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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第44話

ブライト家に向かう街道、エリーズ街道の霧の範囲を調べ終わったエステル達はある建物が目に入った。



~エリーズ街道・メンフィル大使館前~



「あ…………」

エステルは自分にとっては馴染み深い建物――メンフィル大使館とその隣にあるアーライナ大聖堂が目に入り、思わず止まった。

「もしかしてあの建物がリウイ皇帝陛下達が住まわれるメンフィル大使館ですか?」

「ええ。隣にある建物は師匠自ら司祭として務めているアーライナ教の大聖堂よ。……数年前、師匠から魔術を教わっていた時、よく通っていたわ……」

クロ―ゼの疑問にシェラザードは遠い目をして、昔を思い出していた。

「フム。………前から思っていたんだが大使館を守っている兵達は他の大使館と違って、メンフィル兵だよね?やっぱり、大使の身分が違うからかね?」

オリビエは大使館を守っている兵達を見て、クロ―ゼに尋ねた。

「ええ、そう聞いています。帝位を退き、隠居しているとはいえ、リウイ陛下は皇族なのですし。」

「あれだけ若く、強くて隠居って………信じられないわ~。」

クロ―ゼの話を聞いたエステルは学園祭で見せたリウイの強さの片鱗やリウイの容姿を思い出し、驚いていた。

「ねえねえ、ママ!ツーヤちゃん達に会いにいこうよ!」

そこにミントが表情を輝かして尋ねた。

「………そうね。ヨシュアの事とかも話したいし、会いにいきましょうか!」

ミントに尋ねられたエステルは少しの間考えたが、やがて頷いた。

「しかし、そう簡単にメンフィルの姫君達に会わせてくれるのかな?忘れがちかもしれないが、彼女達は皇族だよ?」

「あ、それは大丈夫よ。なんたってこれがあるんだから!」

オリビエの疑問にエステルは懐から豪華な装飾をされた一枚の手紙を出した。

「……もしかして、リフィアさんかプリネさんが書いた紹介状ですか?」

エステルが懐から出した手紙を見て、クロ―ゼは驚いた表情で尋ねた。

「うん。王都でわかれる時、これをくれたんだ!そのお陰で、これをメンフィル兵に見せれば中に入れてくれるわ。……じゃ、行きましょうか。」

そしてエステル達は大使館の門番に近付いた。



「……ここはメンフィル大使館です。何か御用ですか?」

「えっと………リフィ……っとと。リフィア皇女殿下とプリネ皇女に用があって、来ました。」

メンフィル兵に尋ねられたエステルはいつもの調子でリフィアを呼び捨てにしようとしたが、すぐに言い直した。

「………失礼ですが、殿下達とはどういったご関係で?」

「友人です。……これがその証拠です。その手紙の内容を読んでくれれば、わかります。」

そしてエステルはメンフィル兵に手紙を渡した。

「拝見します。…………これは!…………少々お待ち下さい。」

エステルに渡された手紙を最初は首を傾げて受け取り、読み始めたメンフィル兵の1人は手紙の内容や手紙の最後に書かれてあるリフィアとプリネのサインや手紙を調べた時、印されてあるマーシルン家の紋章を見て驚き、急いだ様子で大使館の中に入って行った。

「へえ………エステル。あんた、リフィアさん達から紹介状を貰っていたのね。皇族直々が書いた紹介状なんて、滅多にないわよ?………今大使館に入った兵士、かなり驚いていたわよ。」

メンフィル兵を見送ったシェラザードは驚きの表情でエステルを見た。

「えへへ。……そう言えばシェラ姉は大使館や大使館の隣にあるアーライナ教の大聖堂に通って、魔術を教わっていたよね?もしかしてあたしが持っている手紙のような紹介状を聖女様からもらったの?」

「ええ。もしだめならこれを使おうと思っていたけど、いらぬ心配だったわね。」

エステルに尋ねられたシェラザードは懐から大事にしまってあるペテレーネの紹介状兼大使館に入る許可証を見せて、答えた。そして少しすると中に入ったメンフィル兵が戻って来た。

