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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第111話

翌日、いつものように依頼を終わらせ、旧校舎の探索を終えたリィンは寮に戻ってきた。



~第三学生寮~



「お帰りなさいませ、リィン様。」

「シャロンさん、ただいま戻りました。」

リィンが寮に戻ってくるとシャロンが出迎えた。



「突然の夕立で大変だったでしょう。よろしければお着替えをお持ちしましょうか。」

「はは、いえ。おかげさまでそこまで濡れませんでしたし。それにしても、よく今朝の時点で夕立が来るのがわかりましたね?」

朝シャロンと出会った時夕立の可能性がある忠告をされた事を思い出したリィンは不思議そうな表情でシャロンを見つめた。



「ふふ、会長が出張なさる時などは天気に気をつけていますから。これくらいはメイドとして当然のことですわ。」

(うーん、そういうものなのか?さすがすぎるというか……)

「夕食までお部屋の方でお待ちになってください。今日は夕食まで少々お時間をいただくと思いますので。」

「え、そうなんですか?」

シャロンの口から出た予想外の言葉にリィンは目を丸くした。



「はい、クロウ様とミリアム様、エヴリーヌ様が寮にいらっしゃいましたから。お3方の歓迎の意味を込めて、少々手がかかったものにしようかと思いまして。」

「へえ、それは楽しみですね。何か手伝いましょうか?」

「いえ、そんな……未来のご主人様にそのような事はさせられませんわ。」

「未来のご主人様って……」

申し訳なさそうな表情をしているシャロンの答えを聞いたリィンは表情を引き攣らせ

「うふふ、アリサお嬢様と将来結婚なさるのですから、間違ってはいないと思うのですが?」

「う”っ。」

(確かにそうね♪)

(ふふふ、結婚する事を承諾した証拠までありますからね……)

(というか、シャロンさんがその事を知っているという事はまさかと思いますが……アリサさんが録画していたお二人が愛し合っている内容の映像を見たのでしょうか?)

微笑みながら自分を見つめるシャロンの言葉にリィンは唸り声を上げ、ベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ、メサイアは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。



「え、えっと……シャロンさん。まさかとは思いますがイリーナ会長も既にご存知なのですか?」

「ふふっ、お嬢様の強い希望で”まだ”知らせていませんわ。リィン様の”心は”まだ繋ぎとめていないとの事でしたので。」

冷や汗を滝のように流して表情を引き攣らせているリィンをからかいの表情で見つめながらシャロンは答えた。



「え、えっと、その、前から聞きたいと思っていたのですが、シャロンさんはアリサの相手が俺でいいと思っているのですか?」

「うふふ、エリス様とエリゼ様の事に加え、ベルフェゴール様達とも関係を持っておられる事ですね?」

「う”っ。」

シャロンに図星を突かれたリィンは再び唸って冷や汗をかいた。



「私はラインフォルト家のメイドとしてお嬢様の初恋を応援するだけですわ。リィン様もご存知でしょうが貴族の重婚はよくある事ですし、異世界の宗教が進出してからは平民達の重婚もたまにですが聞く事もありますから、リィン様が複数の女性を関係を持つ事もおかしなことではありません。」

「ハ、ハア……(そういう問題か?)」

「それにリフィア殿下の専属侍女長を務めておられるエリゼ様やマーシルン皇家の分家と養子縁組をしているツーヤ様の妹であられるセレーネ様とも将来繋がりが持てるのですから、”ラインフォルトグループ”としても”メリット”になりますから、一石二鳥どころか、三鳥にもなりますわ♪」

「ハ、ハハ……(というか何でそこにセレーネまで入ってくるんだ……?)……え、えっとその……学院に通っているのですから、アリサはともかく俺は一学生として扱って欲しいですので……」

嬉しそうな表情で答えたシャロンの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて苦笑した後シャロンを見つめた。



「ふふっ、わかりました。今から不足していた食材などを買い付けにいくところでしたので、先程のお言葉に甘えて買い付けを頼んでもよろしいでしょうか?」

「はい。」

「ありがとうございます。」

シャロンはリィンに買い物のメモとミラを渡した。



「こちらのメモにあるものをよろしくお願いいたします。そのミラでちょうど足りると思いますので。」

「わかりました。それじゃあ行ってきますね。」

「ふふ、お気をつけて。」

その後寮を出て頼まれた食材を買ったリィンは店を出た。



~夜・トリスタ~



「いつの間にか雨も上がったみたいだな。大分暗くなっちゃったし、早い所戻らないと……」

「あら、あなたは……」

リィンが店を出ると帽子を被った眼鏡の女性が近づいてきた。



(あ……)

「もしかして、士官学院”Ⅶ組”の生徒さんじゃない?こんな時間にお買い物かしら。」

「ええ、まあ。……あれ、どうして俺が”Ⅶ組”だって……」

「ふふっ、君達の事はウチの局でも噂になってるわよ。深紅の制服―――士官学院で新たに設立されたクラスだって。」

「ああ、ラジオ局の方でしたか。そう言えば何度か早朝に見かけたような……」

女性の話を聞いて女性の正体を察した後見覚えがある事に気付いたリィンは女性を見つめた。



「あら、そうだったの?朝方は大分疲れてるからだらしない姿をみせちゃったかしら。」

「い、いえいえ、滅相もない。……ってあれ?なんだか、あなたの声に聞き覚えのあるような……?」

「わっ、もしかして聞いてくれてるのかしら?―――コホン。ラジオをお聞きの皆さん、こんばんは。随分暑くなってきましたがいかがお過ごしですか?今夜はここトリスタにある公園からお送りしています。―――ふふ、なんちゃって。」

