ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第230話 想いを胸に いざ戦いへ
前書き
~一言~
非常に遅くなっちゃってすみません………、更に言えば戦闘まで行けなかったです……。《2人》の事を事細かに書いてたら、目標にしてる1万字来ちゃってて……苦笑
それでも、何とか何とか、書き上げれて良かったです!
次回が、戦いになると思いますので、頑張ります!!
最後に、この小説を読んでくださって、本当にありがとうございます! これからも、頑張ります!!
じーくw
~新生アインクラッド 第24層・パナレーゼ~
――……昨日から、この世界に入って……、まだ お姉ちゃんと話はしていないなぁ。それに……。
レイナは、大部分が水面に覆われた、この湖沼系フロアをじっと、眺めていた。
凄く、懐かしい気持ちになるのは、当然だった。それはここ24層に対して、特別思い入れが強くあった訳ではない。と言うより、この時はいつもいつも、意中の彼の事を追いかけては、躱され、追いかけては置いていかれ……、とそればかりな気がする。つまり、どの層でも根幹は、同じである。勿論、それだけではないのだが……、レイナにとっては、その事が大きすぎるから。
そして、甘酸っぱい想いと同じくらい凄く懐かしい気持ちになるのは、この全体の風景が、パナレーゼのモノではなかったからである。
ここは、この風景は、まだ当分は開放されてないはずの場所。
それは嘗て、姉のアスナと共に暮らし、そして 想いが伝わって、初めて一緒に暮らし始めた場所。
湖上都市《セルムブルグ》を擁する61層とよく似ているのだ。
少し違うのは、落ち着いた風景が広がり、何処か清楚で穏やかなイメージだった都市なのだが、今はまるでお祭りの縁日のように賑やか。開放したばかりだから、と言えば頷けるが、やっぱり違和感があるのは、当時のイメージが色濃く残っているからだろう。それでも、懐かしく 穏やかになる気持ちと言うものだ。
「…………ん」
穏やかな気持ちになっても、それでも――……レイナは、昨日の事がまだ忘れられない。
忘れられないのだけど、今だけは――、この空間だけは――、この世界でだけは――。
大好きな人の隣で、沈んだ気持ちを見せたくない。
いや、隣にいてくれるから。……リュウキが一緒にここにいてくれているから、穏やかな気持ちになれる。
――リュウキ君の為に、リュウキ君に嫌な想いをさせるくらいなら……、でも……。
それは 少なからず、今日この世界に来ても想い続けた事だった。
でも、やっぱり 温かな気持ちをくれる。……くれた人が傍だと、離れるなんて選択肢を取れる筈もない。……我慢なんて出来ず、甘えたい。心から。だから レイナは隣の想い人。リュウキの肩に そっと身体を預けた。
「ふふ……」
レイナを受け入れ、にこりと笑顔を向けるリュウキ。
笑顔を見て、レイナは 『今日はだけは、昨日の事を忘れよう』
レイナの中でそれを決めて、笑顔を向けてくれたリュウキの方を見た。
「ね? ね? リュウキくん。覚えてる?? 見覚えない?? この風景っ! あ、今のこの世界の事じゃないよ? 昔の―――ね?」
レイナは、広がるパナレーゼの風景を指差して訊いた。それを訊いたリュウキは、ゆっくりと頷き、そして答える。
「ん。覚えてるよ」
リュウキの返答を訊いて、レイナは笑顔になる。――けど、直ぐに変える事になる。
「此処、バナレーゼ。主要街の名でもあるな。以前のアインクラッドでは、確か、武器の目玉は、プレイヤーメイドを除けば、《フォトン・ブレード》を中心に添えて、それが基本装備、定番装備になっていた筈だった。一応、情報の橋渡しはオレがしたし。それに、片手直剣の使い手が結構多かったから、代表的になった、と言う理由もあるだろう。後イベントクエストで言えば、所謂《バードウォッチング》だな。指定された鳥を追いかけ続けたら最終的にNPCが……」
