FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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約束
前書き
巨大化ハッピー!!カッコいいというより怖いだろうね・・・あれは
ウェンディside
「シリルとレオン・・・大丈夫かな?」
走りながらも後ろをチラチラと振り向きながら、足止めしてくれている二人の少年のことを考えている私。二人ともすごく強いけど、相手の人数も多いだろうから、大丈夫なのかな?
「シリルが心配?」
「少し・・・」
私の方をニヤニヤと見ているシェリア。彼女の問いに対し、私は小さくうなずきます。
「シェリアは心配じゃないの?」
「全然!!」
恋人であるシリルのことを気にかけている私と、彼女の好きな人であるレオンのことを一切心配していない様子のシェリア。バトルに臨む考え方もそうだけど、なんで私たちってこんなに真逆なのかな?私が心配性なだけなのでしょうか?
「あたしはレオンを“愛”してるもん。ウェンディもそうでしょ?」
恥ずかしげもなくそういうシェリアを見て、なんだか笑顔になりました。彼女はきっと、レオンを愛しているから信じられる。だったら私も、大好きな相手を信じるのは当然のことだよね。
「うん!!もちろん!!」
ニッと笑みを見せながら前方へと意識を向けます。今は二人を信じて、私たちはやるべきことを完遂しないとね!!
「ずいぶん騒々しいですね」
「「「「「!!」」」」」
出口まであと少し!!そんな時、その門から中に何かが入ってくるのが目に入りました。それを見て足を止める私たち。
「ん?なんだ?」
私たちの前に立ちはだかる一人の男。その人を見た時、私たちは恐怖で、足を震わせていました。
レオンside
「水竜の翼撃!!」
「雹!!」
「「「「「うわあああああ!!」」」」」
シリルの翼のように広がる水魔法と天井にできた雲から闇ギルドの魔導士たちに降りかかる黒い雹。それを受けた男たちは次々に倒れていく。
「これで全員倒したのかな?」
「さぁ?」
辺りをキョロキョロと見回しているシリルに肩をすくめながら答える。今見えている敵は全員倒れているみたいだけど、他にも構成員がいるのだろうか?
「いたぞ!!あそこだ!!」
すると、そこに図ったかのようなタイミングで敵の増援がやって来る。しかもそいつらは、手に魔導散弾銃やら鉄砲やらを持ってこちらに構えている。
「ちょっと!!あいつら俺らのこと殺す気なの!?」
それを見て怒っているのか恐怖しているのかわからないような反応をしているシリル。こいつら捕まえろと言ったり証拠を消せと言ったり、どれが正しい指示なのかさっぱりわかんねぇな。
「撃てぇ!!」
一人の指示で銃を構えているメンバーが一斉に射撃してくる。それに対し俺たちは通路が交差している箇所へと入り込み、相手の攻撃を凌ぐことにする。
「あっち人数多いなぁ」
「そんなの分かりきってたけどな」
チラッと顔を出して銃撃隊の様子を伺うシリル。しかし彼が頭を出すと奴等はすぐさま発砲してくるため、ほとんど状況を読みきることができずに顔を引っ込める。
「レオンならあれ、なんとかできないの?」
「・・・どうだろう」
封印の氷地獄で弾丸を凍らせても、すぐに次の弾が飛んでくるだろう。かといって盾を展開しても奴等に接近するごとに威力は増してくるだろうから、いつ割れるかわかったもんじゃない。いくら強度を求めたといっても、所詮氷だしな。リオンくんに言うと怒られそうだから絶対言えないけど。
「むしろシリルの方がなんとかできるんじゃないの?」
「俺が?どうやって?」
なぜ自分に振られたのか意味がわかっていないシリル。首を傾げているこいつを見ると、ローグさんが惚れたのが仕方ないように思えてくる。そんくらいこいつの仕草や見た目は女よりだ。
「その目で弾丸の軌道を見切ればいいんじゃない?」
「な・・・なるほど・・・」
俺の考えを聞くと顎に手をあてて頭を悩ませている水竜。こいつの目は相当優れている。戦ったことがあるからこそ言えるが、あれだけ敵の動きを先読みできるのは普通ならあり得ない。それが魔力の流れや筋肉の動きで判断してると聞いた時は、「こいつ何言ってるんだ?」と思ったのはいまだに忘れることができない。
「ヤバかったら助けてね?」
「了解」
一通り悩んだ結果、ものは試しとやってみることにしたシリル。もし失敗すれば俺がフォローするし、いけるんじゃないだろうか?