「……え……ええええっ!?も、もしかして”アーベントタイム”の……ミスティ、さんですか?」

女性の声をよく聞いたリィンは驚いた後信じられない表情で女性を見つめて尋ねた。



「ふふっ、大正解。声だけで気付くなんてどうやらかなり聞いてくれてるみたいね。お姉さん、嬉しいわ♪」

「(ま、まさかこんな所で会えるとは……)はは、いつも楽しく聞かせてもらっています。」

「ふふ、ありがと。それにしても、雨上がりにこんな出会いがあるなんてね~。ふふ、せっかくだから今夜のラジオのネタに使っちゃおうかしら?」

「はは……いえいえ、そんな大したことでは。(番組でしか知らなかったけど……随分気さくな人だったんだな。)」

「あら?よく見たら貴方って……今話題になっているアルフィン皇女殿下の婿の最有力候補と噂されている有名人じゃない♪」

「う”っ。あ、あの。俺はあくまで殿下のダンスパートナーを務めただけで、決してそんな関係ではありません。あれはマスコミの憶測です。」

からかいの表情をしている女性―――ミスティの話を聞いたリィンは唸った後慌てた様子で説明した。



「ふふっ、今はそうだけど将来、本当にアルフィン皇女殿下の婿になれたら、ラジオのネタにしていいかしら?」

「いや、絶対にありえませんから。……………あれっ?……………」

ミスティの言葉に呆れたリィンはある事に気付いたミスティの顔をジッと見つめた。



「ん、どしたの?そんなまじまじと見られたらさすがに恥ずかしいんだけど。」

「い、いえ、その……ひょっとして……以前も、お会いしたことありませんか?―――帝都のホテルで。」

「!あはははっ……!は~、参っちゃったな。まさか、気付かれるなんて。」

「やっぱり……!ヴィータ・クロチルダさん、ですよね?”蒼の歌姫(ディーバ)”と呼ばれている……」

リィンの指摘に目を見開いたミスティ―――クロチルダは声を上げて笑った後感心した様子でリィンを見つめた。



「またまた大正解♪ラジオ局のみんなですら気づいていないのに、よくわかったわね~?」

「い、いえ……まさかとは思ったんですが。その、どうしてトリスタのラジオ局に……?」

「ふふ、ちょっと気晴らしにね。オペラハウスには内緒で毎週、顔を出しているのよ。みんなにはヒミツにしておいてね?」

「え、ええ……それはいいんですが。でも、よくバレませんね?声もそっくりなのに……」

「ちょっとしたコツがあってね。ふふっ、でも……こっちもビックリしたわ。」

リィンの指摘に微笑んだクロチルダは眼鏡を取った後リィンに詰め寄ってリィンを見上げた。



「っ……!?」

(あら♪もしかして”また”かしら♪)

(ふふふ、歌”姫”ですから、芸術の”皇族”と言ってもおかしくありませんね。)

(ア、アハハ……多分、からかっているだけと思いますよ?)

クロチルダの整った容姿を至近距離で見たリィンは驚き、ベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、メサイアは苦笑していた。



「あの雑誌を見てどこかで見た顔だとは思ったけど……なるほど―――”君”だったわけね。」

リィンを見つめて意味ありげな言葉を呟いたクロチルダはリィンから離れて眼鏡をかけ直した。

「あ……」

「それじゃ、これからスタジオ入りだから。”アーベントタイム”、よかったら今夜も聞いてね。」

「は、はい……!」

「ふふっ……3人にもよろしく。」

そしてクロチルダはその場から去って行った。



(これは……ラベンダーの香水か。あの人のイメージにぴったりの香りだな。ヴィータ・クロチルダ……ミスティさん、か……)

その後リィンは寮に戻って行った。



~第三学生寮~



「あ、お帰りなさい。」

リィンが寮に入るとエマが出迎えた。

「ただいま、委員長。今帰ったのか?」

「ええ、ついさっき戻ったところで……リィンさんは買い物ですか?」

「ああ、シャロンさんに頼まれてね。ちょっと遅くなっちゃったけど……」

「あら……ラベンダーの香り……これって香水ですよね?どうしてリィンさんが……?」

リィンから漂って来たラベンダーの香りに目を丸くしたエマは不思議そうな表情で尋ねた。



「ああ……そうか。匂いが移っちゃったんだな。あんなに近くまで迫られたら当然か……」

「……その、リィンさん?もしかして、帰りが遅れてしまったのって……」

リィンの呟きを聞いて考え込んだエマはある推測が浮かんだ後ジト目でリィンを見つめ

「ま、待った……!違うぞ、委員長!?ちょっと知り合いに会っていたくらいで……別にやましいことはないんだからな!?」

リィンは慌てた様子で答えた。



「ふふ、私はまだ何も言っていませんけど。アリサさん達やエリゼさん達にも話しちゃおうかしら……」

「いや、だからただの知り合いで……ああもう、からかってるだろ委員長!?」

「クスクス……」

慌てた様子のリィンに指摘されたエマが微笑んでいるとシャロンが食堂から現れた。



「あら、リィン様。お帰りでしたか。お願いしていた買い物はおすみになりましたか?」

「あ、はい!今持って行きます!」

そしてリィンはシャロンと共に食堂に入って行った。

(―――ラベンダーの香り……ふふっ、まさかね。)

その様子を見守っていたエマは不安そうな表情をした後すぐに気を取り直して苦笑した。



その後、リィンはそのままシャロンの料理を手伝うことにし……クロウとミリアム、そしてエヴリーヌを新たに加えた仲間達とともに、いつもよりさらに豪華な食卓を囲んだのだった…………


 
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