と、律儀にも1から10まで説明会を開催してくれるリュウキ。
勿論、それを最後まで聴くつもりはレイナには無く、ある程度まで言った所でレイナは、頬を膨らませた。
「もーーっ、リューキくんが、記憶力抜群なのは知ってるよっ! って、そんな細かな詳細まで、お姉ちゃんだって覚えてないよっ! 違う違うってっ! 街の情報や当時の事の話じゃなくって、私たちのことーーっ」
「………ふふっ」
両手をぶんぶん振って、リュウキの講義に抗議する? レイナ。
だけど、そんな取り乱すレイナとは対照的に、リュウキはただただ笑っているだけだった。だから、自ずと見えてくるモノはある。――――つまり。
「むっ! もーーーっ、リューキくんっ!!」
からかわれている、と言う事だ。もう随分と慣れてきていると言うものなのだけど……、やっぱり同じである。
「ははっ、ごめんごめん。勿論、覚えてるよ。……此処から見えるパナレーゼは、あの層。……61層の《セルムブルグ》によく似てる、って事だろう? レイナが言いたかったのは。……少々雰囲気は違うけど」
パナレーぜの風景を一瞥した後に、リュウキは再びレイナの方を見た。レイナは、ちょっぴり頬を膨らませていたけれど、満足のいく答えだった様で、笑顔を見せていた。
笑顔なんだけれど、リュウキは他にも感じる事があった。
「……なんだかレイナ、ちょっと思い詰めていた感じがしたからさ。……ちょっと、な?」
リュウキはそう言いつつ、レイナの頭を撫でた。
その言葉を訊いて、撫でられた事で、頬が少々赤くなっていたレイナだったが、徐々に息を潜めていった。
「あ……、判っちゃった、かな?」
「ああ。判るよ。……レイナのこと、だからな?」
「うーん……、私、そんな判りやすいかなぁ……」
レイナは、どことなく不満顔だけれど、そのやり取りをしている2人は、とても暖かく柔らかい笑みを浮かべている。
旧アインクラッド、SAO時代でのこの層で、こんなリュウキの笑みを見られるなんて、向けてくれるなんて、レイナは当初、思ってもいなかった事だった。それは願いはしても、きっと無理だって、何処か諦めモードもあったかもしれない。何度も接触しようとしては、逃げられているかの様にいなくなってしまっていたから。
自分の事を想ってくれている事に対しても、本当に嬉しい。その反面、昨日の事が頭を過ぎってしまう。
「あはは……。ちょっぴり、ナーバスになっちゃってるだけだよ? いや、武者震いかなぁー。なんたって、今日戦う相手が戦う相手、だからねー」
レイナは笑みを浮かべた。
正直、好きな人に嘘をついてしまう事は、どうしても心苦しい。
何故なら、リュウキはレイナを信じて、自分自身の闇、悩みの全てを打ち明けてくれたからだ。レイナは、リュウキの事を信じていない訳はない。……でも、それでも、レイナ自身が全てを打ち明ける勇気は無かったのだ。それは、レイナ自身が傷つく事も、そして リュウキ自身が傷つく事も……。
リュウキは、そんなレイナを見て、何処か意味深に笑みを見せていた。
そして、軽く頷くと続ける。
「ああ。……成る程な。確か、今日レイナとアスナは、《絶剣》と《剣聖》 あの2人と戦うんだったな」
「うんっ。あははっ でもね? そう言う感じの名前、訊いてると、私は絶剣さんや、剣聖さんの2人組じゃなくって、別の2人の名前、思い出すんだけどね~……」
リュウキの顔を見て、にこっ と笑うレイナ。……それを見たリュウキは、やや苦笑いをした。
「…………その2人の事、別に口に出して言わなくていいからな?」
どうやらリュウキは、完全に察した様で、徐々に苦笑いから、少々気難しい表情をしていた。それを見てレイナはただただ笑っていた。これは、このレイナの笑顔は嘘じゃない。――今、自然に出せる笑顔である。
そして、その後も他愛もない事を、リュウキとレイナは話しをしていたた。
