英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第139話
特別実習の最終日―――
この日は丁度、”クロスベル自治州”において通商会議の本会議がある日だった。
そんな中、リィン達は午前中、正規軍の兵士達に混じっての体力トレーニングに参加し……何とかこなしてからは昨日と全く同じ内容のランチを無心の境地で平らげるのだった。
そして午後―――軍事学の特別講義において、リィン達はようやくテロリストの最新情報を知る事ができた。
同日、15:10――――
~ガレリア要塞・ブリーフィングルーム~
「”帝国解放戦線”がクロスベル方面に……!?」
「ええ、少なくとも情報局はそう判断してるみたいね。どうやら共和国の方でも別のテロ組織が潜入してるらしくて。かなり混乱した状況みたいね。」
血相を変えたマキアスにサラ教官頷いて説明を続けた。
「そんな……」
「クロスベルに”特別実習”しに行ってるお姉様達は大丈夫なのでしょうか……?」
「何か対策は……!?」
エマとセレーネは表情を青褪めさせ、リィンは真剣な表情で尋ねた。
「当然、取られているらしい。だが―――この件に関しては完全に情報局の仕切りでな。『信頼できる協力者がいる』としか正規軍にも伝えられていないのだ。」
「信頼できる協力者……」
「よう、チビすけ。何か知ってんじゃねえのか?」
ナイトハルト少佐の話を聞いたラウラは考え込み、クロウはミリアムに視線を向けた。
「んー、知ってるけどちょっと話せないかなぁ。でも、メチャクチャ強い人たちってのは言えるかな?」
「メ、メチャクチャ強い人たちって……」
「幾つか心当たりはあるけど……」
不敵な笑みを浮かべるミリアムの話を聞いたエリオットは不安そうな表情をし、フィーは真剣な表情で考え込み
「まあ、どれだけ強くてもヴァイス達には負けると思うけどね。」
「んー、さすがに”六銃士”が相手だとビミョーかな~。」
エヴリーヌの指摘を聞いたミリアムは考え込んだ。
「ま、そちらの方は気にしても仕方ないわ。問題はテロリスト―――”帝国解放戦線”というのがかなりの規模だったってこと。少なくとも最新型の軍用飛行艇を保有しているわ。」
「本当ですか!?」
「飛行艇……ラインフォルトのものか?」
サラ教官の説明を聞いたリィンは血相を変え、ユーシスは真剣な表情で尋ねた。
「ああ、出所は不明だが高速タイプのものであるらしい。正規軍で主流の重装甲タイプとは別系統シリーズだな。」
「……R26シリーズ。何バージョンか出てるけど……」
テロリストが実家が関係する飛行艇を保有している事に複雑な想いを抱えるアリサは考え込み
「しかし……飛行艇など持っていたのでは簡単に捕まらないのでは?」
「ええ、それなのよ。ただでさえ足取りが掴めない連中だったけど……これで、いつどこで現れても不思議ではなくなってしまった。」
ガイウスの質問にサラ教官は重々しい様子を纏って答えた。
「…………………」
「……心配ですね。皇子殿下も出席していますし。」
「それに……プリネ達どころかトワ会長もクロスベルに行ってるのよね。」
「ああ……」
「ま、確かにちと心配だな。」
「今は皆さんのご無事を祈るしかありませんね……」
「んー、オジサンとレクターもいるし大丈夫だとは思うんだけどなぁ。」
「ま、プリネとツーヤは勿論だけど、レーヴェもそこそこやるからあんな雑魚相手に後れを取らないね。」
仲間達がそれぞれ重々しい様子を纏っている中、ミリアムとエヴリーヌは静かな表情で呟いた。
「……それはともかく。テロリストがクロスベル方面で動いているのは了解したが帝国内の心配はないのだろうか?」
「た、確かに……」
「実際、先月の夏至祭では皇女殿下を狙ったわけですし……」
