英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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終章~王都繚乱~ 外伝~囚われる白き翼~
エステル達がレイストン要塞から博士奪還を成功させた翌日、王都から離宮へと続く街道――エルベ周遊道を学生服を着た少女――クロ―ゼが親衛隊隊長――ユリア中尉に誘導されていた。
~エルベ周遊道・入口~
「こちらです、クローゼ!」
「はあはあ……。何とか周遊道を抜けましたね。どうしましょうか、これから?」
ずっと走り続けたクロ―ゼは息を切らせながら、ユリアに尋ねた。
「このままキルシェ通りに出て王都にお向かいください。部下たちの陽動によって警備は手薄になっているはずです。そのお姿なら、気付かれずに遊撃士協会まで行けるでしょう。」
「分かりました……あ。それではユリアさんは……!?」
「ここで敵を食い止めます。少しの間ですが時間稼ぎにはなるでしょう。」
「そんな……そんなのダメです!私一人が逃げるなんて……。私もユリアさんと共に戦います!」
ユリア一人を残して逃げる事に納得できないクロ―ゼは顔色を変えて答えた。
「……人はそれぞれ守るべきものがあります。私がここに留まるのはおのれの信念と責務のため。ですが、貴女の場合は、失礼ながらただの感傷に過ぎぬかと存じます。御身が御身なだけのものでないこと、どうかお忘れなきよう……」
「………………………………。わかりました、ユリアさん。でも、約束してください。絶対に無茶なことはしないと……。それと、無事再会できたらお祖母さまが淹れた紅茶を一緒にご馳走になりましょう。私、新作のお菓子を焼きますから。」
決意のユリアを見て、説得できない事を理解したクロ―ゼはユリアを激励した。
「それは楽しみです。さあ、お急ぎください。……ジーク!しっかりお守りするのだぞ!」
ユリアの言葉に頷いたクロ―ゼはいつの間にか空よりやってきた白ハヤブサ――ジークと共に王都を目指して、走り出した。
「さてと……。そろそろ追いついてきたか……」
クロ―ゼを見送ったユリアは自分達を追ってくる人物達に気付いて、振り向いた。そこには特務兵達と特務兵が訓練した魔獣が戦闘態勢に入っていた。
「3人……それに犬どもが5匹か。フ、甘く見られたものだ。あの方より教わりし剣……。存分に震う時が来たようだ。」
ユリアは敵の少なさを見て、口元に笑みを浮かべた後、得物である細剣を構えた。
「王室親衛隊、中隊長……。ユリア・シュバルツ―――参るッ!」
~キルシェ通り・グランセル前~
「はあはあ……。……ジーク、来て!」
「ピュイ?」
一方王都が見えて安心したクロ―ゼはジークを呼んだ。
「私はもう大丈夫だからユリアさんのところに行ってあげて。このままだとユリアさんが……」
「ピューイ!」
「ありがとう、お願いね。」
ジークを見送ったクロ―ゼは王都を見た。
「ユリアさんの言った通り、こちらの警備は手薄みたい……。急いで遊撃士協会に行かないと……」
クロ―ゼが独り言を呟いたその時、雨が降り出した。
「雨……。………………………………。そういえば、エステルさんたちもそろそろ王都に来る頃かしら……」
クロ―ゼがエステル達の事を思い出したその時、上空から飛行艇のエンジンの音が聞こえて来た。
「……まさか!?」
エンジン音を聞いてクロ―ゼは表情を青褪めた。そして降りて来た飛行艇は紅蓮の塔やレイストン要塞に現れた特務兵の警備艇だった。
「情報部の特務艇……!まさか、昼間のうちから王都の前に現れるなんて……」
飛行艇から降りて来た特務兵達を見たクロ―ゼは逃げようとしたが
「あっ……」
「………………………………」
ロランスが目の前に立ちふさがった。
「やあ、珍しい所で会うものだな。」
そこに飛行艇からリシャールが降りて来た。
「ジェニス王立学園、社会科在籍。クローゼ・リンツ君……。少々、話を聞かせてもらえるかね?」
