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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第45話

~ロレント~



チリ~ン…………………



エステル達がロレントに入ると何かの音が聞こえた。

「あれ……?」

何かの音に気付いたエステルは周囲を見回した。

「今……鈴の音が聞こえなかった?」

「ええ。遠くから聞こえてきましたね。」

「このボクも思わず、聞きいったよ♪」

「とっても綺麗な音だったよね!」

「うんうん。ウットリしちゃったわ。」

「………………………………」

エステルや仲間達が何かの音に関しての感想を言っている中、シェラザードは驚きの表情で黙っていた。

「あれ……。どうしたの、シェラ姉?」

シェラザードの様子に気付いたエステルは尋ねた。

「あ、ううん、何でもないわ。綺麗な音色だったから聞き惚れちゃっただけよ。」

「なんだ、シェラ姉もか。鈴の音なんて珍しいけど、リノンさんの雑貨で新しく仕入れたのかしら?」

「そうかもしれないわね。それはともかく……これで霧が発生した範囲はだいたい掴めたわ。そろそろギルドに戻りましょう。」

「あ、うん。アイナさんに報告しなくちゃ。」

そしてエステル達はギルドに向かった。



~遊撃士協会・ロレント支部~



「みんなご苦労さま。まずは、報酬を支払わせてもらうわね。」

エステル達の報告を聞いたアイナはエステル達にそれぞれ報酬を支払った。

「しかし、もっと漠然とした報告になると思ったんだけど……。そんなにはっきりと霧の境界が出来ていたなんてね。」

「ええ……不自然と言えば不自然ね。」

アイナの言葉にシェラザードは真剣な表情で頷いた。

「実際、地図だとどんな風に広がってるの?」

「……ちょっと待ってて。」

エステルに尋ねられたアイナは地図を取り出した。

「エリーズ街道方面に60セルジュ、ミルヒ街道方面に80セルジュ、マルガ山道方面に140セルジュ…………こんな感じじゃないかしら。」

アイナが地図に霧の範囲を書きこむと、ロレントを中心に広がっていた。

「うーん、これだとさすがに何も分からないか。」

「そうですね……。霧の広がり方は、発生原因や風の流れで変化するそうですから。」

エステルの言葉にクロ―ゼも頷いた。

「しかし、どうにもハッキリしねぇ状況だな。結局、ここで待機しつつ有事に備えるしかねぇってことか。」

「ルーアンやツァイスのように怪しい人も目撃されていないから、ミント達は待つしかないのかな?

「うーん、そうなるわね。現状では王国軍も出動を決めかねてるみたいだし。」

アガットやミントの話を聞いたアイナは悩みながら答えた。

「あ、そういえば……。ねえ、ティータ!『霧除去装置』みたいな発明品、博士が造ったりしてないかな!?」

「ふえっ……!?うーん、えっと……。前に『除湿器』っていうのをおじいちゃんが発明したことがあったけど……」

エステルに突然話を振られたティータは驚いたが、昔を思い出して答えた。

「『除湿器』―――名前の通り湿気を取り除く装置ってわけね。それって使えそう?」

「うーん、たぶんムリだと思うよ。屋外の大気を処理するには何百台も必要になっちゃうし……。それだけ用意できたとしても一時しのぎにしかならないかも。」

「はあ……そう都合よくは行かないか。」

ティータの答えを聞いたエステルは溜息を吐いた。



「せめて『結社』が絡んでいる証拠でもあればいいんだが。連中の仕業にしては中途半端な感じもするしな。」

ジンは悩んだ表情で腕を組んで答えた。

「中途半端っていうと?」

「これまでの事件だと『ゴスペル』が使われた時には『ありえない現象』が起こっていた。だが、今回の霧はそこまで大それたものとは思えなくてなぁ。」

「それは確かに……」

「霧は発生してもおかしくないもんね。」

ジンの話を聞いたエステルやミントは頷いた。

「フッ、それともう一つ。彼らは毎回、何らかの形で『メッセージ』を発していた。しかし、今回はまだそれが見受けられないようだね。」

「メッセージ?」

オリビエの話を聞いたエステルは首を傾げた。

「亡霊騒ぎ、サングラスの男……。こちらに『怪しい』と思わせる挑発的なサインがあったということさ。」

「な、なるほど……」

「そういえば、そうだね…………」

「ふむ……確かに中途半端な気がするわね。」

「………………………………」

エステル達が話しあっている中、シェラザードは浮かない表情で黙っていた。

「???どうしたの、シェラザード?

