真田十勇士
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巻ノ四十 加賀の道その十
「天下人じゃ」
「天下人ならですな」
「それだけの器がある」
「だからですな」
「そうした小さいことはされぬ」
「そういうことですな」
「そうであろうな」
幸村は今度は確かな声で言った。
「やはり」
「ですか、だからですか」
「関白様は何もされませぬか」
「ここでは」
「そうした小さなことは」
「おそらく直接じゃ」
秀吉自らというのだ。
「直江殿に声をかけられてきてな」
「そのうえで誘いをかけられる」
「そうされますか」
「天下無双の人たらし」
幸村は秀吉のこの仇名も言った。
「そのお名に相応しいことをされるだろう」
「では、ですか」
「あの方はですか」
「直江殿に直接声をかけられ」
「そして殿にも」
「そうされてきますか」
「そうであろう、拙者をじゃ」
幸村はその自分自身のことも話した。
「直接お声をかけられたうえでな」
「羽柴家に迎えられ」
「家臣とされる」
「そのおつもりですか」
「わしは知っての通り次男」
その真田家のだ。
「家には兄上がおられる」
「だからですな」
「羽柴家にも迎えられるにもですか」
「特に困ったことはない」
「それで、ですか」
「父上と兄上がおられる」
その真田家にだ。
「それで、ですか」
「殿はですか」
「あの方に意識されていて」
「真田家から羽柴家に」
「そうされるおつもりですか」
「そうであろうな、それも拙者に出すものは」
それはというと。
「大名の地位と万石じゃ」
「大名、ですか」
「それも万石ですか」
十勇士達はその二つを聞いて思わず声をあげた。
「その二つはまた」
「かなりですな」
「殿が大名とは」
「それも万石とは」
「凄いですな」
「それだけのものを用意されてこられますか」
「そうであろうな」
そのうえで幸村を誘うだろうというのだ。
「あの方は。しかしな」
「それでもですな」
「もう殿のお心は決まっていますな」
「既に」
「そうですな」
「そうじゃ、拙者は地位も石高も興味がない」
そのどちらもというのだ。
「別にな」
「ですな、殿は義ですな」
「あくまで義を求められるが故に」
「それ故に」
「そうしたものにもですな」
「興味がない、そして真田家の者じゃ」
また言った幸村だった。
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