英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第120話
クーデター事件が終結し、クーデター事件の影響で中止かとも囁かれていた女王生誕祭が無事開催された。王都は生誕祭でいつも以上に賑やかになり、グランセル城の前には大勢の人々がアリシア女王の姿を見ようと駆けつけ、空中庭園から姿を現した女王の姿を見て歓声をあげた。
~遊撃士協会・グランセル支部~
多くの遊撃士達やリフィア達に見守られエステルとヨシュアはエルナンから最後の推薦状をもらおうとしていた。
「―――エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。今回の働きにより、グランセル支部は正遊撃士資格の推薦状を送ります。どうぞ、受け取ってください。」
「「はい!」」
そしてエステルとヨシュアは念願のグランセル支部の正遊撃士への推薦状をエルナンから受け取った。
「これで、5つの地方支部での推薦状が揃ったわけですね。それではカシウスさん。よろしくお願いします。」
「うむ。」
エルナンが下がり、いつもの余裕のある表情とは違い、真剣な表情をしたカシウスが進み出た。
「エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。これより、協会規約に基づき両名に正遊撃士の資格を与える。各地方支部での推薦状を提出せよ。」
「は、はい……」
「どうぞ、ご確認ください。」
厳かな雰囲気を出すカシウスにエステルとヨシュアは緊張しながら、今まで貰った5枚の推薦状をカシウスに渡した。
「ロレント支部、ボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、そしてグランセル支部……。5支部全てのサインを確認した。最終ランク、準遊撃士1級。ここまで行くとは思わなかった。正直、驚かされたぞ。女神と遊撃士紋章において、ここに両名を正遊撃士に任命する。両者、エンブレムを受け取るがいい。」
「「はい!」」
「おめでと、エステル、ヨシュア!」
エステルとヨシュアが正遊撃士の紋章を受け取るとシェラザードは2人を祝福し
「はは、新しいエンブレム、なかなか似合ってるじゃないか。」
ジンもエステル達をほめて
「まあ、今回ばかりはよくやったと誉めてやるよ。」
アガットも珍しくエステル達を誉めた。
「おめでとうございます、エステルさん、ヨシュアさん!」
「2人ともおめでとう。」
プリネやエヴリーヌは拍手をしながらエステル達を誉め
「最高ランクで正遊撃士の昇格するとは、さすが余の友だ!」
リフィアは胸を張って、エステル達を祝福し
「おめでとう~!ママ!ヨシュアさん!」
「おめでとうございます!2人共、凄く輝いていますよ!」
ミントは自分の喜びのようにはしゃいでエステル達を祝福し、ツーヤも拍手をしながら祝福した。
「えへへ……みんな、ありがと!」
「ここまで来れたのも……皆さんが支えてくれたおかげです。」
仲間達からの祝福の言葉にエステルは照れながら、ヨシュアは姿勢を正して笑顔でお礼を言った。
「さて………正遊撃士になった事でメンフィル大使の依頼も終了した事なので、2人には大使館から預かっていた報酬を渡します。」
そしてエルナンはエステルとヨシュア、それぞれに10万ミラを渡した。
「あれ!?この報酬………提示されていた報酬よりかなり多いじゃない!確か報酬は10万ミラじゃ………2人で分けたら5万ミラになるんじゃないの?」
「僕とエステル、両方とも10万ミラをもらったよね………」
エステル達は渡された報酬を見て驚いた後、リフィア達を見た。
「2人のお陰で余達は予想以上の経験を積めた!それはその礼だ!それとリウイも余達の報告を聞いて、さらに報酬を増やした!受け取るがいい!」
