英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第10話
その後、ロレントに向かうアネラスとシェラザードを見送ったエステル達はルーアンに向かう飛行船を待つために待合所に向かった。
~飛行船会社・待合所~
「……………………」
「わっと、ごめんなさい。」
エステル達が入口に入ると、魔導鎧を装備し、立ち止まって無表情でエステル達を見ている女性に気付いたエステルは謝ってアガット達と共に女性に道を開けた。
「……………………」
女性はエステルを一瞥した後、どこかに去った。
「今の女の人……なんか、怖かったね………」
女性が去った後、ミントは女性の雰囲気から感じた事をエステル達に言った。
「こらこら。そういう事は本人の目の前で絶対に言ってはダメよ?………でも、確かになんか普通の人とは違う感じがしたわね………」
「ああ。それにあの眼……全く感情が籠ってねえ眼だ。……後、クーデターの時に戦った人形兵器共と似たような雰囲気があるぜ。」
「人形兵器って…………いくらなんでもそれは失礼じゃない。」
アガットの言葉に呆れたエステルは溜息を吐いたエステルは待合所にいる客達がある一点を集中している事に気付いた。
「あれっ……?」
「ふえ………?」
エステル達が客達の視線の先を見ると言い争いが起こっていた。そこにはミュラーもいた。
「まったく、これだから尊大なエレボニア貴族というのは……。鼻持ちならないにも程がありましてよ。」
言い争いをしている一人である女性――カルバード大使、エルザが鼻をならした。
「フン、鼻持ちならないのはそちらの方ではないのかね。第一、エンジン供給についてどうして共和国が口を出す?それこそ、内政干渉ではないか。」
同じく言い争いをしているもう一人の人物――エレボニア大使、ダヴィルが言い返した。
「安全保障上の問題ですから。貴国がリベールを侵略してからまだ10年しか経っていないでしょう。そんな侵略国家がぬけぬけと最新技術に手にするなど言語道断。友好国のメンツにかけても見過ごすことなどできませんわ。」
「な、なにが友好国だ!10年前も実際に兵を出したわけでもなかろうに!実際にリベールの友好国として戦ったのは、メンフィルだろうが!ただの傍観者風情の上、友好国と言う言葉を利用してメンフィルと何とか繋がりを持とうとする卑怯者が偉そうな口を利くのはやめたまえ!」
エルザの言葉に頭に来たダヴィルは怒鳴り返した。
「な、なんですって……」
ダヴィルの言葉を聞いたエルザは頭に来て、今にも掴みかかりそうな雰囲気だった。
「ダヴィル大使……。そのあたりになさっては。他の客の迷惑になりますよ。」
「し、しかしミュラー君。」
自分を諌めるミュラーにダヴィルは反論をしようとした。
「エルザ大使もここはお引き取り下さい。この話は、いずれ別の機会に双方の大使館ですればよいかと。」
「……そうですわね。エレボニア軍人に指図されるのはあまり愉快ではありませんけど。尊大で性根の腐ったエレボニア貴族よりは遥かにマシですわ。」
「な、なんだと!?」
同じくミュラーに諌められ、冷静になったエルザの言葉を聞いたダヴィルはまた怒鳴った。
「それでは御機嫌よう。皆さん、失礼いたしますわ。」
そしてエルザは待合室を出て行った。
「な、なんという失礼な女だ。これだから歴史も伝統もない成り上がりの庶民どもは……」
「大使……」
「……フン、判っている。私は先に大使館に戻る。例の件については君に任せたぞ。」
「了解しました。」
そしてダヴィルも待合室を出て行き、ダヴィルとすれ違ったエステル達はミュラーに話しかけた。
「どうも、こんにちは。」
「こんにちは!」
「君は……。確かエステル君にミント君だったか。久しぶりだ。武術大会の時以来になるか。」
「よかった。覚えていてくれてたんだ。それにしても……すごい言い争いだったわねぇ。今の人たち、どちらさまなの?」
