英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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外伝~トールズ士官学院・理事会~
9月15日―――
”帝国解放戦線”によるクロスベル、ガレリア要塞襲撃を防いでから半月―――帝国内の空気は不穏さを増す一方だった。
帝国政府は『テロリスト対策』の名目で鉄道憲兵隊の哨戒を大幅に強化しており……貴族派もまた、テロリストに備える名目で領邦軍の軍備を増強し、幾つもの『猟兵団』を莫大なミラで雇ったという噂も流れていた。
いずれにせよ―――焦点となるのはテロ組織”帝国解放戦線”だった。共和国のテロ組織と協力する形で、クロスベルでの通商会議を襲撃し……あろう事かガレリア要塞を襲って”列車砲”を発射しようとする。もはや”単なる革命家気取り”の集団では無い事が明らかだった。
そして、プリネ皇女がテロリストから回収した書状から……カイエン公爵だけでなく貴族派自体が”帝国解放戦線”を支援しているのではないかという噂まで流れ始めているのだった。
一方―――通商会議が開かれていたクロスベル自治州でも動きがあった。クロスベル警備隊、警察上層部である”六銃士”達による暗躍を目論見たエレボニア、カルバードの二大国に対する大反撃をしたどころか、メンフィルを含めた3大国に従属している現状を打破するために”独立国家”として独立する―――そんな宣言を、自治州代表の一人であるディーター・クロイス市長が会議の場で大胆にも行ったのである。
当然、帝国政府はもちろん、貴族派も『非現実的な妄言』として一顧だにしなかったが……帝国の内外において、これまで以上に緊張が高まりつつあるのも確かだった。
そんな秋晴れの午後……本年度初めてとなる『トールズ士官学院・理事会』が本校舎の会議室で開かれていた。
~トールズ士官学院・会議室~
「―――以上を持ちまして本年度・前期課程における運営報告を終わります。」
「――成程、各種行事など運営面は問題なさそうですな。他の士官学校や高等学校と比べても学力・成績に関しては上回っている。」
「2年生も負けていませんね。生徒会長を務めている女子など成績以外の活動も目覚ましい。」
ヴァンダイク学院長の報告を聞き終えたレーグニッツ知事は頷き、ルーファスも頷いた後目を閉じ
「フフ、先日の通商会議では勉強も兼ねて随行団に参加していたが本職の書記官顔負けの働きだったそうだ。……まあ、通商会議そのものはあんな幕切れに終わってしまったが。」
オリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべて答えた後重々しい様子を纏った。
「そうですね……私共のグループも株価が乱落下していますし。」
「帝国経済にとっても由々しき問題ではありますね。」
イリーナ会長の話にレーグニッツ知事は頷き
「帝国だけでなく、西ゼムリア大陸全土の経済の問題であろう。メンフィルもあの宣言によって、少々影響が出始めている。」
「確かにそうですな。クロスベルは世界経済の中心部の一部と言ってもおかしくない場所ですから、両帝国だけでなくカルバードやリベール、レミフェリアにとっても他人事ではないでしょうな。」
リウイの意見にルーファスは重々しい様子を纏って頷いた。
「ところで―――先日の実力考査ですが、Ⅰ組・Ⅱ組の成績が下がっているのはいささか気になりますな。やはり貴族生徒に対する優遇措置が仇となっているのではないでしょうか?」
その時レーグニッツ知事は周囲の人物達を見回して意見をし
「8月中、貴族生徒にのみ将来の領地運営を学ばせるため故郷への帰省を許可する……トールズの伝統ではあるんだが今の時代には少々そぐわないかな?」
レーグニッツ知事の意見に対してオリヴァルト皇子は困った表情で問いかけた。
「お言葉ですが、そもそも伝統とは保たれることに価値があります。文化、芸術、そして身分制度……帝国を帝国たらしめている伝統はやはり守られるべきものでしょう。本学院がドライケルス大帝の理念を受け継いでいるのと同じように。」
するとその時ルーファスがレーグニッツ知事を見つめて反論した。
「だが、大帝は身分に囚われない自由な士官学校を設立することに拘っていたとも聞いている。だからこそ、貴族男子が大多数を占めていた二百年前でさえ、平民男子の入学も許されていた……今では、女子の入学も認められ、平民生徒の数は貴族生徒を大幅に上回っているのが現状です。今こそ我々は、大帝の真の理念を実現すべきではないでしょうか?」
「否―――その当時、平民男子の入学が許されたのはあくまで”従士”としてです。従士は騎士に従い、騎士は領主に仕え、そして領主たちが戴くのは皇帝であるエレボニアの伝統。士官学院の編成は、その秩序を体現していたと言えましょう。―――ならば今、その秩序こそが歪められていると解釈すべきではありませんか?」
「む……」
「やれやれ、本当にそうならば私も楽に意見を通せるのだが……あなた方ときたら揃いも揃って手厳しいことこの上ないと来ている。そのあたりも大帝の頃の伝統に引き戻して欲しいものだね。」
