英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第67話
エステル達はティータに案内され、ある家に着いて中に入って行った。
~ツァイス市内・ラッセル家~
「えへへ……。これがわたしの家です。」
「ほう。ここがラッセル博士の住居か……」
「へ~、いいお家じゃない。」
「わあ……これがティータちゃんの家なんだ!」
リフィアは興味深そうに家の中を見渡し、エステルやミントも同じように見渡した。
「ラッセル博士はどこにいらっしゃるのかな?」
「おじいちゃんなら工房の方にいると思います。その扉の向こう側です。」
ヨシュアの疑問にティータは玄関とは別に着いている扉を指し示した。
「それじゃあ早速、挨拶させてもらいますか。」
扉の中に入って行き、ティータの案内で扉の先の部屋にある階段をエステル達は上って行った。
「おじいちゃん、ただいまぁ。」
「……むむむ………。ここをこうして、こうすれば……。くぬぬぬぬっ……!……ぬおおおっ…………」
そこにはティータの呼びかけにも答えず、椅子に座って一心不乱に机の上にある導力器らしき物を熱心に作業している老人――ラッセル博士がいた。
「……あ。」
「あ、その人ね。」
博士の様子にティータは気不味そうな表情をした。ティータの様子に気付かず、エステルは博士に挨拶に向かった。
「あの~、初めまして。あたし、遊撃士協会のエステル・ブライトっていいます。実は、博士に相談したいことが……」
「………………………………………………………………」
「……あり?」
エステルの挨拶に何も答えず、ただ作業している博士にエステルは首を傾げた。その時博士が立ち上がって大声を出した。
「で、できたあああっ!」
「ひえっ!?」
「ひゃっ!?」
「ッ!?」
博士の大声にエステルやミント、ツーヤは驚いた後一歩後退した。
「わはは、やったわい!ついに完成したぞおおおっ!さすがワシ!すごいぞワシ!うむ、こいつは早速、テストせねばなるまいてっ!」
博士はエステル達には一切気付かず、1階に降りて行った。
「わぁっ!な、なんなのよ~!?」
「ご、ごめんなさい、エステルさん。おじいちゃん、発明に夢中になるとまわりが目に入らなくなって……。数日前から造っていた装置がようやく完成したみたいなんです。」
「なるほど……。さすが天才って感じだね。」
「そ、そういう問題じゃないと思うんですけど……」
感心しているヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。
「め、面目ないですぅ……」
エステルの言葉を聞いたティータは気不味そうな表情になった。
「うわ~……それってリフィアとそっくりていう意味じゃない……嫌な予感。」
「エヴリーヌ、それはどういう意味だ?」
「お、お姉様。抑えて下さい。それより、ラッセル博士とは昔からああいう方だったんですか?」
博士の事を知り、思わず呟いたエヴリーヌを睨んでいるリフィアを宥めたプリネは話を変えるために博士の事を尋ねた。
「ああ。魔導技術の事を知った時、周りの技術者達に抑えられながらもリウイに魔導技術の詳細を迫っていたほどだ。興味がある事があれば周囲の目は一切入らないのは以前と全く変わっていないな。」
「なるほど。(確かにリフィアお姉様とよく似た方ですね………)」
そしてエステル達は博士を追い、1階に降りた。1階に降りると博士が何かの設計図らしき紙を見ていた。
「おじいちゃん、あのね。このお姉ちゃんたちが相談したいことがあって……」
「ん……?おお、ティータ!いいところに戻ってきたのう!今からテストをするからデータ収集を手伝ってくれ。」
「え、でも、あのね……」
「今度の発明は、生体感知器を無効にするオーブメントじゃ。特殊な導力場を発生して走査をごまかすわけじゃな。」
「ほ、ほんとー?」
エステル達のために博士の作業を止めようと声をかけたティータだったが、博士の言葉に作業を止めさせる事を忘れてティータは興味深そうな表情をした。
「ホントもホント。掛け値なしの新発明じゃ!ほれほれ、いいから、起動テストの手伝いをせい!」
「うんっ!」