この空気が、何よりも好き。……ずっと、ずっと、このままで。時間が止まって欲しい程だから。
話題は今日戦う相手にへと移った。
「リュウキくんは、その2人の事、知ってたの?」
「ん。まず噂で……、その程度だけどな。実際に見た事はないよ。……でも、随分強そうだから、興味はあったんだ。……それも、キリトが負ける程、だからな」
リュウキにもやっぱり興味はあった様で、レイナにそう返事をしていた。
『キリトが……』の部分で、レイナも強く反応する。
「そうだよね……、ほんと、びっくりしちゃったよ。まさかあのキリトくんがーって感じだよ」
軽くため息を吐きつつレイナはそう答えた。
今、隣にいるリュウキと同じく、キリトと言う人は レイナの中では、いや……あの《SAO》を知っている者達にとっては、《絶対強者》と言う印象が強いのだから。アスナもレイナ以上に感じていた事だろう。
それを訊いて、リュウキは笑う。
「ははっ。この世界は広い。本当に広い。……今も無限に広がっていく、広がり続けているんだ。だから、まだ見ぬ強者だって、沢山いると思う。勿論、オレ以上だって、な?」
「えー、私は信じられないなぁ……、確かに ザ・シードのおかげで、世界はどんどん広がっていってるけどさ、リューキくん以上っていうのは、やっぱりちょっと想像がつかないかなぁ……」
レイナがそこまで言った所で、リュウキはレイナの頭に手を置いた。
「そうでもない、よ。オレだって、生涯無敗って訳じゃないし、負けた事位あるから。……1戦は、レイナも知っているだろう。それ以前にも………」
リュウキはそこまで言った所で、口を噤んだ。
そして、レイナは思う。
レイナが知っている1戦、と言うのは、あの旧アインクラッド第75層での最後の戦いの時の事だろう、と。
でも、あれは相手が相手。ゲームマスターとして能力をフルに活かした攻撃だった。そして、戦いの結末。それは半ば騙し討ちだったから、正々堂々じゃない。と、レイナの頭の中では浮かんでいる。
――後ろから、彼を刺した。
あの悪夢の光景を、レイナは忘れた事がないから。考えないようにしていたけれど、それでも忘れる事が出来なかった。……今でも、あの時の事を思い出してしまったら、胸が締め付けられそうになるから。だから、レイナの表情は、視線は、少し下がっていた。そして、その僅か数秒後、頭も僅かながら下がっていたから 丁度良かったのだろう。レイナの頭に感触があった。
そして、そっと引き寄せ胸に抱かれる。
「……っ!?」
レイナは、抱き寄せられた事に、驚いてしまったが、そのまま胸に埋めていた。
リュウキは、何度かレイナの背を叩く。
――決してあの時の様に、レイナの前から消えたりしないよ。……いなくなったりしない、ずっと側に……。
そう、言っているかの様だった。レイナには伝わった。だからこそ、レイナも落ち着く事が出来て、名残惜しかったけれど、リュウキの胸から顔を離し、笑顔で答えるのだった。
その後も一頻り笑い。
「あっ、リュウキ君も、戦ってみたりする? よくよく考えたら、リュウキくんは辻デュエルとか、受けたりしてないけどさ? 今回は相手が相手だし!」
「あー……、まぁ 目立つのはあまり好ましいとは思わないけど、ここまでの相手だったら、やっぱり 気持ちは揺らぐ、かな?」
「ふふっ あ、ならさ。私たちの仇討ちをしてよー」
「……負ける事が前提じゃ、弱気過ぎるんじゃないか? らしくないと思うぞ?」
リュウキは、コツっと指先をレイナの額に当てる。『あぅ』っと可愛らしく、軽く悲鳴を上げた後、レイナは再び笑顔を向けた。
「あ~、まぁ、そうだね。私だって、勝ちたい気持ちは当然あるんだし。勿論お姉ちゃんだって、ね? んー……でも、冷静に考えてみると、キリト君の事だってそうだけど、リーファちゃんでも見えないレベルの動きらしいから。更に言ったらリーファちゃんは空中戦闘で負けちゃったって訊いたら、そこまであったら、やっぱりねー。どっちかと言うと、勝てる勝てないじゃなくって、ダメージ量の記録を更新するぞーっ! って思っちゃってたかな?」