そして互いに視線を交換した後、シリルを先頭に弾丸の雨の中へと突っ込む俺たち。
「弾くから避けてね!!」
水を腕に纏わせ水色の瞳をさらに輝かせていく水竜。ん?こいつ何しようとしてるんだ?
「よっ!!」
シリルは飛んでくる弾丸を水を纏わせた腕で次から次へと弾いていく。いや、正確にはそうじゃない。彼の驚異的な動体視力で飛んでくる弾丸の軌道を完全に読み切り、水で覆われた腕の表面にそれを擦らせて僅かではあるが、軌道を変えているのだ。
「すごい奴・・・」
それを見て思わずそんな声が漏れた。俺が言ったのはシリルが軌道をいち早く見切って、それを交わしながら進んでいくといった作戦だったのだが、それがこいつには伝わっていなかったらしい。ただ、当初の策よりこちらの方が後ろにいる俺の被害が出にくいから、ありがたくはあるんだけどね。
「なんだこいつ!?」
「銃弾が効かねぇのか!?」
当然のように発砲している男たちはシリルの行動に目を疑っている。彼らが怯んでいるその隙に、降り頻る弾丸の雨から抜け出た俺たち。
「水竜の・・・」
「氷神の・・・」
鉄砲隊の目の前にやって来た二人の少年は背中合わせになると、大きく頬を膨らませる。そして互いの魔力の溜まり方を感じつつ、頃合いを見計らい口から魔力を放出する。
「咆哮!!」
「怒号!!」
まるで透き通るような青き水を黒い冷気が凍り付かせながら敵兵たちへと向かっていく。その合体した一撃は、複数いる魔導士たちを一瞬のうちに凪ぎ飛ばしていく。
「よし!!うまくいった!!」
「ナイス」
作戦がうまくハマったことにガッツポーズするシリルにさりげなく親指を立てて褒めておく。水と氷ということで、相性がよかったのだろう、周囲には意識を失った男たちが散らばっているだけで、他には攻めて来そうな伏兵たちは残っていない。
「ウェンディたちは逃げ切れたかな?」
「二人がいるなら、問題ないと思うけど」
戦いが終わると真っ先に先に出口へと向かったはずの少女たちを心配する水竜を見て、なぜか羨ましく思う。俺はシェリアなら大丈夫だろうと勝手な先入観があるからか、心配するようなことをしない。というかできない。それが周りからひねくれていると言われる要因なのだろうか。
「「きゃあああああ!!」」
「「「「「うわあああああ!!」」」」」
「「!?」」
俺たちも前をいく少女たちの後を追おうとしたその時、聞き慣れている声が悲鳴を上げているのに気づく。
「ウェンディ!?」
「シェリア!!」
その声が聞こえた瞬間、周囲に転がっている男たちを踏みつけながら声の方へと走り出す。エクシードたちの声も聞こえたけど、何かあったのか?胸騒ぎを覚えながら、俺とシリルは少女たちの元へと駈けていった。
シリルside
「ウェンディ!!どこ!?」
「シェリア!!返事しろ!!」