そしてティータは博士と共に部屋に備え付けてある複雑そうな装置を動かし始めた。
「……あの~。」
「うーん。しばらくかかりそうだね。」
博士達の様子を見てエステルはジト目で声をかけたが答えは帰って来ず、ヨシュアは苦笑した。その時博士は手を止め、振り向いて次々とエステル達に指示をした。
「ほれ、そこの黒髪の!」
「え、僕のことですか?」
「他に誰がおる?2階の本棚から『導力場における斥力値』というノートを持ってくるんじゃ!ほれほれ、とっとと急がんか!」
「は、はい、わかりました。」
博士の勢いに押されたヨシュアは2階に走って行った。
「ちょ、ちょっとヨシュア……」
「ほれ、そこの触角みたいな髪したの!」
「しょ、触角……。あ、あんですって~!?」
博士に言われた自分の特徴にエステルは怒ったが
「ぼけーっとしとらんでコーヒーでも淹れてこんか!」
「な、なんであたしがっ!?」
「ちなみにワシはブラックじゃ。泥のように濃いヤツを頼むぞ。」
「聞いてないし……。はあ、もう、わかったわよ。」
「あ、ママ。ミントも手伝うね。」
話を聞かず一方的に指示をする博士と言い合いをしても無駄とわかり、溜息をついてミントと共に部屋を出た。
「ほれ、そこの赤髪!」
「なんでしょうか?」
「コーヒーと共に摘まめる菓子を作って来てくれい!とびっきり甘いやつを頼むぞ。」
「は、はあ………」
「ご主人様、お手伝いします。」
プリネは戸惑いながらツーヤと共に部屋を出た。
「後、そこの変な帽子のと銀髪!」
「………嫌な予感。」
「へ、変な帽子じゃと!?これは余が気にいっている帽子なのじゃぞ!?」
「ごちゃごちゃ言わずにここに書いた物を道具屋から調達してこんか!他の者達は動き回っているのにお前達だけサボるつもりか?」
怒っているリフィアを気にせず、博士はメモをリフィアに渡した。
「ぐぬ……妹が働いて、妹の手本となる余達が高みの見物する訳にもいかぬか……全く何故余が人の使い等を……ブツブツ。」
「はあ………こんな事ならギルドでお留守番しとけばよかった………」
痛い所を突かれたリフィアとエヴリーヌは文句を言いながら部屋を出た。そしてティータが作業を終えた。
「……うん、ばっちり♪おじいちゃん。こっちの設定は終わったよ。」
「おお、さすが早いな」
「あれ……。そういえば……エステルさん達は?」
「誰じゃ、それ?………………………………」
ティータの言葉に博士は首を傾げた。
「そういえば、見覚えのない若い助手どもがいたが……。はて、マードックのやつがよこした新人かのう?」
「お、おじいちゃあん……」
無関係のエステル達を手伝わせている事にティータは溜息をついた。
こうして、エステル達は成り行きで実験を手伝うことになり、実験が終わった頃にはすっかり夕方になっていた。
そして実験が終わり全員がリビングの椅子に座り改めての紹介をした。
「わはは、すまんすまん。すっかりお前さんたちを中央工房の新人かと思ってな。ついコキ使ってしまった。」
ラッセル博士は人違いをしたことを豪快に笑っていた。
「ったく、笑いごとじゃないわよ。コーヒーだけじゃなくさんざん手伝いをさせてさ~。それにリフィア達まで手伝わせるなんて思わなかったわよ……」
「全くだ。世界広しと言えど、余達をこき使ったのは博士だけじゃぞ?」
呆れているエステルの言葉に頷くようにリフィアは呆れて言った。
「まあまあ、貴重な体験をさせてもらったと思えばいいじゃない。新型オーブメントの起動実験なんて滅多にあるもんじゃないんだし。」
「そうですよ、お姉様。新たな技術の実験に立ち会える事なんてあまりない事ですから、貴重な経験と思えばいいじゃないですか。」
「ほう、お前さん達。なかなか判っておるようじゃの。どうじゃ、遊撃士や皇女なんぞやめて導力学者への道を進んでみんか?」
エステルやリフィアを宥めているヨシュアやプリネに博士は冗談か本気かわからない提案をした。
「もう、おじいちゃんたら!ごめんなさい、みなさん。なんだか、わたしも実験に夢中になっちゃって……」
「あ、ティータちゃんは謝る必要はないんだからね?」
「うん。ママといっしょにお手伝い出来て楽しかったよ!」
「あたしもご主人様のお役に立てる機会を作ってくれて感謝しています。」