「男性の方はエレボニア帝国のダウィル大使。女性の方はカルバード共和国のエルザ大使。どちらも王都にある大使館の責任者にあたる立場だ。」
「そ、そうだったんだ。」
「ふえ~……なんだかよくわかんないけど、凄く偉そうな人達なんだね。」
ミュラーから言い争っていた人物の事を聞いたエステルやミントは驚いた。
「しかし、大使というのは大人気ない口論だったな。あんなもんで務まるのか?」
「ちょ、ちょっとアガット。」
呆れて無礼な事を言うアガットにエステルはミュラーを気にしながら慌てた。
「いや、面目ない。元々、エレボニアとカルバードは友好的な関係とは言えなくてね。さらにあの2人は、性格的にも徹底的にウマが合わないらしい。まあ、顔を合わせるたびに口論ばかりしているというのは逆に気が合う証拠かもしれないが。」
一方ミュラーは目を伏せてダヴィル達の言い争いの件を謝り、事情を説明した。
「あはは、そうかもしれないわね。それにしても……気になること言ってなかった?エンジン供給とか内政干渉とか。」
「………………………………」
エステルが口にした言葉を聞くとミュラーは真剣な表情で黙った。
「ミュラーさん?」
「あ、聞いたらマズかった?」
ミュラーの様子を見たミントは首を傾げ、エステルは尋ねた。
「……いや、構わないだろう。エンジンとは、中央工房が現在開発している最新鋭のものでね。完成の暁には、飛行船公社を通じてエレボニアとカルバード、そしてメンフィルにサンプルが提供される話があるんだが……。その打ち合わせに来たところでエルザ大使と鉢合わせたわけだ。」
「ふーん、そうなんだ。でも、新型エンジンくらいでどうして口論になるのかしら。」
「そうだよね。飛行船が速くなったりするかもしれないのに………」
「そりゃあ、飛行船の性能を左右する最重要の部品だからな。軍艦に搭載されることを考えたらノンキに流せる話でもねぇだろう。」
ミュラーの説明を聞き首を傾げているエステルとミントにアガットが理由を話した。
「なるほど……。確かに、それでエレボニア軍がパワーアップしちゃったらちょっとシャレにならないかも。……あ、ゴメンなさい。」
アガットの言葉に納得した後、エレボニア軍人であるミュラーの目の前でうっかり口を滑らした事にすぐに気付いたエステルはミュラーに謝った。
「いや、確かにその通りだ。普通なら、他国に最新技術を提供するなど考えられないが、これも女王陛下のご意向でね。技術的優位を独占するのではなく、多くの国に提供することで諸国間の平和を確立したい……。そう思ってらっしゃるそうだ。」
「なるほど……。確かにそんな風に言ってたかも。うーん、それを考えるとやっぱり女王様って立派よね。ただの理想というよりずっと先のことまで考えた外交政策っていう気がするわ。………あれ?さっき打ち合わせに来たって言っていたけど、メンフィルの人は来なかったの?」
「いや、もちろん来たさ。ダヴィル大使達が言い争いを始めると、『任務は完了しましたので失礼します』と言って、さっさと去っていったよ。もしかしたら、君達とすれ違ったかもしれないな。」
「もしかして、さっきの鎧を着た女の人じゃないの?」
ミュラーの言葉を聞き、心当たりのあったミントはミュラーに尋ねた。
「恐らくその女性だろう。……彼女の名はシェラ・エルサリス。メンフィル帝国の機工軍団を率いるメンフィルの将軍の一人だ。」
「しょ、将軍~!?さっきの人、そんな凄い人だったんだ………」
すれ違った女性――メンフィル機工軍団長シェラの事を知ったエステルは驚いた。
「………将軍にしては、礼儀の一つもない奴だったな。俺達が道を開けた時、礼の一つも言わなかったぜ。」
「あんたに言われたかないでしょうよ。」
アガットのシェラに対する印象にエステルは呆れて言った。
「…………彼女はある意味、人形といってもおかしくない存在だから仕方ないだろう。」
「へっ?それって、どういう事??」
ミュラーの言葉にエステルは首を傾げて尋ねた。
