訳は、そろそろ気づいてくれただろうか。つまり、彼女は首の付け根から手首までを疑似関節が占めているのだ。要するに、彼女の腕力は軽く50トン程重量のある戦車を動かす力を持つエンジン(約1200馬力)にも達しているそうだ。
もう一度、頭蓋骨にひびが言ったような感じがした。
「ただいま、お兄ちゃん!」
小さく幼い彼女は、おそらく朝(地下には概念しかないが)の散歩にでも行っていたのだろう。何はともあれ、無事でいてよかった。
「彼女、『シ 296』のお預かりに来ました。学園都市のものです。」
苦笑いに似た微笑みをする自称学園都市の使い。
「おい。」
やはり、この男の不審さが引っかかる。
「この子をまるで物みたいに言うな。この子には心と命があるんだからよ。」
頭をポンと撫でてやりながら夢絶が言う。だがそれはこの子の為でなく自分のため、この子でなくまた違う人のために言っている。それは自覚していた。
彼女も命だ、物じゃない。
その事だけは言っておきたいのだ。
「あと、初対面だから信用が持てない。あんたの名刺と確実に学園都市の人間だと判る物を見せてくれ。」
立ち話もなんだと、会議室にシーちゃんも連れて入る。
恐らく常日頃変わることが無いのだろう、この男は笑っている。そんな気がする。
「あぁ~、これはすいません。私、こう言う者です。」
名刺に加え、暗号化もされている中央タワーのカードキーを見せてきた。このカードキーの情報レベルは3。
中央タワーから地上につながるエレベーターを使用できるレベルのカードキーであることは分かる。つまりこの人物は地上と地下を自由に行き来できる権利を持っていることになる。
「分かった、信用しよう。だが、ここにいる以上叶世の、『fortress』のリーダーが見送る責任がある。それまではここにいてもらうが、いいな?」
「分かっていますよ。」
「まあ、その後も地上まで俺が護衛するがな。」
そう自信ありげに言う。
「そうですか。それは助かります。」
一礼。そんな事分かりきっているだろう。ここは地下。箇条があるとはいえ、油断はできず、安全性が高いからと言って安心が出来ない。不良なんて探さなくてもいて、一部は街全体が不良なところさえあるのだ。
数分後。
「なんだ、夢絶。学園都市の人間か?」
来た。叶世だ。
「ああ、そうだ。お前の承諾さえあれば、もう俺が同行する準備までできてる。」
席を立ち、
「ああ、私h
「ああ、もう事情は分かっている。ここでいちいち説明されるのも時間の無駄だ。後はそこの『やらない夫』にでも頼んどけ。」
「よしじゃあ行くぞ。」
そう言って、夢絶は席を立つ。
目的区を出て、支配区へ。
移動と言っても、何も変わりない廊下と階段をただただ歩くだけ。何があるという訳でも無く、知り合いがいる訳でも無い。
だが、途中で会った恐らく地上の学生が気になる電話をしていた。
「やあ、久しぶりだね。うん、今は何処で生活しているんだい?」
少しの間。
「へぇ~。今は地上にいるんだ。アンドロイドの制作の手伝い? いや君は人間の構造しか知らないと思っていたからだよ。」
支配区、中央タワー前。
見上げると地上まで続く長く大きい円柱状の一部に鉄骨などで補強されてあるところがある。よく見ると大きな穴が開いており、まるで砲弾でも受けたようだ。
「よし、あと少しだな。」
気を引き締め、中に入る。
中央タワー1階。ロビーになっており非常用階段。低階層用のエスカレーター、地上までの各階層用のエレベーターがその奥に並んでいる。
ロビーを横目に奥へ。いつもながら満員な訳でも無く、かといって空いている訳でもない。
エレベーターに着く。シーちゃんがジャンプをして、少し高い位置にあるエレベーターのボタンを押す。
扉の上。結構上の階層に留まっていたエレベーターの光がだんだん左へ、ゆっくりと移動していく。
着いた。扉が開くとシーちゃんは真っ先にエレベーターに入る。が、どうやら中に人がいたらしく、シーちゃんは白衣に包まれた。
「うおぉっと、危ないよぉ。」
白髪の仙人のような髭の老人が言う。
シーちゃんの肩を掴み、一度こちらに引っ張りながら
「すまない。」
と、老人の開いているのか分からないような目を見る。
「いやいや、いいんじゃよぉ。」
にっこりと優しい笑顔だけをした老人はそのまま立ち去った。
(よくわからんジジィだな。)
最後、立ち去るときにじいさんはシーちゃんを見ていた、気がする。いた訳ではないが、なにか冷たい視線をじいさんの方から感じたのだ。俺でなく、この子に向けて。