「お待たせしました。………申し訳ないのですがお二人とも大使館を留守にしていまして……」

「あ、そうなんですか。ちなみに2人は今、どこにいるんですか?」

メンフィル兵から紹介状を返してもらい、説明を聞いたエステルは若干残念そうな表情をした後、尋ねた。

「……申し訳ないのですが、お2人が今、どこにいるかを答える事は………」

エステルの質問をメンフィル兵が断ろうとしたその時



「――リフィアお姉様とエヴリーヌお姉様は本国で大事な会議のために、今は帝都――ミルスにいるわ。プリネお姉様はちょっと理由があって、クロスベルにいるわ。」

レンが大使館の中から出て来て、エステル達に近付いて答えた。

「レ、レン………!」

「レンちゃん!」

「ハッハッハ!……まさかこんなにも早く再会するとはね♪」

レンの登場にエステルやミントは驚き、オリビエは笑って答えた。

「うふふ、久しぶり……でもないわね、エステル、ミント♪それにクロ―ディア姫もようこそ、メンフィル大使館へ。」

驚いている様子のエステル達を見て小悪魔な笑みを浮かべたレンは両手でスカートの両端をつまみ上げて、上品に挨拶をした。

「兵士さん達もいつも見張り、ご苦労さま。ここからはレンが引き継ぐわ。」

「「ハッ!」」

レンに言われたメンフィル兵達は敬礼をした。

「………こうして見ると、やっぱりレンちゃんがメンフィル皇女という事を実感してしまいますね……」

「ええ。それにしてもあたしは数年前から通っていたのにどうして一度も会った事がなかったのかしら?」

クロ―ゼの言葉に頷いたシェラザードは昔を思い出して首を傾げた。

「うふふ、その頃のレンは色々学ぶ為に朝と夜の食事と就寝の時以外、ほとんど本国にいたらから、会う暇がなかっただけよ♪」

シェラザードの疑問にレンは上品に笑いながら答えた。

「………あの、レンちゃん。先ほどプリネさんがクロスベルにいるとおっしゃっていましたが………」

「うふふ、お姫様としては”不戦条約”の事を考えたら他人事ではないものね♪別に政治的な意味合いでプリネお姉様がクロスベルに行った訳ではないから安心していいわよ♪単なる私用だから。」

「ねえ、レンちゃん。………やっぱり、ツーヤちゃんもプリネさんと一緒に行っているの?」

「ええ。………まあ、用事も終わったって聞いたから、明日には帰って来ると思うわ。それよりどうするの?今、大使館にいるのはパパとママだけよ。よかったら会って行く?普通なら会えないけど、エステル達なら会ってくれると思うわ♪」

