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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第62話

7月18日――――



翌日、いつものように生徒会からの依頼を終え、仲間達と共に旧校舎の探索を終えたリィンは寮に戻ろうとすると仲間達に声をかけられた。



~夕方・トールズ士官学院・校門~



「あ、リィンも帰るの?」

エリオットの呼び止める声に気付いたリィンが振り返るとラウラとフィー以外のクラスメイト達がリィンに近づいてきた。

「ああ……って、みんな帰る所か。」

「ええ、何だか今日はちょっと疲れちゃったし。」

「俺も今日は切り上げることにした。」

「ふう、本当はもうちょっと自習して行こうと思ったんだが。」

「はは、そっか……あ……ラウラとフィーはいないのか。」

クラスメイト達の中にラウラとフィーの姿が確認できなかったリィンは尋ねた。



「ええ……ちょっと探したんですけど。」

「ARCUSにも連絡したんですけど繋がらないないんですよね……」

「ちょっと心配ですね……」

「フン、子供じゃあるまいし、勝手に戻ってくるだろう。」

心配そうな表情をしているエマとプリネ、ツーヤの言葉を聞いたユーシスは相変わらずの二人に半分呆れた様子を見せながら呟いた。



「そっか……仕方ないな。それじゃあ、先にみんなで寮に――――」

そしてリィンがクラスメイト達と寮に戻ろうとしたその時

「―――兄様。」

「え――――」

聞き覚えのある声が聞こえ、声が聞こえた方向に振り向いた。すると学生服を身に纏ったエリスがリィン達に近づいてきた。



「あら………」

「貴女は確か……」

エリスの登場にアリサとプリネは目を丸くし

「………………」

エリスは静かな怒りを纏って黙り込んでいた。



「エ、エリゼさん……ですよね?」

「いえ。彼女はエリゼさんの妹のエリスさんです。確か女学院に通っていると聞いていますが……」

「も、もしかして双子……?」

エリスの姿を見たエマは戸惑い、ツーヤの答えを聞いたエリオットは驚きの表情でエリスを見つめ

「あの制服は……」

エリスが身に纏う制服に見覚えがあるマキアスは目を丸くした。



「エリス……!?どうしてここに……」

「えっ……」

「じゃ、じゃあやっぱりその娘がリィンのもう一人の妹さん……!?」

「あ、ああ……でもエリス、こんな時間にいったいどうして―――」

「―――ご自分の胸にお聞きになってください。」

戸惑っているリィンの質問を聞いたエリスはジト目でリィンを見つめた後呆れた様子で答えた。



「え”。」

(うふふ、今度は一体何をしたのかしら♪)

(ふふふ、さて……どうなるのでしょうね。)

エリスの言葉を聞いたリィンは呆け、ベルフェゴールとリザイラはそれぞれ興味ありげな表情をしていた。

「―――お初にお目にかかります。リィンとエリゼの妹、エリスと申します。お帰りのところ恐縮ですが……少々、兄を借りてよろしいでしょうか?」

その後リィンとエリスは屋上に移動して二人っきりになった。



~屋上~



「ふう……それにしても久しぶりだな。実際に会うのは半年ぶり……いや、7ヶ月ぶりになるか。」

「……ええ。去年の暮れ、私達がユミルに帰って顔を合わせた時以来になりますね。春、兄様がこちらに入学してから会える機会はあったはずなのに。」

「いや……その、悪かったと思ってるよ。とにかく忙しくて……それに女学院の外出許可なんて簡単には取れないんだろう?」

静かな怒りを纏って微妙に自分を責めているエリスの言葉を聞いたリィンは申し訳なさそうな表情でエリスを見つめた。



「それとこれとは話が別です。トリスタから帝都まで鉄道を使えば30分ほど……中央駅から女学院のある地区まで導力トラムを使えば20分程度……妹の顔を見るのにその程度の時間すら割けないほどお忙しかったという事ですね。」

(うふふ、それは確かにご主人様が悪いわね♪)

(ふふふ、なるほど。我慢できなくて自分から会いに来たという事ですか。)

ジト目になって呟いたエリスの話を聞いたベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ

「―――悪かった!それに関しては本当にすまない!実習や試験で忙しかったのは確かだけど……その気になれば会う時間くらいは作れたはずだし。でも……」

リィンは頭を下げた後申し訳なさそうな表情でエリスを見つめて口ごもった。



「でも、何ですか?」

「いや、その…………年末会った時によそよそしかった気がしたからさ。男兄弟がうっとうしくなったのかとつい遠慮したというか……」

「よ、よそよそしくなんてしてません!あれはその、ちょっと個人的な事情があったというか……」

リィンの言い訳を聞いたエリスは頬を赤らめて否定して口ごもった。



「個人的な事情?」

「と、とにかく!私が兄様をうっとうしいと思うなんてありえませんから!ええもう、女神達に誓って天地がひっくり返ってもないです!」

「そ、そっか……なら嬉しいけど。今後は、時間を作って帝都にエリスの顔を見に行くよ。今回みたいにそっちが遊びに来てくれてもいいんだし。」

「ほ、本当ですかっ!?―――コホン。ええ、そのくらい兄様としては当たり前の交流ではないかと。それに私に会いに行くのでしたら、当然姉様にも会いに行くのも兄妹の交流として当然かと。」