「久しぶりに楽しい旅ができたからね。その報酬の中にはエヴリーヌがリウイお兄ちゃんからもらったおこずかいがあるよ。」
「余分な10万ミラの内、5万ミラは3人で出しあったお礼です。どうか、受け取って下さい。」
「3人共………お礼を言うのはこっちの方よ!ありがとう!」
リフィア達の言葉を聞いたエステルはお礼を言った。
「ハハ、とんでもない祝金をもらったな…………遊撃士としてのキャリアはここからが本番だ。そのことを忘れないようにな。」
「うん……わかってる。」
「一層、精進するつもりです。」
カシウスの言葉に2人は頷いた。
「さて、めでたい話の後で非常に申しわけないのですが……。ここで皆さんに、ひとつ残念な事をお知らせしなくてはなりません。」
「残念な知らせ……?」
エルナンの言葉が理解できずクルツは首をかしげて呟いた。
「本日を持ちまして、カシウス・ブライトさんが遊撃士協会から脱会します。しばらくの間、王国軍に現役復帰するとのことです。」
「なっ……!」
エルナンの言葉にカルナは声をあげて驚き
「ほ、本当ですか!?」
グラッツも信じられない顔をした。また、そのことを知らされていなかったクルツとアネラスも驚いた。
「長らく留守にした上に突然、こんな事を言い出して本当にすまないと思っている。だが、クーデター事件の混乱はいまだ収拾しきれていない。情報部によって目茶苦茶にされた軍の指揮系統も立て直す必要がある。その手伝いをするつもりなんだ。」
「あ、そうか……。軍人は遊撃士になれないから……。そういえば、先輩達はこのことを知っていたみたいですね。」
アネラスが驚いていないシェラザード達に尋ねた。
「ええ、相談を受けたからね。正直心細いけど……いつまでも先生に頼ってばっかりじゃあたしたちも一人前になれないし。」
「まあ、これからは若手だけでも何とかなるって証明してやろうじゃねえか。」
「そうか……そうだな……」
シェラザードとアガットの頼もしい言葉にクルツは口元に笑みを浮かべて頷いた。
「しかし、いつまでたっても忙しさから解放されないねぇ。」
「まあ、こうして新たな正遊撃士が2人誕生したんだ。せいぜい俺の代わりにコキ使ってやるといいだろう。」
「あのね……」
「はは、これからはもっと忙しくなりそうだね。」
カルナの愚痴にカシウスはエステル達を自分の身代りにすると言い、それを聞いたエステルはジト目でカシウスを睨み、ヨシュアは苦笑した。
「さて………実は残念な知らせと同時に嬉しい知らせもあります。…………ミントさん。」
「はーい!」
エルナンに言われたミントはクルツ達の前に出た。
「今日から準遊撃士になるミント・ブライトです!!これからよろしくお願いしま~す!」
「へっ!?ミントちゃん、準遊撃士になったの!?」
ミントの自己紹介を聞いたアネラスは驚いた。また、クルツ達も驚きを隠せていなかった。
「おいおい………さすがにそれは冗談だろ?いくらなんでも、嬢ちゃんみたいな年齢で準遊撃士にはなれないだろ?」
驚いている中、グラッツがエルナンに尋ねた。
「いえ、彼女はこう見えても16歳です。ですから、規定年齢は達していますから大丈夫ですよ。」
「なっ!?」
「えええええ~!?」
「はああああああ!?」
エルナンの言葉を聞いたクルツやアネラス、グラッツは驚いて声を出した。
「そう言えば………その子、数年前からマーシア孤児院に住んでいたけど、その時からずっとその姿のままだったね………院長さんの話だと、その子とそっちの黒い髪の女の子は”闇夜の眷属”の子供だから、成長があたし達人間と違って、遅いっていう話を聞いた事があったよ。」
一方ミントとツーヤの事を前から知っていたカルナはテレサから聞いた話を思い出した。
「それにしてもまさか、一発で筆記試験や実施試験にうかるなんて、思わなかったわよ……あたしの勉強した日々はなんだったの~!」
エステルは今までの日々を思い出して、叫んだ。