ミントの疑問にレンは少しの間考えた後、答えた後、エステル達に尋ねた。



「聖女様達が…………ねえ、みんな。どうしようか?」

レンの話を聞いたエステルは仲間達に尋ねた。

「ミントは何でもいいよ!」

「………あたしはせっかくロレントに寄ったのだから師匠に挨拶しておきたいわ。」

「……あの、できれば私も、リウイ陛下達にご挨拶をしておきたいので……」

「そっか。オリビエは………答えを聞かなくてもわかるわね………」

「フッ。エステル君もわかっているじゃないか♪」

仲間達の意見を聞いたエステルはオリビエを見た後、溜息を吐いた後、オリビエを睨んだ。

「言っとくけど………いつもの調子で聖女様に話しかけたら承知しないからね!」

「その時はあたしもしっかり、お仕置きしてあげるわ♪」

「ハイ、わかりました………」

「クスクスクス。話は纏まったようね。じゃあ、レンが案内してあげるわ。」

エステルとシェラザード、オリビエのやり取りを見て小悪魔な笑みを浮かべていたレンはエステル達を大使館の中に招き入れ、リウイの執務室まで案内した。



~メンフィル大使館内・リウイ大使の部屋~



エステル達と共にリウイがいる部屋まで来たレンは扉をノックした。



コンコン



「………誰だ?」

「お仕事、ご苦労さま。パパ♪エステル達が訪ねて来たから、通してもいいかしら?」

「………何?………わかった。今は休憩中だし、通しても構わん。」

「は~い。」

部屋の主――リウイの返事を聞いたレンはエステル達に振り向いた。

「うふふ……パパ達と会う覚悟はできたかしら?」

「覚悟も何もって、プリネや貴女の両親に会うだけでしょーが。なのになんで覚悟とか必要なのかしら?」

「そうだよね?どうして??」

レンに言われたエステルは呆れた後、溜息を吐き、ミントは首を傾げた。

「うふふ、そう思っているのはエステルとミントぐらいよ?」

「へ?」

レンの指摘に首を傾げたエステルが仲間達を見ると、それぞれ緊張している様子だった。

「み、みんな、どうしたの?なんか固いわよ?」

「ハァ………あんた達が羨ましいわ………今から会うのはあの”覇王”よ?何度か会った事があるけど、どうしても緊張してしまうわ……」

「はい。……シルヴァン陛下とは比較にならないほどの”覇気”をここからでも感じてしまいますよ……」

「フッ。………さすがはエステル君だね。」

「そんなに緊張する事、ないと思うんだけどな~。それじゃあ、失礼しま~す!」



そしてエステル達はリウイがいる部屋に入った。

~メンフィル大使館内・リウイ大使の部屋~



「……誰かしら?」

エステル達が部屋に入るとそこにはリウイ、ペテレーネ、そしてセオビットが紅茶を飲んでいて、エステル達に気付いたセオビットは首を傾げた。

「あら、お久しぶりですね。シェラザードさん、エステルさん。」

エステル達に気付いたペテレーネは優しく微笑んだ。

「……お久しぶりです、師匠。」

「聖女様!こ、こんにちは!」

ペテレーネに微笑みかけられたシェラザードは軽く会釈をし、エステルは緊張した様子で答えた。

「………ほう。まさかリベールの姫も共にいたのは少々、驚いたな。」

「……陛下とは学園祭の時以来ですね。何の前触れもなく訪ねて来てしまい、申し訳ありません。」

「別に気にしなくていい。それより……話には聞いていたが、まさかお前が彼女達と共にいたとはな。」

クロ―ゼと軽い会話をしたリウイは目を細めてオリビエを見た。

「フッ。漂泊の詩人にして、愛の伝道者、オリビエ・レンハイム。ボクのような一介の詩人が”英雄王”と名高き貴方に会えて、光栄です。」

「………それが今のお前の名か?」

自己紹介をするオリビエにリウイは静かに問いかけた。

「……何を言っているのかわからないが、先ほども紹介したように漂泊の詩人にして、愛の伝道者、オリビエ・レンハイム。それがボクの真の正体さっ!」

「やめんかい!すみません、聖女様。”こんなん”を一緒に連れて来てしまって……」

「……ギルドに待たせるべきだったかしら?」

「あはは………」

リウイ達を前にしていつもの調子で話すオリビエをエステルは睨んだ後ペテレーネに謝罪し、呆れた表情でシェラザードが呟き、シェラザードの呟きを聞いたクロ―ゼは苦笑していた。

「え~?オリビエさんだけ、仲間外れにするなんて、可哀想だと、ミントは思うよ?」

「さすがはミント君!ボクの味方は君だけだよ……という事で君の柔らかい頬に感謝の気持ちを込めて、ボクのキスを……」

「こ~の~スチャラカ演奏家が~!!いい加減黙りなさい!!」

「ハイ…………」

エステルの怒気に恐れたオリビエは肩を落として、答えた。

「クスクスクス。パパ達の前でいつもの調子でいるなんて、エステル達ぐらいよ?」

「………変な人間達ね。」

「フフ………プリネ達もこの中にいて、楽しんでいたんでしょうね。」

「……………………」

エステル達の様子を見てレンは上品に笑い、セオビットは興味なさげな表情でエステル達を見て、ペテレーネはエステル達の様子を微笑み、リウイは1人何も語らず、エステル達に注意されているオリビエを見ていた。そしてエステル達はペテレーネが出した紅茶やお菓子をご馳走になりながら、リウイ達を訪ねて来た事情を話した。