「宰相を狙うと見せかけて、……というのはありそう。」
「それについては鉄道憲兵隊が警戒態勢を強めているそうよ。皇帝を始め、他の皇族関係者はひとまず安心みたいね。それ以外にも警備が手薄な場所は一通りカバーしてるみたい。」
ラウラの推測に不安そうな表情をしているクラスメイト達にサラ教官は自分が知る情報を教えた。
「フン、用意周到なことだ。そう言えば……テロリストメンバーの素性もようやく見えてきたそうだが?」
「ええ、シャクなことに情報局方面からなんだけど。」
「今、映像を出そう。」
そしてナイトハルト少佐の操作によって目の前のスクリーンにギデオンの写真が写った。
「幹部”G”―――ギデオン!」
「皇女殿下たちを攫った男か。」
「そしてノルド高原で戦争を起こそうとしていた……」
「一体何者なんだ?」
「本名、ミヒャエル・ギデオン。帝都にある”帝國学術院”で教鞭を取っていた元助教授よ。」
「元、助教授……」
「学術関係の人間でしたか……」
「どうしてそのような方が……」
ギデオンの経歴を知ったマキアスとリィンは驚き、セレーネは戸惑った。
「ええ―――専行は政治哲学。3年前、オズボーン宰相の強硬的な路線を激しく批判して学術院から罷免されているわ。」
「あ……」
「……それが動機ですか。」
「何それ。ただの逆恨みじゃん。」
サラ教官の説明を聞いたエマは呆け、アリサは真剣な表情になり、エヴリーヌは呆れた表情で呟いた。
「ま、罷免されたのは公共の場所でビラをまいたりと暴走気味だったからみたいだけど。でも、テロリストにはこういう思想的なタイプも少なくないわ。組織の理論武装を行い、より先鋭かつ過激な集団として仕上げることのできる頭脳派ね。」
「けっこう面倒なタイプ。」
「うんうん、退くってことを知らないからねー。」
「気が合うな、お前さん達。」
サラ教官の説明を聞いて互いの意見が合致したフィーとミリアムを陽気な笑顔で見つめるクロウの発言にリィン達は冷や汗をかいて呆れた。
「……それ以外のメンバーたちはどうですか?先月の事件―――他にも3名の幹部たちが確認されていますが。」
「”S”、”V”、そして”C”か。」
リィンの質問を聞いたナイトハルト少佐は端末を操作して”C”達の画像を出した。
「……この3人については特定しきれてないみたいね。このうち”V”については元猟兵じゃないかって推測されているみたいだけど。」
「元猟兵……」
「た、確かに凄そうな機関銃を持ってたけど……」
「フィー、心当たりは?」
「……んー。ちょっとわからない。」
”V”話を聞いたリィンは真剣な表情になり、エリオットは不安そうな表情をし、ラウラに尋ねられたフィーは考え込んだ。
「”S”についても該当しそうな人物は絞り込めているらしいわ。問題は”C”っていうリーダーね。」
「あの仮面の男か……」
「確かリウイお兄ちゃんがボコボコにした雑魚だったっけ?そんな雑魚が警戒する相手なの?」
”C”の写真を見つめたマキアスは考え込み、エヴリーヌは尋ね
「エ、エヴリーヌさん……」
「”英雄王”と称されるリウイ陛下の強さを比較基準にするなど間違っているだろうが、阿呆。」
「………少なくとも”剣聖”や”光の剣匠”のような相当な使い手でなければ、あそこまで一方的な戦いはできないよ……」
エヴリーヌの質問にセレーネは脱力し、ユーシスはジト目で指摘し、リィンは疲れた表情で答えた。
「………まあ、リウイ陛下ほどではないが、あの”C”とやらに対抗できる人物は帝国にもそれなりにいるだろう。」
「”光の剣匠”は当然として……サラ教官に、ナイトハルト少佐もできそうですね?」
「ふむ……自信はないが。」
