おぢばにおかえり
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第二十七話 デートじゃないのにその十三
「だからティーシャツはね。勿論そんな無茶苦茶な言葉の入ったシャツなんて着れないわよ」
「けれどあのブレザーっていいですよね」
今度はブレザーを褒めてきました。
「清楚な感じしますけれど可愛くて」
「リボンが?」
「そうそう、それそれ」
何かこの台詞何処かで聞いたような。
「そういうのが面白いんじゃないですか」
「今の言葉何処かで聞いたような気がするけれど」
「だから井上敏樹の台詞なんですよ」
そうらしいです。道理で何処かで聞いた記憶があると思いました。
「いいんだよ、そういうのが面白いんだからって」
「どういう時にそれ言ったの?その人」
「アンチが多いですねって言われてなんですよ」
それでそういうのが面白いんだから、ですか。少し聞いただけで物凄い人なんだってわかります。そもそも名前を聞いただけで何かを感じるんですけれど。
「それでいいんだよ、そういうのが面白いんだからって返して」
「嫌われても平気どころじゃないのね」
「凄い人でしょ」
「凄いっていうかね。破天荒ね」
中学まで通っていた八条学園にもそんな人がいたような。あの街もかなり個性の強い人達が集まっていると思います。
「そんな人がいるの」
「ええ。よかったらシャツ一枚どうですか?」
「別にいいわ」
この申し出は断りました。
「別にね」
「そうなんですか」
「それよりもよ。お婆さん」
今度は私からお婆さんに声をかけました。
「何時退院ですか?」
「二週間後だって」
にこにことした笑顔で返事が返ってきました。
「それで退院って聞いたわ」
「そうなんですか」
「その間ゆっくりさせてもらうわ」
「ゆっくりですか」
入院している人の言葉にしては随分とリラックスしたものに聞こえました。
「何かそれって」
「だってそうじゃない。ゆっくりと寝て休めるのよ」
「はあ」6
「それも結構なことを。何でも結構」
「それが天理教なんですね」
今回は結構いいタイミングで言ってきた阿波野君でした。
「何でも結構なことって満足して受け取ることが」
「それがたんのうなのよ」
「たんのうですか」
阿波野君はそれを聞いて腕を組みだしました。考えている感じに見えます。
「そうなんですか。それがですか」
「はじめて聞いた言葉よね」
「ええ、まあ」
一年生の授業ではまだそこまで進んでいないです。天理高校の教義の授業は他の天理教の学校と比べると教義にそれ程力を入れていないそうです。
「本当にはじめてです」
「やっぱりそうよね。けれど覚えておくといいわ」
「はい」
お婆さんの言葉に素直に頷いています。私に対するのと全く違うような。
「わかりました」
「いい子ね、素直で」
「素直ですか!?」
それについては心から反論したいです。
「この子が」
「僕って昔から素直で有名ですよ」
「自分で言わないの」
今回は阿波野君に顔を向けないで目を閉じて言いました。
「自分で素直とか正直とか言う人間って大抵詐欺師とかペテン師とかよ」
「嫌だな、詐欺師とかペテン師なんて」
「それかお調子者か」
自分で話をしていてそれが一番だと思いました。阿波野君はどう考えてもお調子者です。
「まあお調子者ね」
「僕みたいに真面目な人間を捕まえてそれはないでしょ」
「ほら、そこで言うから」
今言ったところで自分から言うところが本当にお調子者です。
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