レイナがそう言うと、リュウキは。
「勝負には絶対は無いさ。強い方が勝つんじゃなくて、勝った方が強い。相手がスピード型なら、コンマレベルの見切り戦になりそうだ。キリトを破ったその速度。反応速度は、確かに驚嘆だ。……でも、レイナの強さだってオレも太鼓判。勿論、アスナも。だから勝機なし、なんて全然思ってないよ」
「わっ、それ すっごく力になるし、自信にもなるよーっ。それに、お姉ちゃんも『見切り勝負』って言ってたし、私も頑張るねっ!」
レイナは、するっ と腕に絡みつく。
「ん……。オレも見届けるよ。それで、オレも戦うかどうかは………、その時次第、かな?」
「あはっ。でも やっぱり 私たちが負けちゃったら、仇討ち~~って事でお願いね?? 私とお姉ちゃんの2人分っ!」
「……流石に 実力者相手に2対1はきついって」
リュウキは、苦笑いをしていた。
そこで、説明を入れるとする。
リュウキは やっぱり目立つ様な事は極力避けている。アバターは、以前使っていた《ドラゴ》とは違う《リュウキ》の姿だから、よりいっそう拍車をかけると言うものだった。……自分の姿と殆ど同じ、似せているから尚更だろう。
だが勿論、攻略に関しては、手は抜かないし、誰が見ていよが持ちいる全力を出す。……正確に言えば、ゲームの枠内での本気を十二分に出し、勧めているのだ。
―――が、それは注目の集まる、デュエルの月例大会ともなれば、やっぱり話は別なのだ。
ここ、アルブヘイム・オンラインの世界に《ソードスキル》や《新生アインクラッド》などが実装され、以前にも増して更にデュエル大会も、月一と言うペースで盛大に開催される様になっていた。以前まででは、やはり1対1のデュエルで、となると見栄えがする様なプレイヤーは流石に少ない。最早、言うのは言うまでもない事だった。魔法であれば、遠くからただ只管撃つだけ。なんの芸もない。そして、近接戦闘ともなれば、不格好に武器を振り回すだけ、と言う印象がまだまだ根付いていた。
故にハイレベルともなれば、デュエル大会の上位戦でしか見られない状況だったのだが……、それを変えたのが、先程上げた大規模な実装だろう。SAO帰還者達も揃い、ソードスキルに磨きがかかり、更にOSSまで実装されて、己のスキルを向上させようとする者達が増えていったのだ。
増えていくにつれて、大会も盛大なモノになり、大規模大会ともなれば、《GGO》の世界で言う《BoB大会》に負けずと劣らず、全仮想世界に中継をされるまでになっている。元々、ALOは最古と言っていいVR世界であり、更に言えば、《伝説の城アインクラッド》が存在する世界だから、注目が集まるのは言うまでもない事だろう。
話は少々長くなってしまったが、簡潔に言えば大規模になっていくにつれて……、リュウキが参戦を渋る様になった、と言う事だ。最近の大会で言えば、決勝戦。
《キリト VS リュウキ》
その一戦が、全種族の領地、何処からでも一望出来る超大型スクリーン。アルブヘイムの空にまで映し出され、その戦闘は完全LIVE中継となり、更に通常のデュエルには基本的に時間はよくて5~10分程で決着がつくと言うのに、この2人は云うに1時間を超す程までバトルを続けていたのだ。勿論HPの多さや武器装備の性能は公平である。故に数値では表す事ができない本人達に備わった技能を駆使した、一瞬の見切りの勝負となった。お互が直撃を許さない神経戦となったのは言うまでもなく……
、勝敗を喫した時 呆れているだろうな、と思いきや、長丁場となったのにも関わらず、惜しみない声援がアルブヘイムの空を覆い尽くし、更にはヨツンヘイムにまで轟きそうな勢いだったのだ。