互いに睨みあって主張をぶつけるルーファスとレーグニッツ知事の様子を見たオリヴァルト皇子は呆れた表情で指摘した。
「ふふ……」
「確かにその通りだな。」
オリヴァルト皇子の指摘を聞いたイリーナ会長は微笑み、リウイは静かな笑みを浮かべて頷き
「……これは一本取られました。」
「理事長のご意見を検討し、実現に向けて繰り上げるのは我々の役目でもありますから。」
ルーファスとレーグニッツ知事もそれぞれ苦笑しながら頷いた。
「ほら、手厳しい。ヴァンダイク学院長も何とか言ってやってくれたまえ。」
一方レーグニッツ知事の答えを聞いたオリヴァルト皇子は呆れた後苦笑しながらヴァンダイク学院長に視線を向けたが
「ワシはあくまで、この理事会の進行役に過ぎませんからな。若い殿下の改革にかける情熱に期待させていただくとしましょう。」
「うーん、さすがは我が恩師。それ以上に手厳しかったか。」
ヴァンダイク学院長の答えを聞いて肩を落とした。
「はは……」
「良き師弟関係ですね。」
二人のやり取りを見守っていたレーグニッツ知事とルーファスは微笑ましそうに見つめていた。
「さて―――次の議題はわたくしの方からですが……導力ネットと魔導杖に関しては先程報告した通りです。特に導力ネットに関しては……今後セキュリティ技術の導入は必須となるでしょう。」
「ああ……そうだろうな。現在、IBC方面の仲介がやりにくくなっているので直接財団を頼る必要があるが。」
「そちらはお任せ下さい。そして、もう一件は魔導杖とARCUSの運用についてです。言い換えれば―――”Ⅶ組”の今後の運用とも言えるでしょう。」
「……それは…………」
「……………………」
「確かにその通りだな。」
イリーナ会長の意見を聞いたレーグニッツ知事とルーファスは真剣な表情になり、リウイは静かに頷いた。
「娘が在籍していることはひとまず置いておくとして……先日のガレリア要塞の一件は改めて検討せざるを得ないでしょう。結果的に、ARCUSの効果が十二分に発揮されたとはいえ……この状況下で、同じように”特別実習”のカリキュラムを続けさせるべきなのでしょうか?」
「……難しいでしょうね。テロリストの件といい、クロスベル方面の問題といい、予断を許さない状況です。」
「少なくとも、今月については中止するべきかもしれませんな。テロ組織が検挙され、クロスベル方面が落ち着けば再開すればいいのですから。」
「――生徒達の身の安全を考えれば、それが一番妥当な案かもしれんな。」
イリーナ会長の問いかけにそれぞれ答えたルーファスとレーグニッツ知事の意見にリウイは静かな表情で同意した。
「ふむ………………」
その様子をヴァンダイク学院長は静かな表情で見守り
「……………………『若者よ―――世の礎たれ』」
オリヴァルト皇子は黙って見守っていたが突如声を上げて自分に注目させた。
「ご存知の通り、学院に伝わるドライケルス帝の言葉さ。そして”Ⅶ組”の諸君は、ガレリア要塞の事件において正にその言葉を体現してくれた。列車砲発射という惨劇を阻止して”世の礎”を守ってくれたのだ。命令されてではない―――自分達で覚悟を決める形で。無謀かもしれない、軽挙かもしれない。身の程知らずかもしれない。だが私は理事長として……”Ⅶ組”の諸君を誇りに思う。」
「殿下…………」
「ほう?まさかそんな言葉が出てくるとは、正直驚いたぞ。」
「「………………」」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたレーグニッツ知事は驚き、リウイは感心した様子でオリヴァルト皇子を見つめ、ルーファスとイリーナ会長は静かな表情でオリヴァルト皇子を見つめていた。
「―――今後、エレボニアは、いやゼムリア大陸そのものが激動の時代を迎えるかもしれない。だが、だからこそ”特別実習”の意義は大きい。激動の時代を共に乗り越える”強さ”と”手がかり”を手に入れるという意味において。そうは思えないだろうか?」
「確かに………クラス全体が成長している実感はありますね。至らぬ我が娘にどれほどの可能性が示せるかはわかりませんが。」
「はは……それを言うなら愚息も同じです。」
「我が弟も同じ―――ですがこの学院に入ったことで少しは殻を破れたようだ。」
「こちらが留学させている5人にとってもそれぞれの刺激になり、様々な”糧”を手に入れて成長している事は事実だ。」
オリヴァルト皇子に問いかけられた4人の常任理事達はそれぞれ賛成の様子を見せ、その様子を見ていたオリヴァルト皇子はヴァンダイク学院長に目配せをするとヴァンダイク学院長は立ち上がった。
「来月は”学園祭”があるため元より実習の予定はありません。今月末の”特別実習”を予定通り実施するか否か―――賛成の方は挙手を願います。」
そしてヴァンダイク学院長はオリヴァルト皇子達を見回して問いかけ、それぞれの答えを出したオリヴァルト皇子達は全員挙手した。
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