「ミントは君と違って、日曜学校の授業は真面目に受けていたようだし、君と出会った後、すぐに遊撃士の勉強を始めたようだからね。後は僕達の旅からも学んでいたようだし、合格してもおかしくないよ。」
叫んでいるエステルにヨシュアは当然のように言った。
「本当にあんたの娘とは思えないほどの賢い娘よ。油断していたらあっという間に抜かれるわよ♪」
「そんな事ないもん!見てなさいミント!あっという間にA級になって、驚かせてやるんだから~!」
シェラザードにからかわれたエステルはミントを見て、言った。
「うん!その時を楽しみに待っているね、ママ!」
エステルに言われたミントは可愛らしい笑顔を見せて言った。
「さて………ミントさん。」
「はい!」
エルナンに呼ばれたミントはエルナンの方に体を向けた。
「ミント・ブライト。本日14:00を持って貴殿を準遊撃士に任命する。以後は協会の一員として人々の暮らしと平和を守るため、そして正義を貫くために働くこと。」
「はい!」
そしてミントはエルナンから準遊撃士の紋章と遊撃士手帳を受け取った。
「……順番が逆になるのですが、近い内、必ず短期間で終わらせる集中的な研修を受けてもらいますね。エステルさん達の仕事を手伝っていたので問題はないと思うのですが、念の為に受けてもらいます。」
「はーい!」
エルナンに言われたミントは元気良く返事をした。
「おめでとう、ミントちゃん!あたしもミントちゃんに追いつくよう、一杯頑張るね!」
「えへへ、ありがとう、ツーヤちゃん!ツーヤちゃんも早くプリネさんの騎士になれるよう、応援しているね!」
ツーヤに祝福されたミントはお礼を言った。
「ふわあ~……こんな可愛い娘が後輩になるなんて………ミントちゃん、よかったら私が何でも教えるよ!」
「ダ、ダメよ~!それはミントのお母さんであるあたしの役目なんだから!」
アネラスはミントが準遊撃士になった事に喜んだ後、ミントに遊撃士の事を尋ねるよう言い、その様子を見たエステルは焦って言った。
「やれやれ……まさかこんなガキが16歳とはな………そっちのチビといい、”闇夜の眷属”ってのは一体どういう育ち方をしているんだ?」
アガットは呆れながら言った後、リフィアを見た。
「今、誰を見て言った!もう一度言ってみろ!」
見られたリフィアは杖を出して、アガットを睨んだ。
「お、お姉様!抑えて下さい。せっかくのめでたい日なのですから………エヴリーヌお姉様も手伝って下さい!」
「はいはい。」
怒っているリフィアを見て慌てたプリネはエヴリーヌと一緒にリフィアを宥めていた。
「これからは”パートナー”として、家族として、そして同僚としてよろしくね、ミント!」
「うん!」
一方エステルはミントと和やかな雰囲気を作っていた。
その後、カシウスを加えたエステル達は城への道に歩きながらクーデター事件の事後などを話していた。また、ミントは今日別れる事になるツーヤと最後の思い出作りをするために、一端別行動にした。
「まったく父さんってば……。生誕祭くらい、王都見物に付き合ってくれたらいいのに……」
カシウスがせっかくのお祭りにつきあってくれないことにエステルは不満を言った。
「すまんが、さっそく軍議があってな。リシャールこそ逮捕されたが、いまだ逃亡中の特務兵も多い。カノーネ大尉も、あの地下遺跡でいつの間にか姿をくらませていた。さらに、大会に参加した空賊団も混乱にまぎれて逃亡したらしい。生誕祭の途中で騒ぎが起こらないよう警備を強化しなくてはならんのさ。」
「まったく……。揃いも揃ってしぶとい連中ねぇ。」
「たしかに、どちらも諦めが悪そうな感じはするね。」
エステルはカノーネや空賊団の性格等を思い出し、溜息を吐いて呟き、ヨシュアも同意するように軽く頷いた。
