英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第100話
女王宮の中への潜入に成功したエステル達は女王宮の中にある部屋の一つでいつもの服に着替えて、女王がいる部屋に向かった。
~女王宮内・アリシア女王の部屋前~
「陛下、失礼します。先ほどお話ししたエステル殿とヨシュア殿をお連れしました。」
ヒルダは扉をノックして、中の人物に用を伝えた。
「……ご苦労さまでした。どうぞ、入って頂いて。」
中から優しそうな老婦人の声が聞こえて来た。
「かしこまりました。私はここで待たせていただきます。さあ、お2人はどうぞ中へ。」
「は、はい……!」
「失礼します……」
ヒルダに促され、2人は部屋に入って行った。
~女王宮内・アリシア女王の部屋~
「あ……」
エステル達が部屋に入るとそこには、リベールを統べる女王――アリシア女王が窓際で窓の外を見ていた。
「ふふ……。ようこそいらっしゃいましたね。わたくしの名はアリシア・フォン・アウスレーゼ。リベール王国、第26代国王です。」
エステル達に気付いた女王は優しそうな笑顔で自己紹介をした。
「あ、あの……。エステル・ブライトです。遊撃士協会の準遊撃士です。」
「同じく、準遊撃士のヨシュア・ブライトといいます。お初にお目にかかります。」
「エステルさんとヨシュア殿ね。あなたたちに会えるのを本当に楽しみにしていました。大したもてなしはできませんが、お茶の用意くらいはできます。どうぞ、ゆっくりして行ってくださいな。」
そして、2人はアリシア女王にラッセル博士のことを含め、今までのことを話した。
「そう……。ラッセル博士はそんな事を。あらゆる導力現象を停止させる漆黒のオーブメント……。そんなものを大佐は手に入れているのですか……」
全ての話を聞き終えた女王は考え込んだ。
「博士は、女王陛下ならばリシャール大佐がそれを何に使うか分かるかもしれないと言いました。何か……心当たりはありますか?」
「………………………………。ひとつだけ心当たりがあります。ですが、大佐がそれを知っているとは思えません。わたくしの思い過ごしであるといいのですが……」
「あの……その心当たりっていうのは?」
「……あなた達にならお話ししても構わないでしょうね。」
目を閉じて考え込んでいた女王だったが、やがて目を開いて話し始めた。
「十数年前、この王都の地下に巨大な導力反応が検出されたのです。その調査にあたってくれたのが中央工房のラッセル博士でした。」
「巨大な導力反応……」
「王都の地下ということは地下水路の近辺でしょうか?」
女王の話を聞き、エステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。
「いいえ、水路よりもさらに深い地下から検出されたようです。博士は、いまだ機能を失っていない古代文明の遺物が埋まっているのではないかと仰っていました。」
「古代文明の遺物って……」
「『アーティファクト』と呼ばれる古代導力器のことだね。大半は、塔の頂上の装置みたいに機能が死んでしまっているけど……。まれに、ダルモア市長の家宝のように機能が生きている物もあるみたいだ。」
意味が余りわかっていないエステルにヨシュアは説明した。
「そんなものが王都の地下に……。あ、それじゃああの『ゴスペル』ってのは……」
「埋まった遺物の機能を停止させるために使われる……。その可能性があるということですね?」
「ええ……。ですが、その遺物がどんなもので何のために埋められたものかははっきりしていないのです。ラッセル博士の調査自体も非公式で行われたものですし……。大佐がどこで存在を知ったのかわたくしには不思議でなりません。」
エステルとヨシュアの話に頷いた女王はリシャールがどうやって、機密にしていた情報を知ったのかわからない様子でいた。
「そうですか……。いずれにせよ、良くない事が起こる可能性がありそうですね。」
「まったく、ちょっと見直したのにロクな事を考えていないわね……。みんなに迷惑がかかるんだったらまさしく遊撃士の出番だわ!何とかして大佐を阻止しないと!」
「ふふ……。さすがは……カシウス殿のお子さんたちね。」
エステルの意気込みを見て、女王は上品に笑った。
「!!!」