「またまた、謙遜しちゃって。この人は凄いわよ~。帝国軍の若手将校の中でもトップクラスの強さらしいから。あのヴァンダール少佐と双璧って聞きましたし。」
リィンの質問に謙遜した様子で答えるナイトハルト少佐をからかいの表情で見つめながら説明したサラ教官は表情を引き締めた。
「いや、それは……」
「ヴァンダール少佐……”ヴァンダール流”の使い手ですか。」
「ゼンダー門を守っていたゼクス中将の親族と言う事か。」
「ヴァンダール……あ、ミュラーの事か。」
ナイトハルト少佐の強さを知ったラウラは目を丸くし、ユーシスは真剣な表情になり、ある事が気になって思い出したエヴリーヌは呟いた。
「エヴリーヌさん?」
「まさかヴァンダール少佐と会った事があるのか?」
エヴリーヌの答えを聞いたセレーネは不思議そうな表情をし、マキアスは驚きの表情で尋ね
「うん。”リベル=アーク”や”影の国”でも一緒に戦ったし。」
「そうなんだ……」
エヴリーヌの答えを聞いたアリサは目を丸くした。
「コホン……私はともかく、彼は確かに強い。士官学校の同期だったがあのオリヴァルト皇子殿下と昔から縁がある男でな。ちょうど今、皇子の護衛としてクロスベルに行っている所だ。」
「そ、そうなんですか……」
「それは少し安心ですね……」
「いずれにせよリーダーといい、未だ得体の知れない連中だ。資金源についても不明だし、今回の通商会議を凌いだとしても簡単に終わるとは思えんだろう。」
「偶然とはいえ、君達は2回も彼らの企みを阻止している……恨みを買ってないとも限らないからくれぐれも気を付けておきなさい。」
「りょ、了解しました。」
「……肝に銘じておきます。」
「………………」
「偶然とはいえ、恨みを買っているなんて、”Ⅶ組”も大変だね、キャハッ♪」
サラ教官の忠告にリィン達が気を引き締めている中、無邪気な笑顔を浮かべて言ったエヴリーヌの言葉を聞いたその場にいる全員は脱力した。
「エ、エヴリーヌさん。エヴリーヌさんも”Ⅶ組”のクラスメイトの一人なのですから他人事みたいに言わないで下さいよ……」
「というか俺達より貴様やプリネ達の方が恨まれている可能性が高いと思うのだが?」
「夏至祭の時にレン皇女がテロリスト達を処刑したそうだし、リウイ陛下達は幹部たちを袋叩きにして大怪我を負わせたしな……」
セレーネは疲れた表情で呟き、ユーシスはジト目で指摘し、マキアスは不安そうな表情でエヴリーヌやリィンを見つめ
「う、うん。しかもエリゼちゃんなんか、あのギデオンって人の腕を切り落としたし。」
「そう言えばそうだったな……心配だな……エリゼも通商会議に参加するリフィア殿下について行ってるし……」
不安そうな表情をしたエリオットに視線を向けられたリィンは重々しい様子を纏って考え込んだ。
「エリゼ自身は大丈夫だと思うけど?確かエリゼがカシウスがわざわざ呼び寄せたユンなんとかって人に現在の腕前を見て貰った後ちょっとだけ鍛えてもらってからえ~と……確か”奥伝”とかいう名前を貰った話や確か”二の型”……だったかな?その型の奥義――――何とか”烈波”って奥義が使える事をリフィアが自慢していたし。」
「ええっ!?お、”奥伝”!?しかもユン老師直々から貰った上”二の型”の奥義―――”風神烈波”まで習得しているのか!?」
「”奥伝”と言えば、”皆伝”の一歩手前の”伝位”だと記憶しているが……」
エヴリーヌの答えを聞いたリィンは驚き、ラウラは考え込み
「ええ、そうよ。そして”八葉一刀流”は”皆伝”クラスになれば”剣聖”の称号を名乗る事を許されるそうよ。」
「なっ!?じゃ、じゃあエリゼ君は”剣聖”の一歩手前まで強くなったって事じゃないですか!?」
「ふえ~……!さすが”聖魔皇女の懐刀”って言われているだけはあるね!」
「まあ……!エリゼお姉様、また強くなられたのですね……!」
