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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第40話

~王都グランセル・波止場~



「くっ……うう……。リシャール閣下……申しわけ……ありません……」

戦闘不能になり、地面に蹲っているカノーネはリシャールに謝っていた。

「はあはあ……。こ、これで決着だ……」

「さ、さすがにクタクタ……」

「はあはあ……れ、連戦やったもんなぁ。」

「ふう……何とかなったみたいね……」

戦闘が終了し、エステル達は息を切らせながらも安堵の表情をしていた。

「お、終わったのか……?」

そこにデュナンがオルグイユから出て来た。

「あ、公爵さん……?」

「なんや……戦車に乗せられてたんか?」

デュナンがオルグイユから出て来た事にエステルは驚き、ケビンは尋ねた。

「うむ、まあな……。今回ばかりはお前たちに礼を言わねばなるまいな……。感謝の証に、私の秘蔵する傑作劇画セットを譲ってやろう!」

「え、遠慮しときマス……。でも、まさか公爵さんに感謝されるなんてね―――」

デュナンの感謝の言葉に脱力していたエステルだったが、ある事に気付いた。

「レンは!?レンは無事なの!?」

「い、いきなり何なのだ……。何だ、そのレンというのは?」

切羽詰まった様子のエステルに尋ねられたデュナンは焦りながら尋ねた。

「女の子よ!白いドレスを着た!戦車の中にはいないの!?」

「そ、そやつら以外には私しか居なかったが……」

「ちょっと!レンをどうしたのよ!?どこに閉じ込めてるの!?」

「……?なにを言っている……?」

デュナンの答えを聞き、エステルに睨まれながら尋ねられたカノーネは訳がわからなかった。



「こ、この期に及んですっとぼけるんじゃないわよ!あんた達がギルドから掠った女の子に決まってるじゃない!」

「…………………(レン。いくらメンフィルの為とはいえ、エステル殿にも心配をさせた上、さまざまな方達に迷惑をかけて……後で少し、注意しておかなければなりませんね……)」

エステルの様子を飛竜にまたがって滞空しながら見ていたサフィナは心の中でレンの行動に呆れていた。

「キルドから掠った………そうか………そういう事だったのね……」

「えっ………」

一人納得しているカノーネにエステルは首を傾げた。

「うふふ………あははははははははは!」

そして突如カノーネは大声で笑い出した!

「ちょ、ちょっと……」

「カノーネ、一体どうしたのだ?」

カノーネの様子にエステルは戸惑い、ユリアは尋ねた。

「これが笑わずにいられるものですか!わたくしが!閣下のために数々の謀略を成し遂げてきたこのわたくしが!………あんな小娘ごときにまんまと利用されたなんて……!」

尋ねられたカノーネは悔しそうな表情で答えたその時

「クスクス。小娘なんて失礼ね。」

聞き覚えのある声――レンの声が上から聞こえて来た。レンの声に驚いたエステル達は声がした方向――倉庫の上を見上げた。

「………………………………。…………………………え。」

倉庫の屋根に立っているレンを見たエステルは放心した。

「うふふ、こんばんは。月がとってもキレイな晩ね。今宵のお茶会は楽しんでいただけたかしら?」

「レン……。な、なんでそんな所に登ったりして……。あ、危ないじゃないの!?」

「………………………………」

エステルの心配を聞いたレンは目を閉じて黙っていた。



「まったくもう……ほんとネコみたいなんだから。今、助けてあげるからちょっとそこで待ってて……」

「うふふ、その必要はないわ。だってここが一番、いい席だったんですもの。お茶会を開いた主人として当然の権利だと思わない?」

「………え…………」

レンの話を聞いたエステルは信じられない表情をした。そしてレンは異空間より大鎌を取り出して、自己紹介をした。

「『殲滅天使』レン―――そんな風に呼ばれているわ。お姉様達みたいな二つ名が欲しかったけど、そんなの今後のレンを見たら、自然と変わったり増えたりするから、まあいいわ♪」