「…………なるほど。リフィア達が去った後、どうやら色々あったようだな………」

「エステルさん………」

エステルからリフィア達にヨシュアの事情を話すつもりだった事を聞いたリウイは考え込み、ペテレーネは心配そうな表情でエステルを見つめた。

「…………………………」

エステルの話を聞き、かつての自分と重ね合わせたセオビットはエステルを見続けていた。

「セオビットお姉様?どうしたの?」

セオビットの様子に首を傾げたレンは尋ねた。

「………別に。見つかるといいわね、そのヨシュアって奴。」

「えへへ、ありがとう!えっと……」

「我が名はセオビット。父様――リウイ様の使い魔の1人よ。」

「あたしはエステル・ブライト!よろしくね!」

「(希望に溢れた今まで見た事がないタイプの人間ね。)ええ。」

明るく自己紹介をするエステルにセオビットは頷いた。

「ねえねえ、エステル。そういえば聞きそびれたけど、『結社』って何なの?」

「えっと………それは………」

レンに尋ねられたエステルはクロ―ゼを見た。

「…………話しましょう、エステルさん。いつまでも隠し通せるとは思えませんし。」

「そうね………実は………」

そしてエステル達は『結社』の事や『実験』、『執行者』の説明をリウイ達に話した。



「ふ~ん。………廃坑の特務兵達をレンに無断で勝手に操ったのはその『執行者』?だったかしら。その人だったんだ。」

「……………『結社』に『執行者』、そして『実験』か。という事は今、ロレントに発生している濃霧は『結社』の『実験』が高い事が考えられ、また『執行者』がいる可能性も非常に高く、それをお前達が調べている訳だな。」

「そ、そこまで見抜くとは………」

「そんなに詳しい説明はしていなかったのに………さすがですね………」

リウイの推測にエステルとシェラザードは驚いた。

「……………『結社』が何を考えているか知らんが……俺達にも刃を向けるというのなら振りかかる火の粉は、はらうのみ。どうやら、新たな戦いの時が近いようだな………」

「あはは………メンフィルからしてみれば、『結社』も大した事ないかもしれないわね。」

リウイの言葉を聞いたエステルは苦笑しながら言った。

「何か勘違いしているようだが、俺は敵対する者には例えどんな者であろうと油断や慢心はせん。……こちらも『結社』とやらに備えておく必要があるな。」

「ふふっ………ねえ、父様。『執行者』や『結社』に属する者をたくさん殺せば、褒めてくれるかしら?」

「あ~。それ、レンが言おうとしていたのに、セオビットお姉様ったらずるい~。」

「ハア………お前達、客人達の前でそういう会話はやめておけ。」

(な、なんか物騒な会話になって来たわね……)

(”覇王”達が敵になれば、『執行者』達も哀れよね………)

(あ、あはは………けど、リウイ陛下達と協力する時が来るのも近いかもしれませんね。)

(フム。という事は麗しきメンフィルの姫君達や目の前にいる聖女殿達と戦う時が来るという訳だね……フフ、その時が楽しみだよ♪)

(えへへ……その時はツーヤちゃんとまた一緒に戦えるからミント、楽しみだな!)

セオビットやレンの物騒な会話にエステルは冷や汗をかき、シェラザードは今まで出会った執行者が哀れに思えて来て、クロ―ゼやオリビエ、ミントはそれぞれさまざまな気持ちを持っていた。

「ふふっ。何はともあれ戦いの時が近いようね。……父様。戦の勘を取り戻すためにミルス周辺の魔物共を狩って来るわね♪この辺の雑魚だと、あまりにも弱すぎて話にならないもの。」

「あ、レンも!」

「………好きにしろ。」

「はーい♪早く行こう、セオビットお姉様♪」

「ふふっ………どちらが狩った数が多いか、また勝負しましょうか。」

そしてセオビットとレンは楽しそうに会話をしながら部屋から出て行った。

「なんか2人共、凄く仲がいいわね……まるで姉妹みたい。」

レン達が去った後、エステルは唐突に呟いた。

「どこか共感する部分があるのだろう。それで?今日の用はもう、終わりか?」

エステルに答えたリウイは尋ねた。

「あ、うん。………あ。それとは別に一つ聞きたい事があるんだけど。」

「エステル?」

「ママ?

