英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第118話
~アルゼイド流・練武場~
「お兄様っ!」
「……リィンさん……!」
地面に膝をついたリィンを見たセレーネとエマは声を上げて仲間達と共にリィンにかけより
「父上、お怪我はありませんか!?」
「ああ……フフ、情けない所を見せてしまったな……」
ラウラに心配されたアルゼイド子爵は苦笑した。
「うっわー……とんでもない勝負だねー。」
「ああ……だがやっとわかった気がする。リィンが子爵閣下に手合わせを願った理由が。」
表情を引き攣らせているミリアムの言葉に頷いたガイウスは重々しい様子を纏ってリィンを見つめ
「……阿呆が。こんなものを抱えていたのか。」
「”力”に振り回されていたから、使い物にならないね。」
ユーシスとエヴリーヌは呆れた表情で言った。
「リィンさん、大丈夫ですか!?」
「お兄様!今治療します!」
リィンの状態を見たエマは心配そうな表情で声を上げ、セレーネは治癒魔術を開始し
「……幾ら何でも、今のはやりすぎじゃなかったか、ご主人様?」
メティサーナは複雑そうな表情でセリカに視線を向けた。
「……大丈夫です……ちゃんと手加減してくれましたから……セリカ殿にまでお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした……」
リィンは静かに答えた後セリカに視線を向け
「―――あれ以上やり合っていたら、本気の殺し合いになるから止めただけだ。―――そいつも治療してやれ、シュリ。」
「はい、ご主人様。」
セリカは静かに答えた後シュリに指示をし、指示されたシュリは治癒魔術でリィンの傷を回復し始めた。
「フフ、セリカ殿に美味しい所を奪われる形になったが……その様子だとわかったようだな?」
「……はい。」
アルゼイド子爵に視線を向けられたリィンが静かに頷いたその時、アルゼイド子爵リィンの前に膝をついてリィンを見つめて言った。
「―――力は所詮、力。使いこなせなければ意味はなく、ただ空しいだけのもの。だが――――在るものを否定するのもまた”欺瞞”でしかない。」
「はい……天然自然―――師の教えがようやく胸に落ちた心地です。ですが……これで一層、迷ってしまうような気もします。」
「リィン……」
アルゼイド子爵の問いかけに頷いて答えたリィンの答えを聞いたラウラは複雑そうな表情をし
「……それでよい。まずは立ち上がり……畏れと共に足を踏み出すがよい。迷ってこそ”人”――――立ち止まるより遥かにいいだろう。」
アルゼイド子爵は静かな表情で頷いてリィンを見つめた。その後それぞれの身体を休める為に練武場から出ようとしたリィン達だったが、リィンが突如セリカを呼び止めた。
「―――セリカ殿。折り入って頼みがあります。」
「え……」
「む?ご主人様に何の用だ?」
「リィン……?」
「ふむ……」
セリカを呼び止めたリィンの行動にシュリとメティサーナは首を傾げ、ラウラは戸惑い、アルゼイド子爵は静かな表情でリィンを見つめ
「……言ってみろ。」
セリカは答えを促した。
「貴方を良く知るプリネさん達から貴方が使う剣技は”ディル・リフィーナ”では今では使い手が非常に限られており、伝説と化している東方の剣技だとお聞きしています。」
「で、”伝説の剣技”ですか……」
「ふえええ~っ、”嵐の剣神”って異名が付いている通り使っている剣技も凄いんだ~。」
リィンの話を聞いたセレーネは目を丸くし、ミリアムは驚き
「――――”飛燕剣”の事か。何も俺一人だけが使える訳ではない。世界のどこかに”飛燕剣”を伝承している者がいるかもしれないし、エステルとヨシュアも一部だが”飛燕剣”を習得している。」
セリカは静かな表情で答えた。
「ええっ!?エステルさん達がですか!?」
「そだよ。サティアの事で感謝したセリカがエステルにねだられて2人に”飛燕剣”を教えたんだよ。」
驚いているエマにエヴリーヌは頷いて答え
「サティア……?」
「―――余計な事を言うな。それで頼みとは何だ。」
エヴリーヌの口から出た聞き覚えのない名前にガイウスは不思議そうな表情をし、セリカは目を細めてエヴリーヌを睨んだ後リィンに答えを促した。