「こ、この状況を貴女みたいな子供が全部作り上げたというの……一体、どこの組織の者よ!」

レンの自己紹介を聞いたシェラザードは驚いた後、武器を構えて睨んだ。

「うふふ、銀髪のお姉さんは慌てすぎよ♪『闇の聖女』の一番弟子を名乗るのだから、もう少し落ち着かないと、ダメよ?」

「!!」

「な、なんでレンがシェラ姉が聖女様の弟子だと知っているの!?」

レンの言葉を聞いたシェラザードは驚き、エステルも信じられない様子で尋ねた。

「うふふ、それはすぐにわかるわ♪」

エステルに尋ねられたレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。

「ちょ、ちょっと待て……アレか?オレに手紙を出したのは嬢ちゃんやって言うんか!?」

「ええ、レンよ。脅迫状を10通。教会のお兄さんに1通。情報部のお姉さんに1通。そして、エステルに1通。全部で13通。うふふ、何だか手紙を書いてばっかりね。パパ達、誉めてくれるかしら。」

信じられない様子でケビンに尋ねられたレンは悪びれもない表情で答えた。

「!!そうよ!レンのお父さんたちは一体どうしちゃったのよ!?」

レンの言葉を聞いたエステルはレンの両親の事を思い出して、尋ねた。

「???ああ、何だ。まだ気付いてなかったのね。うふふ、実はレンってけっこう凄いのかも……。それともエステル達がニブイだけなのかしら。」

「あ、あんですってぇ……」

「うふふ、怒っちゃイヤよ。……これの事でしょ?」

怒りを抑えた様子で自分を睨むエステルにレンは口元に笑みを浮かべて答えた後、無表情の男性と女性――かつてプリネ達が護衛した夫妻、ハロルドとソフィアを異空間から出した。

「あ……」

「こんなのレンのパパとママじゃないわ。もう用済みだから……こうしちゃおっと!」

そしてレンは大鎌を震って男性と女性の身体を真っ二つにして、エステル達の目の前に落とした!



「なッ!?」

「ああっ?あ、あ、あんた……。何をやってんのよおおおっ!」

レンの行動にユリアは驚き、エステルは放心した後、レンを睨んで怒鳴った。

「エステル、落ち着きなさい!血が出てないでしょう!」

「え……あ……」

シェラザードに言われたエステルは落ち着いた後、男性と女性の身体を調べた。

「……ホ……ホントだ……」

「『結社』とはまた違った組織が造った自動人形……しかも人間そっくりなヤツか……。とんでもないで、ホンマ……」

男性と女性が人間ではなく、ただの人形である事に気付いたエステルとケビンは驚いた。

「うふふ、レンが側にいないと人間らしく操れないんだけどね。でも『人形の騎士』のペドロにも負けない自信はあるわ。あ、でも今回は、ユーカイされたりお茶会の主人になったりしたから……ティーア姫の役も多かったかしら?」

「あ、あんたって子は…………!」

笑顔を浮かべて語るレンにエステルは怒りを抑えた様子でレンを睨んだ。

「レ、レンちゃん!?」

その時、ギルドで眠っていた仲間達が現れた。

「みんな、目がさめたのね!?」

「はい。けど、この状況は一体……」

エステルに答えたクロ―ゼはカノーネ達やレンを見て、戸惑った。

「うふふ、睡眠薬の効果も時間ピッタリだったみたい。ママに教わった通りね。……さて、そろそろ仕上げにかかりましょうか。………全員、出て来なさい!」

クロ―ゼ達を見たレンは口元に笑みを浮かべた後、転移魔術を使ってエステル達と少し離れた場所に現れ、号令をかけた!すると、メンフィル兵達がレンの背後から現れた!

「メ、メンフィル兵!?」

「しかもあの娘に従っているようにも見えるわね……」

「どう言う事、レンちゃん!」

メンフィル兵達の登場にユリアは驚き、シェラザードはメンフィル兵達の様子を見て信じられない様子で呟き、ミントは尋ねた。



「うふふ、改めて自己紹介をしましょうか♪メンフィル皇女、レン・マーシルン。”英雄王”リウイ・マーシルンと”闇の聖女”ペテレーネ・セラの娘よ♪初めまして。エステル、クロ―ディア姫♪」

驚いているエステル達にレンはスカートを両手で摘まみ上げて、上品に挨拶をした。

「えっ!?」

「なっ!聖女様の!?………って、聖女様の娘はプリネよ!」

レンが名乗り上げた事と自分の正体を知っている事にクロ―ゼは驚き、エステルは驚いた後、すぐにプリネの事を思い出して声を上げて指摘した。

「うふふ、レンはそのプリネお姉様の妹よ。………貴女達の正遊撃士になる修行の旅の間、お姉様達が随分お世話になったようね♪”妹”としてお礼を言うわ、エステル♪お姉様達のお世話をしてくれて、ありがとう♪」