声が聞こえたその近くにやって来た俺たちは二人の少女の名前を叫ぶ。近くにいるのは匂いでわかるんだけど、どこにいるのか全くわからない。
「クンクン」
鼻をひくつかせ彼女たちの匂いを探る。エクシードたちの匂いもするんだけど、初めて嗅いだ匂いも混ざっていて、混乱しちゃうなぁ。
「お!!」
「どうしたの?」
すると、レオンが何かを見つけたらしくそちらに駆けていく。俺も彼の後をついていくと、そこには地面にうち伏せられているエクシードたちの姿があった。
「みんな!?どうしたの!?」
慌ててその中の一匹抱えようと膝をつくと、横から何かが光る。
「危ない!!」
「ひゃっ!!」
光った何かが当たる直前、レオンが俺を押し倒し事なきを得る。だが、俺を庇ったレオンがかけているメガネにそのレーザーが当たったようで、こめかみから出血していた。
「レオン!!大丈夫!?」
「・・・やべぇ」
血が出る箇所を押さえて小さく呟くレオン。ヤバイの!?すぐ治癒しないと―――
「これ、弁償しないとダメかな?」
「そっちかい!!」
壊れたメガネを拾って元通りにできないかパーツを合わせている少年に突っ込みを入れる。俺の心配を返せと思ったのは、きっと普通の反応のはず。
「おやおや、見たことがある顔ですね」
不意打ちをしてきた方角から足音が聞こえてきて、そちらに顔を向ける俺たち。そこには、二人の少女を羽交い締めにした男がこちらを見据えていた。
「氷の神とやらと水竜ですか。なかなか面白いコンビだ」
男にしては長い髪を後ろで結い、顔にドロボウのような髭を生やした男。どこかで見たことあるけど、誰だっけ?
「知り合い?」
「知らない」
よほど弁償したくないのか、ついに自らの造形魔法でメガネを作り出した氷の神。見たことはあるけど、会話をしたことはない気がする。自信ないけど。
「おやおや、私を知らないとは・・・今時の若者は無知で仕方ないですね」
「「うぅっ・・・」」
脇に抱えている天竜と天神が苦しそうに顔を歪める。それを見た瞬間、すぐに立ち上がって魔法を放つ準備をする。
「おっと、動かないでください。この子たちの命が惜しければね」
「くっ・・・」
俺の動きにすぐさま釘を刺してくる。なかなか状況が見えていることから、相当な実力者なのが見てとれる。
「何者だ」
「名前を名乗れ!!」
せめてもの反抗にと怒りを込めてそう叫ぶ。それを聞いた男は、不敵な笑みを浮かべる。
「私の名前はジョゼといいます。聞いたことあるでしょ?」
ジョゼ?それって確か元聖十大魔道の称号を持っていた、ガジルさんとジュビアさんが昔いた幽鬼の支配者のマスターだったはず・・・
「知らない。初めて聞いた」
「レオン・・・」
有名なはずの男の名前を聞いても首を横に振り続ける金髪の少年。お前・・・魔法学校にいたならジョゼくらい聞いたことあるはずだろ?
