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秀吉と二人の前田

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第二章

「傾奇者ですな」
「前田慶次と同じく」
「若し慶次めが太閤様に無礼があれば」
「その時は」
「この手でぶん殴ってやりまする」
「では傾いては」
 その場合のこともだ、秀吉は問うた。
「又左殿はどうするか」
「傾奇者は傾くもの」
 これが利家の返事だった。
「そういうものです」
「そうじゃな、ではな」
「慶次めを」
「この大坂に呼ぼうぞ」
 こうしてだった、秀吉は前田慶次を大坂に呼ぶことにした。彼はすぐに人を都にやって慶次を呼んだ。すると慶次は。
 利家の言った通り遊郭において遊女達と共に遊んでいた、これ以上はないまでに派手な身なりで大盃で酒を飲んでいる。
 大柄で髷は利家の言った通り荒い、端整な顔には髭がない。
 その彼にだ、秀吉からの使者は言った。
「是非です」
「それがしに大坂にか」
「いらして欲しいと」
「仕官ならよいが」
「そういう話ではござらぬ」
 使者は慶次に生真面目な声で答えた。
「ただお会いしたいだけで」
「それだけでござるか」
「はい、そうです」
「お会いしたいだけなら」
 それならと言った慶次だった。
「喜んで、しかし」
「しかしですか」
「それがしは傾奇者」
 それ故にとだ、慶次は笑って言った。
「傾くことが生きがいなので」
「だからですか」
「傾いていきまするが」
「太閤様に対しても」
「それでもよいでござろうか」
「太閤様も是非です」 
 使者は慶次とは正反対に畏まった態度で答えた。
「その傾きを見せてもらいたいと」
「そう言われるか」
「だからこそです」
「この都から大坂にですな」
「いらして欲しいのです」
「わかり申した」
 慶次は明るく笑ってだ、使者に答えた。
「それでは」
「大坂に来て頂けますな」
「そして傾きましょう」
「場には前田利家殿もおられます」
「おお、叔父上でござるか」
「そのこともお話しておきます」
「叔父上は今も怒っておられるか」
 慶次は利家のことを聞いてだ、使者に彼のことも尋ねた。
「あのことを」
「実は前田殿にも言われました」
 使者は慶次にすぐに答えた。
「あの時のことを必ず返すと」
「ははは、そうでござるか」
「だから是非大坂に来て欲しいと」
「あいわかった、ではすぐに松風に乗り参りましょうぞ」
「さすれば」 
 慶次は笑ってだ、そのうえでだった。
 遊郭を出てそしてだった、松風に乗り大坂に向かった。そして大坂に着き城の中に案内されてだった。
 秀吉の御殿に入るとだ、すぐにだった。
 利家が彼の前に出てだ、こう言った。
「よく来た」
「ははは、叔父上もお元気そうで」
「傾くつもりじゃな」
「如何にも」
 笑って答えた慶次だった。 
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