英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第108話
8月21日――――
ミリアム、クロウ、エヴリーヌの3人が”Ⅶ組”に編入して3日が経った。
クロウ・アームブラストと、情報局に所属する謎の少女ミリアム、そしてメンフィル帝国の客将のエヴリーヌ。
異色すぎる新メンバーたちは呆気なく”Ⅶ組”に馴染んでいった。
2限目―――歴史学
~1年Ⅶ組~
「―――”獅子戦役”を治めたのがドライケルス皇子だったのはもう言うまでもありませんが……250年前、挙兵した彼の手勢は余りに心許ないものでした。彼と、彼の腹心の部下達に加え、ノルドの戦士達数名……各地で味方を増やしたとはいえ、他の有力な皇子たちの軍勢とは比べ物にならないほど少数でした。それでも各地を解放しながら血の滲むような戦いを繰り返し、半年あまりが過ぎ去った時―――ドライケルス皇子は”その人物”と出会ったのです。ええっと、ミリアムさんでしたか。その人物の名前、お分かりになりますか~?」
「はーい!リアンヌ・サンドロット!またの名を”槍の聖女”でーす!」
授業中にトマス教官に指名されたミリアムは元気よく立ち上がって答えた。
「いいお返事ですね~、正解です。辺境の伯爵家に生まれた彼女は幼少より武術の才に恵まれていました。特に馬上槍は神憑っており常勝無敗を誇ったそうです。その”槍の聖女”が率いた一騎当千の勇士たちの集団……何という名前だったか、リィン君に答えてもらいましょうか。」
「!(”槍の聖女”が率いた勇士たちの集団といえば―――)”鉄騎隊”―――神速の機動力で戦場を駆け抜けた一騎当千と言われた騎士団です。」
「はい、正解です。長引く戦乱の中、漂白の皇子と槍の聖女は辺境の地で出会い……互いに信頼に足る人物として認め合い、共闘する事になりました。それ以降、ドライケルス陣営は破竹の勢いで各地を解放してゆき―――わずか1年で、他の皇子たちを降し、帝都ヘイムダルを解放したのでした。ちなみに250年前の当時、鉄騎隊が拠点とした”城”ですが……ラウラさんのご実家のすぐ近くにあったりします。」
指名したリィンの答えに頷いた後説明を続けたトマス教官はラウラに視線を向けた。
「”ローエングリン城”……レグラムの西、エペル湖の湖畔にそびえる美しい古城だな。」
「まあ……ラウラさんのご実家には歴史上にある城があるのですか……」
ラウラの説明を聞いたセレーネは目を丸くし
「前に言ってた……」
「今でも誰か住んでるの?」
フィーと共に興味ありげな表情でラウラを見つめたエリオットは尋ねた。
「いや、険しい場所にあるため遺構として残っているだけだ。一応、アルゼイド家で最低限の管理はしているが。」
「ふむ、アルゼイド家と言えば……」
「確か、祖先が”鉄騎隊”の副隊長を務めていたらしいな?」
「うん、”槍の聖女”の右腕にして腹心の部下だったと聞く。聖女亡き後、サンドロット家が断絶してしまったこともあって……今ではアルゼイド家がその魂を毎年、弔わせてもらっているな。」
「なるほど……」
「ふふっ……ロマンのある話ですね。」
リィンの質問に答えたラウラの説明を聞いたアリサは頷き、エマは微笑んだ。
「”鉄騎隊”……?何か最近どっかで聞いたことがあるような??」
一方エヴリーヌは不思議そうな表情で首を傾げ
(……”影の国”で出会った”鋼の聖女”―――アリアンロードとその部下である”鉄機隊”と関係があるのでしょうか?)
(……恐らく何らかの関係はあるでしょうね。あの時の彼女の馬上槍の技はシルフィア様と互角に打ち合えるほど神憑っていたし……)
真剣な表情のツーヤの念話にプリネは静かな表情で答えた。
「レグラムかー。任務で行った事はないなぁ。この前のバリアハートに行った時、寄り道すればよかったかもー。」
無邪気な様子で呟いたミリアムの発言を聞いたその場にいるほとんどの生徒達は冷や汗をかき、トマス教官は首を傾げていた。
(”任務”って……隠す気なさすぎだろう!?)
