英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第72話
マーテル公園に到着したリィン達は地下道へ続く場所へと向かった。
~夜・マーテル公園~
「ふむ……周囲に人気はなしか。」
「いい条件だね。」
「……………………」
「………むむ…………」
ラウラとフィーが周囲を見回している様子をリィンとマキアスが見守っていると、二人は互いに対峙した。
「―――フィー。単刀直入に言おう。この勝負、私が勝ったらそなたの”過去”を教えて欲しい。」
「!……………………」
「最初は、そなたの強さに納得できぬものを感じていた。そなたが力を抑えているのは最初からわかっていたからな。そしてその体格でその練度……私の”武”の常識からは余りにもかけ離れすぎていた。」
「だろうね。」
ラウラの話を目を閉じて聞いていたフィーは目を見開いて静かに答え
(そ、そうなのか?)
(ああ……正直なところ、あり得ないレベルだと思う。)
二人の会話を聞いて戸惑っているマキアスにリィンは答えた。
「そして”猟兵”という存在……その在り方にも正直、良い感情は持っていなかった。騎士を”正道”とするならば、猟兵はいわば”邪道”……己の価値観に反しているゆえ心を合わせられないのだと思った。」
「…………………」
ラウラの話を聞いたフィーはラウラから視線を逸らして黙り込んだが
「だが―――それは勘違いだった。」
「え。」
ラウラの答えを聞いて呆けた表情でラウラを見つめた。
「エリオットの話を聞いて私は自分の心に問いかけてみた。気負うことなく、ありのままの自分を見極めようとしてみたのだ。そうすると……ひとつ気付いたことがあった。―――数ヵ月共に過ごして私がそなたを信頼できる人物だととっくの昔に知っていたことを。価値観とは関係なく……”心”がそう判断していたことを。」
「…………ぁ…………」
「だが、私の頭の固さと頑なさがそれを見えなくし続けていた……”心”ではそなたを認めているのに”頭”で合わないと思いこんでいたのだ。おそらくその矛盾こそ、ARCUSで心を合わせられなかった原因だろう。」
「……………………」
(……なるほど……君、もしかして気付いてたか?)
ラウラの説明を聞いたフィーは黙り込み、納得した様子で頷いたマキアスはリィンに視線を向けた。
(……今日の手配魔獣との戦いでね。)
「”壁”があると思いこんでいたのは、わたしも同じ……ラウラはいつも真っ直ぐだから。わたしを受け入れられないって心のどこかでちょっと諦めていた。」
「……そうか……」
フィーの答えを聞いたラウラは重々しい様子を纏って呟いた。
「でも、どうして?わたしの過去を知りたいのはなぜ?それを知ることがラウラにとって何の意味があるの?」
「フフ……決まっているだろう。私がそなたを”好き”だからだ。」
真剣な表情のフィーの問いかけに対し、ラウラは静かな笑みを浮かべて答え
「な、なにを……」
(あら♪予想外の人物から、あんな言葉が出てくるなんてね♪)
(ふふふ、早とちりはよくないと思いますよ?)
ラウラの答えを聞いたフィーは戸惑い、からかいの表情をしているベルフェゴールにリザイラは静かな笑みを浮かべて指摘した。
「以前、リィンに絡んでしまった時もそうだったが……どうも私は、見込んだ相手や気に入ってしまった相手のことは理解できないと気がすまないらしい。そなたの過去―――そなたが”そう在る”経緯の一端を知りたい。だからこれは、ただのわがままだ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「……………………」
ラウラの説明を聞いたフィーは何も答えず黙り込み
(な、なんというか……)
(………さすがラウラと言わざるを得ないな……)
マキアスとリィンは苦笑しながら見守っていた。
「やっぱりラウラは凄いな。―――いいよ、教えても。でも、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀……それでいい?」
疲れた表情で答えたフィーは真剣な表情で双銃剣を構えてラウラを見つめ
「フフ、よかろう……だが、”報酬”のつもりはない。勝利の勲とさせてもらおう。」
対するラウラも大剣を構えて不敵な笑みを浮かべた。
「……上等。」
ラウラの答えに満足したフィーは不敵な笑みを浮かべて闘志を高め
(ハア。戦闘馬鹿同士なんだから、気が合わないわけないじゃない。)
(フフ、とんだ茶番でしたね。)
その様子を見守っていたベルフェゴールは呆れ、リザイラは静かな笑み浮かべ
「き、君達、もう十分気が合ってるだろうが!?」
「はは……」
マキアスは呆れた様子で指摘し、リィンは苦笑した後ちょうど二人の真ん中になる位置から距離を取った場所に向かった。
「―――立ち合いは引き受けた。危険だと判断したら止めるから全力でやり合うといい。」
「ああ……!」
「感謝。」
リィンの言葉に二人は頷き、そして!