「はい……セリカ殿が扱う剣技――――”飛燕剣”を俺に教えてください……!」
「リ、リィン!?」
「一体何を考えている?お前には”八葉一刀流”があるのではないか?」
頭を下げたリィンの行動にラウラは驚き、ユーシスは眉を顰めた。
「みんなもさっき見せたあの”力”……”あれ”に呑み込まれない為にも俺自身強くならなければいけない。」
「…………………」
「ふむ、確かに己自身を強く保てば、力に振り回される可能性は少なくなるのも事実だ。」
リィンの説明を聞いたエマは複雑そうな表情をし、アルゼイド子爵は納得した様子で頷いた。
「しかし……だからと言って他流派の剣技を習得する事で己自身を強くする事はできないと思うのだが……」
「ああ……せいぜい気休め程度しかならないだろう。だけど例えどれだけ可能性が低くても、俺は踏み出さなければならないんだ。」
「フフッ、確かに他の流派の剣技を取り入れる事で新たな境地に到るだろうな。」
ラウラの疑問に答えたリィンの答えを聞いたアルゼイド子爵は微笑みながら頷いた。
「ご主人様、どうするのだ?」
「―――断る。何故俺が赤の他人の面倒を見てやらなければならない。」
メティサーナに尋ねられたセリカは静かな表情で答え
「お願いします……!俺にはみんなを傷つけない為に……そして守る為に新たな力が必要なんです……!いつか必ずご恩は返すつもりです……!」
リィンは頭を深く下げた。
「……あの、ご主人様。僅かな時間でも教えて差し上げてはどうでしょう?」
するとその時リィンの様子を見たシュリはセリカに申し出た。
「え……」
意外な人物の申し出にリィンは呆け
「何故だ、シュリ。」
「はい……今のリィンさんはかつて”使徒”になったばかりの私自身と同じですからリィンさんの気持ちは私もわかるんです。誰かの為に早く”力”を得たいという気持ちを……」
「…………………」
(フム、言われてみればそうだの。リィン(奴)の今の目はエクリア嬢ちゃんたちに鍛えられていた時のシュリ嬢ちゃんの目とそっくりだの。)
シュリの答えにセリカは目を伏せて黙り込み、ハイシェラは静かに呟き
「シュリの頼み通り教えてやったらどうだ?というかエステル達が後でこの事を知ったら五月蠅く言ってくると思うぞ?」
「確かにエステルの性格なら、絶対セリカを責めるだろうね。」
メティサーナの意見にエヴリーヌは頷いて続きを言った。
「……………例え教えるにしても、今の疲弊しているお前の状態では到底”飛燕剣”を習得できるとは思えないな。」
「それは……」
そしてセリカの指摘にリィンが複雑そうな表情をしたその時
「うふふ、それなら私に任せて♪」
ベルフェゴールが突如リィンの傍に現れた。
「ええっ!?あの方は一体……」
「睡魔―――いや、この圧倒的な魔力は”魔神”か。」
ベルフェゴールの登場にシュリは驚き、セリカは静かに呟いた。
「うふふ、初めまして、”神殺し”。私の名はベルフェゴール。睡魔の女王種―――リリエール族の者にして”七大罪”の一柱――――”怠惰”を司る者よ。」
「”七大罪”の一柱だと!?何故そのような者が人間に従っているのだ!?」
(ほう?随分と大物が出て来たな。メティサーナの言う通り人間に従っているとは一体何があったのか気になるだの。)
ベルフェゴールの自己紹介を聞いたメティサーナは血相を変え、ハイシェラは興味ありげな表情をした。
「うふふ、私からしたら天使の貴女が”神殺し”に従っている方が驚きよ?」
(クク、一理あるだの。)
「うっ……メティはご主人様に救われたから、恩を返す為にご主人様に力を貸しているだけだ!」
ベルフェゴールの指摘にハイシェラは口元に笑みを浮かべて頷き、メティサーナは一瞬怯んだ後答えた。
「……それでどうやってそいつの疲弊した状態を回復させるつもりだ。」
「あら、そんなの簡単よ♪これをすれば一気に回復するわ♪」
セリカの指摘にウインクをして答えたベルフェゴールはリィンの顔に両手を添えてリィンの顔に近づき
「ちょっ、ベルフェゴール、まさ―――んんっ!?」
「ん……ちゅ……れる……ちゅる……」
なんとリィンと深い口付けを交わした!
