とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第26話 湾内さん
前書き
湾内さんのターンです
「はい検査お疲れ様でしたー」
円型の筒に挿入されていた佐天。
頭を動かさないように固定された留め具を外されて、伸びをする。
脳に異常がないかどうかの検査で最後のMRIを終える。
「はあー、うるさかったわ」
MRIの強烈な音と狭い円筒形の中で反響している。
「この音なんとかならないですか?」
「仕様ですね」
さいでっか
一応、話題の曲をイヤホンで流して緩和してくれてるけど、丁度曲のサビの部分で最高潮に駆動音に達して、ブツブッツになるんだよな。
まあ、これで検査が終わって結果を待つだけね。
「ありがとうございましたー!」
MRIの検査室から扉を開けて、エレベーターに乗り込む。
「サソリの所にでも行こうかな」
エレベーターを止めてサソリの居る病室へと向かった。
昨日はなんだかんだで会えなかったし
久しぶりだな
嬉しそうに戸をノックすると、何やら音楽が聞こえており、中から担当の看護師が出てきた。
「あら、検査終わったの?」
「はい、後は結果を待つだけです」
何故か背筋をピンと伸ばして、敬礼をする。
サソリを封じ込め
唯一にして最大のサソリキラーとして名高い担当看護師(御坂達の間では)
「何?その格好?」
笑顔で事務的にカートについているパソコンに入力していく。
「なんでもありません!(軍曹殿)」
敬礼を解いて、頭を下げながら部屋へと入る。
やたら、ノイズのような音のする機材が病室に置いてあって正直やかましい。
でも何だか頭がボーとするような
「お見舞いならスイッチを切っておくわね」
電源が切れる音がすると、空気排出が一瞬だけ強くなり、やかましいノイズが止んだ。
「じゃあ、私は行きますね。ごゆっくり」
音楽の電源を切ると、看護師は出て行った。
窓際にはベッドが置いており、サソリが死んだようにぐったり寝転んでいた。
「サソリ!」
どうしよう、こんなに元気がなくてサソリらしくな......いや、普通か
「やっと、音が止まった......」
絞り出すようにサソリが言葉を吐く。
「音?さっきの奴?」
「ああ、あの音を聴いていると上手くチャクラが練れなくてな。身体が重い」
サソリが腕に力を入れて起き上がった。
ベッドの上で枕を背に座る。
「なんか能力を抑える音源でも使われているのかな?」
「どっかから仕入れてきたらしい」
サソリはジッと佐天の顔を見上げる。
顔を見たり、身体全体を見ては首を傾げた。
「ん!?ん?」
「へっ?どうしたの?」
佐天は自分が顔や口元に触れる。まさか、内緒で買って食べたホットドッグのソースが付いていたりする?
慌て腕で口元を脱ぐってみるが特にソースらしきものはなし。
「いや、何でもねえ。それよりも良くなったみたいだな」
そんな事を言っているが、腕を組んで考えいる。
納得いかないように頬杖をついた。
「ねえ、サソリ......ありがとうね。色々と迷惑かけちゃって」
佐天が頭を掻きながら、謝罪の意味で頭を下げた。
「ああ......佐天、もっと近づけ」
「へ?」
サソリの言う通りに頭を下げたまま前に出た。
コツン
と一回サソリは右手で佐天の頭を小突いた。
いたっ!
いや、あんまし痛くないかも
「お前な!最悪死んでいたぞ」
頭を上げてサソリを見ると、本気で怒っているかのように佐天を睨みつけていた。
サソリの様子に思わず心臓が飛び上がりそうになり、動向を伺うように身体が固まった。
「今回このくらいで済んだから良かったものの、よく考えろよお前!」
サソリが殺気を含んだ怒気で佐天を叱責する。
「ご、ごめん」
「はあ......オレも人の事言えねえが、もっと慎重に行動しねえと周りに危害が及ぶ」
「......」
重厚に包帯が巻かれ固定されたサソリの左腕を見る。
サソリの左腕は、爆発の衝撃で重度の火傷となり、無理矢理動かすと皮膚が引っ張られて裂けてしまうらしい。
治るまでは、あまり動かさないように注意が必要とのこと。
「これで終わりだ。ケジメだと思え。一応、お前の能力には助けられたし」
サソリが軽く笑みを浮かべている。
「無事で良かったな」
さきほどの叱責よりも多少柔らかめの声でサソリが佐天に対して言った。
少しだけホッとしたように深呼吸をする。
サソリは、ネチネチ叱るタイプではなくガツンと一回強く叱るタイプのようだ。
「さ、サソリ......聞きたいことがあるんだけど。あたしの能力って」
佐天は、意を決して自分の能力について訊いてみた。
「氷遁だろ」
「ひょうとん?」
「氷を使った術だ。あまり数が多くない忍術だな。一族や家族で使える奴が居ただろ?」
いやいや、平凡な佐天家の人間にそんな人は居ませんでしたよ
多分、先祖は農民の方
「いや、いないけど」
「ん!?だとすればおかしいな。血継限界は遺伝的要因が強いからな、ちょっとチャクラを練ってみろ」
ちゃくらを練ってみろと言われましても
一先ず、佐天は指先に意識を集中して力を込める。
やはり、ハッカを塗られたかのような冷たさを感じるがそれ以上強くならない。
「うまくコントロール出来てねえみてーだな。背中を向けろ」
背中?