そしてマキアスは小声で突込み
(バリアハートで活動してたのも認めちゃってるし……)
(ま、まあ……変に壁を作られるよりはいいだろう。)
戸惑いの表情をしているエリオットの小声にリィンは苦笑しながら頷き
「ZZZ………」
窓際の最後列の席にいるクロウは居眠りをしていた。
3限目―――軍事学
「前にも話したと思うが導力車両によって結成された”機甲師団”……高い機動力、攻撃力、防御力を持ち戦場に”革命”をもたらした。陣形によっては例え相手の戦力が上でも長時間持ちこたえる事もできる。――――エヴリーヌ。この陣形ならば、相手が1,5倍の規模の戦力の場合、撃破するのにどれほどの時間がかかる?」
ナイトハルト教官は黒板に陣形を書いた後エヴリーヌを指名し、指名されたエヴリーヌはめんどくさそうな表情で立ち上がって答えた。
「―――2時間。」
「何……?」
エヴリーヌの答えを聞いたナイトハルト教官は眉を顰め
「あ、間違えた。5時間だった。」
すぐに間違いに気付いたエヴリーヌは答えた。
「……その通りだが、何故先程真っ先に”2時間”という答えが出た?」
エヴリーヌの答えに頷いたナイトハルト教官は不思議そうな表情でエヴリーヌに尋ねたが
「リウイお兄ちゃん達と一緒にセントアークだっけ?”百日戦役”の時にそこを制圧する際抵抗して来たエレボニア帝国軍―――え~っと、”第三機甲師団”だっけ?そいつらを殲滅した時間がそれくらいだったから。あの時はシェラ達の魔導砲撃で一気に半分くらい殲滅したらすぐに逃げ出し始めたから、殲滅するのにちょっと時間がかかったんだよね。ファーミシルスも雑魚に邪魔されてエレボニア帝国軍を率いていた奴を殺し損ねたって悔しがってたから何となく覚えてたんだ。」
「!…………………」
まるで明日の天気を話すかのように普通に答えたエヴリーヌのとんでもない説明に目を見開いた後厳しい表情でエヴリーヌを睨み、リィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「”第三機甲師団”と言えば……」
「アルノール家の守護者―――”隻眼”のゼクス率いる師団だな。」
「……そう言えば中将から聞いた事がある。”百日戦役”の時に多くの部下達を死なせて自分だけが生き残ってしまったと。」
不安そうな表情で呟いたエマの言葉にユーシスは答え、ガイウスは静かな表情で答えた後エヴリーヌを見つめた。
「エ、エヴリーヌお姉様。」
「お願いですから、エレボニア帝国軍に喧嘩を売るような事を言わないでください……」
そしてその様子を見守っていたツーヤはリィン達のように表情を引き攣らせているプリネの言葉に続くように疲れた表情で指摘した。
(異世界の科学技術―――”魔導”だっけ?そんなに威力が凄いの?)
(ああ……魔導の技術によって創られた兵器―――”魔導兵器”を用いる”機工軍団”の破壊力は余りにも圧倒的で、一斉砲撃によって都市一つを一瞬で灰燼と化す事ができると言われている程だ。)
不安そうな表情で尋ねたアリサの質問にリィンは重々しい様子を纏って頷き
(と、都市一つを一瞬で灰燼と化すって……)
(一体どんな軍団なんだ……?)