「ここからはもう私ひとりで行けますよ。」
そう言いながら彼女の背中を押す。
「いや。」
おい待てと、その背を押す腕をつかむ。少しだけ強く威嚇する様に。
「なんでしょうか。ここからはもう安全でしょう?」
その言葉に対して握った手を離し、後頭部をさする程度にかきながら。
「いちいちさぁ、そういうフラグめいたこと言うな。これで俺が行くのが確定しちまっただろうがっ。」
「はぁー。」
エレベーター。階層のボタンは100以上あり俺らが押すのは一番上の階。このタワー上にもこじんまりとしたビルがあるが、そこに地下の階層のボタンをまんま取り付けているというのは不自然だろう。
だから、地上は地下の存在をある程度守るためにこのような対処をとっているのだ。
扉が閉まる。
ガタッと動き出したエレベーターは途中止まる事無くだんだんと加速していき、地上に行く。
「お兄ちゃん。私今度は何処に行くんだろうね。」
他人事のような言葉を思い詰めているこの子は、その幼い容姿からは感じられないような大人びた気持ちが漏れていた。
「まあ、安心しろ。せめてもう実験されないようには俺も力を尽くす。」
この光景を隣で見ている彼はどんな気分だろう。視界に入る限りだと、少し冷めたような目をしている。
「お前はお前なりに人間になればいい。たとえその身体がどうなろうとも感情とか、表情は人間でいられるんだ。もうお前から人間じゃない部分を増やさせはしない。」
この場にいない誰かに言う。彼女に言って彼女に向けて行っていないその言葉を、夢絶はその場にいない彼女に向けて誓う。
ポーン。
最上階。約3kmの距離をただのエレベーターで上って来たのだ。少し気分が悪い。
扉開き、地上。と言ってもまだ青空やそれを隠すビルが見えている訳ではない。
「おい。お前学園都市の人間だろ? エレベーターで酔ってどうする?」
夢絶は言う。
「いえいえ、私もこの役職に就いたのはつい2ヵ月前でして、まだまだ慣れないことばかりですよ。」
口と下腹部を両手を使い抑えながら言われたらさすがに説得力を感じるが、とりあえずはトイレに行ってもらおう。
「す、すいません。すぐに戻りますので、待っていてください。」
そう言い彼はトイレに駆け込む。
「お、そうだ!」
「? どうしたの、叶おにいちゃん?」
夢絶はポケットに手を突っ込む。
「ほいこれ、お守りだ。」
そう言って取り出したのは火の玉のような形をした金の枠に、赤と青と緑が入り混じったビー玉の様なものがはまっているネックレスだった。
「わぁ~。お兄ちゃんからのプレゼントだぁ~!」
どうやら気に入ってくれたみたいだな。これさえあれば、この子も安心だ。たとえ何処にいても。
「もしもの事があったら、その玉を握りしめるんだ。いつか使うときが来るだろう、その時にその玉を絶対に使うんだぞ。」
戻り、
「さ、さて第1学区に行きましょうか。」
「いや、ここまででいいだろう。俺はここまでだ。」
地上にさえ来れば、安心できる。地下の危険さから考えて付いてきたというだけだ。今はそういう事にしよう。
それに、この子にもし何かがあっても、俺の渡したあのネックレスがきっと助けてくれる。
「じゃ、俺はここでバイバイだ。」
彼女が此方を向く。それまでに見た事の無い寂しそうな顔、俺はそれまでに彼女に見せたことの無いような笑顔を見せる。やったことの無い事だ、おそらく頬を思いっきり引きつっていたと思う。
「では、ここまでですね。『シ 296』さん、行きましょう。」
あいつは恐らく何もわかっていない。でも、俺のしてほしいことは分かってくれている。
俺は振り返り、エレベーターの『開』を押す。
帰ってゲームでもするか。 終
後書き
フェニックスさん及び、私『観測者』復活!
すいません、話は書いていたのですが、深夜ぐらいにしか書く機会がなく、そのまま寝落ち→PCがスタンバイ状態→昨晩の進行状況を保存せずにウィンドウを閉じるっていうのが何度か起きていました。
それで少し進める気力が失われそのまま少しして、フェニックスさんから『パスワード忘れた。』って連絡があってから再開して、今日になります。
もう少し進行早めれると思うんで、頑張りますね。皆さんの感想なども聞きたいですしおすし。
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