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羊料理の素材

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3部分:第三章


第三章

「こうやって湯に少し入れて」
「少しね」
「それからこうやって食べるんだ」
 大蒜を入れた胡麻だれにつけてから食べる。口に入れたその瞬間に笑顔を妻に見せるのだった。
「うん、美味い」
「美味しいのね」
「ああ、これはいいよ」
 そう言いながら肉をまた鍋の中に入れてすぐに妻の皿に入れる。ジェーンはそれをフォークで刺してから口に入れる。するとすぐに彼女の顔も綻ぶのだった。
「これって」
「美味いだろ」
「ええ、とても美味しいわ」
 にこにこしながら夫に答える。
「こんな羊の食べ方もあるのね」
「ああ、俺も話には聞いていたがな」
 実際には食べたことがないのであった。
「これはかなり」
「いけるわね」
「最初の麺や水餃子もよかったがな」
「あれは結構食べてるじゃない」
 そうしたものを出す店はオーストラリアにも結構多いのだ。オーストラリアにも華僑が大勢いるのだ。華僑がおらずチャイナタウンもない国は殆どない。
「まあ美味しかったのは本当だけれど」
「この串のもいいな」
「ええ、本当に」
「さあ、どんどん食べよう」
 また妻の皿にしゃぶしゃぶの肉を入れる。
「時間はあるしな」
「ええ、わかったわ」
 こうして二人は中国の羊料理を堪能した。デザートまで食べた後で店を後にしようとする。しかしここでビリーを呼ぼうとした時だった。
「えっ!?」
 急にカウンターの店員に驚きの顔を見せられたのであった。
「犬、ですか」
「ええ、そうよ」
 ジェーンはこの時は普通の顔でカウンターのウェイターに答えた。チャイナドレスのウェイトレスに対して彼は中華風のカッターではあるがごく普通のウェイターの格好をしているのは女の子の格好はあえてお客を呼ぶ為のものであるということであろうか。
「黒いダックスフントの」
「ダックスフントの」
 彼はさらに難しい顔になる。見れば彼は黒い髪と目で彫のない顔のアジア系の若者であった。
「暫しお待ち下さい」
「わかったわ」
 この時まではジェーンは普通にしていた。しかしであった。ここで自分の後ろを通るウェイトレス達の仕事の話を耳にしてそれが一変するのであった。
「五番のお客様に」
「犬が」
「犬!?」
 犬と聞いてすぐにビリーを連想したのであった。
「いい食材が入ったからね」
「犬は何処なの?」
「食材・・・・・・犬・・・・・・」
 頭の中でつながった。そこには昨日デカログと話した中国人が犬を食べるという話が接着剤となったのであった。それで頭の中で考えると。彼女が至った答えは彼女にとっても周囲にとっても最悪のものであった。
「ビリー、ビリーが!」
「どうした!?どうしたんだ!」
「食べてしまったのよ!」
 泣き叫びながらこう言うのだった。
「食べてしまったって!?」
「ええ、そうよ、そうなのよ」
 両手で顔を覆いながら泣いて話をする。
「私達がビリーを」
「ビリーを!?まさか」
「だってここチャイニーズレストランよね」
「あ、ああ」
 それは間違いない。料理を食べたからそれが何よりの証拠になる。
「だからなのよ」
「だからって。何を」
「そうよ、ビリーを預けたじゃない」
 泣き喚きながら夫に言う。
「それでなのよ。ビリーは」
「ビリーがどうしたんだ」
「中国よ」
 話が混乱していたが必死に夫に言っていた。
「犬、食べるじゃない」
「犬だって!?まさか」
「そうよ、それなのよ」
 ここにきてようやく彼は事情を察した。中華料理で犬といえばであった。
「それで私達が食べたのはビリーだったのよ」
「何てことだ・・・・・・」
「どうしましょう、シカログ」 
 また夫に泣き叫ぶ。
「私達、ビリーを」
「あの、お客様」
 泣き叫ぶジェーンと呆然とするデカログに対してウェイターが唖然とした顔で声をかけるのだった。
「さっきから一体何を」
「ビリーを返して!」
「ビリーをですか」
「そうよ、犬よ」
 彼にも泣き叫びながら言うのだった。
「私達の犬。黒いダックスフントを」
「ダックスフントを」
「まさかと思うが調理はしていないな」
 デカログも取り乱しながらそのウェイターに問うのだった。
「それでわし等にその料理を出して」
「お話がよくわからないのですが」
 二人が、特にジェーンがあまりにも取り乱しているので何を言っているのかわかりかねてこう問うのだった。
「犬がどうとか。何があったのでしょうか」
「私達の犬を調理して出したじゃない!」
「違うのか!?」
「犬を、ですか」
 ここで彼はようやくわかってきたのだった。
「お客様方のお連れした犬を調理してお客様方にお出ししたと」
「違うの!?」
「そうじゃないのか!?」
「まさか」
 困惑したままだったがそれははっきりと否定したのだった。
「我が店では犬料理は扱っておりませんが」
「けれど」
「いえ、それは保障致します」
 それでも彼は言う。
「間違ってもそれはございません」
「けれどビリーは」
「ダックスフントですね」
 またそれをジェーンに対して問う。
 
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