「………かつての”百日戦役”の終結する際の会談でわかった事らしいのだが、シェラ将軍は生物ではなく、異世界の古代遺物のような存在だそうだ。」
「え!?」
「マジかよ!?」
「それって………クーデターの時に戦ったあのトロイメライとかいう奴と同じって事!?」
ミュラーの説明を聞いたエステル達は驚いた。
「………彼女が率いる機工軍団の一部は彼女のような存在が複数いるらしい。メンフィルにとって、主力軍団の一つであり、我々エレボニアからは”破壊の女神”と恐れられているよ。」
「”破壊の女神”………なんか物騒な呼び名ね………」
「んな事より、あのデカブツみたいな存在をメンフィルは複数持っているのかよ………とんでもねえな。」
「……実際、彼女達が戦場に出て攻撃を行うと頑丈に閉ざされた大門や戦の為に作られた砦、エレボニア軍が誇る戦車隊が跡形もなく消し飛ばしされたと聞く。まさに”破壊の女神”と評されてもおかしくないだろう。」
「クーデターの時に戦ったあのトロイメライみたいなのが複数いて、それが一斉攻撃って………ブルブル!想像したくもないわ!」
エステルはトロイメライ戦の事を思い出し、思わず震えた。
「同感だよ。彼女達の存在もそうだが、リウイ皇帝陛下を始めとし、”英雄”クラスの将が複数いる上、一般兵も親衛隊クラスの強さという精鋭ぞろいのメンフィルとは二度と争いたくないものだ。……すまない。つい話し込んでしまったな。乗船券を買うのだろう?俺はこれで失礼させてもらおう。」
「あ、うん。そういえばミュラーさん。オリビエのことなんだけど……。彼、もうエレボニアに帰っちゃたのかしら?」
「なんだ、知らないのか?」
エステルからオリビエの事を尋ねられたミュラーは意外そうな表情をして尋ねた。
「生誕祭以来、機会がなくて挨拶してないまま会ってなくて。申しわけないって思ってたの。」
「心配せずとも、あのお調子者ならまだリベール国内に滞在しているぞ。しばらく、エルモ温泉という場所で優雅に逗留するとか抜かしていたな。」
「あ、そうなんだ。ふふ……。なんだかオリビエらしいな。」
「温泉か~………いいな~。」
ミュラーからオリビエの行動を聞くとエステルは苦笑し、ミントは羨ましがった。
「ヤツが大使館に戻ってきたら君たちのことを伝えておこう。少なくとも、帰国前にはギルドに連絡するように言っておく。」
「ありがとう、ミュラーさん。」
「こちらこそ、あの変人に付き合ってくれて感謝する。それでは、またな。」
そしてミュラーは出て行った。
「あの金髪男の知り合いにしちゃずいぶん堅そうな軍人じゃねえか。いったいどういうヤツなんだ?」
ミュラーが去った後、アガットはオリビエの事を思い出し、オリビエの知り合いの割に真面目なミュラーに首を傾げてエステル達に尋ねた。
「ミュラーさんっていって帝国大使館の駐在武官さん。と言っても、あたしたちは1,2回会ったくらいなんだけどね。」
「片手でオリビエさんを引っ張って行ったんだよ!凄い力持ちの人だよ!」
「ふーん……。ガタイもいいし隙もねぇ。獰猛な牙を隠し持った優秀な軍用犬ってところか。」
エステルとミントからミュラーの事を聞いたアガットは目を細めて答えた。
「もう、失礼な言い方ねぇ。確かに……かなり強そうな雰囲気だけど。」
「フン、あの金髪男もそうだが、どうも帝国人は信用ならねぇな。カシウスのおっさんと何か話していたみたいだが……。どんな目的で長期滞在してるか判ったもんじゃねえ。」
「うーん、言われてみれば。でも、オリビエって変人だけど悪人じゃないし……。あのミュラーさんにしたって悪い人には見えないんだけど。」
「フン、どうだかな。まあいい、カウンターでとっとと乗船券を買うぞ。」
「はーい!」
そしてエステル達は乗船券を買おうとしたが、エルナンの手配によって乗船券のお金を払う必要もなく、受け取り、そしてしばらくの間飛行船を待った後、飛行船に乗ってルーアンに向かった…………
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