「陛下も父と面識がおありだったのんですか?」
女王までカシウスを知っている事にエステルは驚き、ヨシュアは尋ねた。
「亡くなった息子の友人でしたし、王国を救った英雄ですからね。軍を辞めて遊撃士になってからも依頼を通じてお世話になりました。」
「そ、そうだったんだ……」
「それは知りませんでした……」
カシウスが亡きリベールの王子の友人、そして女王自らがカシウスに何度か依頼をしていた事にエステルとヨシュアは驚いた。
「ならば、これはわたくしの役目なのかもしれませんね……。エステルさん、ヨシュア殿。少々、年寄りの昔話に付き合っていただけませんか?」
「あ……はい、もちろん!」
「拝聴させていただきます。」
そして女王は昔話しを語り始めた。
「10年前の春のことです……。エレボニアの帝国の南部である痛ましい事件が起こりました。いまだ原因が分かっていないため事件についての説明は省かせてもらいますが……。その事件をきっかけに帝国はリベールに宣戦布告をしたのです。後に『百日戦役』と呼ばれる不幸な日々の始まりでした。帝国軍は、宣戦布告と同時に大兵力を持ってハーケン門を突破……。リベールは、王都を除いて瞬く間に全土を占領されました。侵攻してきた兵力は、王国軍のおよそ3倍だったと言われています。
カルバードからの援軍も間に合わず……もはや王都が占領されるのも時間の問題かと思われました。しかし、開戦から2ヶ月後……誰もが予想しなかった形で戦局が大きく変化したのです。当時開発されたばかりの警備飛行艇が各地を結ぶ関所を奪回し、帝国軍の連絡網を断ち切りました。そして、レイストン要塞から王国軍の総兵力が水上艇で出撃し、各地方を奪還していったのです。ツァイス、ルーアン、ボース、ロレント……。各地を占領していた帝国軍の師団は補給を断たれ、各個撃破されました。この反攻作戦を立案した人物こそカシウス・ブライト大佐―――モルガン将軍の右腕であり、リシャール大佐の上官だったあなたたちのお父様だったのです。その後、遊撃士協会と七耀教会の仲裁、そしてエレボニアが自国の領を次々と制圧し、派遣した軍をことごとく全滅に追いやったメンフィルの強さに恐れ、メンフィルとの仲裁を求めた事もあってようやく戦争は終結を迎えました。しかしこの時、カシウス殿は大切なものを失う所だったのです。それはレナ・ブライトさん……エステルさんのお母様、そしてエステルさん……あなた自身だったのです。あの時計塔は、反攻作戦によって追い詰められた帝国軍師団の悪あがきによって破壊されたのです。後はあなたも知っている通り、レナさんが死ぬ寸前であった所をリウイ皇帝陛下達がたまたま通りがかって、レナさんの命を助け、メンフィル軍をロレント市内に展開して、市内のエレボニア軍を殲滅、そしてロレント市民の保護をしてくれたのです。」
「……そんな…………。そんな事情だったなんて……」
女王の話を聞いたエステルは信じられない思いでいた。
「……自分が立てた作戦が結果的に家族を死なせる所だった。その自責の念から、カシウス殿は軍を辞めて遊撃士の道に入りました。リウイ皇帝陛下達によって運良く生き延びたあなた達、家族の側にいるために……。そして今度こそ、自分の手で愛する人々を守れるように……」
「バカよ……父さん……。父さんのせいであたしとお母さんが死ぬ所だったなんて……。そんな事あるわけないのに……」
「エステル……」
女王の話を聞き終えたエステルは辛そうな表情で呟き、ヨシュアはエステルの様子を辛そうに見ていた。
「ええ、そうですとも……。全ては、大切な民を守れなかったこの力なき女王の責任なのです。ごめんなさい、エステルさん。同じ”王”のリウイ皇帝陛下と違い、あなた達を守ることができなくて……。そのことを……ずっと謝りたいと思っていました。」
エステルの言葉に頷いたアリシアは辛そうな表情で謝った。
「あ、謝る必要なんてありません!女王様は、戻ってきた平和をずっと守ってくださった……。父さんたちは必死になってこの国を守ってくれた……。確かにお母さんは死ぬ所だったけど、聖女様達のお陰で今でも元気にしています!……。それに……こんな言い方をしたら不謹慎ですが、”百日戦役”があったからこそ、メンフィルとリベールが仲良くしているじゃないですか!」