謝るティータにエステルは苦笑し、ミントやツーヤはエステルやプリネといっしょに働けた事に嬉しさを感じてお礼を言った。
「はあ、『導力革命の父』というからどんなスゴイ人かと思ったけど……。ここまでお調子者の爺さんとは思わなかったわ……」
「わはは、そう誉めるでない。しかし、まさかカシウスの子供達やメンフィルの姫殿下達が訪ねてくるとはのう。わしの方もビックリじゃよ。」
「あ、やっぱり博士って父さんの知り合いだったんだ?」
「うむ、けっこう前からのな。あやつが軍にいた頃からじゃから20年以上の付き合いになるか。」
「わたしも、カシウスさんと会ったことがありますよ。おヒゲの立派なおじさんですよね?」
「うーん、立派というか胡散臭いというか……。そう言えば博士はリフィアの事を知っているんだ?」
ティータから見たカシウスの印象をどう修正すべきか悩んだ後、博士が最初からリフィアを知っている風に話していたのが気になり尋ねた。
「うむ、”百日戦役”後同盟条件の一つ、”導力技術の提供”を果たすためにわしが代表として何人かの技術者たちを連れて大使館に行った際、会ったきりだからリフィア姫殿下とは9年ぶりといったところかの?」
「そうだな。まさか再会していいきなり手伝わされるとは余も驚いたがな。」
「わはは、それはすまなかったです。ふむ、それにしても9年も経っているのに殿下は特に成長しているように見えませんが、闇夜の眷属とは成長の仕方も我々人間とは違うのですかな?」
博士は以前見た事があるリフィアが全く成長していない様子に首を傾げた。
「ふえっ!?リフィアさんってわたしやミントちゃん、ツーヤちゃんよりちょっと上くらいかなと思いました!」
「成長の事を申すでない!余も一応気にしているのだからな!それとティータといったな?余はこれでも30代だ!だから余は断じて子供ではないぞ!」
「ふ、ふええええっ!?」
リフィアの注意にティータは驚いた後、プリネやエヴリーヌを見た。
「あのあの、もしかしてそちらのお二人は見た目以上にもっと年をとっているんですか?」
「あはは……私は見た目通り18歳ですよ。」
「エヴリーヌは数えた事ないからわかんない。」
ティータの疑問にプリネは苦笑しながら答え、エヴリーヌは興味なさげに答えた。
「えっと、ティータちゃん。」
「ふえっ?どうしたの、ミントちゃん。」
言いずらそうにしているミントにティータは首を傾げた。
「えっとね、ミントやツーヤちゃんも実はティータちゃんよりお姉さんなんだ。」
「あたしやミントちゃんはこう見えてもエステルさんやヨシュアさんと同い年なの。」
「ふえっ!?そうなんだ……あの、じゃあ年上扱いしなくちゃダメなんだよね……2人とは友達になれると思ったんだけどな……」
ティータはミントやツーヤが同い年ではないと知るとガッカリした。
「ううん!それは大丈夫だよ!ミントやツーヤちゃんはティータちゃんの事、友達だと思っているし。」
「だからあたし達とは気軽に接してくれていいよ。」
「えへへ……うん!」
「うんうん、ミント達に早速友達ができてあたしも嬉しいわ。……でもリフィアや父さんの知り合いならアレを預けてもよさそうね。」
ミントとツーヤ、ティータの掛け合いに和んだ後、エステルはヨシュアに確認した。
「そうだね、問題ないと思うよ。」
「???」
「なんじゃ、何かあるのか?そういえば、お前さんたち、わしに相談があるそうじゃな?」
エステルとヨシュアの会話の意味がわからなかったティータは首を傾げ、2人の会話の内容が気になった博士はエステル達が自分を尋ねてきた理由を聞いた。
「うん、実はね……」
そしてエステル達はこれまでの経緯を説明した後、黒いオーブメントを取り出して机の上に置いた。
「……ほう」
「わあ……真っ黒いオーブメント……」
博士とティータは見た事もないオーブメントを見て声を上げた。
「ふむ、これは興味深いのう。形式番号がないのもそうだが、継ぎ目のたぐいが見当たらん。しかもこのフレームは……」
オーブメントを手に取ってすみずみまで見た後、博士は腰のベルトから工作用のカッターを取り出した。そしてそのままオーブメントの表面にカッターの刃を強く押し当てた。
「な、なにをしてんの?」