結果として、軍配が上がったのはリュウキであり、キリトは悔しそうに首を振っていた。
だけど、それをかき消すかの様に、声援が上がり、押し寄せてきたからそれどころじゃなくなったのはその後の事。
そして、どっちも応援してくれていたメンバーもいて、その1人、リーファ曰く。
『トンキー達も、声援を贈ってたよー! だって聞こえたもん!』
との事。
そんな馬鹿な、と言いたい所だが、黄金の剣のクエストの一件から、トンキーの種族が勢力を取り戻し、数を減らしていたのだが、増えてきている。トンキー1匹だけでも、遥か彼方にまで響く、『くぉぉぉ――――ん……』と言う啼き声を発しているし、全員が一斉に……ともなれば、一概に否定はできない。
リーファは、あの世界ででは大変人気があるから(トンキー達に)、更に信憑性が増すと言うものだ。
そして、同じく観戦していたシノン曰く。
『はぁ……、確か あの時もこんな感じだったわね……。つまり、銃も剣も変わらないって事じゃない』
と言って、呆れていた。
確かに、こことは違う世界、GGOでの戦いででも、同じ様に長期戦となった。飛び道具を駆使した戦いであるのにも関わらずに、長丁場だから、シノンの言う事に一切間違いは無かった。
その後も色々と大変だった。
風妖精族と猫妖精族、其々の領地で絶大な人気を誇る領主達、《サクヤ》と《アリシャ・ルー》の2人からは、熱烈なラブコールを其々が受け、火妖精族のユージーン将軍からは、これまた熱烈な再戦要求を受け、同じく懐刀として名高く、優秀な魔法使いでもある《ジェイド副将》からも、それとなく勧誘を受け(サクヤ達程熱烈では無いが)、魔法を使わない事に、やや不機嫌な様子の風妖精族の大魔法使いの《リタ》からは、色々と駄目出しを喰らい……、と所謂散々だった様子。
リュウキは勿論、キリトもぶっちゃけ、長期戦だったデュエルよりも、其々の対応に疲れてしまった、とボヤいていた。
更に言うなら、美人領主の2人に囲まれ、腕を取られ、密接された時は、盛大な嫉妬をされていたのだが……、それに気づいたのは、キリトだけ、と言うのもお約束である。
「あ、そーだっ! セルムブルグでの暮らしの事だけど、覚えてる? お姉ちゃんと一緒だったけど、あそこだって、私たちのお家だったんだし」
レイナは、顔を上げながら尋ねると、リュウキはニコリと笑った。
「ああ――。覚えてるよ」
「ほんとっ!? じゃあね~……」
レイナはリュウキの返答に花開かせる様に笑顔を見せると、何か詳しく訊こうとする前に、リュウキは言った。
「だが、あの時は、正直金銭問題もあって、アスナに大分迷惑をかけたよな……」
「……ぁぅ、た、確かに、それはそうだけどぉ……」
そう言われてしまったら、少々笑えないのはレイナも同じだった。
雨降って地固まる……とまで行けたのは本当に良かった。アスナもしばらく一緒に、と言うのは快く承諾してくれた。そもそも異性とはいえリュウキの事はよく知っているから、特に抵抗は無かった様だ。
「あの時の事、改めてお礼を言わないと……かな?」
「ああ……、勿論オレも言うよ」
と言う事で落ち着いた。
正直な所、アスナがそれを訊いたら、『もー、耳タコだよー』と一蹴するだろう。……本当に真面目は2人で、その手の話は何度も言っていたから。
「後は、キリトが訪ねてきた事。いや、アスナと一緒に帰ってきた事もあったな。ラグーラビットとセジール・トゥールーズの食材を使った料理。……うん、それも覚えてる。後は、レイナと翌日待ち合わせをする為に、キリトと一緒に少々出かけた事、とか」
リュウキが思い出しながらそう言うと、レイナも頷いた。
「あっ、それは私も思い出す事、あるよー。だって、お姉ちゃんの想いが伝わったんだっ、って、嬉しかったから」
「ん――。そうだったな。オレにはちょっと判って無かったが、レイナに色々と教えてもらったから。それよりも、レイナとアスナの料理の事の方が衝撃的だった。――あんなに美味しいモノがあるなんて、ってな?」
