英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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5章~動き始めた意志~ 外伝~粛清の鼓動~
8月10日―――
PM:10:00―――
~クロスベル自治州・クロスベル市・歓楽街・ラギール商会~
エレボニア、カルバード、メンフィルの三大国の領地に挟まれ、過去の領有権問題によって幾つもの”不幸な事件”が起こり続けている自治州にして”魔都”の異名を持つクロスベル自治州。”西ゼムリア通商会議”の開催地でもあり、その事により警備隊、警察共に”通商会議”の警備の計画を立てている中、クロスベル警察に”特例”扱いで所属し、過去幾つもの事件を解決に導き”叡智”の異名を持つ”能天使”―――ルファディエルは人間の姿でスーツを身に纏って歓楽街にある小さな商店に入った。
「いらっしゃい……ませ……本日は……何の御用でしょうか……?」
店に入ると売り子の銀髪の娘がカウンター越しに会釈した。
「――支店長のチキと面会したいのだけど。用件は”赤い星座”と”黒月”をクロスベルから追い出す方法、そして”銀”を”ラギール商会”に引き込む方法についての話し合いよ。」
「かしこまり……ました……少々……お待ちください……」
ルファディエルの話に頷いた娘は2階に階段を昇って姿を消した後、少しの時間がたつと戻って来た。
「おまたせ………しました……ぜひ、お話をお聞きしたいとの事ですので………そのままチキ様がいるお部屋に向かって頂いて……構いません。」
「わかったわ。それじゃあお邪魔するわね。」
そしてルファディエルは支店長がいる部屋に向かって扉をノックして入室の許可を聞いた後部屋に入った。
~支店長室~
「いらっしゃいませ……ルファディエル様。」
「夜分遅くにわざわざ面会して頂き、ありがとうございます、チキさん。」
「いえ…………まだ営業時間ですし…………それにルファディエル様とは契約の件もありますので…………それで今日は一体……何の御用でしょうか……?先程エリザベッタさんから何やらとても興味深い話を聞いたのですが……」
「ええ。”赤い星座”と”黒月”をクロスベルから追放するには貴女達ラギール商会――――いえ、”メンフィル帝国”の協力が必要なんです。」
「……………詳しい話をお聞きしましょう。どうぞ、おかけください。」
ルファディエルの説明を聞いた娘―――支店長のチキは静かに頷いた後、ルファディエルにソファーに座るように促し、ルファディエルがソファーに座ると自身もソファーに座ってルファディエルと対面した。
「それでその二つの組織をクロスベルから追放すると仰りましたが……一体どのような方法で……?二大国の後ろ盾がある以上、幾らメンフィル帝国と言えど容易ではありませんよ……?」
「その事に関してですが……まず”赤い星座”に関しましては彼らを国際犯罪組織に仕立て上げる事で、エレボニア帝国の反論を失くす事が可能ですよ。」
「え……ど、どういう事ですか……?」
ルファディエルの話を聞いたチキは戸惑いの表情で尋ねた。
「チキさんも既にご存知と思いますが”赤い星座”は過去、”身喰らう蛇”に雇われて”リベールの異変”時リベールの都市の一つ―――”ロレント市”を襲撃しようとしました。国家を大混乱に陥らせた組織―――”身喰らう蛇”もそうですが、その組織に雇われ、何の罪もない市民達を殺害しようとした”赤い星座”を”国際犯罪組織”に仕立て上げる事も容易だと思いますが?」
「!…………なるほど…………では、”黒月”はどういう理由でカルバード共和国の反論を封じるおつもりなのですか……?」
ルファディエルの説明を聞いて目を見開いたチキは考え込んだ後静かな表情で尋ねた。
「その事に関してですが……大変お手数をかけると思いますが現在、エレボニア帝国にある士官学院に留学しているプリネ皇女自身に動いて頂きたいのです。」
「え……プ、プリネ様にですか……?一体何故……」
ルファディエルの口から出た意外な人物の名前を聞いたチキは戸惑いの表情で尋ねた。
「……プリネ皇女には”通商会議”時に現れるカルバード共和国のテロリストの捕縛を私達と共に行って頂き、その後にテロリスト達の身柄を狙う”黒月”と”偶然居合わし、剣を交える事”で皇族を狙った犯罪組織に仕立てあげてもらいます。」
「!…………………確かにルファディエル様の推理通り、二大国のテロリスト達が”通商会議”時に何かを仕掛ける可能性は非常に高いと思われますが……ルファディエル様は”彼ら”が現れる場所まで予想できているのですか?」
ルファディエルの話を聞いたチキは驚いた後真剣な表情で尋ねた。
「ええ。―――恐らくカルバード側もそうですが、エレボニア側のテロリスト達は”通商会議”の合間に襲撃し……襲撃が失敗した際は地下へと逃亡し、オルキスタワーと繋がっているジオフロントを使って脱出すると思われますので。脱出口付近で待ち伏せする予定です。そこで二大国のテロリスト、テロリスト達を拘束もしくは処刑する指示を二大国から委任していると思われる赤い星座、黒月を迎え撃ち、制圧します。」
「……………テロリスト達に加えて、赤い星座と黒月を制圧できる戦力は整っているのですか?」
「はい。局長を含めた”六銃士”全員とエルファティシアの協力を取り付け、更には局長自身が”嵐の剣神”セリカ・シルフィルに協力の説得をしましたので、セリカ・シルフィルを含める彼の従者達、そしてギレゼル、エルンスト、メヒーシャに協力を取り付けました。”通商会議”の日までにティオが戻ってきたらラグタス将軍とラテンニールにも協力してもらうつもりです。なお、”黒月”の切り札である”銀”にはチキさんもご存知の私との”契約”を守ってもらう為にその場で”黒月”を裏切ってもらい、全てが終わった後チキさんが”銀”を勧誘すれば、”黒月”を裏切った事で行き場をなくした”銀”も応じる可能性は非常に高いかと思われます」
「なるほど…………………………―――わかりました。その提案、乗りましょう。その二つの組織の追放や”銀”を勧誘できる事はこちらとしても大変望ましい状況ですので……直ちにご主人様に連絡し、メンフィル帝国に動いてもらうように、手配致します。」
ルファディエルの説明を聞いて考え込んでいたチキは静かに頷いて答えた。
「ありがとうございます。それでお手数なのですが、念の為にできれば”戦妃”にも私達の戦力として加わって欲しいのですが……」
「……わかりました。カーリアン様には私の方で説明させて頂き、説得させて頂きます。強者との戦いを望むカーリアン様の性格上、恐らく引き受けるでしょう。………今の話をメンフィル帝国が正式に引き受けた時にはルファディエル様のエニグマに連絡する形でよろしいでしょうか?」
「ええ、良いお返事をお待ちしております。」
そしてルファディエルは店を出た。
(……上手く話が纏まってよかったわ。これで二大国の反論や脅しも封じ込められるわね。今までとは比べものにならないくらいの……二大国とメンフィル帝国をも巻き込んだ大規模な策……必ず成功させないとね…………)
店を出たルファディエルは静かな表情でどこかへと去って行った。
このルファディエルの行動が後に二大国に大波乱を起こし、エレボニア帝国の”貴族派”、”革命派”共に大打撃を与える『英雄達の大粛清』という名の出来事で呼ばれる事になるとは、誰も想像すらしていなかった…………
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