「エステルさん……ありがとう、優しい子ね……。あなたに会うことが出来て……本当に良かった……。今、心からそう思えます。」
「女王様……」
女王の言葉にエステルは照れた。
「でも、だからこそ……だからこそ、あなたには危険な事をして欲しくはありません。これ以上、今回の事件に関わりを持って欲しくはないのです。」
「え……!で、でもあたしたち、ユリアさんに女王様の助けになるように頼まれて……」
女王の申し出にエステルは驚いた。
「ありがとう。その心だけ頂いておきますね。カシウス殿の留守中にあなたに万が一のことがあったら今度は何とお詫びしていいのか……。どうか、ロレントのお家に帰ってお父様の帰りを待っていてください。」
「で、でもっ……!」
女王の言葉にエステルが何か言おうとした所、ヨシュアが尋ねた。
「ですが、女王陛下……。父カシウスが取り戻し、陛下が守り続けた平和が今まさに揺らごうとしています。」
「ヨシュア殿……」
「『ゴスペル』の件もそうですが……。このまま大佐の狙い通り公爵閣下が国王となった場合、その平和はどうなるんでしょうか。それに公爵閣下や大佐の政治を見て、”覇王”リウイ皇帝陛下が、メンフィル帝国が今のように同盟を保ってくれるでしょうか。その事を考えて頂きたいんです。」
「………………………………」
ヨシュアの話を聞き、女王は辛そうな表情で考え込んだ。
「あ、あの、女王様……。あたし達、遊撃士になって父さんの代理で仕事をしました。それから、空賊事件に関わって手紙が届いて、変な小包を開けて、そのまま各地を旅してきて……。
まるで、父さんに背中を押されてここまで来たような気がするんです。だから……あたしも守りたい。平和に暮らせる幸せな毎日を……。今まで知り合ったあたしの大好きな人たちを……。女王様や、父さん達みたいに、そしてお母さんの命を救ってくれた聖女様達みたいにあたしなりの方法で守りたいんです!」
「エステルさん……。………………………………。本当に……あの子の言う通りだったわね。」
「えっ……」
エステルの力強い言葉を聞き、女王が呟いた事にエステルは首を傾げた。
「私も覚悟を決めました。エステルさんたちを通じて遊撃士協会に、あることを依頼させてもらおうと思います。」
「女王様……!」
「陛下……何なりと仰ってください。」
女王が依頼を申し出た事に希望を持った2人は明るい表情をした。
「依頼内容は、情報部によって囚われている方々の救出です。これは、私の孫娘であるクローディアのことも含みます。」
「そっか、やっぱりお姫様もどこかに捕まってるんですね……」
女王から話を聞いたエステルはクロ―ディア姫が城にいなかった事に納得した。
「ええ……。思えば、今回のクーデターは私があの子を次期国王として推そうとした事から始まりました。」
「デュナン公爵ではなく、ですね。」
溜息を吐いている女王にヨシュアは真剣な表情で確認した。
「ええ、こういっては何ですが、我が甥ながらデュナン公爵は色々と問題の多い人物でした。………そんな人物が王となった時、メンフィルと今までの関係を保っていられるか、不安に思っています。対して未熟ではありますが孫娘には光るものがありました。王国の未来を考えた結果……私はクローディアを推そうと心に決めたのです。」
「えっと、姫様のことはほとんど知りませんけど……。それって、どう考えても正しい判断だと思いますよ。」
エステルはデュナンの今までの行動や言動を思い出して、言った。
「ですが、いつの世にも女性が権力を持つことに反対する向きはあるものです。ましてや、大国から侵略を受けた記憶もまだ新しい現在……。2代続けての女王による統治が結果的に国を弱くしてしまう……。そう考える人物が現れたとしても何ら不思議ではなかったのです。」
「なるほど……。それがリシャール大佐ですか。」
女王の話を聞き、納得したヨシュアは確認した。
「その通りです。彼は、私がクローディアを次期国王に推そうとしていることをいつのまにか掴んでいました。そして、その事実を公爵に伝えて今回のクーデターを決行したのです。全ては、公爵を陰から操り、リベールを周辺の大国に劣らぬ強大な軍事国家にするために……」
「なるほど……。ようやく事件の全貌が見えてきました。」
「リフィア達の言った通りね。」
「そうだね。」