その後3人は黒のオーブメントやカノーネと同じく姿を消したロランス少尉のことについて話のしていたらいつのまにか城門の前につき、城に入って行くカシウスと一端別れ生誕祭を楽しむために2人は王都に出かけた。そしてエステルとヨシュアは2人で今までお世話になった先輩遊撃士や友達、リフィア達、ミント、ツーヤと一緒にいるラッセル一家にお礼の挨拶回りをした後、休憩するために東街区の休憩所に向かった。
~王都グランセル 東街区~
「さてと、休憩所に着いたね。色々回ったから、そろそろ休憩にしようか?」
「うん、そうしよっか。」
2人は傍にあったベンチに座り、一息ついた。
「しばらくここで休もうか。とりあえず、王都で騒ぎが起きそうな気配はなかったね。」
「ハァ……あっきれた。そんな心配してたんだ。今日くらい、事件の後始末は父さんたちに任せとけばいーのよ。遅れて来たんだからそれくらい当然の義務だってば。」
せっかくの生誕祭を満喫せず、遊撃士として周囲の警戒をしていたヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。
「はは、そうなんだけどね。何となく性分っていうか……」
「はあ、仕方ないわねぇ。それにしても……あたしたちも正遊撃士かぁ。」
相変わらずのヨシュアの性格にエステルは苦笑した後、ついに長年の夢だった正遊撃士になれたことに感慨にひたった。
「これからは支部の監督を受けずに自由に行動できるようになる。ただその分、責任も増えるんだけどね。」
「うん、でもまあ何とかやっていけるわよね。今回だって、クーデターは阻止することができたんだし。もう、父さんに『ヨシュアがいないと心配だ』なんて言わせないんだから!」
「はは……さすがにもう言わないと思うよ。でも僕は、これからも君と一緒にいたいと思ってるけどね。」
正遊撃士になって、もう一人前のつもりでいるエステルにヨシュアは苦笑しつつ、女性を自分に惚れさせるような殺し文句をさらりと言った。
「……え……。………………………………。ええええええええっ!?」
「あれ、迷惑だったかな?」
ヨシュアの言葉を聞いてエステルは一瞬呆けた後、顔を赤くして驚いて叫んだ。そしてエステルの叫びを聞いたヨシュアは以外そうな表情でエステルを見た。
「いや、迷惑っていうか……。一緒にいたいって……それって……どういう……?」
エステルは目線をヨシュアに合わせず、恥ずかしがりながらヨシュアに真意を聞いた。
「そりゃあ、気心は知れてるし、お互いのクセは判っているからね。このままコンビを組んだ方がいいと思ったんだけど……」
「あ……遊撃士の仕事のことか……。なーんだ、てっきりあたし、逆に告白されちゃったのかと……」
ヨシュアが考えていることは自分の考えていることと思い違いであることに気付いたエステルは、安心して言ってはいけないことを呟いてしまった。
「えっ……」
今度はエステルの呟きを聞いてしまったヨシュアが驚いた。
「わああああああっ!今のナシ!忘れてっ!」
自分の失言に気付いたエステルは大きな声を出して、先ほどの言葉を取り消すようヨシュアに言った。
「エステル、それって……」
「し、しっかし今日はホントに暑いわよねっ!?暑いときにはアイスが一番!おごってあげるからちょっとここで待っててっ!」
ヨシュアの返事も聞かず、エステルは適当な言い訳をした後、何も考えずアイス売り場とは逆方向に走り去った。
「あ……。アイス売り場はそっちじゃないと思うんだけど……。………………………………。もしかして……エステル……。いや…………そんなわけないよな……」
ヨシュアは言っていることと違う方向に走り去ったエステルを見て呟いた後、エステルがさっき、自分に何を言おうとしたのかを考え、あることに思い当たったがすぐにその考えを打ち消した。そしてエステルと入れ替わるかのようにある人物がヨシュアに近づいて来た。
「いやぁ。若い人はうらやましいですね。」
ヨシュアに近づいてきた人物とは2人の旅で各地で出会った考古学者――アルバ教授だった。
「アルバ教授……」