リィンの答えを聞いたエリオットとマキアスは不安そうな表情をした。
その後授業は終わり、HRの時間となった
HR―――
「―――さて、明日は自由行動日。来週の水曜は実技テストだから備えてもらうとして。ミリアム、エヴリーヌ、それにクロウ。アンタたちにも一応、Ⅶ組用の教材が届いてるわ。これが終わったら渡すから教官室まで一緒に来なさい。」
「おっけー。」
「やれやれ、面倒くせーな。」
「えー……何でエヴリーヌがそんなめんどくさい事を……」
サラ教官の指示に3人はそれぞれ様々な反応を見せ
「……学院に編入したからには、ある程度学院の指示に従う事をもう忘れたのか?」
「……覚えてるけどお前に指図されるとなんか腹立つ。」
呆れた表情で指摘したレーヴェの言葉を聞いたエヴリーヌは顔に青筋を立てた。
「それじゃあこれで、HR終了。マキアス、号令して。」
「はい。起立―――礼。」
そしてHR終了の号令が終わった後編入生の3人はサラ教官とレーヴェについて行って、教室から出た後リィン達は集合して編入生達の事について話し合いを始めた。
「……どう思う?」
「えっと……ミリアムさんの事ですよね?」
アリサの問いかけを聞いたセレーネは確認し
「うーん、そうだな……そこまで警戒する必要はないと思うんだが……」
リィンは考え込みながら答えた。
「そうだねぇ……あの銀色のデッカイのを呼ぶのはちょっと困るけど。」
「悪い子じゃないと思う。昨日、中庭で昼寝をしてたら一緒に寝転がってきた。」
「それ、良い子悪い子は関係なくないか……?」
エリオットの推測に頷いたフィーの答えを聞いたマキアスは呆れ
「ふふっ、二人で眠っていると子猫が2匹いるみたいでしたね。」
「まあ……!フフ、わたくしもその光景を見たかったですわ。」
微笑みながら言ったエマの言葉を聞いたセレーネは目を丸くした後微笑んだ。
「ふふ、タイプは違うがどちらも猫っぽくはあるな。」
「12,3歳くらいか……無邪気なのも当然だろう。」
「うーん、そうなのよね……妙に人懐っこいからこちらも邪険にできないっていうか……」
「どうも憎めないというか……天性の愛嬌はあるかもな。」
「アハハ、その意見には同感です。」
クラスメイト達のミリアムに対する評価を聞いていたツーヤは苦笑しながら頷いた。
「――だが、どんなに子供じみても”鉄血宰相”の指示で編入したのは間違いないだろう。」
その時腕を組んだユーシスが静かな口調で答えた。
「それは……」
「……まあ、確実だろうな。」
ユーシスの言葉を聞いたリィンは真剣な表情になり、マキアスは頷いた後仲間達と共にバルヘイム宮で自分達に向けたオズボーン宰相の言葉を思い出した。
私としてもささやかながら更なる協力をさせてもらうつもりだ。まあ、楽しみにしてくれたまえ。
「”帝国軍情報局”だったか……ノルドでの一件を見る限り、その一員なのは間違いないだろう。」
「それと”ガーちゃん”……あの”アガートラム”君もさすがに不思議すぎますよね。金属のような、陶器のような………それでいて柔らかそうでもあるし。」
「……確かに……最新の導力技術をもってしても作れるとはとても思えないわね。」
「「……………」」
「?(お二人ともどうされたのでしょう……)」
アリサの意見を聞いて真剣な表情で黙っているプリネとツーヤに気付いたセレーネは首を傾げた。
「ちなみに触ってみたらヒンヤリ気持ち良かった。」
「そ、そうなんだ……」
「いずれにしても、サラ教官が実技テストで出した”傀儡”……あれと同系統のものであるのは間違いないだろう。」
「確かに……」
「”押し付けられた”と言ってたが今回もそれに近いのかもしれないな。」
ラウラの意見にエリオットとマキアスはそれぞれ頷いた。
「フン……やはりとても信用できんな。」
そして鼻を鳴らしたユーシスの言葉を合図にリィン達は黙り込んだ。
「―――いずれにせよ、彼女の”Ⅶ組”編入は決定事項だ。”友人”として”信用”できるかまだ分からないけど……”仲間”として”信頼”できるかはこれから見極めていけばいいと思う。」
「それは……」
「……まあ、一理あるな。」
「あはは……確かにこれからだよね。」
「彼女の”背景”がどうであろうと共に肩を並べ、心を合わせられるか。」
「うん、それは重要だな。」
「もう少し様子を見るべき。」
「ふふっ、同じ寮に住む以上、仲良くやって行きたいですね。」
「はい。わたくしにとっては年の近い方でもありますし。」
「最初から疑ってかかれば、またトラブルが起こるかもしれませんしね。」
「ええ……もう、人間関係のトラブルは懲り懲りですよ……」
「アハハ、そうね……私達の方も壁は作らないようにしないと。」
リィンの意見を聞いた仲間達はそれぞれ頷いた。
「編入生と言えばエヴリーヌもそうだけど……」