料理の事を思い出していたのだろう。
少々、唾液を感じてしまう様だ。随分と感度の良い事である。
「あはっ、それもあるねー。実際に現実世界ででも、できないかなぁ、ってお姉ちゃんと一緒に相談したりもしたんだ」
「へぇ……、それは楽しみだな」
「あははは……。楽しみにしてくれて嬉しいんだけど……、色々と材料が揃って、後はソースを考えるだけ、って所にまで行ったんだけど……鶏肉は兎も角、フォアグラはちょっと大変だし、それに――思い出の中に、思い出のままに、っていうのが良いかな? ってお姉ちゃんと結論付けちゃったんだー。だって、もう二度と味わえない料理、って素敵だと思うから」
楽しみにしてくれているリュウキにそう言うのは少々心苦しい所はあるが、アスナとはそう言う結論になっている。味の細部まで再現する事は、本当に難しいし、よしんば成功したとしても、やっぱり、あの時の感動まで再現するのは難しいだろう。
それならば、思い出もままに、楽しく、美味しい思い出のままに留めておく。胸にしまっておく事が一番だと思えたんだ。
レイナは、頭を少しかきながら、謝罪の気持ちを持って、リュウキの方を見たら、リュウキは残念そうな顔一つしていなかった。
「――レイナやアスナの言うとおり、だな? その方が良い。……過去より、今、そして、未来だから。それに、レイナの料理はどんなものでも美味しいよ。……本当に」
そう言って、ニコリと笑いながら、レイナの頭を二度、三度と撫でた。
きょとん、としていたレイナだったけれど、直ぐにリュウキに負けない程笑顔になった。
「あ、ありがとうっ! リュウキくんっ!」
リュウキの腕をそっと取って、肩に頭を乗せた。そして、レイナはある事を思い出し、口にした。
「あっ、綺堂さんにも色々と教わらないと、だねー」
「ははは。そうだったな」
綺堂、爺やと慕う、リュウキの育ての親の彼は、色々な分野で秀でている才能の持ち主である。人脈の広さもそうだが、綺堂が持っている現実のスキルは、SAOやALO内で取得できるモノの二乗程は軽く超えているだろう。
その中には、レイナは勿論、アスナも惚れ惚れとする料理の腕。
三ツ星レストランの一流シェフも真っ青。一日で裸足で逃げ出しそうな程の腕前。それはまるで、絵画を描く様に、料理を盛り付け、全ての仕草までが完璧。そんな姿を見せて貰った時は本当に圧巻だった。料理の種類も幅広く――、日本食以外にも、様々な種類を作れると来たから、これまた圧巻。他のメンバーも知っていて、絶賛なのは言うまでもない。
シノンは、以前料理を持たせてくれた事に感謝を改めてしていたり、喫茶店を営んでいるエギルは、スカウトをしようとしたり。
リズに至っては、『私のお爺ちゃんになってーーっっ!!』と、美味しさから、思わず言ってしまっている。
それらの騒ぎ?を見て、本当に微笑ましそうに見ているのが綺堂だった。リュウキの回りに。――隼人の回りは笑顔に包まれている事が、本当に嬉しかったのだろう事は、レイナには判った気がしていた。綺堂の笑顔を見て―――。
リュウキは、レイナの話を訊いて、2人の料理の事を頭に思い浮かべていた。思い浮かべながら、難しい表情になる。
「正直、オレは優劣は……つけたくはないな」
「……あははっ、だね? リュウキくんらしいよ。そう言うと思ったよ」
「ん。……でもただ、レイナも負けてない、とだけ。――爺やも、オレの事 ずっと……大事に、大事に、支えてくれて、ここまで育ててくれたんだ。大好きだよ。でも、レイナに対する好き、とはやっぱり違うかな」
空を仰ぎながら、そう言うリュウキ。
いつも億面もなく、正直に言うのがリュウキだ。
「オレにとって、レイナが一番なのは変わりないから」
「――――ッ// わ、私も一番だからね……// リュウキ君が、一番…………」