「はああああっ……!」
「……ふぅぅぅっ…………」
互いに闘気を練って闘気を全身に纏い
「―――始め!」
リィンの合図を元に戦闘を開始した!
二人の戦いは一進一退の戦いで、互いの奥義がぶつかり合ったその時、リィンの戦闘終了の合図が入り、戦闘を終えた二人は互いに地面に倒れて息を切らせていた。
「はあっ……はあっ……」
「……はぁっ、はあっ……」
「こ、これは……なあ、リィン。どっちの勝ちなんだ?息を切らせて地面に倒れている二人の様子を見たマキアスは結果をリィンに尋ね
「立ち合いを引き受けたのに申し訳ないんだが……引き分け、としか言えないな。」
「そ、そうか……」
苦笑しながら答えたリィンの答えを聞き、静かな表情で二人を見つめた。
「ふふ……まあ、仕方あるまい…………いずれ精進の暁にでも取っておくとしよう……そなたともいずれ決着をつけたい所だしな……」
「って、何で俺まで!?」
(うふふ、大変ね、ご主人様も♪)
(フフ、そうですね。)
「はは……まったく。」
「……わたしの負け。」
ラウラの言葉に驚いているリィンをマキアスやベルフェゴール達が微笑ましく見守っている中、フィーが静かな口調で意外な言葉を口にした。
「え……?」
フィーの口から出た予想外の答えを聞いたラウラは起き上がってフィーを見つめた。
「夜間戦闘は猟兵の十八番……フラッシュまで使ったのに決着をつけられなかった……昼間だったら負けてた……」
「それは……」
「ああ………多分そうだろうな。」
「そうなのか……」
フィーの答えを聞いて頷いたリィンの言葉を聞いたマキアスは驚きの表情で二人を見つめた。
「……わかった。勝利を受け入れよう。」
「ん……」
「えっと、その……」
「俺達は席を外すか。」
二人の様子を見たマキアスとリィンは席を外そうとしたが
「わたしは別に……ラウラ、いい?」
「ふふ……そうだな。一緒に聞かせてもらおう。」
「……わかった…………」
ラウラとフィーの答えを聞いてその場で、とどまり、フィーは過去を話し始めた。
「―――わたしが前にいたのは”西風の旅団”という所だった……―――気付いた時には”戦場”にいた。どこかの国の、どこかの辺境にある名前も知らない紛争地帯……幾つもの猟兵団がミラ目当てで誰かの欲望を叶える為に戦うその地でわたしは、たったひとりさ迷っていた。
わたしを拾ったのは”猟兵王”……”西風の旅団”という、わりと有名な猟兵団のリーダーだった。飄々としてるけど抜け目なくて、しぶとさとズル賢さと悪運だけは飛びぬけていたオジサン……でも……わたしにとっては育ててくれた親と同じだった。
団員は変わった人ばかりだったけどみんな、わたしを可愛がってくれた。そのうち掃除とか、食事当番とか荷物運びとかを手伝うようになって……空いた時間に、戦場で生き延びる色々な技術を教わるようになっていた。
……幾つかの偶然の結果、わたしは10歳で実戦を経験して……渋る団長をみんなが説得するかたちで、わたしは”西風の旅団”の一員となった。それから数年が過ぎて……わたしは”西風の妖精”なんて呼ばれるようになっていた。
団のみんなと一緒に大陸のあちこちを回って……辛いことや、危ないこともあったけど生き延びてみんなと一緒にいた。2年前―――団長がいなくなるまでは。
”リベールの異変”……その”異変”を起こしたある裏組織―――”身喰らう蛇”に今までの依頼人から貰った報酬とは比べ物にならない高額の報酬で雇われ……リベールの都市の一つ―――”ロレント市”にわたしたちのように雇われた宿敵の猟兵団―――”赤い星座”や”身喰らう蛇”に所属している猟兵達と共に滅ぼす作戦だった。
団長の命令でわたしを含めた4分の1の数の団員達は待機する事になって……―――そして連絡役から帰ってきた報告は団長を含めた団員全員が”全滅”。