リィンの答えを聞いたエリスは嬉しそうな表情をした後気を取り直して答えた。



「はは、そうだな。エリゼはリフィア殿下の専属侍女長を務めている関係で忙しいとは思うけど、何とか時間を作ってみるよ。そういえば、それを言いにわざわざこんな時間に来たのか?それにしては問答無用というか有無を言わせない感じだったけど。」

「兄妹の交流の少なさももちろん大問題ですが……私達が今日訪ねた主な理由はとうぜん別にあります。」

「へ?私”達”って……まさかエリゼも来ているのか!?」

「ええ。兄様に会う少し前に姉様から帝都から出ている鉄道に乗ったという連絡を頂きましたから、あと少ししたら姉様もトリスタに到着します。―――それよりどうやら本当に自覚が無かったみたいですね。」

「え。」

自分の説明を聞いて呆けているリィンにエリゼは手紙を取り出してリィンに見せた。



「それは……この前俺が送った手紙か?あ、そうか。ノルド高原に行った時の土産をエリゼと一緒に受け取りに来たのか?一応、現地の可愛らしい装飾品を買ってあるんだが……」

(うふふ♪期待を裏切らない答えね♪)

(ふふふ、ここまで鈍感な方は初めて見ました。)

エリスに対するリィンの答えを聞いたベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ

「ほ、本当ですか!?―――じゃなくて!手紙の最後の部分です!」

エリスは一瞬嬉しそうな表情をした後すぐに気を取り直して手紙の最後の部分をリィンに読むように強制した。



卒業後は軍に戻るだろうし、そうでなくても家は出るつもりだ。その前に父さんと母さんには親孝行がしたいと思っているからそのうち相談に乗ってくれ。―――それじゃあ、またくれぐれも身体には気を付けて。



リィン・シュバルツァー



「あ………………………………」

手紙の最後の部分を読んだリィンは呆けた後複雑そうな表情で黙り込んだ。

「”そうでなくても家を出る”ってどういうことなんですか……?父様と母様に親孝行って……どうして改まって言うんですか?」

「……………………………」

「まさかとは思いますけど……家を継ぐつもりがないとか、そんなわけありませんよね……?」

「―――そのまさかだ。俺はシュバルツァー家を、男爵位を継ぐつもりはない。」

エリスの問いかけに答えに一瞬詰まったリィンは決意の表情で答えた。



「!!」

「当然のことだろう?そもそも俺は養子で、血の繋がりなんてない。リフィア殿下の専属侍女長に就任したエリゼは無理だろうから、お前が将来、婿を取って男爵家を継ぐのが筋のはずだ。」

「そ、そんなのおかしいです!たとえ血の繋がりがなくともシュバルツァー家の男子は兄様ただひとり……メンフィル帝国の法律でも、養子の家督相続はちゃんと認められているはずです!」

「それは大抵、引き取られた子が”相応の能力がある”場合だ。……唯の訓練兵である俺は違うだろう?」

「…………あ…………」

「12年前――――ユミル領主である父さんが拾った吹雪に埋もれていた”浮浪児”……自分の名前以外は覚えておらずどういった出自かもわからない……そんな子供を養子にして迎えたばかりに父さんは社交界のゴシップの的になった。常識外れの酔狂だの、よりにもよって”隠し子”だの……『高貴な血を一切引かぬ雑種を貴族に迎えるつもりか!』なんて難癖をつけた貴族もいたらしい。そして父さんは、そういった雑音が疎ましくなってしまって……ユミルから出ず、滅多に社交界に顔を出さなくなってしまった……」

「……っ!それは”エレボニア帝国貴族”だった頃の話です!今の私達は”メンフィル帝国貴族”!血統主義のエレボニアの貴族の方達と違い、実力主義のメンフィルの貴族の方達はそのような些細な事に影口を叩いていないと姉様から聞いております!」

リィンの説明を聞いたエリスは唇を噛みしめた後すぐに反論した。

「例えそうだとしてもこれ以上、俺はシュバルツァー家に迷惑をかけたくない。さすがに貰った性まで返すのは難しいだろうけど……それでもお前達の将来に迷惑をかけるのだけは避けたいんだ。来年は16歳―――社交界デビューの歳だろう?」

「…………!」

「だから、どうかわかって欲しい。…………家を出たとしてもユミルにはたまに顔を出すつもりだ。父さんと母さんにだって育ててもらった恩はずっと―――」

「…………わかってない。」

リィンの答えをこれ以上聞きたくないかのようにエリスは首を横に振って呟いた。



「え。」

「兄様、ぜんぜんわかってない……父様の気持ちも……母様の気持ちも…………姉様とわたしの気持ちも………」

「エリス……?」

エリスの様子を不思議に思ったリィンがエリスを見つめたその時

「兄様のバカッ…………!朴念仁!分からず屋!大ッキライ!!!」

「…………あ…………」

エリスが悲しそうな表情でリィンを睨んで声を上げた後、その場から走り去った…………! 
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