「一体何だ?」

エステルの言葉に心当たりがないシェラザードやミントは首を傾げ、リウイは尋ねた。

「その前に………みんな、ちょっと部屋を出て待っていてくれないかな?これはあたしだけの問題だし。」

「………わかりました。」

「………ママ………」

「そんな心配な顔をしなくても大丈夫よ!ちょっと気になっている事を聞くだけだから。」

そしてクロ―ゼ達は出て行き、部屋の中にはリウイとペテレーネ、そしてエステルの3人だけになり、エステルは口を開いた。



「あのね………リウイや聖女様の知り合いで黒髪で水の魔術を使って、槍で戦う女の人と金髪で剣にえ~と”聖炎”だったかな?その炎を剣に宿らせて戦う女の人っていない?」

「……………黒髪に水の魔術に槍技。そして金髪に聖炎剣………だと……………!」

「そ、そのお2人って………まさか……!リ、リウイ様……………!」

エステルの話を聞いたリウイは目を見開いて驚き、ペテレーネは信じられない表情をしてリウイを見た。

「あ、やっぱり2人共知っているんだ。」

リウイ達の様子を見て、エステルは1人納得していた。

「………………………どこでその2人の事を知った。」

「えっと……武術大会の決勝戦であたし達とカーリアンが戦った事は知っている?」

「ん?ああ。カーリアンがお前達に敗北した話を聞いて、聞かされた時は正直、耳を疑ったぞ。」

エステルに尋ねられたリウイは一瞬何の事か理解できなかったが、すぐに思いだして答えた。

「それで、武術大会でカーリアンと戦った時、カーリアンに気絶させられちゃってね………それで気付いたら初めて聞く声なのに聞き覚えのある声が二つ聞こえて来て、それでその2人は自分達の力を貸せばカーリアンに勝てるかもしれないけど、

リフィアやリウイ達があたしをあたしとして見なくなるかもしれないぞって、訳のわからない事を忠告したのよね~。」

「「…………………………………………」」

エステルの話を2人は信じられない思いで聞いていた。

「それで一瞬2人の顔が見えて……ね。それ以前にも何度か2人の後ろ姿がいきなり頭に思い浮かんで、その人達が自分のように思えて、変な気分になるのよね~。それであたしが見た2人の女の人達はリウイ達を知っている様子だったし、後リウイと肩を並べて戦っている状況とか見えた事があるから、尋ねたの。」

「…………………………」

(まさか、あのお2人まで転生していたなんて……………それもよりによってエステルさんに……………)

「あたしはその2人の事を知っておくべきだと、自分で思っているの。だからもし、知っていたら教えて下さい!」

そしてエステルはリウイ達に頭を深く下げて、頼んだ。



「……………まさかあの2人の話がお前の口から出て来るとは思わなかったな………」

「え?」

リウイが呟いた言葉にエステルが首を傾げていているのを見たリウイは机の引き出しから2つの小さな肖像画を出して、エステルに渡した。

「お前が見たという2人の人物………恐らくその2人だろう。」

「あ…………!そう!この人達よ!この人達って一体誰!?」

エステルはそれぞれの肖像画にうつっている人物――ラピスとリンを見た後、血相を変えてリウイに尋ねた。

「黒髪の女性はセルノ王女、ラピス・サウリン。金髪の女性はバルジア王女、リン・ファラ・バルジアーナ。………2人とも俺達の戦友であり、そして俺の側室だった者達だ。」

「ラピス………リン…………」

リウイから出た人物の名前をエステルは繰り返して呟いていた。

「遠い昔に逝った2人が何故お前の前に姿を現したかまではわからんが………もしかしたら、お前の中に2人の魂が宿っているかもしれないな。………その影響で2人の姿が何度も見えたかもしれん。」

「魂が宿るってどういう事??」

「言いかえれば、”転生”をする事です。リウイ様が推測しているのはエステルさん。貴女がお二人の生まれ変わりの可能性である事を指摘しているんです。」

「………………………」

ペテレーネの説明にエステルは黙り、何も返さなかった。

「俺達がお前を”お前”として見なくなるかもしれないという言葉は2人は俺達がお前をお前の中にいる”自分達”としてしか見なくなる事を言っていたのだろう。」

「………………………………」

「エステルさん、あの…………」

何も答えないエステルを心配してかペテレーネが話しかけたが

「………そっか。あの言葉はそういう意味だったんだ。」

「何?」

「え?」

1人納得しているエステルに2人は首を傾げた。

「……ありがとう!お陰でずっと知りたかった事を知れたわ!」

「………お前は自分の中にお前とは別の魂が宿っているかもしれない事になんとも思わないのか?」

「誰があたしの中にいようとあたしは”あたし”よ!例えあたし以外の人達があたしの中にいても……それも含めてエステル・ブライト……この”あたし”なんだから!」

リウイの疑問にエステルは太陽のような笑顔で答えた。

「「…………………………」」

迷いのないエステルの笑顔を見た2人は驚いた表情でエステルを見つめていたが

「フッ………まさかそんな答えを聞く事になるとは思わなかったな………」

「ええ。………あのお2人も貴女に転生した事をきっと誇りに思っているでしょう………」

リウイは口元に笑みを浮かべ、ペテレーネは優しい微笑みをエステルに見せた。



「えへへ……あ、それとさっきから気になったんだけど、あたしにはエステルっていう名前があるんだから!”お前”なんて何度も言わないでよ!」

2人の言葉を聞き、照れたエステルはリウイに指摘した。

「………そうだったな。悪かったな、”エステル”。」

エステルの指摘に一瞬呆けたリウイだったが、やがてどこか優しい雰囲気を纏わせ、口元に笑みを浮かべて言った。

「うん!それでよし!」

「フフ…………」

リウイとエステルの会話をペテレーネは微笑ましそうに見ていた。

「じゃ、話も終わった事だし、今日は失礼するわ!プリネ達が帰ってきたらできれば、ギルドに連絡をくれないかな?ミント、ツーヤに会いたがっていたし。後、プリネとも今までの事を話したいし。」