ロレント市に攻め込もうとした団長を含めた団員達、そして”赤い星座”や”身喰らう蛇”の猟兵達もみんな、当時リベールと何らかの約定を結んでいてロレントの防衛についていた”英雄王”達が率いるメンフィル帝国の軍団によって”虐殺”と言ってもおかしくないくらい、圧倒的な戦力で全員殺され……団長自身も”空の覇者”の異名を持つメンフィル帝国軍の大将軍―――ファーミシルスとの一騎打ちで討たれた。
そして……団長がいなくなった後。残されたみんなはどこかに居なくなってしまった。ただ―――わたしだけを残して。」
「……………………」
「…………そんなことが……」
フィーの説明を聞き終えたラウラは黙り込み、マキアスは重々しい様子を纏い
「……確かプリネやツーヤもその戦いに加わって、団長達と戦ったって話は聞いている。」
「なっ!?あの二人が……!?」
「それは…………」
フィーの話を聞いたマキアスは驚き、ラウラは複雑そうな表情でフィーを見つめたが
「……あの二人やメンフィルの事は仇だなんて思っていない。メンフィル帝国はロレントを守る為に戦ったんだろうし、非があるのは何の罪もない市民達が住んでいるロレントを滅ぼそうとした”身喰らう蛇”に雇われたわたし達の方。」
「…………………」
フィーの答えを聞き、重々しい様子を纏って黙り込んだ。
「それじゃあ、みんなが消えた後、フィーは士官学院に……?」
「……ん。途方にくれてたわたしの前にサラが現れた。二大猟兵団の動向を追っていてちょうど行きあわせたみたいで。事情を話したら強引にあの学院に連れて行かれた。それで学院長に紹介されて……1年間サラが借りている部屋で勉強させられて…………ここから先はみんなも知ってる通り、かな。」
「―――正直、予想以上だった。私が知っていた世界とはかくも狭きものだったのだな。」
フィーの過去を聞き終えたラウラは静かな表情で答え、そして立ち上がってフィーを見つめた。
「ようやく私は”そなた”を知った。全てではないが、これからもっと深く知る切っ掛けは掴めたと思う。どうだろう―――今から試してみないか?」
「あ………………いいよ。」
そしてフィーはラウラの手を借りて立ち上がった後、それぞれの武器を構えてリィン達を見つめた。
「ま、まさか……」
武器を構えている二人を見たマキアスは表情を引き攣らせ
「……なるほどな。この前の実技テストのリベンジってとこか。」
リィンは静かに太刀を鞘から抜いて苦笑しながら二人を見つめた。
「ああ、胸を貸してもらおう。かなり消耗しているので物足りないかもしれないが……」
「付け焼刃かもしれないけど何とか届かせてもらう。」
「いやいやいや!その戦力分析はおかしい!」
ラウラとフィーの分析を聞いたマキアスは二人の強さを思い出し、慌てた様子で指摘した。
「まあ、せっかくの機会だ。これも実習の一環と思って相手を務めさせてもらおう。」
「くっ……ああもう!」
そして戦闘が避けられないと判断したマキアスはやけになってショットガンを構えた。
「―――言っておくが本気で相手をさせてもらうぞ!遠慮なくかかってきたまえ!」
「ふふ………そなたたちに感謝を。」
「それじゃあ―――行くよ!」
そしてリィン達は模擬戦を開始した。”戦術リンク”が再びできるようになったラウラとフィーの強さは余りにも圧倒的で、リィンとマキアスも奮戦したが、二人のコンビネーションには敵わず、敗北した。
「……できたな……」
「…………ん…………」
リィンとマキアスに勝利したラウラとフィーは互いの拳を合わせた。
「ははっ…………」
「……ふふっ……」
「ハアハア……君達な……自分達だけの世界に浸ってるんじゃない……!」
互いに微笑み合っている二人を見たマキアスは呆れた表情で指摘し
「はは……何て言うか……とんでもないコンビが生まれたかもしれないな……」