「やあ、しばらくぶりですね。最近、色々と騒がしかったですが平和が戻って本当によかった。やはり人間、平穏無事に暮らすのが一番ですね。」
「………………………………」
和やかに話しかけてくるアルバにヨシュアは警戒の目を向けた。
「おや、どうしました?顔色が優れないようですが……。正遊撃士になれたのだから、もっと晴れやかな顔をしなくては。そうだ、私からもお祝いをさせて頂きましょうか。あまり高いものは贈れませんけど。」
アルバはそんなヨシュアの表情に気付き、その表情を解かすために祝いの言葉を言った。
「最初に会った時から……強烈な違和感がありました……。今では少し慣れましたけど……。あなたを見ていると何故か震えが止まらなかった……」
「ほう……?」
ヨシュアの言葉にアルバは何のことかわからず呟いた。
「そして……各地で起きた事件……記憶を消されてしまった人たち……。あなたは調査と称して……事件が起こった地方に必ずいた……。そう……タイミングが良すぎるほどに……」
「………………………………」
「決定的だったのは……クルツさんの反応です……。記憶を奪われたクルツさん……。あの人も、アリーナの観客席で気分が悪そうにしていた……。そして……あなたも同じ場所にいた……」
「………………………………」
「アルバ教授……。あなた……だったんですね?」
アルバは自分に懸けられた疑いを晴らすこともなく、ヨシュアの話に耳を傾けていた。そしてヨシュアはベンチから離れ、アルバの正面に立って睨んだ。
「クク……。認識と記憶を操作されながらそこまで気付くとは大したものだ。さすが、私が造っただけはある。」
アルバは自分に懸けられた疑いに怒るどころか、逆にヨシュアに感心をした後、不気味な声で笑い謎の言葉を言った。
「……え…………」
ヨシュアはアルバの言っていることの意味がわからず、呆けた。
「では、暗示を解くとしようか。」
パチン!!
アルバは少し前に出て指を鳴らした。その時、ヨシュアの脳裏に封印されていたさまざまな記憶が蘇った。
「……………………あ…………。あなたは……。……あなたは……ッ!?」
アルバの正体を思い出したヨシュアは青褪めた表情で叫んだ。
「フフ、ようやく私のことを思い出したようだね。バラバラになった君の心を組み立て、直してあげたこの私を。虚ろな人形に魂を与えたこの私を。」
ヨシュアの表情を面白がるようにアルバは笑顔で信じられない言葉を放った。
「対象者の認識と記憶を歪めて操作する異能の力……!7人の『蛇の使徒』の1人!『白面』のワイスマン……!」
ヨシュアはその場から一歩下がって、アルバ教授を改めワイスマンを睨んでいつでも攻撃できるように双剣を構えた。
「はは……。久しぶりと言っておこうか。『執行者』No.XⅢ。『漆黒の牙』―――ヨシュア・アストレイ。」
自分に武器を向けているヨシュアを気にもせずワイスマンは醜悪な表情で、ヨシュアの真の名とかつての呼び名で久しぶりの再会を喜んだ。
「あ、あなたが……。あなたが今回の事件を背後から操っていたんだな!それじゃあ、あのロランス少尉はやっぱり……」
「お察しの通りだ。彼の記憶は消さないであげたからすぐに正体に気付いたようだね。はは、彼も喜んでいるだろう。……それにしても彼も気の毒な事に、”空の覇者”や”戦妃”にずいぶん痛めつけられたようだね。」
ヨシュアの推理をワイスマンは口元に笑みを浮かべて肯定した。
「あ……あなたは……。………………………………。僕を……始末しに来たんですか……!!」
「ふふ……。そう身構えることはない。計画の第一段階も無事終了した。少々時間ができたので君に会いに来ただけなのだよ。」
ヨシュアはワイスマンが裏切り者の自分を始末しに来たと思って本人に聞いたが、ワイスマンは本来の性格が出た醜悪な表情で否定し話を続けた。
「第一段階……。あの地下遺跡の封印のことか……」