恥ずかしそうに、話をしていた所で――、再びリュウキとレイナの距離が0になりそうな所で。
そんなラブコメ? 反対!! なメンバーが突如として現れた。
「ウォッホン、ウォッホンっ!!!」
かなり態とらしい咳払いが場に響く。そして何処となく、怒気も含まれている様子だ。
「~~っったく、ほんっと、似た者同士なんだから!」
腰に手を当てて、大股で歩み寄ってくる、敏腕鍛冶職人が1人。
「……リズさんの言う通りですよー」
少々頬を膨らませながら、相棒の小竜を頭に乗せて、大股の彼女に追いつく様に小走りで追いかけるビーストテイマーが1人。
「――――これから戦うのに、正直、呑気すぎるんじゃない? これじゃ 後ろから撃たれたって、文句は言えないレベルよ?」
猫耳が、逆だってる様に――見える? 怒っている時の証である事はよく知っている。
その鋭い眼光が、2人を射抜く。表情は冷静に見えていて、その眼は明らかに興奮気味な感じ。物騒な事を言って足音を殺しながら、宛ら暗殺者の様に近づいてくる山猫、弓兵が1人。
そして、その背後には、苦笑いをしている、二刀流使いの黒の剣士に、同じく笑っている青髪の水妖精族の細剣使い、金髪の風妖精族の剣士がいた。
つまり、いつものメンバーが集結、と言う事である。
「ほんっと、2人揃って、違う! 4人揃って、こんな短時間にデジャビュを見せてくれるんだからー!」
ざくざく、っと草を鳴らして近づいてくる3人。
「お取り込み中あいすみませんけど、御二人も、そろそろ時間でーす!」
「でーすっ!!」
「…………ふんっ」
盛大に凄まれてしまった。
こちらとしても、盛大に苦笑いするしかないだろう。
「あ、あぅぅ………///」
レイナは、一連の、一部始終を見られてしまっていた事を、その言動から感じて、ただただ、顔を赤くさせていた。
「そんな為体で、あの2人に瞬殺されても知らないわよ」
「う~……、が、頑張るから、シノンさん~っ……」
ちょっぴり口調が強いシノン。レイナは恥ずかしさもあって、ただただ顔を赤くさせているのだった。
それは兎も角、確かにもう徐々時間の様だ。
空には、沢山の種族の妖精達が同一方向へと飛んでいる。
つまり、件の2人が現れた、と言う事なのだろう。
レイナは、気を取り直す様に 背中の翅を使って身体を持ち上げて、軽く両頬を叩く。
その後は、自分の装備を1つずつ確認していく。一色の銀色の輝きを見せるそれは、《ミスリル・インゴット》を使用し、糸状へと加工。編み込んで作ってもらった短衣、とお揃いのスカート。銀世界だった、ヨツンヘイムの万年雪エリアに生息する《銀狼》の毛皮と同じく《ミスリル・インゴット》で作ったブーツ・グローブのセット。腰の剣は、水晶が柄に埋め込まれている完全な銀加工仕様のレイピア。
アスナと本当によく似ている装備のそれは、瓜二つな容姿と相余って、更に2人の存在を際立たせると言ったモノ、である。色違い、といっても良い程だから、2人の名はALO内でもSAOの時同様に知れ渡っている。
―――勿論《双・閃光》ではなく《バーサク・姉妹》として。
性能に関しても2人とも現段階で得られる装備では高レベルであり、性能は相手が伝説武器を持っていない限り、引けは取らないはずだ。そして、そんな情報は訊いてないし、装備も戦う時に見ている筈だから間違いないだろう。
「お待たせ―――」
レイナは完全に装備を見直し終えた後、アスナを、そして 皆を一通り見た。
気合の入り具合を、皆も見た様で、もうからかったりする者はいない。――シノンも勿論、同様で、確認した様にゆっくりと頷いていた。
レイナは、アスナの隣に立つと、互いに頷き合う。
「――じゃ、皆。行きましょう!」
アスナの言葉に、皆が頷き合い、翅を広げて空高くへと昇ってゆくのだった。
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