「エリゼって、確かリィンの妹の一人でリィンと同じ得物を使っていた黒髪の嬢ちゃんだろ?ハハ、とんでもねぇ妹を持ったものだな、リィン。」
サラ教官の説明を聞いたマキアスとミリアムはそれぞれ驚き、セレーネは明るい表情をし、クロウは苦笑しながらリィンを見つめた。
「あの娘は一体どこまで強くなるのよ……」
「アハハ、少なくとも私達では決して追いつけない強さになっているのでしょうね。」
「フフ、また先を行かれてしまったな。私も早く追いつく為にも、もっと精進せねば。」
「リィン、今の時点で兄の威厳が風前の灯状態だね。」
「この調子では将来妹に頭が上がらないままの情けない兄になる事が目に見えているな。」
表情を引き攣らせているアリサの言葉にエマは苦笑し、ラウラは静かな笑みを浮かべ、フィーとユーシスは口元に笑みを浮かべてリィンを見つめ
「う”っ。」
フィーとユーシスの指摘にリィンは唸り
「アハハ……え、えっと、僕達はいつかエリゼちゃんを追い抜けると信じているよ、リィン。」
「リィンならきっとすぐに追いつけると思う。」
リィンの様子を見たエリオットはガイウスと共に応援の言葉を贈った。
「フフ、よかったわね、リィン。少なくともエリゼ自身の身の危険の心配をする必要はなくなったじゃない♪それに”風神烈波”って言ったら、かの”風の剣聖”の切り札の一つよ?それが使えるくらい強いんだから、テロリスト達なんて敵じゃないわよ♪」
「ハ、ハハ……そ、そうですね……俺自身としては色んな意味で複雑ですけど……ハア……(ううっ、もっと修行して早くエリゼに追いつくようにしないと駄目だな……)」
サラ教官にからかいの表情で見つめられたリィンは大量の冷や汗をかきながら答えた後疲れた表情で溜息を吐き
「なあなあ、いっそリィンがエリゼちゃんの強さに追いつけるか賭けをしねぇか!?」
「あのですね……俺とエリゼを賭け事の対象にしないで下さい!」
クロウの提案を聞いたリィンは呆れた表情で指摘したが
「それ以前にそのような分の悪い賭け等、誰も乗らないと思うがな。」
「ちょっ、ユーシス!?それってどういう意味だよ!?」
ユーシスの指摘を聞いたリィンは慌てた表情で声を上げたが
「………あ、思い出した。確か最近エリスがエリゼに剣術や魔術を習っていた所を見た事があるよ。」
「え”。」
エヴリーヌの話を聞いて表情を引き攣らせた。
「ええっ!?って事はエリスちゃんまでエリゼちゃんのように強くなっているのかな……?」
「さすがにエリゼ並みではないにしても、それなりに腕は上がっているかもしれないな。」
「リィン、このままだとエリスにも負けるんじゃないの?」
「ま、まあ姉のエリゼ君自身がとんでもない強さだしな……」
「フッ、ありえない話ではないな。」
「え、えっと……頑張ってください、リィンお兄様!」
「………………………」
そしてクラスメイト達に注目されたリィンは大量の冷や汗をかいて表情を引き攣らせて黙り込んでいた。
「全く。相変わらず緊張感が欠けているな……」
その様子を見守っていたナイトハルト少佐は呆れた後サラ教官に視線を向けた。
「あら?あたしに何か言いたい事でも?リラックスする事は良い事だと思いますけど?」
「確かにそうだが、力を抜くにしても時と場合による。」
そしてサラ教官とナイトハルト少佐は互いに睨み合い、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいた。
こうして午後の特別講義は終わり……いよいよ要塞に搭載されてある”列車砲”の見学の時間が近づいてきたその時、”通商会議”の真っ最中であるクロスベル自治州の”オルキスタワー”に異変が起ころうとしていた…………
ページ上へ戻る