「ん?ああ、帰ってきたらギルドに行くよう伝えておこう。」

「ありがとう!本当ならリフィアやエヴリーヌにも会いたいんだけど、リフィア達はなんか重要な会議に出ているらしいから、無理は言わないわ。」

「……お前達が来た事は後で2人に伝えておこう。」

「うん。……じゃあ、失礼します。」

そう言って、エステルが退室しようとしたその時、リウイがある事を思い出して呼び止めた。

「……待て。」

「ん?どうしたの?」

「……お前の同行者のオリビエという者………その者に少し話しておきたい事があるから、1人で入って来るよう伝えてくれないか?」

「あのスチャラカ演奏家に~?…………あ、そっか。確か、シェラ姉の話によるとこっちでもさんざん迷惑をかけたらしいからね………注意するのも無理ないか。今、オリビエを呼んで来るわ!」

そしてエステルは部屋を出て行った。



「それにしても、まさかあのお2人がエステルさんに転生しているとは思いませんでしたね、リウイ様。」

「ああ。グランセルから帰って来たカーリアンが俺にエステルがとんでもないものを隠している事を言っていたが、あれはこの事だったのだな………もしイリーナが生きていたら、エステルに会わせたかったな………」

「リウイ様。………きっと、その日は近いと私は思います。」

「……………そうだな。」

ペテレーネの言葉にリウイは静かに頷いた。そしてその時、オリビエが部屋に入って来た。オリビエに気付いた2人は気を引き締め、真剣な表情でオリビエを見た。

「フッ……エステル君から聞いたけど、何やらボクにお話があるようで?”英雄王”と名高い陛下もボクの曲を聞きたくなったのかな♪もし、よければ一曲……」

オリビエはいつもの調子でリウイに話しかけたが

「………芝居はそこまでにしてもらおうか、エレボニアの皇子よ。」

「…………………………何の事ですかな?」

リウイがオリビエに向けて言った言葉を聞いたオリビエは驚きの表情を一瞬見せた後、すぐに表情を戻してリウイに尋ねた。

「ペテレーネ。結界を。」

「はい、リウイ様。」

リウイの指示に頷いたペテレーネは詠唱をした後、部屋全体に魔力を覆わせた。

「………一体何をしたのですかな?」

ペテレーネの行動に首を傾げたオリビエは尋ねた。

「………外に声がもれない特殊な結界をはらせた。………以前もペテレーネの弟子と共にここに来て、くだらん事をしていたようだが…………真の目的は俺自身が忠告しに来ると踏んで、俺と接触する為にわざとあんな真似をしたのだろう?…………オリヴァルト皇子。」

「…………………いや~、驚いたね。公式の場で、ましてや一度も会った事もないのに名前が知られているなんて、ボクも有名になったのかな♪……さて、改めて紹介をさせて頂きます。エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノールと申します。私のような庶子の者が”英雄王”と名高きリウイ陛下や”闇の聖女”と評されるペテレーネ殿に会えて、光栄です。」

オリビエ――エレボニア皇子の1人、オリヴァルト皇子はリウイの口から自分の真の名が出た事に驚いた後、皇族に対する挨拶の仕方で自己紹介をした。

「…………ゼムリア大陸のアーライナ教の神官長を務めさせて頂いているペテレーネ・セラと申します。」

「……メンフィル大使、リウイ・マーシルン。………滅多に公式の場にでない貴殿が何故ここに来たのか、話してもらおうか。」

そしてオリヴァルト皇子はリウイと少しの間、話をした後部屋から出て”オリビエ”に戻って、エステル達と合流し、エステル達にリウイと何を話したかを追及されたが誤魔化した。



その後エステル達はブライト家によってレナにお茶をご馳走してもらった後、霧の調査に戻り、調査を終えたエステル達はギルドに報告しに行く為にロレントに戻った……………

 
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