馬の様に牛の様に
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6部分:第六章
第六章
「って考えてるんだけれど」
「それで食べるのは何なの?」
「シェラスコ」
それだというのである。ブラジルの鉄串で刺した肉の塊を焼いたものである。ブラジルの名物料理の一つとして知られている。
「それに出るんだ」
「シェラスコっていうとお肉よね」
「そうだよ」
ざる蕎麦を啜りながら答える丈だった。その食べる勢いがまたかなりのものだ。大盛りのざる蕎麦があれよこれよという間に消えていく。
「牛肉とか豚肉とか。お肉の種類は色々だけれど」
「お肉ねえ」
「何でも食べられるよ」
食べるのには何の不都合もないというのである。
「口に入ればね」
「じゃあ出るのね」
「どうかな、それで」
食べながら美佳に対して問うのだった。
「食べる?どうするの?」
「いいんじゃないの?それじゃあ」
それを聞いて述べる美佳だった。
「私はいいと思うわ」
「そう。それだったら」
「けれど」
美佳は言おうとした。しかしそれを途中で止めた。結局夫にフードファイトに行かせることにしたのだった。こうして彼はそのフードファイトに出ることにした。
そのフードファイトの会場に美佳も行った。丈の両親もだ。義父母と並んで観戦している。その中で義母が笑いながら話すのだった。
「あの子お肉も好きだったからね」
「そうだったなあ」
義父も笑いながら話すのだった。
「本当に昔からな」
「お肉も何でも食べるから」
「その肉の食べ方がいいんだよな」
義父は昔と今を同時に見る目で話した。
「ステーキなんかな。もうな」
「五〇〇グラムをもう五枚も六枚もね」
「五枚も六枚もですか」
美佳は二人のその話を聞いてここでまた驚いたのだった。
「お肉もそれだけですか」
「そうよ。そこにポテトサラダもどっさりね」
「食べてたよなあ」
「そうですか。じゃあシェラスコも」
ここで彼の言葉を聞いてそのうえで会場を見るのだった。会場ではもう丈が自分の席でスタンバイしていた。競技が今にもはじまろうとしていた。
司会者が腕の時計を見た。その格好はやたらとラフな格好である。アシスタントの女の子達はカーニバルの格好をしている。意図的にブラジルの格好をしている。
そしてそのうえで、であった。今高らかに叫ぶのだった。
「開始です!」
「よっし!」
競技者達は一斉に声をあげた。構えているその前の皿のところに肉が幾つも刺さった鉄串が置かれその肉が次々と切られて置かれていく。そこに各人めいめいソースをかけて次々と食べていくのだった。
丈は凄まじい勢いでその肉を食べていく。その中で。
他の競技者達は一人、また一人と脱落していく。胃の飽和量に至ったのだ。
「降参です・・・・・・」
「ギブアップ・・・・・・」
そのはちきれそうな胃を抱えてこう宣言していく。しかし丈はがむしゃらに食べていく。
「いけるわね」
「そうだな」
義父母はそんな我が子を見て会心の笑みを浮かべていた。
「このままいけば」
「また優勝ね」
それは実際に見えてきていた。ところがだった。
「いい感じよ」
「全くだな」
こう言い合っていた。しかし予想というものは裏切られるものである。信じればその時点で裏切られる。それは今回も同じであった。
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