「おやおや、君はずいぶん無知なようですね。氷の神さん」
なおも壊れたメガネと格闘しているレオンを見下ろしながらニヤニヤと笑っているジョゼ。レオンはそんなことなどお構い無しにメガネを修理しようとしてるけどね。
「ウェンディとシェリアを離せ!!」
「それはできない相談ですね」
恐らく不意をつかれて捕まったと思われる二人の少女は、傷もほとんどないように見える。ただ、大人と子供の力の差なのか、逃げることができるようには見えない。
「全く、猫どもを使って一儲けしようとしていた時に、こんな邪魔が入るとは」
どうやらこいつがエクシードたちを拐うように指示したらしく、ジョゼは歯軋りをさせている。
「みんなをどうするつもりだ!!」
「決まっているでしょ?空を飛べる猫なんて珍しい。売るもよし、密輸に使うもよし、何にでも使えるんですよ。そして・・・」
ジョゼは人差し指をこちらに向ける。その瞬間、右の肩に激痛が走る。
「っ!!」
「「シリル!!」」
血が溢れ出る肩を押さえ膝をついてしまう。それを見て捕まっている二人の少女が声を張り上げる。
「妖精の尻尾を潰してやるんです!!私からすべてを奪ったお前たちをね!!」
そういえば、幽鬼の支配者がなくなったのは、俺とウェンディが入る前のうちと戦争したからだって聞いたことがあるなぁ。その仕返しをするための資金集めをしているってことなのか。
「そんなの間違ってます!!」
「そうだよ!!あなたが仕掛けたんでしょ!?自業自得じゃん!!」
「黙れ!!」
ジョゼの行いにウェンディとシェリアが怒りを覚え、声を荒げる。だが、今二人はその男に捕まっている。ジョゼは二人の首に巻き付いている自身の腕に力を入れ、二人の少女の首を締め上げる。
「やめろ!!二人に手を出すな!!」
下手に動くとウェンディとシェリアに危害が加わることは目に見えている。そのため声での牽制しかできないのが、なんとも腹ただしい。
「それはできないとさっきも言ったでしょう?あなたたちをここで逃がせば私が評議院に捕まるのは目に見えてますからね」
ここから脱出できれば、俺たちはこのギルドの存在を評議院に密告すると考えているジョゼ。他にもエクシードたちを誘拐したことも罪に問われれば、牢屋に入れられるのは目に見えている。
「それに、あなた方はいい魔力を持っている。君たちを奴隷として売り捌けば、すぐにでも戦争できる資金が集まることでしょう」
かつて聖十の称号を手にしていたその男は、強大な魔力を手の平へと集めていく。
「あまり傷をつけたくありませんが、多少は仕方ないでしょう」
そう言うと集められた魔力を一気に解き放つジョゼ。避けるのは簡単だ。だけど、後ろにはエクシードのみんなもいるし、ウェンディたちを人質に取られている限り、むやみに反撃もできない。
半ば諦めていると、俺を捉えるはずだった魔力の塊が、突如凍り付き、砕け散る。
「「「「!?」」」」
いきなりのことで何が起きたかわからなかったが、その黒い氷が何なのか、知っている三人はすぐに理解できた。
「シェリアとウェンディから手を離せ」
「あ!?」
目を鋭く尖らせ、敵を見据える氷の神。彼を見て、紳士な態度を取っていた髭男は、先ほどまでとは打って代わり、顔に血管を浮かべている。
「何度も言わせるなよ。お前たちを逃がすわけには――――」
ブシャッ
「っ!!」
少女たちを羽交い締めにしていたジョゼの腕に無数の傷ができ、そこから鮮血が吹き出す。目にも止まらぬ攻撃を前に、かつて聖十の称号を持っていたその男は、苦痛の表情を浮かべ、彼女たちを抱えていた腕から力が抜ける。
「ウェンディ!!シェリア!!早くこっちに!!」
「「うん!!」」
男の手から逃れたウェンディとシェリアをすぐに呼び寄せる。二人はそれに気づき、脇目も振らずにこちらに駆けてくる。
「チッ!!逃がすか!!」
だが、ジョゼはすぐに体勢を整えると、背中を向ける少女たちに手を伸ばす。
「させるか!!」
そうはさせまいと男の元へと駆け出す。二人に手が届く前に、奴の腕を払い除けてやる!!