「……あの。今、『リフィア』という名が出てきましたが……」
エステルとヨシュアの会話からある人物の名前が出て来た事に女王は驚き、尋ねた。
「はい。女王様の推測通り、僕達はメンフィル大使――リウイ皇帝陛下に依頼されて、リフィア殿下と旅をしています。」
「他には聖女様の娘であるプリネやプリネ達の護衛役のエヴリーヌっていう娘とも旅をしています。」
「そうだったのですか………リフィア殿下達は今、王都に?」
ヨシュアとエステルの話を聞いた女王は驚き、尋ねた。
「はい。後、カーリアンさんも王都に来ています。」
「カーリアン殿まで……」
ヨシュアからカーリアンまで王都にいる事を聞き、女王は考え込んだ。
「女王様?」
「どうかされましたか?」
女王の様子に首を傾げた2人は尋ねた。
「いえ………リフィア殿下達が王都にいると知って、大佐が何かしないか、少し恐れているんです。………特にリフィア殿下は皇位継承者ですから、メンフィルに対しての人質としての価値は非常に高いです。プリネ姫もリフィア殿下に次ぐ皇位継承権を持つ方ですし………」
「あはは~……それは心配いらないと思います。リフィア達が特務兵ごときに負けるほど、弱くないですし。……むしろ、返り討ちにすると思います。」
女王の心配をエステルは苦笑しながら否定した。
「………確かにそうですね。……殿下達は今回の件をどこまで把握しているのですか?」
エステルの言葉に納得した女王はリフィア達がリシャール達の暗躍をどこまで知っているか気になって、尋ねた。
「あたし達が話した情報全てを知っています。……それとリフィア達は自分達なりに大佐達の狙いを推測していました。」
「……もしよければ、殿下達の推測を教えてくれませんか?」
エステルから話を聞き、女王は尋ねた。そしてエステルに代わってヨシュアが答えた。
「税率を上げて軍事費を拡大……大量破壊を目的とした導力兵器を開発……大規模な徴兵制を採用……リベールでは認められていない猟兵団との契約を合法化したりする事によってリベールを強大な軍事国家にする事を推測していました。」
「……さすがは聡明な殿下達ですね……殿下達の推測通り、まさに同じようなことを大佐は私に要求しました。それは、純粋な愛国心から来る発言だとは思えたのですが……。私は、どうしてもそれが正しいとは思えなかったのです。国を守っているのは軍事力だけではありません。他国と協調していく外交努力もそうですし……。技術交流や、経済交流を通じて諸国全体を豊かにする事だって国を守ることに繋がるはずです。」
「……まさに陛下のおっしゃる通りだと思います。」
「うんうん!お互いが信じ合わなくちゃ!」
女王の考えを聞き、ヨシュアやエステルは賛成するように頷いた。
「ですが、大佐はその考えを女々しい理想論と断じました。そして、クローディアの安全とひきかえに退位を要求したのです。」
「!!!」
しかし続きの話を聞いたエステルは愕然とした。
「多くの者が、家族を人質に取られ大佐に逆らえなくされています。ですが、私は女王です。肉親への情けのために国の未来を売り渡すことはできません。ただ、そうは言ってもあの子は私のたった一人の孫娘……。見殺しにはしたくないのです。」
女王は辛そうな表情で話終えた。
「女王様……どうか安心してください!」
「依頼の旨、しかと承りました。必ずや、姫殿下を含めた囚われの方々を救出いたします。」
女王を元気づけるためにエステルとヨシュアは力強く依頼を受ける事を言った。
「ありがとう……エステルさん、ヨシュア殿。これで、大佐の脅しにも最後まで屈せずにすみそうです。」
2人の力強い言葉を聞き、女王は憂いがなくなったかのように穏やかに微笑んだ。
「あ、あの!他にも依頼はないんですか?『ゴスペル』の件もあるし……。ここから女王様を逃がすことだって不可能じゃないと思うんです!」
「ありがとう、エステルさん。ですが、私が逃げたところで事態が変わるわけではありません。それと、『ゴスペル』に関しては幾つか気になることがあるのです。私から、大佐に真意を問いただしてみようと思います。」
こうしてエステル達は女王との会談を終えた……………
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