「な、な、なっ………!」

レンがプリネの妹と名乗った事やさまざまな事にエステルはあまりにも驚きすぎて、口をパクパクさせて言葉が出なかったが、ある人物がここにいる事に気付いて、上空を見上げて、その人物に尋ねた。

「サフィナさん!レンの言った事は本当なの!?」

「…………事実です。皇位継承権がないとは言え、その娘はれっきとしたメンフィル皇女。もちろん、その娘の存在はリフィア殿下やプリネのように本国の民達には一般的に知られています。」

「!!」

「うふふ、そういう事よ♪レンはお姫様だったのよ♪」

メンフィル王家に連なるサフィナが認めた事にエステルは驚き、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。

「………どういう事だ?俺達が尋ねた時はその娘の事は知らないとシルヴァン皇帝陛下達も含め、そう答えなかったか?」

レンの事を最初から知っていたにも関わらず隠していたサフィナをジンは真剣な表情で見上げて尋ねた。

「………貴方達が尋ねたのは”レン・ヘイワーズ”。その名前の子供に関して知らないのは事実です。」

「クッ………そういう事か……!」

「普通、隠していても知っていたのなら、少しは表情に出すんだけどねぇ………さすがは”大陸最強”の国を統べる王や妃と言ったところか。」

サフィナの答えを聞いたジンは悔しがり、オリビエはレンを知っていながらもその様子を一切出さなかったシルヴァン達に畏怖を抱き、溜息を吐いた。

「クスクスクス………本当にご苦労さまね、オ・バ・サ・ン?」

そしてレンは上品に笑いながら、カノーネを挑発した。

「こ、小娘が~!!このわたくしをよくも騙してくれたわね!!貴様だけは許しませんわ!」

レンの挑発に乗り、怒り心頭だったカノーネは痛む身体を無視してレンに銃弾を放ったが

「うふふ。」

レンは片手で簡易結界を展開して、防いだ。

「う、嘘!?あれってプリネ達が防御とかによく使っていた簡易結界じゃない!」

「し、信じられない……!あれはかなりの高度な魔術のハズよ!?」

レンが簡易結界を使った事にエステルとシェラザードは驚いた。



「うふふ、だってレンは何でもできるんだから♪………さて、おしゃべりはここまでにしましょうか。…………全員、抜刀!!」

「ハッ!」

レンの号令にメンフィル兵達はそれぞれの武器を構えた!

「レ、レンちゃん!?何をするつもりなの!?」

レンの号令やメンフィル兵達の行動を見て驚いたティータは慌てた表情で尋ねた。

「うふふ、そんなの決まっているじゃない♪お姫様のレンを攻撃したんだから、罰はあたえないと……ね?」

ティータの問いにレンは残酷な笑みを浮かべて、カノーネ達を見た。

「クッ…………最初からわたくし達を始末するつもりだったのね!?」

レンに見られたカノーネは悔しそうな表情でレンを睨んだ。

「クスクスクス……何の事かしら?レンは同盟国の姫として、かつてリベールを騒がせた貴女達を王国に代わって処罰するだけよ♪………全員、突撃。特務兵達を一人残らず殲滅しなさい!」

「ハッ!」

レンの命令に頷いたメンフィル兵士達が武器を構えて、一番仕留めやすい位置にいるカノーネ達に突進した!

「ちょ、ちょっと……!」

「チッ……!」

「ダメ、間にわな……」

メンフィル兵達の突然の行動にエステルは驚き、アガットは舌打ちをして武器を構え、シェラザードが焦ったその時

「やめて下さい!」

なんとクロ―ゼがカノーネ達の前に走って来て、両手を広げた!