そう思い、ウェンディたちとすれ違うように体を掻い潜らせながら、ジョゼの手へと自分のそれを伸ばす。そして、弾こうとしたその瞬間、彼の腕が・・・いや、彼自身が俺の視界から消え失せる。
ドンッ
それと同時に何か大きな音が周囲に響き渡る。それは、レオンがジョゼの頭を掴み、壁へとめり込ませた衝撃音だった。
「聞こえなかったのかな?二人を離せ」
「レオン、一回落ち着け」
すでにウェンディとシェリアは俺の後ろに無事避難している。お前の要求は相手は飲みたくても飲めないから。
「そうか・・・なら次の要求だ」
頭を掴む手に力を入れていくレオン。ミシミシと嫌な音が聞こえているのは、きっと気のせいじゃないはず。
「今後二度とエクシードたちに手を出すな」
「ハッ!!貴様、誰にそんな口――――」
「永久凍土」
「ごはっ!!」
今後のエクシードたちの無事を懸念してジョゼにそんな要求を突きつける。首を縦に振らないその男の腹部に、レオンはグーパンチをお見舞いしていた。
「シリル、こいつの顔に水かけて」
レオンの一撃で失神しているジョゼ。すると少年は、俺にそんな指示を出してくる。
「なんで?」
「いいからいいから」
彼が何を考えているのか、さっぱり意図が読めない。仕方なく口から水を吹き出し、ジョゼの顔にかける。すると、呼吸ができずに苦しくなったのか、男は咳き込みながら失った意識を取り戻していた。
「もう一度言うよ?今後二度とエクシードたちに手を出すな」
「わ・・・わかった!!約束する!!」
先の一撃がよほど聞いたのか、血相を変えてアカベコ並みに首を縦に振り続けるジョゼ。これにて一件落着!!とは、まだいかないようだ。
「あ!!それと、評議院に自首してね?」
「な!!誰がそんなこ――――」
「絶対零度」
「ぐはっ・・・」
続いての要求を浴びせると、ジョゼは捕まりたくないらしく、反抗の意思を見せる。しかし、レオンがノーモーションから滅神奥義を放つと、口から血を吹き気絶していた。
「シリル」
「御意」
名前を呼ばれただけで彼が何をしてほしいのかもう理解できる。すぐに男の顔に水をぶつけると、彼は苦しみながら目を覚ます。
「ヤバイ・・・どうしようレオン・・・」
「ん?どうしたの?」
咳き込むジョゼを見下ろしながら、俺はある一つの感覚に襲われていた。それは・・・
「なんだか楽しくなってきた!!」
「奇遇だね、俺もだよ」
「「えぇぇぇぇぇ!?」」
気絶させては無理矢理意識を取り戻させる。本来なら拷問の一種なのだろうけど、今は正義はこちらにある。それに、このこともジョゼに口止めさせれば済む話だもんな。
「し・・・シリル?」
「レオン?殺しちゃダメだからね?」
さすがにまずいと感じたのか、ウェンディとシェリアが心配そうな表情でこちらを見つめている。それに対し俺たちは、笑みを浮かべながら答える。
「心配しないで!!ウェンディ!!」
「全部の要求を飲ませてみせるから!!」
「違うよ二人とも!!」
「そうじゃないよ!!」
彼女たちの不安もわかる。だけど安心してほしい。俺たちなら何も問題を起こさずにこいつらを全員監獄にぶちこんでやれるだろう。
「どうしようウェンディ・・・二人の顔が怖いよ・・・」
「シリルもレオンも・・・そんなキャラじゃないんだけどなぁ・・・」
コソコソと話し合っているシェリアとウェンディ。だが、そんなことなどお構い無く、このあとも俺たち二人による拷問は続いた。ギルドの中には、何度も何度もジョゼの断末魔が響き渡ったのは、言うまでもなかった。
「は~あ・・・長い一日だった~」
帰りの列車の中で背伸びをしながら今日の出来事を振り返る。あの後、ジョゼにメガネの弁償代やら俺たちのことは内緒にしろやら要求を突き付け、変装用の服をクロフォードさんに返却した後、救出したエクシードたちやケガしたウェンディたちに治癒の魔法をかけ、村へと戻った俺たち。村についたときにシャルルたちが置いていかれたと勘違いしたらしく、説教されたのは正直きつかった。