そしてクロ―ゼは特務兵達に拘束されて、どこかに連れて行かれた。
~王都グランセル・エレボニア帝国大使館内~
「麗しの王都に暗雲立ちこめ、昏き情熱の序曲が鳴り響く……。フフ……面白くなってきたじゃないか。」
クロ―ゼが特務兵達に拘束された同じ頃、大使館の部屋の窓から外を見て、オリビエは独り言を呟いていた。
「……相変わらずのお調子者だな。」
そこにエレボニア将校の服を着た男性が入って来た。
「おお……。ボクは夢でも見ているのか?ミュラー、親愛なる友よ!多忙な君が、わざわざ帝都から訪ねて来てくれるとは。一体どういう風の吹き回しだい?」
「何をぬけぬけと……。貴様が連絡の一つもよこさずにほっつき歩いているからだろうが。余計な手間を取らせるんじゃない。」
エレボニア将校――ミュラーは芝居がかかったように話すオリビエを睨んだ。
「フッ、照れることはない。口ではそう言いながらもボクの事が心配でしようがなくて飛んできてしまったのだろう?恋は盲目とはよく言ったものだ。」
「………………………………」
「さあ、遠慮することはない。ボクの胸に飛び込んできたまえ!」
いつまでもふざけているオリビエを見て、ミュラーは静かに言った。
「頼まれた情報をわざわざ持ってきたんだが……。どうやら知りたくないようだな。」
「ああん、つれないことを言わないでくれたまえ。わかった。つまり誠意を見せろと?」
「それが常識だと思うが。」
常識外の事ばかり行っているオリビエに言っても無駄と思いつつ、ミュラーは指摘した。
「そういう事ならお任せあれ。コホン……」
オリビエはわざとらしく咳払いをすると
「お願いします、ご主人様っ♪どうか教えてくださいませっ♪」
ポーズを決めて、猫撫で声でミュラーに情報を話すよう求めた。頼まれたミュラーは固まった。
「あれ、外したかな?それじゃあ、お次はこれだ。」
ミュラーの様子を見たオリビエはその場で跪いた。
「アニキー!一生のお願いじゃあああっ!どうか教えてくれぇぇい!」
「もういい……。頭が悪くなりそうだ……。話してやるから黙ってろ。」
オリビエの態度に呆れ果て、とうとう折れたミュラーは言った。
「ワァイ。」
ミュラーの言葉を聞き、オリビエはすぐに立ちあがった。
「例の『彼』だが……。ようやく足取りが見つかった。どうやら一月前までエレボニアの遊撃士協会にいたらしい。」
「へえ……?」
ミュラーの情報にオリビエは首を傾げた。
「ここ数ヶ月の間、エレボニア各地の協会支部が立て続けに襲撃された。その事件を調査していたらしい。」
「襲撃ねぇ……。まさかとは思うけどどこかの部隊の仕業だったりする?」
「さすがに……。10年前とは事情が違うさ。俺の知る限り、どの部隊にも出動命令は下されていない。何者かに雇われた猟兵団の仕業だった可能性が高そうだ。いずれにせよ、事件解決と同時に彼の足取りは途切れてしまった。」
ミュラーは真剣な表情で語った。
「ふーむ……参ったな。せっかくリベールに来たのに完全に入れ違いだったわけか。」
「まあ、そういうことだ。目当ての人物がいない以上、この地に留まる必要はあるまい?もう一人のほうも、身分を隠してそう簡単に会える人物でない事はわかっているだろう?どうやら予想以上に激しい嵐が近づいているようだ。巻き込まれる前に帝都に戻るぞ。」
溜息を吐いているオリビエにミュラーは淡々と言った。
「はっはっは、ご冗談を。せっかく始まる極上のオペラに参加しないという手はあるまい?」
「……なに?おい、まさかお前……」
嫌な予感がしたミュラーはオリビエを睨んで尋ねた。
「役者もそろいつつあるようだ。あいにく、主役は不在だが代役には心当たりがあってね。あの5人なら、必ずや自力で舞台に上がってきてくれるだろう。」
ミュラーの睨みを無視して、オリビエは静かに語った。ついにリベールに渦巻く陰謀の歯車が着々と回り出した…………
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