「『環』に至る道を塞ぐ『門』……。それをこじ開けることがすなわち、計画の第一段階でね。ふふ……もはや閉じることはありえない。」
ワイスマンは計画が順調に進んだことに気分をよくし、不気味な声で笑った。
「やはり……これで終わりじゃないのか……。『輝く環』とは一体何です!?『結社』は……あなたは何を企んでいるんだ!?」
「それを知りたければ『結社』に戻ってくればどうだい?君ならすぐに現役復帰できるだろう。少々カンは鈍っただろうがリハビリすればすぐに取り戻せるさ。」
「………………………………」
ワイスマンの言葉にヨシュアは無言で怒りの表情でワイスマンを睨み続けた。
「フフ、そんなに恐い顔をするものじゃないよ。わかっているさ。今の君には大切な家族がいる。尊敬できる父親、実の息子のように自分を愛し育ててくれた優しい母親、血は繋がっていないながらも自分を慕う妹代わりの娘。そして……何よりも愛おしく大切な少女……。たとえ『彼』が、こちら側にいてもそれらを捨てるなど馬鹿げた話だ。」
「…………ッ…………」
ワイスマンからエステル達のことを出され、ヨシュアは顔を青褪めさせた。
「だから私は、君に会いに来た。『計画に協力してくれた』礼として真に『結社』から解放するために。……おめでとう、ヨシュア。君はもう『結社』から自由の身だ。この5年間、本当にご苦労だったね。」
「………………………………。………………え…………」
ワイスマンの労いの言葉にヨシュアは驚きの表情で呟いた。
「なんだ、つまらないな。もっと嬉しそうな顔をしてくれると思ったのだが……。ふむ、まだ感情の形成に不完全な所があるのかな?」
「僕が……計画に協力……。……はは……何を……馬鹿なことを言ってるんだ……?」
ワイスマンの呟きにヨシュアは誰にも見せた事のない暗い笑顔で呟いた。
「ああ、すまない。うっかり言い忘れていたよ。君の本当の役目は暗殺ではなく諜報だったのさ。」
ヨシュアの呟きにワイスマンはわざとらしい謝罪をした後、ヨシュアの役目を明かした。
「え……」
「『結社』に見捨てられた子供として同情を引き、見事保護されてくれた。そして定期的に、結社の連絡員に色々なことを報告してくれたんだ。遊撃士協会の動向と……カシウス・ブライトの情報をね。」
「!!!」
ワイスマンから自分の役目を聞いたヨシュアはさらに驚いた。
「無論、そんな事をしていたのは君自身も覚えていないだろう。私がそう暗示をかけたからね。」
「………………………………」
ヨシュアは絶望した表情で顔を下に向け、ワイスマンの話を聞き続けた。
「S級遊撃士、カシウス・ブライト。まさしく彼こそが今回の計画の最大の障害だった。彼に国内にいられては大佐のクーデターなどすぐに潰されてしまっただろうからね。彼の性格・行動パターンを分析して、悟られずに国外に誘導するために……。君の情報は本当に役に立ってくれた。………欲を言うなら”大陸最強”を誇る異世界の大国、メンフィル帝国……あそこの情報も欲しかったが、まあさすがにそれは無理な話だ。藪をつついて”覇王”達に結社の存在を知られる訳にはいかないからね。”覇王”は”剣聖”以上に厄介な相手だ。もし、我々の存在を知られたら彼らによって全ての拠点を見つけられた”教団”の二の舞になってしまう恐れもあるだろうからな。」
「…………嘘……だ………………」
ヨシュアは頭を抱えてうずくまり現実を否定するかのようにうわ言を呟いた。
「だから……改めて礼を言おう。この5年間、本当にご苦労だった。」
そんなヨシュアにワイスマンは追い打ちをかけるかのように自分の計画の一部が成就したことに礼を言った。
「嘘だ、嘘だ!嘘だあああああああっ!……僕は……みんなと……エステルと過ごした…………僕のあの時間は…………」
ヨシュアは絶望した表情で叫んだ後、さらにうわ言を繰り返した。
「ふふ……何がそんなに哀しいのかな?素知らぬ顔で、大切な家族と幸せに暮らしていけばいいだろう?君が黙っていれば判らないことだ。」