だけど、シャゴットやセリーヌたちにお礼を言われると、頑張った甲斐があったと思えた。そしてレオンたちの次の留学のことを考慮し、大急ぎで帰りの列車に飛び乗った俺たち。エクシードたちに近道を教えてもらってなかったら、きっと乗り遅れていたことだろう。
「でも、なんか楽しかったなぁ」
車窓から沈んでいく夕日を見つめながら感慨深そうに呟くレオン。彼の膝には、疲れきったのであろう天神が静かに寝息を立てている。
「個人的に最後の拷問が一番楽しかった」
「俺もそれ」
シェリアと同じように俺の膝に頭を置き、シャルルとセシリーを抱えて眠っているウェンディの頭を撫でながらそう言う。レオンは頭に遊び疲れたラウルを乗せたまま、俺の意見に賛同する。
「なぁ、レオン」
「ん?」
揺れる車内だからなのか、ラウルを落とさないようにと頭から自分の脇へと然り気無く移動させているレオンを見据える。俺が真剣な表情をしていることに気付いた氷の神は、食わえていた水飴がついていた割り箸をゴミ箱に投げ入れ、次に続く言葉を待っている。
「今日、ジョゼを圧倒したお前を見て、やっぱりレオンはすごいなぁと思ったよ」
「そりゃどうも」
ジョゼはマスターと肩を並べるほどの大魔導士だったと聞いている。しかし、そんな人物さえもレオンは瞬く間に地に落としていた。あそこに彼がいなかったら、俺は奴に勝てていたか、自信がない。むしろ彼ほどの実力者なら、人質など取らずとも俺らを倒せていたはず。彼がそれをしなかったのは、もしかしたらレオンがいたからなのかもしれない。
「レオンは間違いなくこの世界で最強クラスの魔導士だと思うよ」
「・・・何が言いたいの?」
俺が彼に何を言おうとしているのか、分かりかねた少年は眉をひそめながら問いかける。
「俺はいつか、絶対レオンを越える。だから・・・
その時は本気で俺と戦ってほしい」
ドラゴンとの戦いの時、エクリプスの扉を破壊するのにレオンが使っていた状態。なぜ彼があれを大魔闘演武で使わなかったのは、あの時は理解できなかった。だけど、今ならわかる。
あれを使っていたら、俺なんか一瞬でこの世から消し飛ぶ可能性があった。それぐらい俺たちには力の開きがあった。だからレオンはあれを使わなかったのではないのだろうか。そう考えると、本当に悔しい。しかし、それと同時にある考えが頭に浮かんだ。
それは、互いを高め合えるような、そんなライバルにこいつとなりたい。
今はまだ大人と子供・・・いや、それ以上の力の差がある。それに、もしかしたらこいつにはまだ上があるのかもしれない。いや、きっとあるだろう。
だけど・・・だからこそこいつを越えたい。そう思い、こんなことをお願いしているのだ。
「うん。いいよ」
即答だった。むしろ待ってましたと言わんばかりの早さで回答する彼に、一瞬耳を疑った。
「俺としても、あんな負け方不本意だからね」
仲間の敗北を受けて動揺し、俺と戦っていることなど頭から抜け落ち敗北を喫したレオン。彼としても、悔しい結果に終わったあの戦いを、精算したいと思っているようだ。
「まぁ、今の俺ならシリルに負ける気しないけど」ニヤッ
「その余裕な面をいつかぶっ潰してやる!!」
余裕綽々なレオンに腹を立ててそう叫ぶ。でも、すぐにおかしくなってきて、二人とも笑顔に変わってしまっていた。
「約束だ」
「うん。待ってるよ」
その後、ギルドにつくまで他愛もない話をしていた俺たち。いつかこの約束を果たすために、そして、大好きな少女を守るために、もっと強くなろうと心に誓ったのだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
今回のお話でやりたかったのはシリルとレオンが腹黒くなる拷問タイムだったりします。
そして長かった蛇姫の鱗の留学もこれにて終了です。
次はお待ちかね?のあの女の子の登場です。たぶんただのサービス回になる気もしますが、あまり気にせずいきましょう。
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