リィンは苦笑した。
「ふふ……フィー、どうせならもう一戦共にしないか?」
「ん。わたしもちょっと戦い足りないって思った所だもの。」
「ちょっ……もう、僕達はこれ以上は無理だぞ!?」
戦意が高まっている様子の最強コンビの様子を見たマキアスは慌て
「わかっている。―――リィン。ベルフェゴールを召喚してくれ。一度彼女と手合せをしたいと思っていたのだ。」
「ええっ!?」
「しょ、正気か!?彼女の圧倒的な強さは君達も知っているだろう!?」
(げ。)
(ふふふ、指名されてしまいましたね。)
ラウラの希望を聞いたリィンとマキアスは驚き、嫌そうな表情をしたベルフェゴールをリザイラは面白そうに見つめていた。
「圧倒的な強さだからこそ、戦士として挑んでみたいんだ。」
「ん。それに前々からわたし達の事を子供扱いして、イラッとしていたんだから、一矢くらい報いたいしね。」
「ハア……”魔神”である私に挑みたいだなんて、相当の戦闘馬鹿ねぇ、貴女達。」
ラウラとフィーの説明を聞いたベルフェゴールは呆れた表情でリィンの傍に現れ
「戦闘馬鹿か……ふふ、そうかもしれないな。」
「男を誘惑して喰いまくっている種族の女王のそっちよりはマシと思う。」
「……言ってくれるじゃない。―――いいわ、世界の広さってものを教えてあげるわ、お嬢ちゃんたち♪」
ジト目のフィーの言葉に笑顔の状態で顔に青筋を立てたベルフェゴールは二人の希望通り、模擬戦を開始した。さすがのラウラとフィーの最強コンビも疲弊している影響でベルフェゴールを相手にするのは無謀であったが、二人は互いにカバーして粘り、手加減しているながらもベルフェゴールを相手に3分耐えて戦闘不能になった。
「ハア……ハア……フフ……さすがだな……手加減してこの強さとは…………」
「………はあっ、はあっ……後少しで届いたのに……次こそは一撃は入れて見せる……!」
疲弊した影響で地面に膝をついているラウラは息を切らしながら苦笑し、フィーは悔しがり
「うふふ、よく頑張ったほうね♪」
「ベ、ベルフェゴールを相手に3分も粘るなんて……」
「しかも一騎打ちと僕達との模擬戦もしたのに、二人共どれだけ凄いんだよ……」
ベルフェゴールはからかいの表情になり、リィンとマキアスは表情を引き攣らせた。
「お前達、何をしている!」
するとその時男性の声が聞こえて来た。
「へ……」
「あ。」
声を聞いたマキアスやフィーが呆けたその時、巡回の憲兵がリィン達に向かって駆け付け
「じゃあね♪後はよろしく♪」
「お、おい、ベルフェゴール!?」
厄介な事に巻き込まれたくないベルフェゴールはリィンの身体に戻った。
「何だお前達は……!?ん、その制服は……どこかの高等学校の生徒か!?」
「まったく、誰かが騒いでいると通報を受けて来てみれば……!」
「い、いえその……!これにはアノール河よりも深い事情があるといいますか……!」
「その……お騒がせしてすみません。周りの迷惑にならないように心がけていたんですが……」
憲兵たちに睨まれたマキアスは慌てた様子で言い訳を始め、リィンは頭を下げた。
「ふむ、公園で勝負というのは少しばかり無理があったか……」
「ん。地下道あたりに降りた方が良かったかも。」
「―――ええい、君達が始めたことだろう!?他人事みたいな顔をしてるんじゃないっ!」
そして互いの顔を見合って考え込んでいるラウラとフィーの様子に気付いたマキアスは顔に青筋を立てて二人を睨んで怒鳴った。
その後憲兵達に2時間説教を受けたリィン達は旧ギルド支部に戻り、既に実習課題の報告書を書き終えたツーヤに感謝し、明日に備えて疲れた身体を休めた。
こうして……ラウラとフィーの和解は成功した………!
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