背中ですか?
クルッと後ろを向いて、サソリのベッドに腰掛ける。
サソリは体勢を変えると右手で佐天の背中に触れ始めた。
「ふわ!」
肩甲骨の端をマッサージでもするかのようになぞっている。
「ふふ、ちょっとくすぐったいかな。何をしているの?」
「んー、お前のチャクラの流れをスムーズにするかな。点穴にチャクラを流せば多少は良くなるだろ」
「てんけつ?」
「チャクラの流れの要になるツボだな。刺激すればチャクラを流したり、止めたり出来るが......大体の骨格の位置で場所が分かる」
サソリは膨大な忍の解剖データから、チャクラを流す経絡系と点穴を外見から触れるこである程度の位置を推測できた。
しかし本来では、木の葉の日向一族でしか点穴を観ることができないかつ、身体に触れなければならないので実践向きではない。
肩を持って回したり、腰元へ指先で腰椎骨をなぞる。
これって結構気持ちいいかも
なんて呑気に考えていたら
「この辺か......じゃあ、行くぞ」
「えっ!」
サソリがチャクラを指先に溜めると、佐天の腰元にある点穴を鋭く貫いた。
「痛ったあぁぁぁぁー!」
佐天が前のめりにベッドに倒れこんで貫かれた箇所を押さえる。
「うわ硬っ!全然使ってないだろお前」
「や、やるならやるって言ってよ!こっちにも用意ってもんが」
「行くぞって言っただろ。チャクラを練ってみろ!ほら立て」
布団の中にある足で倒れこんでいる佐天を小突く。
コイツ......
少しでも見直したあたしが間違いだったかも
佐天は痛む腰を摩りながら、姿勢を正して、指先に力を集中させる。
すると、手のひらから氷の結晶が出現した。
それを佐天は見ると、身体を震わせて驚きの表情を浮かべている。
「さ、サソリ....,.あたし!」
「良かったじゃねーか。使えるようになって」
頭に右腕を回して、サソリが大欠伸をした。
「あたしの能力......だ」
氷の結晶を意のままに操る。佐天が念じるだけで結晶は形を変えて、伸びたり縮んだりを繰り返している。
部屋の中で氷の結晶を作りながら、持ち上げて部屋の中で小躍りをしてはしゃいだ。
氷遁か......
全滅したって聞いたが、身近に使えるのが居たか
オレの傀儡コレクションに加わりそうだな
はしゃいでいる佐天を見ながら、サソリも上機嫌になった。
そこへ、プール掃除を終えた御坂と湾内、泡浮が病室の戸を開けて入ってきた。
「サソリーげんき?」
と元気良く挨拶をするが、氷の結晶を持ってはしゃいでいる佐天と目が合う。
「佐天さん?」
「み、御坂さん!」
佐天の持っていた氷の結晶が床に落ちて粉々に割れてしまった。
暫し、粉々になった氷に一同に沈黙が下りた。
「.............」
「佐天さん、その大丈夫?」
「大丈夫ですよ!元気百倍を超えて千倍です」
恥ずかしさを、誤魔化すように佐天は声を大きくして大げさに腕を振り上げる。
「騒がしい奴らだな」
部屋の隅のベッドには、左腕に包帯を巻かれたサソリが座り、入ってきた御坂達を眺めた。
んー、知らん奴がいる
サソリの姿に湾内は、キラキラした視線を浴びせると大股で近づいて、サソリの両手をギュッと握った。
「貴方がサソリさんですね!あの時、助けて頂いてありがとうございます」
「!?」
急にやってきたクセっ毛の女性に手を握られて、どうして良いかわからずに御坂達に助けを求めるように視線を投げかける。
「??!」
「湾内さん。探している人って合ってる?」
「はい!ありがとうございます」
うわー、本当にサソリだったんだ
意外ね
湾内は向き直るとサソリの握った手に自分の手を這わせる。
サソリの手の感触を味わっているかのように艶っぽく。
ゾゾッ!