「特殊合金製のカッター……」
博士がした事がわからないエステルは首を傾げ、博士の持っている物に気付いたヨシュアは博士が持っている物の正体を呟いた。
「………………………………。……やはりか…………。ほれ、見てみるがいい。」
博士に促されたエステル達は黒いオーブメントを見た。
「あれっ?」
「キズ1つ付いてない。」
「普通の金属でしたら刃物を当てれば、傷がつくのですが………」
「………………………………どうやら、このフレームはわしが知っているどんな金属よりも硬い素材でできているようじゃ。リフィア姫殿下。そちらの世界で思い当たる金属はありますか?」
エステルやヨシュア、プリネはオーブメントにキズが付いていない事に首を傾げ、博士は異世界出身のリフィア達なら心当たりがあるかと思って尋ねた。
「確かにこちらの世界にはない頑丈な金属はある。コルシノ、パール、アルプネア、セトン、ミスリル、レイシアパール、ラミアス石、リエン石、金剛石……だが、このオーブメントに使われている金属はどの金属にも値しないな。」
「ふむ、そうですか………切断して中を調べるのはかなり難しいかもしれんな。」
「そ、そんなにとんでもない代物なんだ……」
「切断するのが難しいとなると困ったことになりましたね……」
博士の答えにエステルは驚き、ヨシュアはどうすればいいか考え込んだ。
「ま、フレームの切断は時間をかければ出来るじゃろ。しかしその前に、測定装置にかけてみるべきかもしれんな。」
「ソクテイ装置?」
「「???」」
エステルは言われた言葉が理解できずポカンとし、ミントやツーヤも全くわからない様子で首を傾げた。それを見てティータが説明した。
「さっきの実験で使用したあの大きな装置の事です。導力波の動きをリアルタイムに測定するための装置なんですよ。」
「よ、よくわかんないんだけど、その装置を使えばこれの正体がわかるのよね?」
言われたことを全く理解できないエステルは考え、答えを聞いた。
「まあ、重要な手掛かりは得られる可能性があるな。」
「エステル、博士達に任せてみよう。何かわかるかもしれないし。」
「そうね、ヨシュア。じゃあ博士、お願いします。」
「うむ、それじゃあ早速……」
博士は意気揚々と工房に行こうと立ちあがりかけたが、ティータに呼び止められた。
「でも、おじいちゃん。そろそろゴハンの時間だよ?」
「えー。」
博士は調べる時間が延びたことに思わず文句の声を出した。
「えーじゃないよおじいちゃん。あ、エステルさん達もよかったら、食べていって下さい。あんまり自信はないんですけど……」
「あ、それじゃあ遠慮なく♪」
「よかったら僕達も手伝うよ。」
「人数も多いでしょうから大変でしょうし、私達も手伝います。」
「ミントも手伝うよ!」
「あたしもいっしょに手伝うよ、ティータちゃん。」
「ふむ。皆が手伝って余達だけ何も手伝わないという訳にもいかぬな。余やエヴリーヌも手伝おう。いいな、エヴリーヌ?」
「仕方ないね……プリネのお姉ちゃんとして見本を見せて上げる。」
「ありがとうございます、みなさん。」
ティータに晩御飯を進められエステル達は快く受け、手伝いを申し出た。
「よし、それじゃあこうしよう。食事の支度が済むまでわしの方はちょっとだけ……」
「だ、だめー。わたしだって見たいもん。抜け駆けはなしなんだから。」
「ケチ。」
博士はそう言ってこっそり工房に行こうとしたがティータに見咎められた。それを見てエステル達は囁き合った。
(なんていうか、この2人……)
(血は争えないってやつだね。)
(やれやれ……この祖父にしてこの孫ありといったところか……)
(……プリネがペテレーネ似でよかった。リフィアや博士みたいな人になったら手がつけられないもの。)
(あ、あはは……)
(わあ……ティータちゃん、お祖父ちゃんとそっくりで羨ましいな!ミントはママとそっくりなところがあるかな?)
(それは大丈夫だと思うよ。ミントちゃんもエステルさんも明るい性格だもの。)
(えへへ……ありがとう、ツーヤちゃん!)
そして夕食が済みついに実験の時が来た………
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