Blue Rose
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第九話 戸惑う心その九
「いないだろうな」
「そうなんだね」
「ああ、若し優花が結婚したらな」
笑ってだ、龍馬はこの時は何も考えるに言った。
「いい奥さんになるな」
「奥さん、なんだ」
その龍馬の何気ない言葉にだ、優花は。
顔をこれまで以上に曇らせてだ、こう言ったのだった。
「僕は」
「どうしたんだ?」
「いや、何でもないけれど」
「そうか」
「うん、ちょっとね」
「ちょっとって何だよ」
「何でもないから」
ここから先は言わなかった、何があってもと心の中で思いながら。
「気にしないで」
「それじゃあな」
「けれど。リュウグウノツカイなんて」
優花は何とかこちらに話を向けた。
「本当に珍しいね」
「俺も見て驚いたよ」
「そうだよね、その目で見るなんてね」
「奇跡みたいなものだよな」
「うん、珍魚だからね」
「珍魚の中の珍魚か」
「そう言ってもいいね」
実際にというのだ。
「あのお魚は」
「それを見られたのは運がいいか」
「そう思うけれど」
「出て来たら海が荒れるか」
「そう言われてるお魚だからね」
「あまりよくない前兆か?」
そのリュウグウノツカイを見たことをとだ、龍馬は言った。
「折角見たけれどな」
「そうかも知れないね」
「やっぱりそうか」
「俗に言われてる限りではね」
その海面に出て来ると海が荒れるということがだ。
「そうなるね」
「そうか、海が荒れるか」
「気をつけないとね」
「海が荒れると何かとな」
「地震とか」
不意にだ、優花は最悪の災害を思い浮かべた。阪神大震災は経験していない年齢だがそれでも話は聞いているから思い浮かべてしまったのだ。
「それと津波とか」
「あるからな」
「嵐は何時でもあるしね」
「台風でなくてもね」
「海が荒れる理由は幾らでもあるね」
「そうだな、それこそな」
「だからね」
優花はこのことについても眉を曇らせていた。
「何があるか」
「不安だな」
「そこはな」
「うん、本当にね」
「そうだな、ちょっと海には近寄らない方がいいか」
「その時はね」
「天気予報も見てな」
こうも言った龍馬だった。
「それにいつもな」
「傘は用意してね」
「備えておくか」
「それがいいよ」
こうしたことを話してだった、そのうえで。
優花はその後の学校での生活も送った、部活も何とか出たが。
家に帰ってだ、彼は疲れきった顔で夕食の時姉に言った。
「今日は簡単なお料理にしたよ」
「そうね、冷凍食品ね」
「うん」
見ればロールキャベツと餃子だ。それに簡単なスープである。
「気力がなくて」
「というか学校出てお料理しただけでも」
優子は俯いている弟に言った。
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