サソリは言い知れぬ、寒気に襲われた。
「だ、誰だお前!」
「サソリさん、サソリさん。素敵な名前ですわね」
話が噛み合ってない!
サソリは、湾内から手を無理矢理引きはがす。
しかし、湾内は構わずに恍惚とした表情でベッドの上に上って四つん這いでサソリに近づいていく。
「ちょっと待て!」
サソリは、身体を起こして立ち上がると迫る湾内から逃げるようにベッドの枕元に移動した。
病室に備えてある電灯にサソリの左腕が触れると電流が走ったかのような痛みに襲われる。
「いだ」
「あ、傷が痛むみたいですわね。わたくしが痛いのポイってしてあげますわ」
「言ってる意味が分からん!」
「あーはいはい、湾内さん一先ず落ち着きましょうね」
御坂が湾内を羽交い締めにすると、ベッドから降ろして、サソリから離した。
「何をするんですの御坂さん」
「説明しないとサソリも分からないでしょ」
「はーはー」サソリの顔が引きつって固まっている。
この時ばかり、御坂に感謝した。
「大丈夫ですの?」
「こんな奴初めてだ」
サソリが力を抜いて、ベッドに腰掛ける。
ふと、隣を見上げるとこれまた新キャラの黒髪ストレートの女性が立っていた。
「思ったよりも可愛らしい姿ですのね」
「だから、誰なんだお前ら」
忍の構えをするが、左腕の痛みに顔を歪ませる。
「つー......」
「へえ、常盤台の人ですか」
佐天が落として割った氷を掃いて集めていて、感心したように顔を上下に揺らす。
「御坂さんの後輩に当たりますわね。申し遅れましたわたくしは、湾内絹保と言います」
「あたしは、佐天涙子!御坂さんや白井さんの他に常盤台の人に会ったの初めてかも」
「あら、御坂さんや白井さんの御友人に会えましてわたくしも嬉しいですわ」
黒髪ストレートの女性が優雅に腰を屈めて挨拶をした。
「わたくしは、泡浮万彬と申しますわ」
「湾内さんに泡浮さんですか」
うわー、全身から迸るお嬢様感が凄いわ
腰を屈めて挨拶なんて初めて見た
「そういえば白井さんどうしたんですか?」
御坂を見上げながら佐天が訊いた。
「ああ、黒子ならジャッジメントの仕事に駆り出されたわよ。ここに向かう途中で先輩に見つかって引きずられるように」
離してください
私にはやるべき事がありますのー
ジャッジメントとしても任務が山積みよ
眼鏡を掛けた先輩ジャッジメントが白井の腕を力強く握り、本部へと連れていくのを眺めながらサソリの病室に来たらしい。
「初春も朝から大変みたいです。電話してみたらご飯食べる時間もないって悲痛な声で言ってました」
「ほらサソリも挨拶しなさい」
「オレもかよ!」
「ぜひ」
湾内が身を乗り出して、ベッドの端っこにいて、ジリジリとサソリに狙いを定めるように近づいている。
ビクっとサソリが反応して、ベッドの反対側へ出来る限り逃げる。
「分かったから離れてくれ。サソリだ」
「サソリさん......できればそのう、上の名前も教えてくださいませんか?」
湾内の質問に御坂と佐天が気づいたように口を開けた。
「そういえば、サソリの名字を知らないわね」
「あたしも」
サソリは怪訝そうな顔をしながら
「は?名字なんてねーよ」
と言った。
なぬ!?
無いだと
「無いの!?ない訳ないじゃない」
「あ?!オレの所じゃ......古くからある一族にだけしか名字がねえからな。でも、確か親父の方でなんかあった気がするが」
日本は庶民にも名字を付けることが許されるようになったのは明治の世になってからで、その後は名字を代々使うのが慣例となっている。
サソリの戦国時代タイムスリップ説に信憑性が強くなる。
湾内が真剣な顔をすると
「ということは湾内サソリってことになりますわ」
「わ、湾内さん?」
「何でお前の一族名をオレが名乗らないといけねーんだよ」
「まずは、サソリさんの御両親に挨拶をしませんと」
「親父とおふくろ?オレがガキの頃に死んだけど」
!?