シェラザードの様子に気付いたアイナは尋ねた。

「……そのメッセージだけど。もしかしたら既に受け取っているかもしれないわ。」

「え……?」

「ど、どういうこと?」

シェラザードの言葉にエステル達が驚いたその時

「た、大変じゃあ~っ!」

ロレントの市長――クラウスが慌てた様子でギルドに駆け込んだ。



「し、市長さん!?」

「大丈夫?凄く息を切らしているよ?」

「ぜいぜい、はあはあ……。お、おお、エステル君……ミント君………ずいぶん久しぶりじゃのう……」

市長は息を切らせながら驚いているエステルや自分を心配しているミントを見た。

「市長さん、まずは落ち着いてちょうだい。何があったの?」

「あ、あったもなにも……。ふむ、君たちの方は大丈夫だったようじゃな。」

「???」

「あの、どういう事ですか?」

市長の言葉にシェラザードは首を傾げ、アイナは尋ねた。

「……先ほど、うちのリタ君がいきなり倒れてしまったんじゃ。しかも、同じようにいきなり倒れた市民が他にもおるらしい。」

「!!!」

「え!?」

「なんですって!?」



そしてエステル達は突如昏睡状態になった市民達をロレントの七曜教会の教区長――デバイン教区長に相談をして見てもらい、話を聞いた。



~七曜教会・ロレント礼拝堂~



「一通りの家を回ってみましたがやはり全員、症状は同じですな……。呼吸も安定していますし、瞳孔にも異常はみられませんでした。ほとんど睡眠中と同じ状態ですのですぐに容態が悪化することはないでしょう。」

「そ、そうですか……。不幸中の幸いと言うものじゃ。」

デバインの話を聞いたクラウスは安堵の溜息を吐いた。

「ですが、このまま眠り続けたら体力の低下は避けられません。早急に対策を考えなくてはなりませんね……」

「うむ……」

「………………………………」

デバインの言葉にクラウスは重々しく頷き、エステルは顔を青褪めさせていた。

「ママ………大丈夫?どこか痛いの?」

エステルの様子に気付いたミントは心配そうな表情で尋ねた。

「あ、うん……。まさかエリッサのお母さんやルックまでが倒れるなんて……。……ちょっと驚いちゃって……」

「エステル……。気分が悪いんだったらギルドに戻ってもいいのよ?それとも家に戻って休んでる?」

「ううん……ヘコんでられないもん。それで教区長さん。昏睡の原因は分かりそう?」

シェラザードの気遣いを断り、気を取り直したエステルはデバインに尋ねた。

「残念ながら、今のところは……。ただ、教会秘伝の気付けが効かなかったことを考えると、毒や病気の類ではなさそうです。あえて言うなら何かに魂を囚われたような……そんな印象を受けましたね。」