「ええっ!?」
「わ~、ラブラブだね~。」
「オレ達が見ている目の前であんな事ができるなんて、凄いな……」
「フッ、今の光景をアリサに教えたらどんな反応をするだろうな?」
「え、えっと……間違いなく嫉妬に駆られて何らかの行動をするでしょうね。これは後で絶対に教えなくてはなりませんね。」
その様子を見たセレーネは驚き、ミリアムは興味ありげな表情をし、ガイウスは目を丸くし、からかいの表情をしているユーシスの言葉にエマは頬を赤らめた後微笑み
「な、な、な……っ!?」
「フッ、ラウラには少し早い光景だな。」
「そのようですな。」
顔を真っ赤にして口をパクパクしているラウラの様子を見たアルゼイド子爵とクラウスは苦笑した。
「あ、なるほど。その手で回復させるんだ。」
「え、えっと……」
「―――”性魔術”か。」
「睡魔族らしいやり方だな。」
一方エヴリーヌは納得した様子で頷き、シュリは頬を赤く染め、セリカは静かに呟き、メティサーナは呆れた表情で言った。
「はい、今のキスで私の精気を分けてあげたから疲労も一発で回復したでしょう?」
「ううっ……確かに回復したけど、もうちょっと他にもマシなやり方はなかったのか………?」
「自身の精気を分け与えるなら、睡魔族の場合触れるだけでもできるはずだがな。」
深い口付けを終えたベルフェゴールにリィンとセリカはそれぞれ指摘し
「うふふ、私はこのやり方が好きなのよ♪それじゃあ頑張ってね♪」
ベルフェゴールはウインクをした後リィンの身体に戻った。
「え、えっと……その……すみません……」
ベルフェゴールが消えるとリィンは申し訳なさそうな表情で謝罪し
「―――別に謝る必要はない。それより子爵、2時間程ここを借りるぞ。」
セリカは静かに答えた後アルゼイド子爵に視線を向けた。
「え……じゃあ……!」
「……お前の為に進言したシュリに感謝しておけ。」
自分に”飛燕剣”を教えるつもりでいる自身の言葉に明るい表情をしているリィンにセリカは静かな表情で答え
「ええ、二人の気のすむまで使って頂いて結構です。ですがその代わり後学の為にもセリカ殿の指南の様子を見せてもらって構いませんか?」
「好きにしろ。」
「フム、なら私も見学させて頂きます。異世界で伝説と化した東方の剣技……どのような剣なのか、一人の剣士として気になりますし。」
「やれやれ、親娘揃ってまさに”剣士の一族”だな。」
「アハハ……」
そしてアルゼイド子爵とラウラの答えを聞いて呆れた表情で言ったユーシスの言葉を聞いたエマは苦笑した。その後リィンはセリカの指南によって、”飛燕剣”の基本剣技―――”妖の型”―――”身妖舞”、”舞の型”―――”円舞剣”、”斬の型”―――”殲綱斬”、”燐の型”――――”紅燐剣”を習得した。
その後リィン達はそれぞれの部屋で明日に備えて休み始め、リィン達が眠っている間、エマは一人バルコニーに出て外の景色を見つめていた。
~深夜・アルゼイド子爵邸~
「……霧が晴れたみたいね。聖女の城、か……」
(お宝が眠って良そうな気配ね♪)
バルコニーでエマは霧が晴れた事によってよく見えるようになった”ローエングリン城”を見つめ、ヴァレフォルは興味ありげな表情をしていた。
「……駄目よ。みんなに気付かれてしまうわ。」
その時何かの気配を感じたエマが呟くと
「フフン、大丈夫よ。”光の剣匠”と”魔弓将”、後は”嵐の剣神”達は怖いけどこのタイミングなら平気だわ。」
「もう……」
いつの間にか手すりにセリーヌが乗っていた。
「……しっかし、何とも危なっかしい子ねぇ。”前”に進めるきっかけをやっと手に入れたみたいだけど……この調子で”間に合う”のかしら?しかも”魔王”達の力をその身に宿した影響がモロに出ていて、不安要素が重なっているし。」
「ふう……それは私達が決める事じゃないわ。私達は見守り、導くだけの存在……前みたいなことをしたら、今度こそベルフェゴールさん達の怒りに触れるんだから絶対に止めてちょうだい。」
溜息を吐いたセリーヌの言葉を聞いたエマは呆れた後真剣な表情でセリーヌを見つめた。
「はいはい、わかってるわよ。それよりあんたが異世界で”契約”したソロモンの”魔王”は本当に信用できるんでしょうね?」
(ム……使い魔もどきの猫なんかにそんな事を言われる筋合いはないわよ。)
「(す、すみません、ヴァレフォルさん。)もう……ヴァレフォルさんは気さくな人だけど”魔王”なのよ?せっかく力を貸してくれているのに、そんな態度をしていると、ヴァレフォルさんに嫌われるわよ?」
セリーヌの指摘で頬を膨らませたヴァレフォルの様子にエマは申し訳なさそうな様子で念話をヴァレフォルに送った後、溜息を吐いてセリーヌを見つめた。
「相手が”魔王”だからこそ、その真意を疑わなくちゃ駄目でしょうが。大体、異世界の”魔王”達は色々とおかしすぎよ。貴女やあの子もそうだけど、あのプリネって娘に従っているソロモンの”魔王”も自身の実力より下なのに従っているのだから。それはそうと―――気付いているみたいだけどあの城、”何か”あるわよ?アタシたちの管轄外だけど、ちょっとマズいかもしれないわね。」
「ええ……ラウラさんにそれとなく伝えるしかないでしょうね。」
セリーヌの推測に頷いたエマは真剣な表情でローエングリン城を見つめた。
そして翌日…………
ページ上へ戻る