「本当にプリネさんの護衛の為に編入したのですか?」
その時エヴリーヌの存在を思い出したエリオットはエマと共にプリネを見つめた。
「ええ、そう聞いています。」
「メンフィル帝国の何らかの意図は考えられないのか?」
「アハハ、その可能性はないですよ。エヴリーヌさんは密偵みたいな事はできませんし、基本めんどくさがりな人ですから絶対にありえません。」
ユーシスの疑問を聞いたツーヤは苦笑しながら答えた。
「う~ん、ミリアム同様悪い娘には見えないわよねぇ。」
「プリネ達の話では、何千年も生きているそうだけどとてもそうには見えないよな……?」
「それにわたくしにも親身にして頂きましたし、心根は優しい方だと思います。」
苦笑しながら言ったアリサの言葉に続くようにマキアスは戸惑いの表情で呟き、セレーネは微笑んだ。
「―――だけど”魔弓将”は”殲滅の姉妹(ルイン・シスターズ)”の一人だから、残虐な性格なのは間違いないと思うよ。」
「ル、”殲滅の姉妹(ルイン・シスターズ)”?」
「一体何なのだ、その異名は?」
フィーが呟いた言葉を聞いたマキアスは戸惑い、ラウラは尋ねた。
「”殲滅の姉妹(ルイン・シスターズ)”……メンフィル軍の将、皇族の中でも最も好戦的で残虐的な性格をしているから、そう呼ばれている。ちなみに”殲滅天使”もその中の一人。」
「レン姫が……」
「フン、確かにヘイムダルの時も二人共戦闘を楽しんでいたな。」
フィーの説明を聞いたガイウスは驚き、ユーシスは鼻を鳴らして呟いた。
「後リウイ陛下にエヴリーヌさんの事を聞いてわかったのですが……あたしやプリネさん達と同じ”権限”も持っているそうです。」
「プリネ達と同じ”権限”って……」
「――――相手が何者であろうと襲って来た際は”正当防衛”として殺害も認めるユーゲント皇帝陛下直々が出したあの”権限”か。」
ツーヤの説明を聞いたアリサは目を丸くし、ユーシスは真剣な表情になり
「だ、大丈夫なの……?そんな残虐な性格をしているエヴリーヌがその”権限”を持つなんて。」
エリオットは不安そうな表情でプリネを見つめて尋ねた。
「大丈夫ですよ。エステルさん達と行動していた時も”敵”は殺しませんでしたし、お父様やリフィアお姉様も強く言い聞かせたそうですし、今のエヴリーヌお姉様は罪もない人を無差別に殺すような性格ではありませんから。」
「それに既にお分かりかと思いますがエヴリーヌさんはプリネさんを溺愛していますから、こう言っては何ですがプリネさんの頼み事ならある程度なら聞いてくれるんです。」
「確かに彼女のプリネに対する接し方は微笑ましいな。」
「フフッ、本当の姉妹のようにも見えましたね。」
プリネとツーヤの説明を聞いたガイウスは静かな笑みを浮かべ、エマは微笑み
「ふふっ、いっそアリサは彼女に弓の技を教えてもらったらどうだ?エヴリーヌは何といってもかの”魔弓将”。最高峰の弓使いとも言われている程だぞ?」
「う~ん、そう言われてもヘイムダルの時に見せたあの威力や命中力もそうだけど、高速で矢を番えた後すぐに放つ動作とかとても真似できないと思うのよねぇ。」
ラウラに促されたアリサは苦笑しながら答えた。
「……エヴリーヌさんに関してもミリアム同様、見守って行こう。」
「……そうだな。」
「ん。敵だと恐ろしいけど、味方だととんでもなく心強い存在なのは確かな事だしね。」
そしてリィンの意見にマキアスとフィーは頷き、仲間達もそれぞれ頷いた。
「そういえば……あのクロウって先輩だけど。リィンは親しいみたいだけどどういう人なの?」
「親しいって程じゃないけど……まあ……あえて評するならいい加減でギャンブル好きで気まぐれなお調子者って感じかな。」
アリサにクロウの事を尋ねられたリィンは困った表情で答えた。
「え、えっと……」
「ダメだろう、それは……」
「フン、あまり関わり合いになりたくないタイプだな。」
「いや、いざとなったら頼りになるのは確かだと思う。俺とエリゼが旧校舎地下で危なかった時も助太刀してくれたし……ARCUSも含めてかなりの腕前だったのは確かだ。」
仲間達がクロウに呆れている中リィンは説明を続け
「まあ……」
「フフ、人は見かけによらない証拠ね。」
「アハハ、そうですね。」
説明を聞いたセレーネは目を丸くし、プリネとツーヤは苦笑していた。
「ふむ……アンゼリカ先輩や生徒会長の知り合いだったか。」
「ならば、心配する必要はないかもしれないな。」
「うーん、どう付き合えばいいかちょっと迷うけどね。」
「はあ、今の所寮も別だし様子を見るしかないってことね。」
その後話し合いを終えたリィン達はそれぞれの放課後の活動を開始した。
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