「何かに魂を囚われた……」

「………………………………」

デバインの説明を聞いたエステルは繰り返して呟き、シェラザードは浮かない表情をしていた。

「ねえねえ。昏睡した人の家を一通り訪ねた方がいいよね?どのような状況で彼らが昏睡状態に陥ったか……。家族から聞いてみたら何か掴めるかもしれないし。」

「あ……そうね。」

ミントの提案にエステルは頷いた。

「エステル君、ミント君、シェラザード君。今回の件は、ロレント市から正式にギルドに調査をお願いする。どうか原因を突き止めてみなの不安を取り除いてほしい。」

「うん……任せて。」

「微力を尽くさせてもらうわ。」

「新しい故郷の為に………ミント、頑張る!」



そしてエステル達はクラウスの依頼を受け、昏睡状態になった市民達の家族に事情等を聞いた後、報告の為にギルドに戻った。

~遊撃士協会・ロレント支部・夜~



「クラウス市長の依頼で昏睡事件の調査を始めたそうね。どう、聞き込みの様子は?」

「あ、うん。昏睡した人の家族から一通り話は聞いてきたけど……。」

「わかったわ。それではみんなを呼んでいったん情報を整理しましょう。」

そしてエステル達はアイナや仲間達に聞きこんだ時の情報を報告した。

「……なるほど。色々調べてきてくれたわね。特に、昏睡した人たちの関係者の証言は興味深いわ。とりあえず、全ての証言において完全に一致している箇所がありそうね。」

「あ、それって……目撃者が有無?」

アイナの言葉にエステルは確認した。

「ええ、まさにその通りね。4人の件に共通すること……それは、昏睡した瞬間を目撃した人がいないという事よ。」

「ヘッ、なるほどな。まるで狙ったかのタイミングで眠ったわけか。」

「その意味では、この霧も一役買っているみたいですね。これだけ視界が狭いと目撃者も限られるでしょうし。」

シェラザードやアガットの言葉を補足するようにクロ―ゼは目撃者がなかった理由を推測した。

「霧の中から人知れずあらわれて犠牲者の魂を食らう悪魔……そんな妖しくも美しいイメージが浮かんでくるねぇ。」

「ふえぇぇ~っ……」

「怖いよ~………。」

「うう、ゾッとしないわね。」

オリビエの話にティータやミントは怖がり、エステルは冷や汗をかいた。

「そうなってくると……その悪魔を特定するのに有効な証言がありそうね。」

「ええ……『鈴の音』と『黒衣の女』ね。どちらも昏睡事件に関わりがあると見ていいわ。

アイナの話にシェラザードは頷いて今までに手にいれた情報の中にあった一部を話した。



「鈴はともかく、黒衣の女の人を見たのって確かエリッサだけだよね。偶然って可能性はないのかな?」

「そうだよね………1人しか見ていないものね………」

エステルは首を傾げ、ミントも頷いた。

「いえ……それはないわ。その女性が現れた場所で何があったかを考えるとね。」

「あ……。ルックが昏睡した時計台……!」

「確かパット君も同じ人を見たって言っていたね……!」

シェラザードの話にエステルやミントはある事を思い出した。

「そう。黒衣の女性が出てきたのは時計台から……。そこでパット君がルック君を見つけたのよね。」

「た、確かに……偶然であるわけないか。それじゃあやっぱりその黒衣の女の人が……」

「ああ、間違いあるまい。どうやらまた新たな『執行者』が現れたようだ。」

シェラザードの話に頷いたエステルの言葉を続けるようにジンは真剣な表情で答えた。

「チッ……やはりか。」

「原因不明の霧と昏睡が今回の『あり得ない現象』。そして鈴の音が『メッセージ』なんですね。」

「これでようやく敵の姿が見えてきたわね。私はこれから、各地の支部と王国軍に連絡するけど……みんなはどうする?」

アイナはエステル達にこれからの方針を尋ねた。

「そうね……。このままだと、またいつ他の市民が狙われるとも限らないわ。夜通しでパトロールすべきね。」

「うん、あたしも賛成。交替でやれば少しは休めるはずだし。」

シェラザードの提案にエステルは頷いたが

「ああ、その必要はないぞ。」

「えっ……?」

ジンの言葉にエステルは驚いた後、ジン達を見た。

「夜間のパトロールは俺たち野郎どもに任せとけ。お前らはまとめて家でゆっくり休んどけや。」

「で、でも……」

「いいのかな……?」

アガットの提案にエステルやミントは戸惑った。

「そうね、エステルやミントも今日は疲れたでしょう。姫様とティータちゃんを家まで案内してあげなさい。」