「で、殿下!?」

「!?全員、止まりなさい!!」

クロ―ゼの行動にユリアは驚き、同じように驚いたレンは命令をして、メンフィル兵達の行動を止めた。



「殿下!総員、殿下の盾となれ!」

「ハッ!」

ユリアは親衛隊員達と慌ててクロ―ゼの周りを固めた。

「全員、一端レンの背後に戻りなさい。」

「ハッ!」

そしてレンは片手を上げて、メンフィル兵達を自分の背後まで戻らせた後、殺気を出して冷徹な目線でクロ―ゼを睨んで尋ねた。

「…………何のつもりかしら、お姫様?」

「何のつもりも何も……例えクーデターを起こした犯人達とはいえ、こんなの酷過ぎます!」

レンの睨みにクロ―ゼは怯まず、怒りの表情でレンを睨み返して叫んだ。

「……お姫様はそいつらの事、何とも思わないの?一時期は貴女や貴女が尊敬するアリシア女王も拘束した上祖国を混乱に陥らせ、そして何より貴女が拠り所にしていた大切な孤児院を焼いた犯人達の仲間よ?」

クロ―ゼの叫びに対し、レンは殺気を引っ込めて不思議なものを見るような目でクロ―ゼを見て尋ねた。

「………レンちゃんの言う通り、確かにカノーネ大尉や特務兵達には思う所があるのは事実ですが………それでも私はカノーネ大尉達を守ります。」

「なんで?」

クロ―ゼの答えを聞いたレンは首を傾げて尋ねた。

「それが王族の義務だからです。……カノーネ大尉達もリベールの民。民を守るのが王族の義務でしょう?」

そしてレンの問いに対し、クロ―ゼは凛とした表情で答え、レンに微笑んだ。

「殿下………」

「クロ―ゼ………」

「クロ―ゼさん……」

クロ―ゼの答えを聞いたユリアやエステル、ミントは感動しクロ―ゼを見続けていた。

「…………………………うふふ、確かにそうね。………全員、武器を収め、グランセル城離宮まで撤退。シルヴァン皇帝陛下達の護衛に戻りなさい。」

「ハッ!」

クロ―ゼの答えを聞いて満足したのか、レンはメンフィル兵達に武器を収めさせて、指示を出し、レンの指示にメンフィル兵達は敬礼をして答えた後、闇夜の中に消えて行った。



「……寛大なお心遣い、ありがとうございます。レンちゃ……いえ、レン姫。」

その様子を見たクロ―ゼは安堵の溜息を吐いた後、レンにお礼を言った。

「うふふ……本来特務兵達の処罰は貴女達、王国側がすべき事だしね。お姫様がそう言うのなら、その人達をどうするかはお姫様達の権利だしね♪それとレンの呼び方は前通りでいいわよ♪」

お礼を言われたレンは上品に笑いながら答えた。

「ちょっと待って!?ボースで出会った人形兵器やこのゴスペルもどきを作ったのって……まさか、メンフィル!?」

そしてシェラザードはある事を思い出して、レンに尋ねた。

「うふふ、そうよ♪それらは導力、魔導技術を合わせて、10年かけてようやく完成した技術よ♪ゴスペルもどきについてはさすがに本物みたいな強力な効果はなく、せいぜい狭い範囲の導力をなくすぐらいだけど。」

「し、信じられない……偽物とはいえ、ゴスペルを作るなんて………」

「一体、どんな技術で作ったんだろう……?」

「ホンマ、すごすぎやろ、メンフィルは……」

レンの説明を聞いたエステルは驚き、ティータはどんな技術で作ったのか気になり、ケビンはメンフィルの凄さに改めて驚いた。

「さて。レンは今日の所は失礼するわね。サフィナお姉様!乗せてくれないかしら?」

「………仕方ありませんね。」

レンに頼まれたサフィナは溜息を吐いて、レンの元に飛竜と共に降りて来た。そしてレンはサフィナの後ろに乗り、それを確認したサフィナは飛竜を空へと舞い上がらせた。

「レン………エステル殿達に迷惑をかけた件等で後で注意する事があります。離宮に戻ったらみっちり説教がありますから、覚悟しておきなさい。」

「え~………。レン、メンフィルの為に頑張ったのに……まあ、さすがにお姉様達のお友達やリベールにも迷惑をかけたから、仕方ないか。」

サフィナに言われたレンは口を尖らせて不満の様子だったが、すぐに納得した。

「レンちゃん!?どこに行くつもりなの!?」

空へと舞い上がった飛竜に乗っているレンを見上げて、ミントは尋ねた。

「うふふ、どこに行くも何もレンはメンフィルのお姫様なんだから、今日の所はシルヴァンお兄様達の所にお泊まりするわ。それでは皆様……今宵はお茶会に出席して頂き、まことにありがとうございました。」



そしてレンはサフィナとサフィナ率いる竜騎士部隊と共にその場を去った。



一方その頃、ボースの霜降り峡谷である騒動が起ころうとしていた……………




 
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