サソリの衝撃的な言葉にその場に居た全員がサソリのベッドの周りに集まった。
「そうなの?!」
「ああ、任務中に殺されたみたいだ」
「それはおかわいそうに」
「別に」
「他に家族は?」
「ババアがいたが、もうくたばったろうな。最後は喧嘩別れみたいな感じだし」
というか殺し合いをしたし。
「会いたくないの?」
「ふん、何かにつけて掟だなんだかんだって言ってくる口うるさい奴だった」
結局、トドメを刺せなかったしな
攻撃が来るって分かったのに、何故か身体が動かなかった
その疑問は晴れない
少しだけ話してくれたサソリの家族のこと。
もう、サソリのお父さんとお母さんはこの世にいない
佐天には夢の中で、母親の人形に甘えているサソリを思い出した。
小さい手で人形に縋り付いて、必死に愛情を求める姿。
佐天は、サソリのことに釘付けとなった。
赤い髪に白い身体
傷だらけの身体でどんな毎日を過ごして来たんだろうか?
胸が締め付けられる想いだ。
「ごめんね。サソリ」
不意にそんなことを口走っていた。
「......何でお前が謝るんだよ」
佐天は、自分の口を押さえた。
えっ!?
あたし今何を?
「いや、嫌な事思い出させたかと思ってね」
「......」
サソリが睨みつけてきている。
何かを探るように
気のせいか......
レベルアッパーを使う前と使った後の佐天の雰囲気が変わっていた。
しかし、その違和感が何なのか分からない。
「サソリさん!そんなお辛いことをしていたんですわね。わたくしに出来ることがありましたら、遠慮なく言ってください」
湾内が拳を握り、力強く言い放つ。
「何故オレの事を知っている?」
「あたしが教えたからよ。アンタが不良から助けたことになっているけど」
「そんな事したかな?」
「そうですよね。すみません。わたくしが勝手に」
湾内は、涙を流しながら可憐に悲恋そうに顔を背けて、高級そうなハンカチで目元を吹き始めている。
「!!?」
なんか空気が一変した。
泡浮が泣いている湾内を慰めるように背中に手を置きながら、サソリを睨みつけた。
「ん?ん!?」
完全にサソリが悪者のようになりだして、御坂がベッドに備えてあるテーブルを叩いた。
「サソリ!早く思い出しなさい」
「覚えてねえって言ってるだろ」
「御坂さん落ちついてください」
佐天が収めようと御坂に手を振りだす。
「なんだよ。レベルアッパー関連か?」
「違うわよ。なんか巡回ロボットを落として助けたみたいだけど」
巡回ろぼっと?
「は?オレが落とした?......そんな事するわけが......あっ!」
何かを思い出したかのように顔を伏せ、顔色を悪くし始める。
自動で動く傀儡人形を運ぼうと悪戦苦闘をしている時に、屋上から落としてしまった。
その時にいた女だ。
「げ!?」
「あの……その……ありが」
クセっ毛の強い女が顔を赤らめながら、こっちを見ていた。
あの時の記憶が甦る。
「やべ、あった......こんな奴いたな」
「思い出してくれましたの?」
嬉しそうに手と手を合わせて音を鳴らす。
「お前......目的は何だ?」
悔しそうに湾内を見上げる。
「はい?」
満面の笑みでサソリに微笑み掛けている。
サソリに取ってみれば、この女に弱味を握られているのと同じだった。
大蛇丸が関与しているであろう、この場で派手に動いて失敗してしまった。
その時の事を一番に目撃している女が目の前にいる。
しまった......
あの時、やはり戻って始末しておくべきだった
レベルアッパー事件で今は、術がほとんど使えない
その期を狙って来やがったか
まさか、御坂と繋がっていたとは
湾内は、サソリの考え事など無視して震えているサソリの右手を握り締めると
「目的ですか?そうですわね......わたくしとお付き合いをしてもらいたいと考えております」
「「「ええええー!?」」」
御坂達が顔を真っ赤にしながら叫び声を上げた。
大人しくなったサソリの手に自分の手を絡めながら
「よろしくお願いしますわ。サソリさん」
片目でウィンクをした。
サソリは、戸惑っているように視線をズラす。
分からん
コイツの考えていることが分からん
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