「あ……。うん、わかった。」

「えへへ~。クロ―ゼさんやティータちゃんと一緒にお泊まりできるんだ~。」

シェラザードにも言われたエステルは頷き、ミントは嬉しがった。



「あのな、シェラザード。何を他人事みたいに言ってる。パトロールは野郎どもに任せとけって言っただろうが。」

「え……」

アガットの言葉にシェラザードは驚いてアガットやジンを見た。

「お前とエステルには調査で頑張ってもらったからな。代わりと言っちゃあ何だが、今夜はゆっくり休んでくれや。」

「ちょ、ちょっと待って……。ランクBの遊撃士にそんな気遣いは無用だわ!」

ジンの話を聞いたシェラザードは反論したが

「シェラ君、ここは従っておきたまえ。平気な顔をしているが疲れは完全に隠せていないよ。」

「……っ………。……そうね。」

オリビエの指摘にシェラザードは言葉を詰まらせた。

「シェラ姉……」

「ジンさん、アガット。夜間のパトロール、よろしくお願いするわ。」

エステルが心配そうな表情で自分を見ている中、気を取り直したシェラザードはジンとアガットに見回りを頼んだ。

「ああ、任せとけ。」

「その代わり、明日の朝からキッチリ働いてもらうぜ。」

そしてエステル達はギルドを出た。



「フッ、今夜はもう遅いからすぐに休んだ方が良さそうだね。それではエステル君。家まで案内してもらおうか!」

「って……どうしてアンタが来るわけ?」

エステルはちゃっかり自分達について来たオリビエを睨んで尋ねた。

「ハッハッハッ。そう警戒することはないさ。このオリビエ、たとえハーレム状態でも節度は守る紳士だからねぇ。ムフフ……」

「あ、あう……」

「オリビエさん……目がヨコシマですよ。」

オリビエの表情を見たティータは引き、クロ―ゼは苦笑した。

「まったく、このまま簀巻(すま)きにしてやろうかしら……」

(簀巻きってなんだろう??)

エステルは呆れた表情で溜息を吐き、ミントはエステルの言葉に首を傾げた。

「こら、スチャラカ演奏家。こんな所で何してやがる。とっととパトロールの順番を決めちまうぞ。」

その時、アガットがギルドから出て来て、オリビエを睨んだ。

「え……。……ハッハッハッ。アガット君ったらお茶目さん。パトロールは、君とジンさんの2人でやるって話だろう?」

アガットの言葉に一瞬驚いたオリビエだったが、笑って自分は逃れようとしたが

「そんな事は一言も言ってねえ。俺たち野郎どもに任せとけって言っただけだ。」

「へっ……」

「おら、とっとと来やがれ。」

「ア、アガット君。ちょっと待ってくれないか?こんなハーレム状態なんて滅多にあることじゃないんだよ?君の分まで楽しんでくるからどうか見逃して……」

「あー、とっとと始めるぞ。」

問答無用にオリビエはアガットにギルドの中へ連れて行かれた。



「うーん、オリビエ馴らしにはああいうのが一番みたいね……。しかもホントに緊張感のないヤツ。」

「ふふ、本気なのか冗談なのかいまいち判りにくい人ですよね。」

エステルの言葉に頷いたクロ―ゼは微笑みながら答えた。

「100%本気だと思うけど……。とりあえずティータとミントの教育に良くない存在であるのは確かね。」

「そ、そんなこと言ったらオリビエさんが可哀想だよ~。」

「そうだよ~。オリビエさん、面白くていい人だよ?」

オリビエを酷く言うエステルにティータとミントはオリビエを庇った。

「ふふ……」

「シェラ姉?」

「ううん、何でもないわ。オリビエの言葉じゃないけど今夜は早目に休みましょう。」

「うん、そうだね。………っと。その前に。………サエラブ!!」

(………何用だ。)

シェラザードの言葉に頷いたエステルはブライト家に向かおうとしたが、ある事に気付きサエラブを召喚した。

「えっと……よかったら、アガット達を手伝ってくれないかな?アガット達の負担も減るし、サエラブなら、あたし達と違って”獣”の感覚とかがあるから怪しい人を見かけた時、すぐに捕まえられそうだし。」

(………まあ、いいだろう。我も”男”だしな。)

「ありがとう。」

そしてサエラブは器用にギルドの扉を開けて、ギルドの中へ入って行った。

「さて………ティータ、クローゼ。案内するから付いて来て。」



そしてエステル達はブライト家に向かい、レナに暖かく迎え入れられた後、それぞれ疲れた身体を休ませた………








 
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