「………………………………」
「しかしまあ……考えてみればそれも酷な話か。ブライト家の者達はどうも健全すぎるようだからね。君のような化物にとって少し眩しすぎたんじゃないかな?」
「…………ぁ………………」
ワイスマンの『化物』という言葉に反応してしまったヨシュアはある事に気付いた。
「君は、人らしく振る舞えるが、その在り方は普通の人とは違う。どんな時も目的合理的に考え、任務を遂行できる思考フレーム。単独で大部隊と渡り合えるよう限界まで強化された肉体と反射神経。私が造り上げた最高の人間兵器。それが君―――『漆黒の牙』だ。」
「………………………………」
「そんな君が、人と交わるなどしょせんは無理があったのだよ。この先、彼らと一緒にいても君が幸せになることはありえない。」
「………………………………」
「だから、辛くなったらいつでも戻ってくるといい。大いなる主が統べる魂の結社。我らが『身喰らう蛇』に……」
ヨシュアに絶望を与えたワイスマンは最後に言い残した後、その場から去って行った。
「………………………………。これが……罰か………………。……姉さん……レーヴェ……。…………僕は………………。………………………………………………僕は………………」
ワイスマンが去った後、ヨシュアは絶望した表情で何度もうわ言を呟き続けた…………
~王都グランセル 東街区・夕方~
「はあ……。ずいぶん待たされちゃった……。何だかんだでもう夕方だし……。ヨシュア……さっきのどう思ったんだろ……。う~っ……思い出したらまた顔が熱く……」
「おや、エステルさん。」
一方アイスを買いに行ったエステルは溜息をついた後、先ほどの失言を思い出し顔を赤くしたが自分を呼ぶ聞き覚えのある声に気付き、その人物を見て驚いた。
「あれ、アルバ教授。こんな所で会うなんて珍しいわね。」
「はは、そうかもしれませんね。そうだ、先ほどヨシュア君とも会いましたよ。おめでとうございます。正遊撃士になったそうですね。」
「えへへ……まあね。あれ……?」
エステルはアルバの様子がいつもと違うことに気付いて呟いた。
「?どうしました?」
「教授ってば……いつもと雰囲気が違わない?なんだかすごく楽しそうな顔をしてるわよ?」
「………………………………。はは、見抜かれましたか。実は、考古学の研究で色々と進展がありましてね。それで少々、浮かれていたんです。」
アルバと名乗っているワイスマンは自分の今の感情を見抜いたエステルを称賛して、偽りの言葉で自分が浮かれていることを説明した。
「へ~、よかったじゃない。あ……ゴメン!アイスが溶けちゃうからあたし、これで行くわね!それじゃあ、またね~!」
エステルはワイスマンの思惑も知らず、祝いの言葉をあげるとヨシュアのところへアイスを持って、去って行った。
「ふふ、なるほど。あれがメンフィル皇帝達の目に止まり、さまざまな種族達を従えるカシウス・ブライトの娘か……。なかなか楽しませてもらえそうだ。……ぬぐ!?」
ワイスマンは去って行ったエステルの後ろ姿を見て、醜悪な表情で口元に笑みを浮かべて呟いた後、顔を顰めて頭を抑えた。するとなんとワイスマンの目が琥耀石のような茶色の瞳になり、そして髪は燃えるような赤に変わった!
「クク……人間の分際で中々面白い事を考えているな………リウイを闇の魔王に仕立て上げる材料もあるようだし、こいつに”執行者”とやらを使わせて奴を闇の魔王に目覚めさせる切っ掛けを作らせるか……クク……」
そしてワイスマンは元通りの目と髪に戻った。
「?一体何故私は意識を失っていたのだ……?まあいい……」
自分に起こった事に首を傾げたワイスマンだったが、気にせずエステルとは逆の方向に去って行った…………
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